027 Bird's Attack 9
「……殺された者のために、ってやつか……」
とカンパはギハスロイを見つめながら言い、
「まあ、いい……勝手にしろよ。お前の命だしな」
と言いうと、ギハスロイの縄を手際よくほどいていく。
アイネには、カンパがギハスロイの願いを聞いたことが意外なことに思う。
「えっ、一緒に戦うの?」
カンパは縄をほどくとすぐ、これまた手際よく手のひらぐらいの大きさの石に縄を結びつけていく。カンパは手を動かしながら、
「戦力は少しでも欲しいところだ。……でも弱ったな。こいつの武器がない」
「これを使え」
そう言ったのはゴラで、長細い物をギハスロイへと投げる。ギハスロイが太い指の手で力強く受け取ったモノは、古びたなめし革の鞘で、握りが突き出ている。引き抜くと、ニブい刃のついたナタが現れる。
「草を払うのに使うナタだが、何もないよりマシだろ。俺にはこいつがある」
そう言ってゴラは、弦と弓の間に体を通すことで保持していた弓を手に取る。
「なんだ。おっさんもやる気になったのか」
「若いヤツらが戦うって言うんだ。1人で逃げるわけにはいかんだろ。まったく! お前たちはバカ者たちだ!」
そう言ってゴラは、腰の矢筒から矢を1本取り出して弓にソエる。
カンパは上機嫌で言う。
「そうこなくっちゃ!」
それに対して、アイネが言う。
「あんた、絶対楽しんでるでしょ!」
オオニククイドリは、もう足音が響いてくるくらいには近づいきている。巨体が、最大限に前傾姿勢で走る……というよりは、むしろ1歩ごと跳躍するかのように、グングンと近づいてくる。
カンパが前に出る。もちろん左手に盾、右手に剣を持って。
その左後ろに立つのは、アイネだ。彼女は戸惑いながらも、今朝手に入れたばかりの両手剣を引き抜く。アイネは両手剣を構えると少しだけ、心が落ち着く気がする。
その右後ろ、イササか心もとないナタを、痩せているには太い腕で握り締めているのはギハスロイだ。戦いに不慣れな彼は、少し及び腰ではあるものの、視線は敵から少しもそらさない。
そのさらに右後ろ。そこに矢をつがえ、体をややカガめているのは、狩人のゴラだ。彼は口を結んで、静かにエモノをにらみつけている。
相対するモノに比べれば小さすぎる彼らの前に、樹木のような影が立つ。
それはやはり、オオニククイドリ。
影は伸びて膨張し、カンパはもちろんアイネ、ギハスロイ、そして後ろで少し離れていたゴラをも飲み込む。
大人の太ももくらい太い鋭いツメが、足の前に3本、後ろに1本、左右それぞれの足から生えていて、土をえぐるようにつかんでいる。
巨大を支える硬そうな脚は、樹齢2~30年はある木の幹のように太く、人間とは逆向きの、後ろに屈曲した関節を持ち、屈んだ状態でも脚のつけ根はカンパの背丈ぐらい高い。
その脚に支えられた体は、タマゴの上をお尻に向けたようなシルエットで、岩山に鎮座する岩のようにでかい。
首はそのモモよりさらに太く、そして長い。頭まで入れると、大柄なボゴタの身長ぐらいはある。
宮廷にあった大きな水瓶ぐらいはある、頭から突き出たクチバシは、頭の大きさに比べて異様に大きい。大人を2人ぐらいくわえて走れそうな程には大きい。それにゴツくて、硬そうだ。
体毛や羽は薄汚れていて、その隙間から野生の動物特有のケモノクサさを発している。
「……おいおい……なんか想像以上にデカくないか?」
「全長は大人2人分くらい。体の幅も、大人の身長より広い。全長から体重を推定すると、大人3~4人分はある。間違っても踏まれるな……ってハダリー隊長が言ってた」
「その半個分は大きいぞっ!?」
「だいたい、ボゴタ2人分ってとこ?」
「そんな、ちょうどいい例えは……いらない……」
言いながらカンパは、敵を見上げる。
が、鳥の顔は想像していた場所よりも、2つも3つも上だった。首が痛くなるくらい顔を上げたカンパは、その目と視線が合う。
充血した黄色くニゴった眼球に、真っ黒な瞳が浮かぶ。こちらを意識しているはずなのに、どこを見ているかわからないブキミな目だ。そしてオオニククイドリは、その頭の先端についた、ぶ厚いクチバシを広げ……
GUUUuuuuuuuuWooooooooruuuuuuuuyyyyyyyy!!!
(グウウウゥゥゥゥウォォォォォ!!!)
と甲高く叫んだ。そして
Crack! Crack! (ガッ! ガッ!)
と、クチバシを打ち鳴らす。低く鋭い振動が、こちらの胸に響いてくる。
オオニククイドリはゆっくりと脚を持ち上げる。同時にその巨体が前傾する。
「くるぞ!」
持ち上げられた脚は、初めはゆっくり、だがすぐに加速して踏み込む。狙いは1番前にいたカンパだ。
カンパは横に飛びのく。
オオニククイドリの踏み込んだ衝撃と土煙が舞うのを背に、カンパは転びそうになるのを手で支え、すぐに体勢を立て直し、
「かたまるな! 広がれ! 動け!」
と叫びつつ距離をとる。
Dam! Swish!(ダンッ ビュッ)
それは弓が放たれてたわむ音と、矢が飛ぶ音。
ゴラが後ろから、オオニククイドリに向けて矢を放ったのだ。矢は直線に飛んで、オオニククイドリの長い首の、上から3分の1の辺りに刺さった。
Gyuuueeeeee! (ギュゥゥェェェェ!)
オオニククイドリが、痛みを音にする。ニゴった黄色地に黒点の瞳が、狩人をにらむ。
すかさずカンパは巨体の体の下に潜り込んで、脚に片手剣を叩き込む。
Ding!(ガキンッ)
が、硬い脚の表面に剣はほとんど表面で止まった。
カンパはすぐに剣を引き抜くが、足元の衝撃に気づいた大鳥は反対の足に重心を乗せながら、カンパの目の前にそびえる足を蹴り上げた。
すでに後退を始めていたカンパに、持ち上げられた足の爪が迫るが、盾で受け流しながら後ろに飛ぶ。
「逃げながら攻撃しろ! オレがヤツの気を引く」
カンパがそう言い終わらない内に、ゴラの矢がオオニククイドリの胸に突き立つ。
ギハスロイが反対側から鳥の体の下にもぐり、ナタを脚にタタきつける。
オオニククイドリはゴラをにらみつけ、ギハスロイをイカクする。
カンパはそのスキに走って近づき、飛び上がりながら片手剣を下腹部に突きさす。
悲鳴を上げる、オオニククイドリ。
その時アイネは剣を構えたまま、ただ立っているだけだ。
【アイネ】
……何でみんな、戦っているのだろう?
何でか? それはわかっている。
この大きな鳥が、みんなの生活を脅かす存在だからだ。もちろんそれは、わかっている。
でも……。
敵の姿を見上げる。そう、見上げる程に大きい……。
今も、カンパをカミつこうとして避けられたけど、捕まってしまえば1飲みしてしまいそうなくらい大きなクチバシだ。
今も、近づいたギハスロイに対して、後ろに足をケり上げたが、あのツメはあの死んだ奥さんのお腹を引き裂いたものだ。
……それでもみんなは、戦っている……
まるでそうすることが、当たり前みたいな顔をして……。
「バ……お……」
この人たちは、怖くないのだろうか? こんなに大きなものと、戦っているというのに……。
「バカ……おん……」
ボクは……こわくっt……
ガンッ!
構えていた剣に、衝撃が起こる!
見れば、丸いモノが地面に転がる。
それはカンパの盾だ。
これが飛んできて、構えた剣にぶつかったんだ。
「ぼさっとすんな、バカ女っ!」
あの少年の声が響いてくる。
「……お前は女英雄サイネヴィになるんだろ!」
サイネヴィ?
そう……
そうだ……
そうだった!
女英雄サイネヴィ!
救世の英雄サイネヴィだっ!
ボクはそれになるために、あの場所を抜け出したんじゃなかったんじゃないのかっ!
ボクは両手剣に力を込めて握り締め、目の前の恐ろしい敵を見すえる。
そしてボクは……
足を持ち上げて……
前に突き出し……
1歩を踏みしめる。




