026 Bird's Attack 8
アイネはサンゴ色の髪をふんわり浮かせながら振り返って、また後ろ向きに歩きながら、
「そういえばさ」
と言葉を投げかける。カンパが、「転ぶぞ」と忠告するが、アイネは気にしたフウもなく続ける。
「死んだあの人って、どんな人だったの?」
アイネの質問の先にいるのは、うつむいて歩くギハスロイだ。
ギハスロイの後ろを歩くカンパが、『またこいつはメンドウクサいこと始めやがった』という顔をする。
ただその質問は、うつむいていたギハスロイの注目を引くのに十分だったようだ。彼はアイネを見て、誰もいない右の方を見る。
それはきっと、目をそらすためではない。遠くを見るためだ、とアイネは感じる。なぜならそこには、大麦の畑が広がっていたのだから。
「……優しい……人だった……」
ギハスロイの話し方は、愛しいものをイツクシむように優しい。
「……オレを呼ぶとき、『ギハスロイ』とは言わない……。『あなた』と言ってくれた……」
同じ口調で、ギハスロイは続ける。
「……オレを、他のヒューマロイのように、接してくれた……ちゃんと、オレ自身を……みていてくれた……」
「……確かにあの子はいい子だった……」
と狩人のゴラも同意する。
だけどアイネは
「……よくわかんないな。つまりあなたにとってあの人は、どんな人だったの?」
と言うとカンパがすかさず言う。
「そこはわかるだろ! なんとなく!」
ただ後ろ向きに歩く少女は、『本当にわからない』という顔をする。カンパはイラッとしながらも、
「……だから、さっ。こいつにとってその人は、大切な……特別な存在だったんだよ!」
と教えてあげる。アイネは、
「特別な存在……?」
と口の中で繰り返した。
【アイネ】
『特別な存在』……とは何だろう?
大切な存在ということ?
それなら、誰かを愛する人なら、その愛する人のこと?
つまり、夫にとっての妻? 妻にとっての夫?
でも、彼の旦那さんは、奥さんをおいていった。
そして、ボクにとっての『特別な存在』は何?
英雄サイネヴィのこと?
そのとき、ボク目の前で難しい顔をしている少年が目に入る。
カンパ? ……は、ないっか……
ボクそう思いながら、がさつな少年を見ていると、ふふっ、とナゼだかおかしさがこみ上げてくる。
【カンパ】
『特別な存在』……
自分で言っておきながら、何かが引っかかっる。
そう、『特別な存在』
本当は暖かい言葉であるはずなのに、なぜだか……とてつもなくカラッポで、悲しいイメージがやってくる。
それは……オレが幼い頃に……失ったもの……
カンパの胸に広がる空虚を霧散させるのは、まだ後ろ向きに歩いているアイネの声。
「あれっ……て、なに?」
カンパが顔を上げると、隊列の後方に視線を張りつけたアイネがいる。
「動物?」
その言葉を聞いてカンパは素早く、彼女が見ていた方角に視線を向ける。
そこには鳥の形をしたものが、全力で走ってくるシルエットが見える。
そのシルエットはドンドンと距離をつめ、ドンドンとデカくなっていく。
「えっ、デッカくない?!」
それは、少女のトマドい。
大きくなっていく姿を目の当たりにする者たちの不安も、ドンドン大きくなっていく。なぜならそれが何であるか、確かな心当たりが彼らの内に、たった1つだけあるからだ。
「オオニククイドリだっ!!」
それは、少年の確信。
そして、わずかな恐れと歓喜。
アイネは不安から現実を否定しようとするが、
「そんなはずない。だってハダリー隊長たちが足跡を追って、オイシーニクドリをやっつけに行ったでしょ!」
「オオニククイドリだっ! そして残念だったなっ! どうやら、入れ違いだったみてーだっ!」
「……そんな……。でも、カンパは何で楽しそうに言うの?」
ゴラが割り込む。
「お前たち、逃げるぞ! 村はそんなに遠くない!」
カンパはそれも否定する。
「ダメだ! あいつと競争して勝てると思うのか? 走ってる途中で、背中から食われるのがオチだぜっ」
だがカンパはギハスロイを一瞥して言った。
「……まあ、いい。あんたとギハスロイは逃げな。俺とこの女であいつを食い止めてやる」
「何をバカな……」
「えっ、ボクも戦うの!?」
「あったり前だろ! お前も兵士だ!」
「ええ! まだ1日目だよっ! ってか、カンパ、楽しんでいるでしょ!」
カンパとアイネが言い合っているうちに、オオニククイドリはその目の縁の赤色が見えるくらいまで近づいている。カンパが少し前に出る、がその背中に声がかかる。
「オレも……タタカう!」
そういったのは、青と紺のマーブルの肌をしたギハスロイだ。彼はその特有の色をしたマブタから、真っ直ぐにカンパを見すえて、
「……タタカわせて、くれ……」
と、視線を髪の毛1本ほども動かさないで言う。
カンパは黙って見返す。この切迫した状況で、少し不自然なくらいには長く。
「……殺された者のために、ってやつか……」
カンパはギハスロイを見つめながら言う。




