025 Bird's Attack 7
「どうせ作り話さ」
そう言うのは、ブーバーだ。
「自分を良く見せるために、てんでデタラメを言っているんだろう。おおかた、仕事をサボって寝ていたら、全てが終わったあとだったんだろ?」
と続ける。
「そうでもない……らしいぞ」
といったのはベーヤだ。
「なぜならこんなにも、傷を負っている」
ブーバーがメンドウクサそうに、
「傷なら自分でもつけられるだろう」
と話しかけるのは、口数の少ないマレだ。ベーヤが、
「自分で傷をつけて寝ていたとでも言うのか? いったい、誰がそんな馬鹿げたことをするんだ!」
と反論すると、またブーバーが言う。
「ギハスロイさあ! 邪神の仲間だったヤツらだ。そんくらいのことはするだろ……」
ハダリーが止めに入る。
「もういいっ! ここで宗教談義なんかウンザリだ! 俺たちは、『誰が腰抜けか』を調査するためにここにいるんじゃない。そのクソ鳥野郎を退治するためにやってきたんだ!」
これでさっきまで口ゲンカしていた連中は黙ったが、
「ねえ、1つ聞いていい?」
と、畑に訪れたそよ風のように話す声がある。
アイネだ。隣にいたカンパは、またこいつは余計なことを言うんだろう、というような顔を向ける。
ハダリーが、
「なんだい、お嬢さん」
と促すと、アイネはギハスロイに向かって聞く。
「ダンナさんは逃げるときに、オクさんにも逃げるように言ったんでしょ?」
ギハスロイは少し思い出すような、間を空けて言う。
「……ナニも……言ってない……」
「……そんな……だって夫婦なんだよ?」
拒否するアイネに、カンパが言う。
「生きるか死ぬか、って時に人の心配までしてらんないだろ。そういう世界なんだぜ、ここはよ。平和な神殿の中とは違うんだ」
「そんなこと……」
そしてアイネは、黙ってしまう。代わりに話しだしたのは、ハダリーだ。
「それではこれからのことを決めよう。まずは状況の整理だ。死体は、ここにあった。そして、鳥はいない。だが、足跡はある。オスの成体のものだ。そして、ミト婆さんのギハスロイはいる。……以上だ」
そこまで言ってハダリーはみんなを見回す。そして話を続ける。
「ではこれらの状況を踏まえて、これからの行動だが、我々は足跡をたどってオオニククイドリを追う。だがカンパ。お前はアイネ嬢さんと一緒に、ゴラさんとギハスロイを村に連れていき、その後、王都に応援を要請しに行け」
言われたカンパは、顔を不満でいっぱいにしながら、
「なんでオレなんだよっ!」
とサケぶ。
「オレは戦える! 足なんか引っ張んねーよ! だからオレにも戦わせてくれっ!」
カンパはそう言って、剣の柄を握っていた手に、力を込める。黒いクセがある前髪の下の、見開いた両目は真剣だ。対してハダリーから返って来るのは、
「俺はお前にお願いしているんじゃない。命令しているんだ」
という強制の言葉。さらにベーヤが、
「カンパっ! 言うことを聞かんか! 隊長は遊びで命令を出しているんじゃない。様々なことを考えて、命令を出しているんだっ! 自分だけの都合で、口答えするなっ!」
とシッタする。カンパは目を背けながら小さく、
「……わかったよ」
とだけ言う。
ハダリーたちと別れたカンパたちは、畑から村へと続く道を歩いて行く。
前から、狩人のゴラとアイネが並んで歩き、その後を縄で両手を後ろ手に縛られたギハスロイが続き、その手から伸びた縄をカンパが握り歩いている。
雨なんてものは存在しないとでもいうように、空には確かな存在の“昼”が、朝から微動だにせず鎮座している。
食べ損ねたパンを惜しむぐらいの感じでアイネがコボす。
「見たかったな……でっかい鳥」
前をうつむいて歩いていたギハスロイが、わずかだが顔を上げて反応したことを、1番後ろを歩いていたカンパは知る。ただし、何も言わなかい。
代わりに発言するのは、アイネと並んで歩く、狩人のゴラだ。
「恐ろしいことを、言うもんじゃない。命があってこそ、飯も食えるし、酒も飲めるってもんだ。死んだらなんもできん!」
「んー、それはそうなんだけど……。ねえ、カンパならわかるでしょ?」
そう言ってアイネは、サンゴ色の髪をハネさせながら振り向く。その瞳に宿るのは、期待の眼差し。
「……知らねーよ……」
その声はアイネが期待したより10倍は小さい。
「えっ? なんて言った?」
そう言いながら、少女は横向きに歩く。右足を前、左足を後にし、器用に歩く。でも応えがない。
「ねえ、なんて言ったか聞いてんの」
しばらくして
「……お前のセイだかんな」
それは、また小さな声。
「えっ、なに?」
「……後ろ向きに歩いてると、転ぶぞ……」
話ながら、少女は後ろ向きに歩いている。
【カンパ】
……こいつのセイだ
ドス黒い胸の内から、やり場のない怒りがこみ上げてきて、そう言っている。
全て、このノーテンキに愛想を振りまく、この女が悪いんだ!
ハダリー隊長は、王の奴隷であるコイツが死んだりして、王のフキョウを買いたくないだけなんだ。そして同じように子供のオレが、コイツのメンドーを見ればいいと思っている。何で、どいつもこいつもオレに面倒なことを押しつけてくるんだ!
だからオレは、戦うことができない!
だからオレは、強くなることができない!
だからオレは、のし上がることができない!
いつだって大人たちは、何でも決めつけてくる。
戦えないのは、今回だけ? 直感が、そうではないと言っている。きっとこの先も戦いがあるたんびに、この『王のお気に入り』を安全な場所にかくまえと言われるんだ!
だからオレは、アイツに……届かない!
オレはもっともっと戦って、もっともっと強くならなきゃならない!
もっと手柄を立てて、のし上がっていかなきゃいけない!
そしてアイツを……
浮かび上がってくるのは、あの時の光景。
王が段々に積み上げられた巨大建築物の上に立ち、幼い自分が民衆に混じって彼を見上げる。彼の足元には……とても優しく……かけがえのない存在である人の……変わり果てた姿……が血に染まり転がっている……。
オレは群衆に混じって、1番下にいるというのに……王は……アイツは、上から見下ろしている!
オレは、あいつを、許さねえっ!
ハダリーたちは、オオニククイドリの足跡を追っている。
ブーバーを先頭にして、ボゴタ、ハダリー、ベーヤ、そして最後に無口なマレ、の順で進んでいく。
肉詰めパンをナイフで割ったみたいに、荒野を切り分ける細く伸びる道を横切っていく。
「……隊長、いいんですかい?」
矢を放ったらギリギリ届きそうな距離で、一行をうかがっていたウネック(キツネのようで耳が大きな小動物)が何かに反応して岩陰に隠れる頃、ベーヤがそう聞く。
ハダリーは顔を少し横に向け、目だけでベーヤを見て返す。
「いいんですかい、とは?」
「カンパですよ。さっきは隊長を立てて、あの様に言いましたけど、あれはまたフテクサれますよ」
「もうガキじゃないんだ。自分の気持ちくらい、自分でなんとかするしかないだろう」
「そうなんですがね……」
ベーヤはウネックがいない岩を見ながら続ける。
「あのくらい若いと、見えるものも意外と見えていないこともあるんですよ」
辺りは生える木でさえ珍しい、何もないような荒野だ。
「何が言いたい?」
男たちの、歩く音だけが響く。
「いや、ね。結局のところは隊長の言うとおり、テメエのことはテメエでやっていかなきゃいけないんです。ですが、ね……危ういんですよ。特にアイツは」
「危うい?」
「うまく言えないんですがね……死に急いでいるというか。実際に死のうとしている、というわけではないんですが……」
ハダリーは黙って聞いている。
「……剣で例えると。人は間違って剣の刃を握ったら、持ち直して柄を持つでしょ? 切れて痛いから。でもアイツは違うんですよ。間違って刃を握っても、そのまま相手を殴っちまう。自分が痛かったり、傷ついてしまうのをお構いなしに、ね。そんな危うさ、ですよ。アイツのは……」
そこまでベーヤが話したとき、
「あれ?」
と、何かに気づいたよな声をボゴタがあげる。
「どうした、ボゴタ? 腹でもヘッタのか?」
と、前を行くブーバーが振り返る。
「俺たち、足跡を追っているんだよね? 鳥の?」
「……ったく。他に何があるっていうんだ。女のケツでも追っかけているとでも思ったのか?」
「それは思ってないよ。そうじゃなくて……。俺たちが鳥の足跡を追っているとしたら、あっちにある鳥の足跡はなんなんだ?」
と言って、ボゴタは右の方を指差す。
「はあ!? 何言ってんだよ。俺たちが鳥の足跡を追っているんだから、他に足跡があるわけねーじゃねーか……って、あるのかよ……」
2人の話を聞いていた他のメンバーも、全員ボゴタの指差す辺りを見る。
確かにそこには、今まで来た方向とは逆に進む、大きな鳥の足跡が伸びている。
「……村の方角だ……」
誰かが言う。




