024 Bird's Attack 6
「ギハスロイがいたぞ!」
アイネやカンパとは別行動で死体を捜索していたチームが、合流する。
ハダリー隊長、マレ、ブーバーと、狩人のゴラ、そして聞こえてきた会話から、畑の中で見つけたらしいギハスロイだ。それも狩人のゴラいわく、ミトさんとこのギハスロイ、ということだ。
そのギハスロイの肌は青や紺色のマーブル柄で、体は痩せていて、見た目若くはない。ギハスロイ特有の体に生えた突起も、心なしかしなびている。何より両脇をマレとブーバーにつかまれて歩いてはいるが、足取りはおぼつかない。首もしだれている。
「で、そいつは遺体の近くで何してたんだ?」
ベーヤが近づいて来る彼らにたずねる。
両者はまだ5歩ほど離れていたので、その分声も大きい。そして誰よりも先にブーバーが、
「そこの草むらにヒソんでいやがった。俺が見つけたんだぜ」
と自慢気に答える。マレが
「ヒソんでいた、っていうよりブッ倒れていたんだろ」
と修正する。が、ブーバは、
「おんなじことだろ」
と言って、抜き身の剣を持たないほうの手でギハスロイの背中を押す。フラついて歩いていたギハスロイは、生い茂る麦に足を取られて膝をつく。
「おい! しっかり歩きやがれっ!」
と言いながら、ブーバーは剣先を低くなったギハスロイの背中に向けた。
「もう、いいでしょ」
そう言うのは、サンゴ色の髪の少女だ。
「あっ?」
ブーバーが『気に食わない』でできた言葉で、疑問をテイする。そんなアンチテーゼに対してアイネは、
「一旦、全員集まったのだから、状況を整理する必要があると思う。だからすぐに歩く必要はないよ」
と言ったが、ブーバーがすぐに
「だからなんでお前がサシズしてんだよ! って言ってんだよ!」
と言っていないことを言っている。がブーバーの後ろからきたハダリーが前に進み出て、
「まあ、いいだろう。まずは状況を把握するとしよう。それで死体は?」
と辺りをうかがい、死体を1ベツして言う。
「これは……手酷くやられたな……」
ハダリーの右から顔をのぞかせたブーバーが、不満顔だった表情を曇らせる。遅れてハダリーの左から無言のマレがノゾいて、無表情のままのようで少しミケンにシワを寄せる。
さらに後からゴラがやってきて死体を見ると、静かに落ちるように座り込み、老いた声にならないようなカスれた声で言う。
「……こんな……なんてムゴいことを……」
そんな彼らの前で、立ち上がる影がある。
何かをつかむように空中に差し出された手は、不自然なほどコキザみに震えている。
『ミトさんとこ』のギハスロイだ。
さっきまで地面にウズクマっていた彼は、かろうじて立ち上がっている。
ギハスロイ特有の厚ぼったい唇はわななかせ、大きな目をウルませている。左側の肘や肩、膝などに擦り傷があり、ギハスロイ特有の青い血液が流れて広がり、乾いて土や千切れた葉の破片と一緒に体にへばりついている。
辺りに、低く物悲しい音が響く。
それはそのギハスロイの唸り声だ。そしてそれは長く続く。
近くにいたブーバーが、驚いてたじろぐ程に。唸りはやがて小さくなり、嗚咽に変わっていく。ギハスロイは膝をついて地面に伏せ、そのゴツゴツした背中をこみ上げる悲しみに、震わせている。
兵士たちは、何もなかったように話し始める。ハダリーが、
「何がわかった?」
と促すとベーヤは、
「まず頭頂部が陥没している。首の骨も、砕けている。おそらく立っているときに、クチバシを叩きつけられたのだろう」
と言う。ハダリーは反応を示さず、続きを待っている。ベーヤが続ける。
「胸から腹にかけての傷は、下に向かうほど広がっている。一部は背中にとするほどだ。恐らく足の爪で、力任せに引き裂かれた。脚の膝や脛は潰れている。オオニククイドリが食事をするときに、片足で押さえたときのものだろう。脚の潰れ具合、足跡の大きさから察するに、オスの成体で間違いないだろう。」
と推測を口にしていく。ハダリーは、
「それは少し、ヤッカイだな」
と、全くヤッカイごとではないかのように言う。
「最後に、ヤツの足跡はあっちの方角に向かったことを示している」
とベーヤが言って指差すと、ハダリーはそちらに顔を向け、その後に左下を向くと、
「それで……お前は何を見たんだ?」
と語りかける。
その言葉の先には、ウズクマりながらも、落ち着いてきたギハスロイがいる。話を振られても、彼の視線も心も、彼にとっては特別な存在らしいナキガラの上に張りつけられたままだ。
「……いつも通りの朝だった……。ダンナさんと……オクさんと……シゴトをしにきた……」
それはたった今朝にあった光景だ。
でもミトさんとこのギハスロイは、それがとても遠い過去のことであるように言う。
アイネはホホにかかった髪を、かき上げる。カンパは髪をガシガシかく。ハダリーがギハスロイを見下ろしたまま言う。
「続けろ」
「……ダンナさんたちが草をぬいて……オレが水場から水を運んでいた。……オレが水をくんで、戻ってきたらアイツがいた……」
ギハスロイが目線を上げる。
正面にいたアイネは、それがこっちを見ているのかとも思ったが、すぐにここにいた何かを見ているのだと気がつく。
「……でっかい鳥、だった。……アイツはダンナさんに近づいて行った。ダンナさんは……引っかかられながら何とか逃げだした。アイツは追いかけようとして……オクさんを見つけた。
……オレは走った。……間に合っても、何もできなかった……。でもその時は、何も考えられなかった……。
トチュウ、ダンナさんとスレ違った。……ダンナさんは、血がついていて……村に走っていった……」
「ウソをつくんじゃねえ!」
と言うのはブーバーだ。
「ヒューマロイ様が逃げだして、ヒキョウ者のギハスロイが立ち向かえるはずっ、ねえだろ!」
ハダリーが開いた手でブーバーを制し、
「いいからしゃべらせろ」
と言う。ブーバーの舌打ちから、1呼吸おいてギハスロイが話を続ける。
「…………ダンナさんは、村に走っていく。それがわかったとき、オレも……どうしようもないくらい、オソろしくなった。
でも……アイツが……オクさんを……。
……そしてオクさんは、見えなくなった。
オレは……走った。……アイツに、向かって……。
コワかった……。でもアイツがオクさんを……食べているのが……ユルせなかった……。
ナミダが出てきて……ドウシようもなくて……グチャグチャになって……でも、ハシルしかできなかった……」
アイネはギハスロイの目も鼻も声も、すべてがグチャグチャに成りかけていることに気がつく。
カンパはギハスロイが話している間、遠くの景色を見ている。だが、話を聞いていないワケではなさそうだ。
「お前がどう思ったかはどうでもいい……」
ハダリー隊長が言う。
「何があったのか。それだけを、端的に述べろ」
ギハスロイは何かを一瞬考え、続ける。
「……結局、オレは……アイツ、の前に立っていた。……オクさんが倒れていて……アイツが食っていて……オレを見た。アカいフチの……大きな目を上げて……。
そして、アイツの頭が……ブツかってきた。
……気がついたら、オマエたちに起こされた……」
ギハスロイは、ハダリーを見上げてシめくくる。
「……それだけ、だ……」




