表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/52

023 Bird's Attack 5

  

 視界の中に、違和感をとらえたアイネが声をあげる。


「……あれって……なに?」


そこには畑から整地されていない外側へ、不自然に倒れ引きちぎられた麦が散在している。

 言われてみんなが、その場所へと近づいていく。


 近けば大麦が一律に立ち並ぶ中、畑の縁が大きく踏み倒され、また畑の外側に千切れた穂や茎が散らばっている。


「あっち……も倒れている」


とボゴタが、背の高い位置から畑の中のほうに向かって指を指す。


「その……先も。ずっと……続いている」


ボゴタ以外の人たちも、そっちらを見る。背があまり高くないカンパやアイネには見えずらかったが、言われてみれば確かに、ほとんど同じ高さの穂が、だいたいまっすぐに、点在するように抜けている。地面を調べていたベーヤも立ち上がって、


「ヤツだ」


と言い、アイネが


「ヤツって?」


と真剣な顔で聞く。仕方なさそうにカンパが、


「オオニククイドリだろっ! 話の流れ的にっ!」


と言って額に手を当てる横で、ベーヤが、


「そう、オオニククイドリが踏み倒したアトだ。そしてヤツはここから畑を出ていった。だからこの先に……」


と言って、畑の中の踏みなされたあと軌跡きせきを見つめる。


「……いったい何が……」


とは、アイネの声。


ゴンッ、


とアイネの頭に衝撃しょうげきが走る。

 カンパが丸盾で、アイネの頭を小突こづいたのだ。アイネは頭を両手で押さえながら、


「いった~~い!」


とカンパに抗議の視線を送る。


「『……いったい何が……』じゃねえよ! 死体があるんだよ! オオニククイドリに食われた死体がなっ! あの村の婆さんの、孫の、嫁さんの! わかるだろっ!」


とカンパ。彼は一息にしゃべったせいで、ちょっと息切れしている。そんなカンパとアイネのやり取りなどお構いなしに、ベーヤは右手の親指と人差し指で輪っかを作り、それを口に当て、


ピー


と音を鳴らす。


 音は畑の反対周りのチームにまで届き、ハダリー隊長たちがこちらを見る。

 ベーヤは、左手のひらを水平に掲げ、下に向けた右テノヒラをその上に持って行き、何度か押しつける動作をする。


 足跡あしあとをつけるジェスチャーだ、とカンパは思う。


 そしてベーヤは、左手のひらはそのまま、右手で地面を指し、さらに畑の中に向ける。

 足跡が畑の中にあることを伝えている、とカンパは理解する。が、目の前の少女は理解してないだろうな、とも思う。

 案の定、


「何遊んでいるの?」


などと言い出す始末。カンパは


「……もう、お前は黙ってろよ……」


とだけ言っておく。ベーヤが、


「中に入るぞ。ボゴタ、先導しろ」


と言い、ボゴタ、ベーヤの順に畑の中に入っていく。カンパも続く。見れば、畑の反対側のハダリーたちも畑に侵入しだしたようだ。


 アイネは1人、立ち止まっている。彼女が考えていること。


 えっ、この中に死体があるんでしょ?


 それも野生の動物に、食べられたという死体が……


 なんで、みんなは平気なの?


 だって、死体だよ?


その間にも他の人たちはドンドンと、大麦を押し分けながら進んでいく。

 カンパが振り返る。


「何やってんだ? 早くこないと、置いていくぞ!」


アイネは1歩を踏み出ふ。そして後を追いかける。





【アイネ】

 前を進む、アイツの背中を追う。

 右に左に、大麦をカキ分けながら、進んで行く。1カキごとに、見えない死の影がちらついては草の陰に消えていく。


 死体とは何なんだ?


 ……それは、死んだ人の体?


 ……それじゃ、死って何だろう?


 ボクはもちろん、それを知っている。今まで動いていた人が、動かなくなること。心臓が鼓動こどうしてなくて、全身に血液を送っていないこと。もう自ら、動かないこと。そしてそれはもう、温かくはないということ。……それだけのこと。


 ……それじゃ、ボクはいったい何を恐れてる?


 そうこう考えている内に、死体があったようだ……。


 ベーヤが死体の横にかがんで、ボゴタがもう1つのチームに合図を送っている。前を行くカンパも、そこに合流する。


 ボクは恐る恐る、そこに近づいて行く。


 近づくたびに、あらわになっていく、その惨状さんじょう


 近くにつれてまず感じたのは、強烈に死の存在を主張する、脳の内側にこびりつくような腐敗の匂い。血が流れて土と混ざり黒い光沢を放ち、内臓や肉片が近くの大麦の葉や茎に引っかかっている。食われたであろうお腹は、赤黒いものがのぞき出て、頭のあったであろう場所はツブれてグチャグチャになっていて、1つの眼球と舌だったものが飛び出している。もう1つの眼球は見当たらなかった。


 ボクは不思議と、何も感じない。


 これが死というものか……。


そう思いながら、死の横に対峙たいじする。


 ボクは生きている。


 そして、彼女は死んでいる。


 そう意識したとき、ボクは直感的に安心を感じる。

 ナゼなら、こんなに近くにいるのに、この2つには決して混じることのない、決定的な境界線があるんだ。


 ボクは無意識に同意を求めたかったのか、トシの近そうなアイツの方を見れば……


 ……彼女の体だったものを見おろす、顔を青白くさせた少年が、そこにいる。





【カンパ】

 死体を探しに行く。そうなったときから、イヤな感じはしていた。

 そしてあったのは、ひどい死体。この仕事をしているなら、このくらいのものは見慣れている。


 だけれども、女の死体は……


 思い浮かんで来るのは、幼い頃の光景


 目の前にそびえるは、大きな石を積み重ねた巨大建築物


 それはオレに唯一ゆいつと言っていい、安らぎの日々を終わらせた光景


 その建築物中央の長い階段には、真ん中を雨どいのような溝が通っていて……


 それを転がり落ちてくる女性の頭。それも血をき散らしながら。




現実で不快感がこみ上げてきて、ノドを駆け上がってくる。


 ヤバいっ


オレは振り返って大麦畑に、酸っぱいモノをぶちまける。


 驚いたような、でも心から心配する少女の声が、現実感なく、頭の上から届いてくる。


「だいじょーぶ?」


 かと思えば、背中に感じる柔らかい感触。その柔らかな感触は、強すぎることなく背中をさすり始める。


 こんな感じは……いつ以来だろうか?


 ……それは……いつの間にか閉ざしてしまった温もりの記憶の中に……


 もう出しきったと思っていた不快感が、またこみ上げて来る。こらえることなく、それをき出す。出てきたのは胃液だ。





 カンパが何度か吐いたことで、ようやく落ち着いてきたとアイネは思う。


 ボゴタと一瞬に死体の損傷具合を見て、何かしらをつかんだらしいベーヤが


「そいつは女の死体はダメなんだ」


と立ち上がりながら言い、さらにつけ加える。


「……過去に何があったか知らねーがよ。そいつは昔のことを誰にも、何にもしゃべらねーんだ」


 さすっていたアイネの手を片手でどかしながら、もう片方の腕で口をぬぐいながら、カンパが言う。


「何にもねえよ。オレはただの捨て子だ」


アイネは彼の目が鋭く、草むらのはるか遠くをにらみつけているのを見てしまう。


 そのとき、少し離れた場所から騒ぐ声が届く。


「なんだこいつは!」


「どうした!?」


「隊長! ギハスロイだ! ギハスロイがいる!」


 それは明らかに、もう1つのチームの声だった。

 そして続くは、そのチームに同行している狩人ゴラの声。


「こいつは、ミトさんとこのギハスロイだ!」



次回、少しグロテスクな表現があります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ