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022 Bird's Attack 4

  

 大麦を形作る穂や葉、茎の透き通るような黄緑色は、太陽の光を渇望して伸びようとする生命の色だ。そんな色に満ちた大麦が不規則に、そしてところ狭しと、大地に根づき伸びている。


 おとぎ話に出てくる財宝みたいに、そのどこかに死体を隠した大麦畑を、カンパたちは左手に見ながら周っている。別れた残りのハダリー隊は、この畑を右手に見ながら回っているはずだ。


 そんな中カンパは、とある同行者に不満を漏らす。


「お前もこっちなのかよ」


言われたアイネが返す。


「しょうがないでしょ。ハダリー隊長が、こっちだって言ったんだから」


カンパは、黒い巻き毛の頭の後ろに手を組みながら言う。


「……別にいいんだけど」


すると後ろから野太い声で、


「ケンカするの……よくない」


とボゴタが言ってくるが、カンパが言う。


「別に、ケンカしてるわけじゃねーよ」


前を歩く副隊長のベーヤが前を見たまま割り込んできて


「ハハハ、ボゴタのいうとおりだぞ、カンパ!」


と。さらにベーヤは後ろを振り返って、


「我々、兵隊の任務はつらい仕事も多い。だが、仲間がいることでそんな仕事も乗り越えていくことができるんだ」


と言ってまた前を向く。そして2歩、3歩と歩いてから、


「……我々が仕事をしていくことで、我らが国民も安心して暮らせる……ようになるんだ……」


とつけ足す。その言葉は、自分自身に言い聞かせるようでもある。

 アイネはそれを聞いて、どこかの小さな村の、カワイソウなお婆さんの姿を思う。だがカンパの、


「でもコイツ、ウガ国の人間じゃねえし」


という発言が、カワイソウなお婆さんの姿を霧散むさんさせてしまう。霧散した後に出てくるのは、ちょっと怒った自身だ。


「はぁ? ここでそうゆうこと言う!?」


とアイネはカンパに言った。ベーヤ副隊長も


「お前な……そうゆうことじゃないだろう……」


とあきれている。カンパはわずかな望みをかけて、ボゴタを見るが、


「カンパのそうゆうとこ……よくない」


とだめ押ししてくる。

 ここにいる3人ともに見放されたカンパは、


「あー、はいはい。オレが悪かったよ!」


と言った後で


「なんでこっちのチームは真面目がそろっちまったんだ」


と不満をツブやく。不満な気持ちを抱えながらも、カンパの思考はアイネの出身にまでイタり、


「それにしてもよ……お前の出身は神殿教国なんだろ? なんでこんな国まできたんだ?」


と素直な疑問が口から出てくる。これにはベーヤが振り返る。心なしか、険しい表情だ。


「お前は本当に心配こころくばりが足りないなぁ! 彼女は……奴隷として連れてこられたんだ。好きできたわけではないだろ!」


 ベーヤの発言を聞きながら、アイネは思う。


 なんで自分があの場所を抜け出して、奴隷になって、この国に連れてこられて、兵士として働いているのだろう。


 カンパがベーヤに反論する。


「だってよ、あの国は神が治めているんだろ! そのまま神殿教国にいれば食いっぱぐれることはないじゃないか」


「それは……」


ベーヤがまた言い返そうとしたところで、それをサエギる声がある。


「……ボクは」


それは近いようで遠いような、小川の流れのような声。


「僕はあの国で、孤児こじだったんだ」


そして遠くを見るような眼差し。


「……神殿教が僕を拾って、育ててくれた。充分な食事をくれたし、いろんなことも教えてくれた。今はもうないけど儀式にも使えるようなキレイな服もくれたし、戦い方も教えてくれた……」


話し続けるアイネにカンパは、


「いたれりくせりじゃねえか!」


と、思わず声をあげる。


「そう、普通の人が欲しいと思うものは、きっとなんでもあった。……でもそうじゃ、ないんだ」


「はっ? そうじゃないってなんだよ」


「そのままじゃ、サイネヴィみたいに成れないと思った……」


サンゴ色の髪の小柄な少女は、歩きながら左手を横に伸ばす。ベーヤが


「サイネヴィとは、邪神戦争のか?」


と聞くと、アイネは


「そう。女英雄サイネヴィ……。あの人は、ボクの憧れ。彼女は戦うことによって、邪神から世界の人々を解放していった」


と言う。

 伸ばされたアイネの手のひらは、群生する大麦の頭、穂に次々と触れていく。


「全てを与えられているだけじゃ、あの人みたいにはなれない。そう思ったらいてもたってもいられなくなった……」


アイネは手のひらに当たる、チクチクとした感触を感じながら、言葉を続ける。


「だからボクは、神殿を抜け出した」


アイネは、大麦の穂を感じていた手のひらを急に閉じた。手につかんだ穂は、わずかな抵抗の後に引き千切られる。


「そして、だまされて奴隷になって、この国まで来たってわけ」


アイネは引き千切った穂を、畑の真ん中に向けて投げる。だけれども、重さを持たないその破片は、風に押し戻されて地に落ち、カンパの足に踏まれる。その彼の言う、


「……すげーヤツだな、お前」


アイネが心の底から、意外そうな顔でカンパを見る。前を歩いていたベーヤも後ろを振り返り、驚いた顔をしている。カンパは後ろを振り返らなかったが、きっとボゴタが好奇な目で見ているだろう。

 よって、みんながカンパを見る。


「オレだって人を褒めることもあるんだよっ!」


ベーヤが


「カンパも少しは成長しているということだ」


と言い、ボゴタが


「カンパ……実はいいヤツ」


と言う。対してカンパは、


「ボゴタ、その言い方、ムカつくヤツ」


と言って、アイネがいない方の、畑ではない荒野が広がる方を向いて言う。


「……だってよ、目標のために今まで当たり前にあったことを投げ出してきたんだぞ。なかなかできることじゃねぇよ……。それをすごいって言っただけだ。ほめたわけじゃねーよ」


 アイネは隣の、カンパに顔を向ける。

 そこには“夜”のような髪の後ろで両手の指を組み合わせ、自分と背丈のそれほど変わらない少年がそっぽを向いて、並んで歩いている。その髪色は太陽に照らされて、出会ってから1番輝いてるようでさえある。


「カンパって……」


カンパは不意に名前を呼ばれたので、隣を歩く少女の方を見る。鮮やかなサンゴ色の髪と、日に焼けていないキメの細やかな肌、そこに輝く優しげな瞳とが、たちまち視界をうばう。


「……本当は、優しいんだね!」


まばたき2回分の時間をかけて、その引っかかりを理解したカンパは、たまらず言う。


「だからっ! その言い方、ムカつくヤツ!」


アイネはいきなり怒りだしたカンパに、キョトンとした顔をしたが、笑いだしたベーヤとボゴタにつられてホホエむ。


 しかし、そのホホエみが散ってしまうのは、すぐのことだ。


 なぜなら彼女の視線の先に、不自然に倒れ、引きちぎられた麦が散在していたからだ。



次回、少しグロテスクな表現があります。

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