021 Bird's Attack 3
ハダリー隊は、村を出て移動している。
あの老婆と葦の家に入り、被害者の男から聞き出した情報を、ハダリーがみんなに共有する。
「今回の獲物はオオニククイドリだ。間違いないだろう」
しかし、アイネの心はまだ、あの老女ミトの葦の家にある。
「オオニククイドリは飛べない、走るタイプの、大型の肉食の鳥だ。それも目の周りが赤いヤツだ」
ミトばあさんが怒ったのは、悲しさを抱えすぎてしまったから……かもしれない。
「目の周りが青いヤツと違って、首が太い方だ」
この世界には、悲しみが降り注いでいる。
「だからヤツのクチバシの攻撃は受けるな。死ぬぞ」
ボクはそんな世の中を、1人で生きて行かなければならないんだ。
「ヤツの脚の爪も鋭い。気をつけろ」
やっぱり神殿を抜け出すんじゃ、なかった?
「全長は大人1人と半分くらい。体の幅も、大人より広い」
違う、ボクはあの人のようになるんだ。……でも自信がない。
「全長から体重を推定すると、大人3~4人分はある。間違っても踏まれるな」
アイネが周りを見渡せば、植物が点在する荒野が広がっている。
この国のどこかに、ボクの居場所はあるのだろうか?
アイネの心は、また別の場所に飛ぶ。
そして故郷の広場にあった女英雄サイネヴィの像が映しだす。その女の像は抜いた両手剣を支えにして、凛々(りり)しく空に向かって真っ直ぐ立ち、強い眼差しを正面に向けている。
アイネはこの像を見上げていると、自信があふれてくる。小さい時からそうだ。そしてそられはいつの間にか強いアコガれになって……。
その時、近くから呼びかけられる。
「お前、ちゃんと聞いているのか?」
アイネが顔をあげる。場所はもちろん、オオニククイドリの被害にあった村だ。
アイネは顔をあげるまでもなく、その声が誰のモノなのかがわかる。
「なんだかぼーーーっとしてないか? ちゃんと聞いとかないと危ないぞ」
ノゾき込むように黒髪の少年兵士が、そう言う。
「ちゃんと聞いてるよ。クチバシや脚の爪に気をつけろ、踏まれるな、でしょ? 他のことを考えていても、ちゃんと記録されるんだから!」
と頭を指さしながら言うアイネは、どこか得意げだ。
「やっぱり別のこと考えてたし! ってか、記録ってなんだよ! お前は粘土板かよっ!」
ハダリーが少し声を大きくして説明する。
「最初に向かうのは、そのオオニククイドリの被害があった場所だ。遺体の損傷具合を見れば、またわかることもあるだろう。いいな、カンパ?」
たしなめられたカンパは悪態をつぶやき、隣の少女を見やる。彼女は夜明けの野に咲くピンクの小さな花のような笑顔で、ボクは悪くないよ、と笑う。
目的地にはそれほどかからず、たどり着く。
それもそのはず、村の周囲に畑は広がっているのである。
「もうすぐだ」
と狩人のゴラが同行人たちに、短い旅の終わりを宣言する。
ハダリーが事務的な口調で、朝の状況を説明する。
「ミト婆さんのお孫さんは朝から奥さん、そして奴隷のギハスロイと畑仕事にきていた。」
ブーバーが反射的に、
「はっ、ギハスロイ! 貧乏人にもお手頃な奴隷だな! おかげさまで人間様の奴隷は、商売あがったりだな!」
と軽口をたたくが、ハダリーは構わず
「ミトさんの旦那が、邪神戦争で参戦したとき、どこかで拾ってきたらしい。当時は子供だったそうだ」
と補足すると、マレが落ち着いた声で
「動物を拾ってきた、みたいな話だな」
と言いと、ブーバーが、
「それを言うなら、隠し子を連れてきた、だろ」
と茶化し、1人で下品な笑い声を上げていると、副隊長ベーヤが、
「ヒューマロイにもそれ以外にも見境ないのは、ブーバーの方だろ?」
と言いい、多くの賛同の笑いを得る。その中を不満な声で
「おいおい、そりゃねえぜ」
と言ったころ、隊列の前から狩人のゴラが
「ここがミトさんとこの畑だ」
と言った。ボゴタが前方の景色を見ながら低い声で、
「それにしても……」
と話しだし、
「……どこにあるんだろう、死体……」
と続ける。
死体とは、もちろん被害者の妻のことだ。みんなも畑を見た。そこには測れない深さの空のもと、腰に届きそうな高さの大麦が不規則に生えて広がっている。先ほどの小さい村なら、すっぽりと入りそうな広さだ。そして大きな鳥の姿も見えない。
「2手に別れて周りを見ていこう。」
ハダリーが方針を示す。
「何か兆候を見つけたら、すぐに知らせるんだ。決して少ない人数だけでムリをしないこと」




