020 Bird's Attack 2
中に入っても、やっぱりそこはこぢんまりした村だ。
中央のちょっとした広場を中心に、葦でできた家が6棟、放射状に並ぶ。あと1か2棟、同じ造りの家がこの村に入ったら、子供たちが追いかけっこをして遊ぶこともできなそうである。それくらい小さな村だ。
そんな村の景観を見てアイネが、
「ここも葦の家があるんだね。フシギだね」
と言う。カンパが
「フシギって? 何が?」
と、どうせくだらないことだろう、といった顔で言うと、アイネは
「だって、ここら辺は葦が生えてなかったじゃん」
と得意顔で返す。その顔にカンパが多少なり以上のムカつきを覚えていると、
「近くで取れるんだよ。たあんとな」
と、先ほど村の門を開けた男が教えてくれる。続けて男は
「狩人のゴラだ。よろしくたのむ」
と言う。ゴラは壮年を越えた辺りの、しかし狩りで鍛えられたのだろう身体はまだまだ動きそうな男だ。
ハダリーたちは、村長と村の狩人に案内されてまずは被害者の家に向かう。理由はといえば、お茶をするためとかではなく、猛獣の情報を聞くためだ。
ゴラはいちいち、村長やその他大勢の村人とその住んでいる家を紹介してくれたので、カンパはだいたい誰がどの家に住んでいるかがわかるようになってしまう。
目的の家も、葦でできた家だ。
細い木をつなげて半円型のアーチを作り、そのアーチを縦に並べて立てていくことで、半円筒型の枠組みができる。その枠組みの表面を、束ねた葦で覆ったものが一般的な葦の家だ。
そして前面に入り口が、陰った口を開けている。
並べたアーチの分、縦には長いが横幅は大人2人分の背丈もない。なので狩人のゴラと、隊長のハダリーだけが中に入ることになる。
中は薄暗く、土と埃と病人の匂いが空気に張りついている。
ゴラが入り口から、
「ミトさん、入るぞっ。兵士さんたちが来て、聞きたいことがあるそうだ」
と家の中に投げかける。
ハダリー隊長の後ろから家の中をノゾいていたアイネは、細長い空洞と、その奥側の地べたに植物を編んだ敷物の上に寝そべる人、そしてそのカタワらに寄り添う朽ちた老木のように痩せた老婆がこちら、入り口を振り返るのを見る。
老婆はおもむろに立ち上がり、足早に入り口の方に向かって来る。そして入り口から出るなり、押さえきれてない小声で、
「なんなんだい、お前たちは! 病人の家に、こんな大勢で押しかけて!」
と雨季のシドン川の激流のようにまくし立てていく。
ゴラがアワてて
「待ってくれ、ミトさん! 別にみんなで押し入ろって、わけじゃない。この人たちは王都から来てくれた兵士で……」
と言ったところで、ハダリーが横からサエギり、
「すいません。私はウガ王都軍のハダリー隊を率いているハダリーといいます。猛獣のことで、いくつかうかがっておきたく……」
と言ったところで
「今更ノコノコ来たところで遅いんだよ!」
とミトさんは一旦区切り、
「税だけはしっかり取っておいて、肝心なときは助けちゃあくれない。そのくせ男たちは、戦争や何かの工事に駆り出される! 畑を耕さなきゃ、飢え死にならないってのに! ただでさえ今回のどさくさで奴隷のギハスロイにも逃げられるしさぁ! もう、うんざりだよっ!」
と呼吸するのも忘れて言い切る。
小さな葦の家の周囲に、沈黙が降りそそいでいる。
まくし立てたミト婆さんの空っぽの水袋みたいな痩せた上半身だけが、荒い呼吸と共に上下している。
兵士の後ろの方では、カンパが老婆をじっと見つめている。その眼差しは、アワれみに属するものではなく、どちらかというと憎しみに近いものだ。ただ、その右前にいたボゴタは同情で、顔を曇らせている。ボゴタの反対側にいたマレは、何の感情も示さず腕を組んで目をつむっている。なので隣のブーバーが顔で、ボゴタをあざけているのに気づかなかい。ただボゴタの隣にいたベーヤが顔で、ブーバーをたしなめる。
そしてアイネは、このあわれな老婆のイキドオりを横から間近に見ていた。
そして知らずの内に口に出す。
「かわいそうなおばさん……」
老婆は兵士の中に少女がいることに驚き、でもすぐに取りつくろうように、それでもいくぶん優しく言った。
「同情なんかいらないよ。そんなもの、何の足しにもなりゃしない」
そして、老婆は顔を背けた。頃合いが訪れたのを見てとったように、ハダリーが優しくゆっくりと言う。
「私たちもできることと、できないことがあるんです。それでも命がけで猛獣を倒しに来ているんです。そうしなければ、また誰かが犠牲になる。そしたら、また誰かが悲しまなければならない……」
老婆は顔を背けたまま。
「だから……協力していただけますか?」
沈黙の風が、吹き抜けていく。風が去ってから老婆は、
「ひどいもんさね。一緒にいた、あの子の嫁は内臓を食われていたってさ」
と、ハダリーに答えることなく語る。そして老婆は向き直って、
「あの子は見たんだ。おっかない鳥から、必死に逃げる時に、な。本当は助けてやりたかったろうさ。でも、自分じゃ何もできない。それにな…………あの子の母親は病気で死んでいるんだ。それに父親は戦争で死んだ。それなのに、今度は孫まで奪われようとしている。わたしゃ、もう、なんにも期待しやしないよ。期待することに、疲れちまったよ」
と言った。他の誰も、何も言わなかった。老婆はまた後ろを向いた。
「……協力すればいいんだろ」
それは彼女の声だった。後ろを向いた彼女の視線の先は、怪我を負った彼の上に置かれているのかもしれない。
「そうしたら……」
と言いながら、老婆は振り向く。その顔は絶望の中に新たな、それでも薄暗い、すがるべき信仰を見いだした者の顔だ。
「……あの鳥を、殺してくれるんだろ?」




