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018 兵士の朝4


【アイネ】

 なぜ世の中は悪意に満ちているのだろうか?


 世界は悪意の中から生まれて来たのだろうか?


 やっぱり神殿を飛び出したのは間違いだった?


 神殿を飛び出した後に、奴隷になった。そして兵士になった。そして悪意ある言葉に、サラされている。


 ボクは、あの場所にいれば良かったの?


 ほんとにそうだろか?


 成りたい自分をあきらめて?


 過去を否定する波と、肯定したい波が交互にやってきて、ボクを飲み込んでいく……。


 あのギハスロイの、マリピスの言葉が、原始の呪いのように聞こえてくる。


『世の中、悪いこともあれば、いいこともある。そしてまた、悪いことがある。世の中、いつだって悪いことの方が多くやってくる……』


 そんなとき、そんな薄暗い声色とは違う、また周囲の悪意とは違う、そういう意味では異質な声がヒビく。





「それは彼女に失礼だろ!」


 アイネは引かれるように、声のした方に視線を向ける。

 そこにはアイネと変わらないくらいの歳の、いや、もう少し上と思われる少年がいる。身なりはお金がかかっていそうで、それでいてイヤミはなく、かなり高貴な人物であることを周囲に知らしめている。

 アイネは、昨日、王様についてきた子だ、と思いいたる。そして彼の後ろには、あの変な鳥のオジサンも……。


 その場にいた一同が王子に気づきヒザマズく。アイネも慌ててならう。

 沈黙が訪れる中、ナルガ王子が言う。


「兵士として、争いの気質を持つことは、大いに結構」


とナルガ王子は一旦区切って辺りを見渡し、感情を込めて言う。


「しかし、彼女の所有権はお前たちにはない。身の程をわきまえろ!」


ゴドリーとハダリーがそれぞれの隊を代表して、強く短く


「はっ!」


と返事をする。王子が


「分かれば良い。訓練に戻れ」


と言うと、ゴドリー隊は左に、ハダリー隊は右にいさぎよく早足で散っていく。

 兵士というもの、ケンカはしても、ヤッカイ事から逃れる連携は凄まじい。その後ろ姿を見送りながらコスキンが、羽のついたソデをコキザミにバタつかせて歌いだし、


 兵隊はいつになっても~


 変わらない~


両腕を左右に伸ばした状態で止まる。

 アイネは去って行くハダリー隊の後ろ姿を見、王子たちをちら見して自分もここにいてはいけないと思い、走り出そうとする。が、後ろから、


「お前は待て」


とマッタがかかる。アイネは走り出そうとした格好のまま固まって、顔だけを振り返る。先生に見つかったイタズラっ子のような表情で、


「お前って、ボクのこと?」


と聞く。するとコスキンがズンズン腕を上下させてアイネにツメ寄りながら、


 その格好と言葉使いはなんだ~


 貴様はナルガ王子の御前ごぜんにあるのだぞ~!


ソデの羽を突きつける。アイネは慌てて体も王子に向き直り、


「おまっ、おまえっ、お前様とは、ボク……様のことでしょうか?!」


と無理に敬語で話そうとして、もうワケがわからない。コスキンはヒタイに手を当てて、オーバーに頭を振る。王子はアイネを見て


「そうだ。その……少し話をしたい……」


と言ってはにかむ。


「お前の名は、何と言う?」


「ボクは、アイネ……です……」


彼女の口から出たその名前を、ナルガ王子は


「……アイネ……かぁ」


と、貴重な氷のカケラを口の中で愛でるように言う。アイネは


「そう……ボクはアイネ……です」


と確かめるように言う。子供が気に入ったオモチャで遊ぶように、王子は「アイネよ」と呼びかけてから、


「先ほどの戦いは見事だったぞ。少し苦戦していたようだったが……」


と続ける。


「うん。カンパ、強いから」


とアイネは言ってから、王子の後ろに控えるコスキンの険しい表情に気づくと、


「……です」


とつけ加える。王子は見知らぬ名に疑問符を浮かべるが、アイネと戦っていた少年兵士のことだと、すぐに頭の中の映像に結びつく。


「あいつはカンパというのか……。だが、それは仕方ないだろう。少年と言っても、現役の兵士。それに拮抗きっこうする実力があるのだ。それだけでも十分に素晴らしいではないか」


アイネは嬉しいが何と言っていいのか分からなかったので、とりあえずホホエむ。返事がなくホホエまれたので、次に言うことを探さなくてはいけない。王子はそう思う。そして思いついたのが、


「お前もそう思うだろう、コスキン?」


と他者に同意を得ることだ。コスキンは


「王子殿下がそうおっしゃっるなら、その通りでございます」


と言って、往々(おうおう)しく頭をたれる。王子が、つまらないヤツ、と言ったところでコスキンが


「それならば1つ、気になることがございます」


とつけ加える。王子が


「何だ?」


と促すとコスキンはアイネに顔を向け、


「神殿教国出身と言ったな? しかも神殿教の施設で育ったということだったな?」


と聞けばアイネは


「はい、神殿で育ちました」


と返す。


「神殿の孤児院で育った、ということか」


「いいえ、孤児院ではなく、神殿で育てられました。」


「……ん? 昨日、親がいないと言っていたな? 孤児ではなかったのか?」


「孤児でした。でも、孤児院ではなく、神殿で育てられました? たぶん……」


コスキンはみ合わない会話にうんざりしながら、


「……まぁ、それはいい。それより、お前の剣の師は誰だ?」


「へっ? 剣を教わったのは、“先生”です……」


「その先生の、名を聞いている」


と聞きながら、コスキンの心を両手剣を上段に構えたサンゴ色の長髪をたなびかせた女の姿がよぎって行く。


「えっと……“先生”は“先生”です……」


アイネの答えに、コスキンの中に生まれた姿は消えて行く。


「何を言っている? 先生でも名前はあるだろう?」


アイネはぷっくりした下唇に指を当てて、考える。


「んー……わかんない」


そう言って、舌先を口からはみ出す。


「お前はそんなコトもわからんのか!」


とコスキンは少し声を強めたが、まともに相手にするのもバカらしいと思い直し、つぶやく。


「似すぎているのだ、お前は……」





【10年前】

 仕事終わりのクツロぎの時間、コスキンはサンゴ色の長髪をたなびかせながら近いてくる女性に気がついた。

 かたわらで木の棒を振っているバルガに、


「おいっ」


と言うと、彼は素振りを止めてコスキンの方を見た。コスキンは例の女性の方をアゴで差し、


「また来たぞ」


と言った。バルガはビール壺1杯分はあろうかという程のため息を吐きだしながら、汗をぬぐい去った。

 そんなバルガに対して、


「ねぇ、協力する気になった?」


と問いかけるのはもちろん、神殿教国から派遣されて来たというサイネヴィだった。バルガはとてもメンドウクサそうに、


「何度頼まれても、気持ちは変わんねえぞ。俺は今の生活に満足してんだ。なんでわざわざアイツらにタテツこうってんだ……」


と言って後ろを向き、また木の棒を振り始めてしまった。サイネヴィはその背中に


「それならなんで剣のマネゴトなんてしてんの?」


と言うが反応はなかった。彼女は続けて、


「アナタが本当はどうしたいか、私にはわかってる。本当はヒューマロイのみんなのために立ち上がりたい。でも成功する自信がない。みんなを死なせてしまかもしれない」


バルガはまだ木の棒を振っていた。でもサイネヴィはその動きが少し、遅くなっている気がした。


「だったらこういうのはどう? 私とあなたが戦って、私が勝ったら協力する。負けたら諦めるから……」


と言うと、バルガは手を止めて振り向いた。そして挑戦的に


「ちょうどいい。つきまとわれるのにいい加減、うんざりしていたんだ。お前みたいな女に、俺が負けるわけないだろがな」


コスキンは思った。

 こいつらはどっちもバカ者だ。真っ直ぐに突き進むことしか知らない。……でも、今、我々に必要なことは、そういった者たちなのかもしれない。コスキンは、サイネヴィが下げた右手を強く握りしめたのを見た。


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