表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/51

016 兵士の朝2


 アイネは剣を、両手で正面に構える。

 カンパは、アイネが見知らない、それでもバランスの取れた姿勢を作り、その剣が体の中心線を守っているのを見て思う。


 少しはできそうだ。


 でも、ショセンは女。


 ここで現実をわからせてやる。


 それで諦めるようなら、兵士を止めでもらおう


 足手まといはゴメンだからな




カンパは、


「いくぞ!」


とサケび、左手に盾、右手に剣をなんとなく持ったまま、アイネに近づいていく。


 アイネは近づいてくるカンパに警戒していると、もう少しで剣が届く、というところでカンパが足早に距離をツメてくる。


 アイネはタイミングをはかろうと下がるが、カンパはさらにツメて、剣を突く挙動を見せる。

 アイネは正面に構えた剣を押しだし、その中段突きを抑える。


 が、そのときアイネの右肩に衝撃が走る。


 カンパは右手で剣を突き出したまま、左手の盾も突き出していた。アイネは自分が、盾で叩かれたのを知りながら、支えを失った操り人形のように、バランスを崩して腰を地面に降ろす。


 そして目前に突きつけられる木剣。


木剣の持ち主が言う。


「勝負、あったな」


アイネは大事なものが、踏みにじられている気になって、


「待って! もう1回! もう1回勝負して!」


と。


 黒く短めの巻き毛を日に輝かせているのとは裏腹に、カンパは昨日の王との面会から、大きなわだかまりを抱えている。


 オレは、王に対して剣に手をかけた。そしてそれに気づいた道化師コスキンは、結局その後、何も言わずに立ち去った……。何だったんだ? 問題なかったのか? あるいはコイツに対して剣を抜いたとカンチガイしたのか? 正解がわからない、モンモンとした気持ち……。


 目の前で必死に懇願こんがんしてくる少女の姿は、そんな気持ちをナグサめるものがある。


 カンパは手を差しだし、


「いいぜ」


とツカんだアイネを引き上げてから


「かかって来いよ」


とつけ足す。




【アイネ】

 ……バカにされている。


汗ばんだ手で起こしてくれはしたけど、同時にそう感じさせてくるあどけない顔の少年。


 そしてその少年は、兵士……


 ボク……は、何なのだろう?


 奴隷?


 王さまの……何か?


 わかんない。干した洗濯物みたいに、宙ぶらりんだ。


 それでも、これだけは確か。


 ボクは、バカにされて怒っている。


 ボクがあこがれたあの人が……


 あの人に近づこうとして頑張った努力が、ケガされている。


 ボクはそれを、許さない。





 アイネはそんなことを思いながら、闘いの開始の位置に歩いていく。


 そしてふと、武器置き場にある1本の木剣に目が止まる。それは少し大きすぎる程の、大ブリの木剣だ。近づいて手に取ると、今のより手にナジむ気がする。振ってみて、重さが感覚に応える。


「……こっちのほうがいいかも……」





 2人は向かい合う。

カンパが


「いくぞっ」


と合図する。

 カンパはまた盾を掲げながら距離をツメていき、アイネはやや長めの木剣をやはり正面に構えて待つ。


 アイネは、考える。


 やっぱり、あの盾は脅威だ。こっちの攻撃を防いでいるときに、攻撃できる。そして盾を相手にぶつければ、武器にもなる。でも弱点も……


 そこまで考えた時、


「どうした。かかって来ないのか?」


とカンパが盾の後ろから目だけを出して言う。

 アイネは、そんなこと言ってもスキがないじゃん、と不満に思う。こっちから攻撃しても、盾で防がれて逆に切りつけられる。

 そう悩んでいるとカンパが、


「ならこっちから行くぞ!」


と距離をさらにツメてくる。


 このままではさっきと同じになってしまう、とアイネはアセりを感じるが、そう思っている内にも盾を前面に構えたカンパが目の前に迫っている。


 くるっ!


 カンパは盾を左上に掲げながら、飛び込んで右手の剣を突き出す。この突きをアイネは、両手首を返して剣先を下に向け、迫る剣に叩きつけて軌道をそらす。


 盾がくるっ!


 そう警戒したアイネは、実際に動き出した盾を見ながら、手首を引き上げ、刃のつけ根をそれに当て返す。2人はお互いの力で反発し、距離をとる。


 カンパが


「ちょっとは考えるようになったな」


と言い、剣を持ち直しながら続ける。


「……けどよ、オレはオマエが兵士だって認めたわけじゃねえぞ」


カンバの声には、ジョウダンの色を少しもにじませていない。そして構えを作る。


 アイネは、少し戸惑う。カンパにケオされて、ということではなく、その発言に疑問を持ったから。



【アイネ】

 ボクは兵士に成りたい?


 問いつめるような疑問が、次々と浮かんでくる。別に、兵士に成りたいわけじゃない。じゃあ、何で戦うの? 戦わないといけないから。なんで戦わないといけない? なんでだろう? 違う。なんでだろう、じゃない。


 ボクは、あの人のようになるんだ……


 そのためには目の前のこいつにボクの実力を見せつけて、兵士として認めさせないと。それに、奴隷に戻されたり鉱山に送られるなんてイヤだ。自分で、自分の居場所をつかむんだ!

 でも、このままじゃダメ。同じように攻めても、手数で勝てない。どうすれば剣と盾を持った人に勝てる? 何が弱点? そういえばあの人が……。




 木の枝がやさしい風にしなるような速さで、アイネが正面に構える木剣をゆっくり振り上げ、木剣を頭上まで持ち上げるのをカンパは目にする。木剣の芯は、ほとんど垂直に近い。

 構えだけじゃない。カンパは思う。サンゴ色の髪の少女は、その表情まで違って見える。


 アイネが、足を進める。 剣を頭上に構えたまま。


 カンパも足を進める。 剣と盾を構えたまま。


 カンパは思う。

 アイツは何か、変わったかもしれない。でも、やることは変わらない。盾で防いで、剣で攻撃するだけ。それだけの動きを今まで何度、練習してきたことか。自分を信じろ。


 アイネの剣の間合いにカンパが入りそうなところで、カンパは一気に踏み込んでくる。それを見たアイネは、タイミングをはかって、両手で力一杯、剣を振り下ろす。

 カンパはそれに合わせ、盾を振り上げる。振り上げながら、右手で次に繰りだしす剣の刺突のモーションに入る。

 カンパは勝ちを確信し、


「もらっ……」


もらった、そう言おうとして、突如とつじょ左手にのし掛かる衝撃に、思わず膝を曲げてしまう。



 盾持ちの弱点は、剣も盾もそれぞれ片手で持つこと。


 アイネはそう考えた。だから両手で体重を乗せた攻撃は、片手で防げない。片手より、両手の方が強いから。そしてそれを1番効果的に繰り出すには、昨日見たあのイヤなヤツ、ジャンタープとかいう商人の護衛がしていた構えが良さそうだった。だからそうした。


 アイネの狙いどおり、アイネの攻撃でカンパは姿勢を崩している。アイネは剣を素早く引き、半分の振りかぶりで盾の下で踏ん張る足を剣で払う。

 カンパは姿勢を崩しながらも剣を繰りだそうとして、やっぱりバランスが悪くてだせず。そうこうしている内に、前に突き出た足を相手が払おうとしていることに気づく。


 体勢を立て直す時間はない。


 カンパはその足を蹴って後ろに転がる。カンパの振り上げた足の下を、アイネのなぎ払いが通過していく。


 カンパはそのまま腰を落としながら足を上げ、尻・背中・左肩の順に地面に着けて後転していく。そして最後に両手で無理やり地面を押し上げ、勢いで立ち上がる。木剣と盾は、侮っていた少女に押された悔しさで、かろうじて手放さなかった。



 アイネは動かずに、


「キレイな……」


とつぶやいて止まっている。

 目の前で少年が貫頭衣のまま後転し、スソがまくれ、露出したお尻を見てしまったからだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ