134 遠征まで27
バルガ王の後ろには軍務卿など、ウガ王国の主要な人物たちが続き、さらにその後ろに神聖騎士団ヴァヒリチェリたちの姿がある。彼女たちは同性のペアで、並んで歩いている。
美しくない方の男性団員ビュトが、前を歩く騎士団団長ディリケに言う。
「団長は宗教談義に参加しなくてよかったのか?」
ディリケは風に揺れたように、少しだけ後ろを向いて言う。
「我々は宗教談義をするために来たわけではない。任務をこなしていればいいのだ」
我々の任務……
隣でミーケが心配そうな視線を送っている中、ディリケは考える。
我々の任務は、邪神の残党たちを狩ること。そしてあの方を連れ帰ること。
ディリケの脳裏にサンゴ色の髪の少女が浮かんで言う。
『ボクはまた帰りたくないんだよね』
ディリケがツブやく。
「……なかなか骨が折そうな任務だな……」
神聖騎士団のすぐ後ろでのこと。
「イヤナ様、帰省できるのが嬉しいのですか?」
ハンニニンガ家の子女イヤナに、世話役兼護衛のヒュギがたずねる。
「そんなワケないでしょ。あの人が一緒だからに決まっているじゃん」
そう言ってイヤナは豊かなホホとクチビルでホホ笑む。
隊列の後ろの方には、奴隷たちが続く。彼らは王都に来てから、あるいはボイニニンガ領などで売れ残った者たちだ。
彼らは王都にやってきたときのように両手を縛られ、そこから出たヒモは股下と背中を通り、首を回って後ろの人の両手首へと続く。このように連結することによって、逃亡の防止をはかっているのだ。
そんな彼らだが、ギハスロイの割合が多い。邪神時代、ギハスロイは邪神――当時は神と呼ばれていた――の使徒たちと共に、ヒューマロイを支配していた。それゆえにギハスロイは忌み嫌われ、売れ残りやすいのである。
そんな売れ残りたちの向かう先。それはハンニニンガ領の鉱山である。
そんな中でギハスロイのメレプスも、縛られながら歩いている。それも斜め前を、ずっと見つめながら。そこにいるのは女性のギハスロイ。名はマリピス。自分の運命が呪われている、そう信じていることが自分の人生だ。そんな女性だ。
そして今まさにキツイ労働と危険しかない鉱山へと1歩1歩、近づいていっている。
メレプスは彼女のことを心配しながらも、このような状況では手を出すことも声をかけることさえもできない。そんなことをしていれば奴隷商人の手下たちにトガめられてしまう。
そんなどうしようもない気持ちでメレプスは彼女のことを見ている。
そうやって彼女を見ているとき、マリピスが振り向く。目と目とが、重なり合う。
しかし彼女の表情は、彼らに待ち受ける運命のように暗い。
メレプスは、瞳に力を入れる。彼の抱く気持ちを込めて。
絶対に、オレが、お前を守る
マリピスは顔を前へと戻す。そして思う。
何だろう? この感情は? 不安はあるのだけれど、とても支えられているような感じがして暖かいような……
……なんだか、頑張れる気がする……
【】
そんな時、歌が聞こえてくる。
それは兵士たちの歌う軍歌だ。
初めは隊列の前の方の少人数の兵士たちが歌い始めたに過ぎない歌は、後ろの者へ、そしてさらに後ろの者へと、歌う者の数を増やしながら隊列全体へと伝わっていく。
列が長いので前から後ろへと、少しずつ時差をつけた輪唱のように聞こえる。
愛するキミよ
オレは戦いに行く
オレたちの将来を
奪おうとするヤツらを倒しに行く
だからキミは
オレの温もりを我慢して
無事を祈っていてくれ
それは決してメレプスがマリピスに歌った歌ではない。しかしその愛人を思う心は、時代や状況を超えて、メレプスの眼差しと重なり合い、マリピスのスサんだ胸にしみわたる。
神聖騎士団ヴァヒリチェリ団長のディリケは、軍歌を聞く。パートナーのミーケを見れば、彼女もディリケのことを見る。自然と2人はホホ笑む。
そして軍歌は続く。
兵士たちの大多数が男なので、そして指揮者もいないので、その歌声は野太く、音階やリズムなどがやや乱雑だ。
母よ父よ
オレは戦いに行く
あなたがたが建て継いだ
この国を侵すヤツらを倒しに行く
だからあなた方は
我が子の姿を見るのを我慢して
無事を祈っていてくれ
アイネは“父”と聞いて“先生”を思い起こし、“母”と聞いてこちらも英雄サイネヴィを思い浮かべる。
カンパは“父”と聞いて憎しみを覚え、“母”と聞いて哀愁を覚える。
軍歌は続く。
我が子たちよ
オレは戦いに行く
お前たちが継ぐ国を守るため
お前の未来を奪うヤツらを倒しに行く
だからお前たちは
父の背中を見るのを我慢して
無事を祈っていてくれ
ブグロに“子”はいない。しかしなんとなく、村に残して来た若者たちのことを思い浮かべる。
草や木、そして風は今までに何度かその歌を聞いたことがあったので、伴奏するように音を立てている。
そしてはるかな過去から絶え間なく流れるシドン川――それこそ人々が辺りに住み着いた太古から流れる――は、吟遊詩人がそうするようにその音を記憶し、そして人々の歴史や思いと共に、またはるかな遠くへと運んでゆく。
ウガ王国に所蔵される粘土板の歴史書には、葦の筆でこう記される。ウガ王国建国歴18年狼の月第13の日。ウガ王国王都からハンニニンガ領へ向け、邪神の残党を討伐するために王都軍100個6人隊、各領主軍200個6人隊の計300個6人隊――約1800人規模を編成し出発した。
遠征中のとある夜、懐かしい旅路に触発されてか、バルガ王は夢を見る。それは18年前、邪神の使徒たちの目を盗んでウガ管理区都を橋の下から抜け出し、ハンニニンガ管理区に向かっている途中のことである。
それは夜だった。焚き火をみんなで囲い、ほの暗いオレンジがみんなの顔を暗闇の中に浮かばせる。
疲れていた彼らをねぎらうために、サイネヴィがブリュームの実をツんで大麦の粉で生地を作り、ブリュームのパイを作ってくれた夢だ。
自称料理は得意な彼女が仕上げた作品は、少し焼けすぎていて焦げ、形はイビツだ。そもそもパイと言うよりは、パンに実をのせただけだ。それでも甘くほろ苦い味は疲れてる身にはとてもおいしく感じられた。
バルガが心から「……うまい……」と言うと、サイネヴィは嬉しそうに言う。
「作り方は神様が教えてくれたんだ。神殿教国で戦っていた時に神様がよく焼いてくれたんだよ」
サイネヴィはそう言ってほほ笑む。バルガはそれを見て、こう感じる。ちょうど今感じている酸味と甘味のような、さわやかであまい笑顔だ。
今まで書きためていたストックが尽きたため、更新速度が遅くなります。おそらく1週間に1から2話程度になると思います。つきましてはお気に入りに登録いただき、長くご愛顧をいただければ幸いです。
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