135 ハンニニンガ01
兵士たちが軍歌を歌い終わる頃にはハンニニンガに着いた、と言ってしまうのは、少し大げさな話である。
歴史書によれば、3日半かかったと記録され、実際にはその遠征は3日と13時間07分17秒53かかった。そして当事者たちには、大所帯での移動はとても遅く感じられ、それは長い長い、そして長い遠征だった。
その大所帯がハンニニンガ領に入ると、とある1団が出迎えに来る。彼らは隊列の中央に位置するウガ王国国王バルガの元にやって来る。そして代表の男――黒いストレートの長髪ので顔が整っているが顔色が悪そうなほど白い男――が言う。
「ハンニニンガ領主ハンニニンガの息子、ハンラルです。我らが領のために遠路はるばるお越しいただき、ありがとうございました」
頭を下げるハンラルの面をあげさせて、バルガ王がい言う。
「ハンニニンガ領の危機は、それすなわちウガ王国の危機。我らが駆けつけないはずがない」
「もったいないお言葉……。痛み入ります……」
ハンラルは再び、むしろイッソウと頭を下げるがバルガ王が言う。
「そんなに頭を下げなくてもよい。それより疲れているんだ。案内してくれ」
ハンラルは顔を上げて言う。
「これは大変失礼しました! それでは行きましょう」
一行は再び動き出す。
バルガ王が隣を歩くハンラルに聞く。
「それで? 邪神の残党どもの様子はどうなんだ? 伝令では、動きがないということだったが」
「はい。ヤツらの巣窟とつながってしまった坑道は閉鎖していて、特に動きは見られません。今はハンニニンガ領主軍で包囲して、警戒している状況です」
「うむ、限りある兵力で、よくやってくれた。だが、我々が来たからにはもう大丈夫だ」
「ありがとうございます、国王陛下」
ハンニニンガは再度頭を下げて、礼を述べる。
一行がしばらく進んでゆくと、壁に囲まれた場所につく。その場所はかなりの広さで、壁沿いに見張り台が立つ。壁はレンガでも、鉄でもなく、心理的なものでもない。古びた木材で出来ている。
その壁を見て、アイネがカンパに言う。
「すごい壁だね。邪神の残党用に作ったのかな?」
「そうじゃねーよ。見てみろよ。材料の木が古いだろ。……これは、中の奴隷が逃げないように、だ」
「……逃げないようにって……なんで……」
「鉱山で働くのは過酷なんだよ。重労働だし、いつトンネルが崩れて生き埋めになるかもわからないからな」
水に浮かべた布が水を吸うように、アイネは顔をタチマチ悲しく染めていく。カンパは、これだからアマチャンは、といった顔で話を打ち切ろうとする。が、ふと手のひらを見る。数日が経ってはいたものの、そこには確実に、あの日のヌクモリが残っている。「しかたないな」といった色のため息をついてから、カンパが言う。
「……その……なんだ。奴隷たちにとっても、まだ悪い話じゃないんだ。なんというか……生きているだけでもまだマシだからな……」
「……あれ?」
「どうしたんだよ? って、またいつものか」
アイネが指を指す。そのずっと先には川が流れている。シドン川だ。王都の辺りでは川幅が広かったが、ここらへんの上流まで来るとそれほど広さはない。川岸から石を投げ、それを拾ってもう1度投げたら反対岸に届くくらいの距離だ。
「川の向こうにクマ? がいたんだよ」
「は? 熊? なんか前もそんなこと言ってなかったか?」
「はっきりクマってワケじゃないんだけど……。ずっとついてきたのかなぁ」
「んなことねーよ! ……そんなことあったらこえーわ!」
兵士たちは、そんな木の壁に囲まれた鉱山の前の広がりに、滞在するためのテントなどを設営していく。
「アイネ様はこちらです。そのように指示されていますので」
アイネは侍女たち、フェマとハッツに連れられて、他の場所に行く。向かう先は、ハンニニンガ領都の方角だ。
設営作業をしながらカンパがその後ろ姿をチラ見する後で、ハダリー隊のブーバーがヒガミを含めて言う。
「ヒメ様はお城住まいかよ。ウラヤマシいこって」
ハンニニンガ領都の向こうには、領主の住む城が、街の向こうにそびえている。
バルガ王はハンニニンガ領主の息子ハンラルに案内されて鉱山の門を通り抜ける。バルガ王が城に行く前に、鉱山の様子を見ておきたいと言ったからだ。ナルガ王子や軍務卿ベナッジョも同行している。
鉱山の門も、鉱山を囲う壁や見張り台と同じく、やはり古びた木で出来ている。まるでどちらも初めから古びた木で建設されたのではないか、といったタタズマイだ。
古びた門をくぐると、鉱山を見渡すことができる。乾いた岩や砂から成る山だ。
山腹のあちこちには穴が開き、ほとんど崖のような斜面には手作りされた足場がはう。
ガレキのように薄汚れた人たちが散在していて、いくつもあいたトンネルからガレキを運び出したり、移動させたりしている。
そんな荒廃した場所で、武装した集団がいる。ハンニニンガ領主軍だ。薄汚れた人たちが近づかないトンネルの入り口前のエリアを、彼らが陣取っている。10個6人隊ぐらいの規模だ。
その場所にバルガ王一行が近づいていく。ハンニニンガ領主軍の兵士たちは、姿勢を低くする。
バルガ王が言う。
「我に構わず警備を続けてくれ」
すると彼らの指揮官は兵士たちを立たせ、トンネルの方を向かせるる。その指揮官がバルガ王に近づく。
「ハンラルの息子、ハンクトです。遠いところ、ようこそお出でくださいました」
指揮官のハンクトはそう言って、キビンに頭をさげる。
そんな彼にバルガ王はこたえる。
「ハンニニンガ領はウガ王国にとって要だ。何かあればすぐに駆けつける」
王がそう言うと、ハンクトは再びキビンに頭をさげる。
「それで?」
バルガ王が続ける。
「あのトンネルが、例の坑道か?」
王の言う先には100年ぐらい前に忘れ去られてしまったような坑道の入り口だったモノがある。村1個分の日干しレンガの家が、崩れてきた。そんな感じの、崩壊で完全にふさがってしまった坑道の跡だ。
ハンラルが王の質問にこたえる。
「はい、そうです。7日前の日中、鉱夫たちが掘り進んでいるときにそれは起こりました……」




