126 遠征まで19
視線の高さが戻ったカンパも、コスキンに続きながら相変わらず暖かな光が降り注ぐ、輝く世界の中にいる。
だがふと視線を正面に向けると、回廊の向こう側から、高貴な服装の女性が歩いてくる。淡い色の貫頭衣ではあるものの、胸上はレースで全体的にドレープ状に形造られていて、シトヤカな歩きに合わせて揺れ動く。
年はカンパと変わらないくらいか。その少女がこの暖かな光に満ちた世界の回廊を、ゆっくりと近づいて来る。
淡い青の服に、結ったサンゴ色の髪が映えて揺れる……。
カンパは近いてくるその少女を見て思う。
なんてカワイらしい人だろ……
とてもキレイな服を着ていて、髪もカワイらしくタバねている
髪色もピンク色に輝いていて……
……ピンク色の髪?
「あれっ? カンパ? なんでいんの?」
その前から近づいて来た高貴そうな少女が言う。カンパが相手をよく見れば、それは彼のよく知る少女。カンパからしてみれば、カワイらしい高貴な少女と、よく知るコナマイキなアイネの姿が、陽炎のように明滅する。
反応のない少年に、アイネは小首をかしげる。
ようやく目の前の女性をよく知る少女に一致させたカンパは、ようやくのことで返事をする。
「……なっ……なんなんだよ……そのっ……その、服装は……」
ただしその言葉にはいつもの勢いがない。しかしアイネは、いつもの調子で言う。
「なんなんだよって、こうゆう服じゃないと王宮をウロツケられないんだよ。それより……」
とアイネはカンパを見ながら言う。
「カンパはどうしたの? ひょっとして、ボクに会いにきた? ……それとも……イヤナに、とか?」
アイネはイヤナの名前を口にして、あの疑問を思い出す。すなわち、
『誰かを愛する』ってどうゆうこと?
という案件だ。
そして、目の前の少年を見る。
【カンパ】
「ボクに会いにきた?」
なんだろう?
その言葉が……
そう言ったアイツの笑顔が……
頭から離れない。
そして
アイツのことを
いつものように見られない。
【アイネ】
なんで?
なんでカンパはこたえないの?
それになんだか……
いつもとチガう……
いつもみたいに、強く言ってこない。
それに何だか……テレテる?
なんで?
誰に?
そんな表情をされると、なんだか……
【】
「少年兵士よ!」
そうサケぶのは、カンパでもアイネでもない。カンパを先導していたコスキンだ。
カンパが驚いて彼を見ると、その道化師はカンパを見ている。
「オレ……のこと?」
周囲のトマドイなど気にせずコスキンは続ける。
「王が気に召されているアイネ様が、「なぜ来たか」と問われている。こたえよ」
促されてカンパが、こたえようとする。
「……えぇっと…………って、何で呼ばれたのか聞いてねーし! ッイタ!」
カンパをハタきながらコスキンが、
「言葉使いに気をつけろ! ……アイネ様、我らはあるお方に呼ばれて、そこに向かう途中でございます。急ぎますゆえ、これにて失礼させていただきます」
と片手を胸にあて反対の羽を後ろ上方に掲げて大げさな程、ウヤウヤしくカシコマって言う。ただしその後では、カンパが頭をさすりながら、コスキンをニラミつけている。
アイネは、コスキンの大げささはどうなのか思いつつも、
「急いでいるんだね。それじゃあカンパ、また明日」
と言ってテノヒラを向ける。
まだ頭を押さえていたカンパはそのまま「あぁ」と言うと、
Smack!(ベシッ!)
とコスキンがまたその頭をハタく。
「っぃてー」
と痛がるカンパにコスキンがすまし顔で言う。
「言葉使い」
アイネはそんなフウに去って行く2人をホホ笑みながら見送ると、自分は『空と水の庭園』の方へと歩いていく。
とある方から呼ばれたらしいカンパと、それを先導する道化師コスキンは、『空と水の庭園』前の回廊を進んで行き、その先にある近衛兵士が守る建物の中へと入っていく。
ただ入る直前、カンパはふと、『空と水の庭園』の方を振り返る。そこにいる誰かが気になったのか、懐かしさに焦がれたのか。
だがその向こうにさらに大きい『神の塔』があるのを見たカンパは、こんな感想をいだく。
Tsk!(チッ!)
建物の中に入った2人は、すぐにある女性とすれ違う。
エシャクをしながら足早に過ぎ去るその女性を見てコスキンは、「はて、誰の侍女だったか」と考えるが、すぐに思いいたる。それもそのはず、先ほど会ったばかりのアイネ様の侍女、フェマだったからだ。
「♪主のいない間に、急ぎ足でどこに向かうのやら~~」
突然、わけのわからない歌を歌い出すコスキンに、カンパは驚く。
コイツ、やべーぞ! いきなりヘンな歌うたいだした!
そんなことを思っているカンパに、
「少年兵士よ!」
とコスキンが急に呼びかける。
「は、はい?」
「宮廷には様々な思惑があるな!」
「……はあ……」
カンパはワケがわからぬまま、幼児に引かれるオモチャのようについて行く。
長かった宮廷の探検が終わりを告げるのは、それから間もなくのことである。
すなわちコスキンとカンパの2人による探検隊は、目的の部屋の前にたどり着いたのである。
コスキンはカンパを待たせて、その部屋に話しかける。
「しーつーれーします! あなたの道化師、コスキンが参りました。例の兵士を連れて来ました」
すると部屋の中から、艶やかな声のする。
「どうぞ お入りなさい」
どうすればいいのかわからないカンパに、アゴで中に入るよう促すコスキン。
カンパは一瞬、コスキンのような口上を言わなければならないか考えるが、さすがにそれはないと思い直し、入っていく。
入り口に垂れる布をくぐって入ろうとするカンパの背中に、最後の土産とばかりにコスキンが言う。
「くれぐれも! くれぐれも粗相のないようにな!」




