123 遠征まで16
【18年前、バルガとかサイネヴィとか】
「だから武器が送られてきてるんだって!」
息苦しそうに、そう言うのはサイネヴィ。
バルガたちがシドン川を渡って王都を抜け出してから、程なくのことだ。彼らにはこの世界で荒野を旅するのに、必要不可欠なものが足りていなかった。
そんなサイネヴィに、
「それができるんなら、もっと早く武器を取り寄せればよかっただろ!」
とバルガがやはり息苦しそうに、足りない不満をありのままにブツける。彼が強く言うのにも、理由がある。周囲は木が所々に茂っていて、彼らの進む方向はなだらかなに下っている。そして彼らの後ろからは、彼らを追って猛獣が迫って来ているからだ。
「ウガ管理区都の周辺は、使徒や眷属に見つかるからできなかったんだよ! やっと丘を越えたからやっと要請できたんだ!」
「そうは言っても、ここで殺されたら邪神を倒す以前の問題だろ!」
彼らを追って来ているのは、大きな6本脚の毛ムクジャラの猛獣。
「とにかくこのまま進んで! この先が、武器が飛んで来る座標だから!」
先頭をゆくサイネヴィが、そう叫びながら振り返った。
すぐ右後ろを、不満そうな顔のバルガが走り、その左後ろに不安な表情のベナッジョが続く。さらに後ろでは、デブリネがシドン川で拾った流木を、コスキンがいつも持ち歩いている杖を使い猛獣をケンセイしている。
そして彼らから少し距離をおいて、地を走る大きな6本脚の毛ムクジャラの猛獣が。
毛並みは深く、黒と深緑のシマ模様。フシクレ立った人のテノヒラを大きくしたような6つの足をペタペタと地面に着け、次々とウネるように脚を回して駆ける。目は大きく皿のように見開き、何でもすりつぶしてしまいそうな歯を閉じたままむき出しにしている。
その猛獣が、明らかに目の前のヒューマロイを補食しようと、追って来ているのであった。
ただ、ヒューマロイたちに近づこうとすれば、左後ろのコスキンがその大きな目を狙って杖を鋭く突きだし、または右後ろのデブリネが流木を振るった。近づこうとする猛獣は、それらの攻撃のタビにかわして距離を取った。
ただ何度目かの攻防の後、猛獣は違った動きを見せた。バルガたちの列から大きく右に出ると、地を駆ける脚を加速。グングンと前に出て、列の横に位置した。
かと思う内に毛むくじゃら猛獣は列の右前辺りにいるバルガに急速に近づいていった。
後ろから、
「ベナッジョ! バルガを守れ!」
と叫ぶのは必死に追いつこうとするも、間に合わなそうなデブリネ。ベナッジョもバルガに近づこうとするが、武器になるモノもなかった。
猛獣はさらにスピードを上げて近づき、今にも飛びつきそうだった。
その時、
「来た!」
と叫んだのはサイネヴィ。
彼女が見る先は、みんなが走っている後方。
そこには飛翔する物体が。それは走っている誰よりも早く後方から飛来して進み、バルガと猛獣の間に割って入った。
猛獣は予想外の、また得体の知れないそれから距離を取った。どのくらい離れたかといえば、得体の知れない何かが飛来したときに離れて安心できる距離だ。つまりはとりあえず、バルガの危機は去った。
その物体は小熊程の大きさの、黒くナメラかな流線型の物体で、ヒューマロイの腹の高さで浮遊していた。
猛獣を含めたみんなの疑問を、バルガが代弁する。
「何なんだ、これは!」
「だから神が送ってくれた武器だって」
サイネヴィは言いながらその物体に近づき、それを掲げた手で制御するように止めつつ自身も足を止めた。毛ムクジャラの猛獣も、地をすべり土ケムリを上げながら止まった。
みなが止まっている平野の中心で、サイネヴィが物体に手をかざしながら言った。
「展開!」
するとナメラかだった物体の中央に線が走り、上下に分かれた。中から剣が複数、その他に円形のモノが物体の左右に出て来て空中に並んでとどまった。
サイネヴィは周囲のトマドいを気にすることなくそれらをツカみ、
「……このフツウの片手剣はバルガ、ベナッジョ、デブリネで……」
仲間たちに投げ渡していった。
「……そしてこれがコスキンので……」
そう言ってサイネヴィが渡したのは、杖だった。
「……これが私の剣で……」
サイネヴィがツカんだのは、両手剣。しかしその刃は、いくつも等間隔に、剣先と同じ角度の『V 』字状の切れ目がついていた。
「……あとこれは、バルガに」
そう言ってサイネヴィは最後に残った円バン状のモノを投げ渡した。バルガは片手剣のサヤをベルトにさしていたが、右手でそれをツカんだ。
「これは……盾?」
それは“昼”のような金色の円バンで、裏側に腕を通すリングと握りがついていた。
サイネヴィが補足した。
「そう、でも私たちの神が特別に作った、神器といわれる特別な武器なんだよ」
「特別って何が特別なんだよ?」
「それは……」
サイネヴィが説明しようとしたところで、
「お前たち、ノンキに話している時間はないぞ!」
デブリネが警告した。
見れば、物体が無害だと知った猛獣が、ジワジワと近づいて来た。
バルガたちは、手に入れた武器を構えて相対した。
猛獣が駆け出した。
向かうのは、バルガ側の中央にいるベナッジョだ。猛獣はもうすぐ飛びかかる、という位置で急に向きを変えた。斜めに飛びかかった先にいるのはバルガだ。
バルガが、トッサに盾を掲げた。しかし片手の盾では、その大きな猛獣を支え切れない。そう思われた時、不思議なことが起こった。
バルガの掲げた盾がその腕を離れ、回転しながら飛び出して猛獣のノドモトに当り、押しているのだ。
猛獣はそれでも、相手を押しつぶそうとノケ反っていた。しかし、バルガの目の前で、空中で回転する盾は少しも押されなかった。その場に位置しながら、毛ムクジャラ猛獣の毛をこすり続けた。
ziiiiiiiiiiiiiip
「バルガ、しゃがんで!」
誰がそう言ったのか、バルガには見なくてもわかった。サイネヴィだ。
下げたバルガの頭上スレスレを、高速で何かが通っていった。
他の者たちを見ていた。
サイネヴィが剣を振るのを。
しかしその剣は、通常の軌道を描いたわけではなかった。
そもそもサイネヴィは少し離れた場所にいたので、普通なら届かない。
しかし実際には届いていた。
それは、サイネヴィの剣が伸びたからだった。
三角形状の刃が、糸でつながれたように間隔を空けて伸びた。それらの刃は振られながら伸び、バルガの頭上を通り、盾を押し返そうとする毛ムクジャラ猛獣の首に巻きついた。
それを確認したサイネヴィは、剣を大きく、勢いよく、1息に引いた。
すると猛獣の首に巻きついた刃は、その内にある肉を締めながら引き裂いてゆった。
周囲に飛び散るのは、猛獣の血しぶき。
サイネヴィの剣から解き放たれた猛獣は、あまりの痛みに後退した。そして何とか立っていたが、やがてそのまま崩れた。
それを認めてから、バルガが言った。
「……これが……神器……」
そういう彼の腕のリングに、空中で猛獣を抑えていた盾――彼に与えられるという神器――が収まった。
驚いた顔のバルガに、サイネヴィが誇らしげな顔をして言った。
「すごいでしょ!」




