116 遠征まで09
その村の広場には、村人たちが集まっている。
この村は盗賊の襲撃を受けたのとはまた別の、ウガ王国の西南に位置する村だ。なので村人が集まっているのは、盗賊被害の誰かをナグさめるためとか、徴兵される誰かをみんなで送り出そうというわけではない。少なくともこの時は。
むしろ集まっている村人たちの感情は、憧れとか貴重な存在に対しての畏敬を抱く、といったタグいのものだ。
そんな集まっている村人たちの中心にいるのは、統一されたデザインの制服を着た女2人男2人の4人だ。
上着はまぶしい程に白くボディーラインが現れるほどにタイトで、正面で5列の太い飾りヒモが横に左右を結ぶ。下は、男は黒くタイトなズボン、女はヒザ上丈のプリーツ状スカートで、どちらも黒い生地が左右後ろを、金色でシシュウされた赤い生地が正面に垂れ下がる。また肩にも金のシシュウを施された赤い布を羽織っている。
彼らの鎧は頭、胸当て、コテ、腰周り、スネを最低限保護する長細いもので、色は通常の鉄や青銅といった金属特有の色ではなく、輝く白に加工された何かだ。
そして腰などに、筒状のモノを下げている。
村人が家から引っ張り出してきてくれた木製で横長の、輝く鎧には不釣り合いの粗末なドロワーに女性が1人座り、もう1人の背の高い女性がそのカタワラに立つ。
後ろには同じく村人がどこからか引っ張ってきたキリカブと丸太に座る男が2人。
4人が4人とも、同じようなイデタチだ。
そんな人の集まっている場所に、また別な1群が近いてくる。それは王都から来た1群で、おおよそ2個6人隊と2人の神官で構成され、つまりはハダリー隊とゴドリー隊たちだ。
彼らが近づいてくると、村人たちは自然と道を開けていく。マガマガしい獣が歩くと、草原を押しのけられるような感じで。
先頭に立つゴドリーが、粗末なドロワーに腰かける女性に向かって歩いていく。イヤナとヴェイザも隣を歩く。
ドロワーの女性も立ち上がる。
ヴェイザが立ち止まり、腰を折ってから言う。
「お久しぶりです。ディリケさん。それにミーケさんも」
ドロワーから立ち上がった女性がこたえる。ツヤのある黒髪の三つ編みは胸当ての前を通り、腰の辺りに届く長さがある。
「久しいな、ヴェイザ殿。本国であった時以来か」
「私の記憶が正しければ、1度エユィドナ共和国でご挨拶させていただきました」
「……おぉ、そうだった。それは失礼した。……それで、そちらのご人は?」
「はい、こちらがハンニニンガ家のイヤナ様で」
イヤナとディリケが挨拶をかわす。
「こちらがウガ王国の……」
とヴェイザが言ったところで、ゴドリーが引き継ぐ。
「6人隊隊長ゴドリーです。ウガ王国王都より、お迎えに上がりました」
「ありがとう。私は神殿教国 神聖騎士団ヴァヒリチェリの騎士団長、ディリケという。こちらが私のパートナーのミーケで……」
そう言ってディケリーは、隣に立つ女性を示す。ミーケは冷たく淡い水色のサラサラしたショートボブの髪を揺らしてエシャクする。
「……後ろの2人がビュトとヒュテだ」
ディリケがそう示す先にで、緑色のボリュームある髪を肩上で切りそろえているブサイクな男がキリカブに座ったまま、ムリヤリ束ねたホウキのように散ったオレンジの長髪の男が立ち上がってエシャクする。ディリケとミーケがパートナーということは、おそらく彼らもパートナーだ。そんな想像をしてイヤな顔をしそうになって、なんとかこらえたゴドリーが、
「……そ、そうですか。……それでは行きましょうか。こんなところではおもてなしもできませんので……」
と言うと、周りで見ていた村人たちの何人かはイヤな顔をする。ディリケが言う。
「そんなことはない。我々は心温まるもてなしを、すでに受けている」
ディリケがそう言って笑うと、村人たちもホホえむ。
ゴドリー隊たちは、神殿教の神聖騎士団ヴァヒリチェリと合流し、ウガ王国は王都へと向かっている。
先頭を行くのは、ゴドリー隊だ。隊長ゴドリーはハダリー隊長より、わずかだが序列が上だ。そういうこともあって、自分たちが先導していることをアピールすることが狙いだ。
中央にいるのは、神殿教関係者だ。ヴェイザはエユィドゥナ共和国やその貿易盛んな国にもたらされる情報を聞き、ディリケはウガ王国の状況を聞いている。その他の者は、その会話に加わったり加わらなかったり。
そうして他の者たちが話している時、ディリケが声をヒソめてヴェイザに聞く。
「……それで例の子は?」
ヴェイザは全く後ろを振り返らないで言う。
「後ろの6人隊にいる、サンゴのような髪色の娘です」
ディリケはヴェイザの方を向くようにして、目だけを動かして後ろを見る。
ハダリー隊は、集団の1番後ろにいる。なぜなら王国が招いた客を真ん中にして、安全を確保するためだ。
ディリケはその6人隊の顔に視線を走らせていく。
隊長らしき人物年をとった兵士大柄な兵士目つきの鋭い男と暗い感じの男そして……。
あれは…………
サンゴ色の髪の、愛らしい顔をした娘を視野に収めると同時に、ここにいるはずのない人物の顔を目にする。
「カンパ……?」
【カンパ】
まずい……。見つかっちまった。
そう思いながら、マレの後ろに隠れる。
こんな距離感だったけど、今まで何とか人影に隠れていたのに……。不意の振り返りだった。まるでこちらにサトられないように見るような……。
ひょっとしたらオレを見たんじゃなくて、他の誰かを見ようとした?
それならオレに気づいてない?
気づいてないならこのままやりすごそう……
【ディリケ】
「カンパ……?」
まさか……
そんなはずは……
だってあの子は……
だってあの子は……
3年前に家を出て行ったっきり、戻って来なかったのだから……
それがこんなところで、兵士になっているはずがない……。
よりによってこの国で……。
だからきっと、私のカン違いだ。いなくなったのがショックで、誰にでもその面影を当てはめようとしていただけだ。
「そんなわけ……ないか……」
【ミーケ】
「カンパ……」
とても久しぶりにその名前を聞いた。
そうツブやいたのは、ディリケ様だ。私もすぐに同じ方を振り向くが、それらしき面影は見当たらない。列で人が重なって、よく見えない。少なくとも、“カンパ様”の人影は見当たらない。
「そんなわけ……ないか……」
ディリケ様のアキラめるツブやきが聞こえる。再び前を向いて歩き始めるディリケ様に、神官ヴェイザ殿がたずねる。
「どうかしましたか?」
慈愛に満ちた、こちらのことを心から心配してくれている表情だ。
ディリケ様がこたえる。
「いえ、ちょっと他人のそら似で……。なんでもありません」
そう言ったディリケ様の声色は、私にはとてもなんでもないようには聞こえない。
【】
サンゴ色の髪の少女が、隣を歩く黒髪の少年に問う。
「カンパ? こそこそしてどうしたの? また何か悪いことした?」
カンパは思う。
コイツ……ほんとっっっにタイミングの悪い女だな!
アイツらに聞かれたらとうすんだ!
「なんでもねーよ…………ってか悪いことって何なんだよ!」
「そう? でもカンパの「なんでもねーよ」はだいたい何かあるんだよねー」
コイツ……
「そんなことはいいからよ、ご自慢のいい目で周りを警戒しとけよ!」
「ん? こんな王都から離れてない場所で、猛獣とかいるわけないじゃ……あれ?」
「ほらなっ…………って、何かあんのかよ!」
アイネが右の前の方を指して言う。
「低すぎて分かりにくいけど、あの辺り。なんか……大きいのが近づいて……」
カンパは思う。
コイツはロクでもないヤツだけど、コイツの目は信用できる。この前の遠征でそう感じたんだ。
そしてカンパが聞く。
「大きい? またデカネコみたいなヤツか?」
「ちかう! 長いの!」
ここでようやく事態を飲み込めてきたハダリー隊長が聞く。
「またデカいヘビか!?」
「そうかもしれないけど、ちかうかも! 近づいて来てるけどグネグネしてない!」
状況が切迫していると判断すると、ハダリー隊長はすかさず号令する。
「ハダリー隊! 戦闘準備!」
ハダリー隊長の様子を見て、そのメンバーたちはもう、心の準備はできている。




