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110 遠征まで03


「はっ? なんでオレが……」


「いくぞ!」


マルゴはカンパの動揺など少しもこの世に存在しないかのように、最後の距離をつめてくる。そして右手で木剣を振りかぶり、カンパに叩きつける。

 カンパは動揺しながらも、盾を振り上げるように持ち上げ、


Gang!(ゴン!)


それを防ぐ。


「っおい!」


 カンパの非難にもかかわらず、マルゴがさらに接近しながら剣を突き出す。1回ではなく、右に、左に、そして右に。カンパは盾を使って、それらを外へ外へとハジく。

 カンパはこんなヒッシの状況にもかかわらず、何かしらの手応えを感じ始める。


 やっぱりだ


 コイツはそれなりに強い


 剣がウマイというより、押しで強い


 ……だが、軍務卿の剣に比べると、剣の動き……攻撃を読みやすい


 そう思いながらカンパは、相手が剣を引くのに合わせて剣を突き出す。その剣先は予想されていなかったのか、マルゴの右脇腹をかすめる。


「チッ!」


マルゴが舌を打ちながら盾でそれを払うが、カンパは攻撃を止めない。盾でマルゴの盾に打ち当てて押し、体勢がくずれたところに剣を右から振るう。


 マルゴは押されながらも盾を左に保持してそれを防ぐが、押された勢いは殺し切れていない。


 カンパはもう1歩踏み込んで左から剣を振る。頭に打ち込む、と、見せかけそのまましゃがむ。カンパの木剣は目の前に生えた脚を刈り取ろうとする。


 これに対しマルゴは、右足左足の順に曲げて、カンパの木剣を飛び越える。飛び越えながら、眼下にいるカンパに木剣を突きだす。が、それは盾で防がれる。


 その時、マルゴは飛びながら下を見ていた目が、盾越しにのぞいていたカンパの目をとらえる。同時にカンパの目も、マルゴの目をとらえる。


 直後、マルゴは着地してから後ろに跳躍ちょうやく、カンパは後ろに1回転し、互いに距離を取る。

 相手をうかがう2人の呼吸は、荒くなっている。



カンパは思う。


 オレの攻撃も……当たらない……


 読まれている?


 オレ……やコイツの攻撃は相手に読まれて……


 軍務卿の攻撃は、読まれない。


 なんでだ?


 攻撃が読まれるということは、攻撃が当たる前にそれが分かるということだ。


 軍務卿とコイツの攻撃を並べる。


 やっぱり振りかぶり……めが……ない……


 でも、それじゃあ力がのらないだろ?


 ……


 ……やってみるか……





マルゴは思う。


 アイツが気に食わねーから


 ちょっとイタめつけてやる。


 そうゆうつもりだった。


 女にウツツを抜かしているようなナンジャクなヤロウだと思っていた。


 でもアイツは思ったより腕がたつ……


 フザケやがって……


 ブチのめしてやる!





 マルゴが再び、距離をツメていく。目的はもちろんハグするためとかそういった友好的なことではなく、しごくマットウに、相手をブチのめすためだ。


 対するカンパは構えたまま立ちつくしていて、何かを考えているようだ。しかしすぐに動きだす。

 でもそれは、迎え撃つとかそういうことではない。脱力だ。木の剣と盾を持ってはいるが、脱力して、自然に腕を下ろしている。


 それを見たマルゴの感情は、またたく間に怒りに塗りつぶされていく。


 フザケやがって!



ますます近づいてゆくマルゴ。


対するカンパは、まだ脱力したまま。


 マルゴは木剣を振り上げて、いきどおりのままにそれを振り下ろす。狙いは生意気な少年の頭。


 モラった!!


マルゴは勝利を確信するが、


Bang!!(ゴン!!)


彼の木剣はハジかれる。


 何に?


マルゴの木剣をハジいたのは、木の盾だ。その盾を支えているのは、カンパの左腕。そしてカンパの右手の木剣は、マルゴの左首筋を打つ。打たれたマルゴは打撃と痛みで、そのまま倒れる。


 マルゴは追撃を警戒するが、それはこない。なぜならカンパもまた、衝撃を受けていたからだ。思った以上に自分の攻撃が通った衝撃に。


 ……とおった……


 カウンターだったから?


 でも動きを読まれていたなら盾で防がれたはずだ……


 マグレで当たっただけ?


 ……


 もう一度試したい……





 フザケんなよおおお!!


ジワジワと効いてくる痛みと共にわく怒りに、マルゴの心は塗りつぶされていく。


 オレが負けた?


 あの女とイチャつくようなヤロウに?


 そんなハズがないっ!


マルゴは首筋を押さえながら、立ち上がる。許せない気持ちが、彼をそうさせるのだ。そして相手に木剣を向けて、怒りのままに言う。


「もう1度、勝負だ!」


考えごとをしていたカンパが、それに気づいてこたえる。


「……いいぜ。やってやるよ」


そう言ったかと思うとカンパは、まっすぐマルゴに向かって、歩いて近づいてゆく。その歩き方は、これから戦おうとするもののそれではない。木剣を持つ手も、盾を持つ手もおろしている。脱力していて、自然体。

その様子を見てマルゴは、イキドオリを覚える。


 なんなんだよ、その構えは!


 ゼッテー、ブチのめしてやる!



 カンパはもう間もなくマルゴの剣の届く距離に入ってくるが、まだ自然体のままだ。それを見ながら、マルゴは警戒を強める。


 今度こそ、ユダンしねーぞ!


 今度はウカツに手を出さねえ……見極めて、カウンターを見舞ってやる!


 しかしカンパはそのまま、マルゴの剣の範囲に踏み込んでくる。動揺するマルゴ。思わず盾を持つ手に、力が入る。


 一方でカンパは、不思議な感覚を感じている。

 相手の動きを、落ち着いて見ることができるし、力を抜いているのにもかかわらず、すぐにあらゆる動きができそうな感覚がある。


 そしてカンパは相手が盾を強く保持するのを見ると、盾で隠れている相手の視界外から剣を近づけていく。脱力しているので、肩は動かない。そして近づけながら剣先を上げていき、盾の上端で手首を返しながら突きだす。


 突きだされた剣は、マルゴの頭へと突きつけられている。


「……終わりだ」


「フザケんなっ!」


逆上ぎゃくじょうしたマルゴが、勝敗に関係なく木剣を振るう。



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