補完体
「妙だ」
最初の目標はサジャとウジャの打倒だった、そのまま聖都を奪還 その後、残った二体の憑神に関しては最後の善意があるため、彼らは聖都には入れない もっとも一度入れば囲まれるから出ることもできなくなるが 聖都で戦う準備を整え、そののち残りを制圧するという杜撰な計画だった しかしすでにこちらの意図とは別の意味で事態は急変している
関所を通りぬけても敵の気配がみられない ウジャ・サジャだけではない 一般のダエワ兵すらいない
争った痕跡が散見される 自分達以外の抵抗勢力があるのか?
霧が濃くて、周囲が見えずらい 皆周りを警戒しながらも歩みを止めない
そうこうしているうちにあっさりと聖都にたどり着いてしまった
霧が晴れて、空を見上げると そこには黒天が二つ
一つ、欠けている どうなっている?
皆に警戒を解かないように伝えながらも散開する
街の状況を確認したい 聖都には直接ダエワは入れないが、ダエワの取り巻きのようなノルマというのはいる そいつが聖都で悪さをしている可能性はある
住人の速やかな保護を目的に動き出す
「うりゃっ 食らえ! ぎゃはははっ!!!」
下品なガキの笑い声が聞こえてきた
もっとうまく狙えよへたくそとゲラゲラやりあっている
『なっ 冬! あれ!』
ノルマのガキ三人が一人の子供に向かって石を投げつけている 顔が腫れ上がっている
かすかに動いているからまだ生きているだろう
「くらえ!」
そう言ってガキどもが投げた石を片手で止め、投げ返す
「うぐぁ!!」
下品な音を立てて、ガキが悲鳴を上げ、顔を抑え、嗚咽を吐く
地面にははじけ飛んだ眼球が落ちていた
「何しやがんだ!」
「は?」
それだけでガキはおじけづき、全員押し黙った
「おまえさ、誰に気安く口きいてんの?」
冷めた声があたりの音すら静める
震え始める子供達
『冬! 待って!!!』
「黙ってろ」
『ひっ!』
「俺が、何をしようと、お前ら虫けらに、とがめだてする権利があるとでも? どの立場で? どんな理由があって? どんな言い訳を並べるの? 言ってみろ 俺を笑わせられる御託垂れたら殺さないでやるよ」
子供達は震えながら地べたに手をついて許しを請い始める
冬はおもむろに近づいて、子供の頭を踏みつぶした
「面白くない」
悲鳴を上げる子供達に冬は容赦なく、処断した
『冬!子供相手に、やりすぎだ!』
「は? ガキ一人相手に複数人でこんなでけぇ石をぶつけるような奴を子供だから許すのか? ごめんっていえばお前は人殺しても、仕方ないねって許すのか?ああ!!」
『そこまではいわない...僕は節理の話をしてるんだ 子供を殺すのは、よくない こんな世界だ 殺しにくる奴を殺すなとは言わないし、言えない ただ...』
「ずいぶん他人事ですね~ お前は、この子が自分の身内でも同じ言葉を吐けんのか? これが自分だったらどうすんの? 当たり所が悪かったので死んじゃいました 殺す気はなかったんですぅ~っていっときゃお前は納得すんのかよ」
ガキの遊びにしてはいきすぎだ 子供だから許される範囲を大きく逸脱してる行為だ
ただ殺すんじゃない こいつらはいたぶるのを楽しんでいた 人の命を奪おうとするのなら、自分も殺される覚悟は持たなければならない 土台この世界はより死が間近だ ヘラヘラ人を殺せる奴は間違いなく、畜生だ
「冬真、これだけは言っておく 他者の命を軽んじる奴は殺す 俺の命を軽んじる奴はもっと許さねぇ 覚えとけ」
冬真はうなりこそしたが、それ以上の言葉は紡がなかった
こんなゴミども どうでもいい 倒れている子供に駆け寄り、様子を見る
「平気か?」
傷を見る かなりひどい 普通なら後遺症が残るレベルだ
顔に触れる 存在維持の応用だ この子の存在情報を読み込み、正常な状態に復元する 回復というよりは元の状態に戻る回帰に近い
みるみるうちに元の状態に戻っていく その顔を見ると、まだあどけない少女の顔だった 銀髪に褐色の肌 異人の血が入っていそうな容姿だ
その時、冬真が動揺を示した
『嘘だ...そんな、まさか、凪、なの?』
「?知り合いか?」
もちろんこの世界はゲーム世界だ 知り合いなど現実世界の住人ならいるはずがない、が 例外はある
『いや、そんなはずはないよ 妹のはずは だって』
「だろうね 知り合いに似ているのなら、この子は補完体だ」
『え?なに、なんだって?』
「この世界はゲーム世界、もっというと空想世界だ 現実の世界ほど細部まで完璧にできてるわけじゃない 例えば街並み、人の容貌、性格、物理法則、科学技術の発展状況や、生活水準その他もろもろ 隙間はどこにでもある それらを一つ一つ細部まで作り込むには世界とは大きすぎる だから現実世界に存在するものをある程度参考にするんだ もちろん空想世界と現実世界とでは物理法則が異なる だからすり合わせるのには時間がかかるし、存在エネルギーも必要になる」
そのための世界のアップデートだ 段階を踏んで、世界の完成度を上げる
『えっと、その、』
「わかりづらいなら、こう考えればいい この世界で何か、自分の見たことのあるものを見ても、それは君の記憶から補完された情報にすぎない つまり、偽物だ」
『偽物、これが』
「記憶はないはずだよ あくまで側が似てるだけで、この世界で生きるための知識や情報が組み込まれるはずだから 性格は似通ってるかもしれないけれど、別人だ」
そうこう話している間に、少女は目を覚ます こちらに気づいて、震えた手を伸ばす
「冬真、おにいちゃん、やっと迎えにきて、くれたんだね...」
そう言って目を閉じる 冬はそれを見て、眉根を寄せる
『!!! いま、冬真って... 冬! この子は!』
本物じゃないって そう言った! 記憶なんてないって! なのに
冬は手を口に当てて考える
「...今は何もわからない 少なくとも、この町を含めて、俺の把握しきれていない何かが起きている それを調べないと」
彼女を保護したのち、ほかのところも見て回る 町の中はひどいものだった アニマ達はノルマ達のいい怒りのはけ口となり、暴力を振るっていた
抵抗する力がないのではなく、抵抗しなかったのだろう あまりいい手だとは思えない 一度許せばつけあがる 最初はいやがらせ程度だったのが、どんどんエスカレートしていったのだろう あのクソガキ共のように
「冬さん! 町の見回り、完了しました!」
ヒマワリがそう報告してくる 隣にはこちらをにらみつけるように警戒する彼女の妹、ヒメが一緒についていた
ヒメは俺をかなり警戒している というより気に食わないのかもしれない
別に嫌われるのには慣れている こちらに害を加えてくるようなことがないのなら別に構わない アニマはくだらない嫌がらせはしない 彼女も姉を心配して俺を警戒しているだけだろう 実際いい顔はしなくとも、姉同様、真面目に働いてくれている
「町の人間に状況の確認をしましたが、よくわかっていないようです 黒天が砕けたことすら、把握できてなかったとか」
日々空を見上げるのも億劫だったと 状況が状況だ 責めることなんてできない
だが、これで行き詰ってしまったな 一番近くにいた人間達がそれを把握していないとなると
この町の異変 この町の違和感 この町の、違う場所...
それは単なる思い付き ただ眼の端に捉えた、というだけのものだった
「マンホール...」
『え?まんほーる?マンホールがどうかしたの?』
「空に浮いているいくつかある壊れた卵の殻みたいなもの、見える?」
『ああ あれ、ずっと気にはなってたんだけど、ゲーム世界だからって流してたな あれなんか意味あるの?』
「この世界は円柱世界、箱庭だ 自然現象にも神秘が宿ってる 水源は下ではなく、上にあるんだ あれは本来恵みの雨を降らしてくれる護神像の本体なんだけど、壊されてしまった だから水源は汚染されても浄化されることがないんだ」
『お、おう で?マンホールと何が関係が?』
「焦るなよ この世界で水捌けは必要がないんだ この世界に無駄なものはない 水は地面に浸み込めば、そのまま農作物に栄養を与える 余分な分は空に孵る 常にうまく循環する だから、下水場は、必要ない」
自然もまた人の不利益になるような現象は起こさない 地面が水浸しになることなんてない
『お、お~ そういう、もんなのかな? でも今は循環する力が弱まってるんでしょ? だからマンホールを作ったのでは?』
「本来必要のないものを、急にこんなレベルで?」
そう言って冬はマンホールを開く その中をのぞきみるが
SF映画に出てくるみたいなハイテクそのものだ 少なくともこの町の技術水準を考えると、ありえないレベルだと一目でわかるほど 下水場にこんな力を入れるくらいなら町の景観にもっと力を入れたほうがいいだろう
『これは...』
「白銀都市の下水場と形状が似てる つまり俺の記憶から補完されている場所ということだ 実際このアヴェスターゲームに地下の話は触れられていない」
『下水があるのは、わかったんですが、僕にはよくわかりませぬ』
それがどう今回の話につながるのか、わかりかねるといいたいのだろう
「今から説明するよ 俺はかつて白銀都市で隠しておきたい遺物なんかを地下ロッジに隠しておいた 遺物なんかは特に検閲がひどくて、強力なものほどなんやかんやいって取り上げられるからね 入り組んだ迷路のような下水場を利用して、いくつか白銀の関係者でもわからないような秘密基地を作ったんだ」
『ひ、秘密基地、だと!』
「もし俺の使っていた拠点が残っていれば、俺の研究資料や武器、遺物なんかも複製されてるかもしれない」
『お、おお! マジか!それは燃える展開だ!』
「この世界の世界観に合わないものだから弾かれる可能性もあるけど、この技術力の下水場が再現されているのならかけてみる価値はある」
◇
「私もついていくわ」
地下の存在を話し、調査にいく旨を伝えるとナツがついてくるという
「え?なんで?」
なんで?
「この町に地下ができているといわれて、ダエワの干渉を考えない人間はいないわよ 私たちは聖寵を失ってる あなたまで失えば今度こそ再起は絶望的になる いざということを考えれば当然よ」
「ああ、なるほど」
確かに彼女達にとっては警戒に値する内容か 最後の善意の力が地下まで届くかは今のところ不明だ ただ
「君にはヒマワリ達や凪の護衛を頼みたいんだ こう言っては何だけど、憑神を使うレベルの敵が来たら、聖寵が使えないものが近くにいても、助力にはなりえないし」
むしろ足手まといになる 彼女の素の身体能力を考えれば雑魚敵程度なら問題ないと思う 聖都にはダエワは入り込めないが、彼らと繋がっているノルマは存在する
ヒマワリはしっかりしている子だけど、それでも子供だ 大人数で襲われればひとたまりもないだろう 凪も空いている民家で療養させているが、傷が治ってもまだ目を覚ましていない 冬真も気が気じゃない様子だが、それでも地下の状況を放置するわけにはいかないのは理解してもらえた
「それは、...わかったわ」
逡巡はするものの、すぐに了解を得る
彼女にはアニマ達の統率をお願いしたい この町の中で生活していたもので、ダエワと繋がっていそうなものや暴動、略奪をしているものを制圧するには武力がいるし、何よりなぁなぁにしない意思が必要だ 黒は黒 白は白 怪しきは罰せよ、とまでは言わないが危険な奴を取り締まらない選択をしてもらっては困る 最低でも拘留はしてもらわないと
彼女ならそこは厳しく取り締まるだろう 何より彼女の復讐相手はダエワよりもノルマの裏切り者のほうが多い 原作の前後の話を考えると、この町に隠れ潜んでいる可能性が高い
サジャとウジャがいないのであれば、水源や作物の汚染が起きない ジャクラもいないので土壌も毒素を持たない 護神像が壊れているため、浄化能力が機能してないがそこは俺がどうにかする ただそのためには地下にいっていろいろ隠しておいた遺物を持ってくる必要がある 個人の扱うザインクラフトでちまちま土を浄化していては時間がかかりすぎる 冬真もいい加減窮屈しているだろうから、少しばかりのプレゼントもしないとな
残る憑神は二機 アカマナフ(漆深黒)とナス(醜男)
どちらも直接戦闘よりも、からめ手が強いタイプ 嵌まれば強いが知っていれば対策もできる
まずは食料事情と内政を安定させてからじっくり攻めよう なぜサジャとウジャが倒れたのか、結局わからなかった ただ、あれらを討滅したことから、敵とは言いずらいと思っている 仮にその原因が地下に潜っていたとしても、協力できうる可能性があるなら接触する価値はある 町の住民にアプローチせず、地下に潜った理由はわからないが どちらにせよ、地下にはいかないといけない 入念な準備はしておく 最悪戦闘になる可能性も考えて油断はしない じっくり準備をしていこう 俺が死ねば、この世界の住人も、そして冬真も死ぬ 責任は重い




