日輪
雷裂弾を撃ってきたやつめがけて投げ返す
「うえ?」
バチンっ!! バリバリバリッ!!と大きな音を立ててそれは炸裂した
「あばばばばばっ!?」
「あひゃひゃひゃっ ペイル お前よけろよこれくらい~(笑)」
ジャクラのほうは即座にその場を飛びのいて軽々とよけていた
「あぁああ ゆるさねぇ おいらなにもしてなのに! 急に攻撃仕掛けてくるとか、マナーがなってないっすよねぇ~?」
自分から仕掛けてやり返されたら盛大に逆切れする、ダエワの典型的な性質をしている
「それにしても、マシロ、お前、そんなに強かったっけ? まぁいいや ナツを渡せ どうせ一度は裏切った身だろ? 今さら助けたフリしても過去は変えられないぞ~」
ジャクラはマシロに裏切りをそそのかした張本人だ 目をかけていたというより、本命を吊るためのエサとしての興味だが
「冬さん! 大丈夫ですか!」
ヒマワリがベットから飛び起きて壁に穴が開いてることに驚き、そして吹き飛ばされた俺を見て悲鳴を上げる
「ヒマワリ! 母君を連れて避難しろ! ここは戦場になる!」
俺は飛ばされた隣家からそう叫ぶ
驚きを示したが、戸惑うこともなく階下に避難する
ナツを背負いなおし、逃避を図る
「逃げんなよ」
顔のすぐ横でジャクラがそうつぶやき、蹴りを放ってくる
雷撃を纏った蹴りだ 目にもとまらぬ蹴速に 俺は思考を加速させる
コードを使わぬ思考加速はたかが知れているが、やらないよりはマシ 思考を加速してもギリギリ目で追える程度までしか落とし込めない
だがまともに喰らうわけにもいかない
彼らの扱う雷撃とは通常の物理攻撃だけではない こちらの存在処理能力に負荷をかけてくるので、まともに受ければ、肉体だけでなく、ザインクラフトの処理能力にも影響を与えてくる
ザインクラフトにより、残った刻紋を励起させる 己の存在を拡張し、改変する
存在を拡張するというのは、世界から見えている自分の存在の形を本来取りうる形の外側に伸ばす可能性の枝 世界からの見え方を変えること
刻紋励起:《無頼二式》 刻紋が両腕に巻き付き、その幅を肉体の外にも伸ばす 人類種が捨て去った可能性 獣ならだれもが持ちうる爪(武器)
刻紋とは、外付けの拡張武装だ 人は戦う爪を持たない だから武器を持つ
刻んでおきさえすれば、通常よりも多くの武装を持ち運べるが、虚無との闘いにより、ほとんどの刻紋は消えてしまった
無頼二式の性能は本来のものよりかなり落ちている
無頼二式は無頼の簡易版だ 無頼の特性は存在武装の最適化 あらゆる場面で最適な形状、最適な攻撃手段、最適なエネルギー消費量に調整するためのツール しかしそこまでの物を一朝一夕では作れない 変形機構はついてても最適化はしてくれないので己で直接調整する必要がある 相手の攻撃を通すため、あるいは弾くために必要な強度や情報干渉をマニュアルで行わないといけない 本来の無頼ならわざわざ調整しなくても冷熱だろうが、雷だろうが、切り伏せることが可能だ
物理・物性干渉機構の生成・拡張により、両手をフォースフィールドで覆い、相手の雷撃のベクトルをいなしながら、衝撃だけを受け止め、その衝撃に逆らわず後ろに飛ぶ ヒマワリ達とは逆方向に
「お?」
蹴りのダメージを後ろに飛ぶための推進力に変換し距離を開け、逃走を選択する
フォースフィールドの反発力も最大源高めて距離を開ける
ナツを抱えた状態ではあまりにも不利だ
「なにやってんすか~ボス!」
「うるせ! 追うぞ!」
彼らは腕を銃口に変形させ、こちらを先ほどの雷裂弾で足を止めようと追いかけてくるが、踏み込んだジャクラの足元でカチリと音が鳴る
その直前にドカン!と激しい爆裂音が鳴る
「あ~あ そういうことするわけね」
パラパラと屋根が吹き飛んで、階下に落ち、がれきの中でそうこぼす
ダメージはほぼほぼないが、それでも足止めにはなる
相手が大量の光と音にやられているうちにこちらは存在を薄め、姿を隠す
市街戦だろうが、野営戦だろうが、こちらに時間を与えればその分、この町の要塞化を進められる 手の込んだ刻紋は工房で時間をかけて作るものだが、簡易的なものならその場で刻んでしまえば問題なく駆動する 俺の存在エネルギーが持つ範囲の話だが
街中で悲鳴が上がる
「ダエワだ! ダエワどもが攻めてきたぞ!!」
街中で殺戮が始まる 人を殺し、喰らい、犯す
血に飢えた獣どもが町を蹂躙し始める
「マシロ~ このまま放置すれば町は大変なことにあるぞぉい!」
ジャクラはこちらを挑発してくる
『冬!』
「無理だ 群がれれば負ける 奴らは味方を巻き込んだ攻撃なんて平気でしてくる」
「う~ん これでも出てこないか... いきなり善行に目覚めたわけじゃない ほんとにわからんな アレ、本当にマシロか? まぁいい 出てこないってんなら次の手に移るだけだ」
地面が盛り上がって突起物が突き出す
じりじりと蓄電を始めた ジャクラの地縛雷が来る!
『冬! これは?』
「飛ぶぞ!」
喋るよりも先に宙に舞う バリバリバリッ 地面を駆け巡る雷撃地雷 ジャクラ達の扱う雷土の性質は物質に対して電通性が上がるが、空気中へは著しく下がる もともと空気は電気の通りが悪いものだけど、雷土の電撃はさらに悪い 逆にその性質を利用して雷裂弾などに加工しやすくはなっているが、地面内への電通性は範囲も持続時間も長い
無頼二式が爪のように変化し、空に突き刺すことで地面へ落ちることを防ぐ 本来の無頼なら足元も補完するので、空に立つことも可能だが、今は手周りしか補完できない
『ヒマワリ達は?』
大丈夫だ ヒマワリ達のほうには向かっていない あらかじめ逃げる距離を離しておいてよかった
「そこか!」
こちらが宙に飛んだことでジャクラからこちらの位置が丸見えになった
まるで跳躍する猫のように、ふくらはぎを膨らませて跳躍してくる
ナツをかばう体制をしながら敵の攻撃が直撃する
すさまじい音を立てて、建物を吹き飛ばしながら地面を跳ね回りながら、馬小屋に突っ込む
『冬!平気?』
「死んではいないから、多分平気」
存在維持を使って防御した 存在を維持している間は存在エネルギーが尽きない限り、発動前の状態を維持する 見た目上はダメージは見られない 服さえ破けてはいない できる限りダメージは殺したが、それでも存在エネルギーは結構もっていかれた
あたりを見渡す 荒れ狂う馬達 はじめて見る馬に感動している場面ではない 本の中でしか見たことがないが、彼らは走るのが得意な種族らしい ナツを落ちないように背中に括り付けて即席のステルス型刻紋を刻む 迷彩機能を持つわけじゃないから目視で見られたらバレるが、存在感は薄れる 敵にかまわれにくくなるだろう 加えて全馬を四方に逃がす 彼らには申し訳ないが、せめておとりになってくれることを祈る
予定とはかなり異なるが、ジャクラはここで殺す
じゃりじゃりと破片を踏みながらジャクラがやってくる
「よ~ マシロ あれくらっても無事なのか マジ強くなったな~ 感心感心 おいちゃんうれしいよ~」
俺は両手をフォースエッジで覆う
ジャクラはいぶかしげにこちらをみやる あごひげを撫でながら何やら思案する
「う~ん 意外だな お前がそんな殺る気でいるなんてぇ おまえ~」
一度下を向いて、思考するように額端をかく そして
「だれだ?」
俺は答えなかった 誰かなど互いを確認しあう必要はない 殺しあう相手の素性などどうでもいい 必要なのは どうやれば殺せるか それだけわかればいい
昔からそう 掃きだめを生き抜いたあの頃も、遺物回収で遺跡に入り、幾多の死地を乗り越えて、教団や純潔派、そして白銀都市との戦争の時も 殺す相手のことなんてどうでもいい 俺が生き残ることが重要だ 殺す奴のことをどうしても知りたければ殺した後に調べればいい
「んほっ♪ いい目するね~ 返答無しなのは寂しいが、お前がマシロじゃないことだけはわかった 顔がどれだけそっくりでも中身が違いすぎる 最初は能力的に醜男かとも思ったが あいつ、そこまで強くないもんな~」
ジャクラは構えをとる 来いよと言わんばかりに手招きをする
俺は刀も持っていないのに手刀で抜刀の構えをとる ジャクラは距離があるにも関わらずそれをカウンターではないと判断し、その場を飛びのいた 先ほどジャクラのいた位置に斬影が走る そのまま背後の壁を切り裂いた 相手が飛びのいた瞬間にはすでに納刀済で次の構えが完了している
ジャクラは距離を開けるのはまずいと判断し、こちらに飛び込んでくる そこにすかさず次の一撃を入れるが、今度はかわさずに半身で片手に全防御に振り固める 瞬足の斬撃がシールドを突き破って肉に到達する瞬間にひねりを加えて、斬線をいなす 相手は片手を犠牲にし、こちらの攻撃を完全には防げずとも致命傷を避けながら、攻撃用の片手は残していた
「おわ~り~だぁ~!!」
雷砲に変形した片手を突き出し、俺にとどめの一撃を加えようとしてくる
ふわりと俺は雷砲の銃口に抜刀していない右腕を添える
「空弾」
「!!?」
すさまじい音とともにジャクラのほうへ向けて雷裂弾が暴発する
雷土の性質は空気を通らない 高圧で圧縮した空気の球を
ビクビクと痺れて跳ねているジャクラに 俺はフォースエッジで強化した左腕でジャクラの首をたたっ切る 加えて落ちた頭を踏み砕く
ダエワは頭だけでも半日は持つし、首を胴体とくっつければ割りと簡単に再生する
なのに 思わず舌打ちする
首無しの体が立ち上がる バチバチと体に帯電がみられる 肉体に雷土で信号を送ってるのか まぁいい 首を落としても立ち上がるなら立ち上がる足も粉砕する 足がなくても立ち上がるなら立ち上がる意思を粉みじんにしてやるまでだ
頭がないとは思えないほど鋭い拳が飛んでくる それを右手でいなし左手でこぶしを胴体に叩き込む しかしそれでひるむことはなく、左手を絡めとって寝技に持ち込もうとするので足を胴体に回して放り投げる
フォースエッジで強化した手刀と雷土で限界を超えて強化した手刀がぶつかりあう
激しく互いをはじきあい、激しい音を鳴らしながら打ち合い、いなし、躱す 幾度かの鍔迫り合いをするが、どんどん相手の雷撃はその性能を落としていく 俺のフォースエッジはただの力場を生成するものではない 存在に干渉するザインクラフトの延長だ 相手の身体能力だけではない スキルや能力にも少しずつ少しずつ影響を与える 雷撃がこちらの処理能力を麻痺させるように、こちらはそれをいなしながら、こちらの割り込み処理で相手の能力を遅延させていく 相手に頭がある状態なら、今の俺のアバター性能では処理能力で勝てなかったかもしれない だが頭のない、それどころか自分の体を能力で無理矢理動かすことに処理能力をとられているのでは お話にならない 動きが鈍ったところを俺は見逃さなかった
腕をからめとり、返し手で相手の胴体に突き入れる 痺れて動きが鈍った相手の両足を両断する それでも立ち上がろうとする両腕も両断する 最後に二度と駆動できないように何度も心臓を突き刺し、停止するまで続けた
完全に動きを停止するジャクラ 頬についた血をぬぐい、その場を後にする
『...』
冬真はあまりの凄惨な殺し合いに言葉を告げられずにいた
これが、この世界の現状、 これからもこれと同じことが起こる 敵にも 味方にも
これからのことを想像し、陰鬱な気持ちになった
冬は敵を殺した その方法に落ち度はなかった だが、停止したという状況を死んだと判断したのは早計だった
ダエワは心臓をつぶされても即死はしない 頭を潰すことが重要 しかし頭を潰してもなお動いたということをもっと警戒するべきだった
ジャクラの憑神はまだ、姿を見せてはいなかったから
◇
母を抱えて走る少女
町中で人が襲われている 助けを呼ぶ人たちに後ろ髪をひかれながら、それでも母を守らなければ、その想いが私の足を前に進ませた
「みんなが 私たちの町が...」
ヒマワリは母を連れながら妹を探していた 町から早く出なければならないが妹を置いてはいけない 焦りが出始める
「どこ? どこなの ヒメ...」
妹を探して町を駆けずり回っていた 生きていて お願い!
そこで声を掛けられる
「な~にやってんすかぁ?」
そのいやな響きをする声色の方向を振り向く
「きみ、さっきましろちゃんとお話ししてた子っしょ?」
チリチリと雷の走る戦爪をカチカチ振る
ヒマワリは震える 母をつよく握りしめ後ずさりながらも、その瞳には強い意思が宿っていた
「気に入らない眼するな~」
イラついたようにこちらを睥睨する
ヒマワリは近くにあった棒を拾い上げ、構える
強い衝撃が腹に響き、吹き飛ぶ
「なめてんすかぁ? そんなもんで、勝てると思ってんすか~あぁ?」
「勝てるとか、勝てないとか、関係ないと思います」
「あ?」
「誰だって死にたくない 誰だって生きていたい だからあがくんです」
「かぁ~あ!! ムカつくな~ そうそう、そういうとこだよ おいらが嫌いなの!!」
こういうまっすぐな眼が嫌いだ まっすぐな言葉が嫌いだ 痛め付けたら卑屈にこちらを見ろよ 追い詰められたら恐怖で顔をゆがめて許しを請えよ!!
「おいらは弱い奴が好きなんす 君みたいな強いやつみてると、反吐がでるんすよ!!」
だからアニマは嫌いなんだ 生理的に受け付けない ボスが特殊なんすよねやっぱ
通常のダエワは本能的にアニマを嫌悪する 決して相いれない 生物としての根本の部分で互いの存在を拒絶する
あぁ~蕁麻疹デソッ うえっ
雷裂弾を構え、ヒマワリに向け撃つ
ヒマワリは母を突き飛ばして、逃がす ただし直撃したヒマワリはただでは済まなかった
「!!!」
「悲鳴くらいあげろよ しらけんだろ!」
観客を楽しませるおもてなしの心はないんかい?
イライラが募ったペイルは雷撃で伸びているヒマワリの胸倉をつかんで殴り飛ばす
何度も 何度も 何度も 何度も!
「泣けよ! 泣け! 泣け! 泣け! 泣けよ~お!!」
人に嫌がらせするのが生き甲斐だ 人に嫌がられるのが史上の喜びだ
ノルマはいい ノルマは最高だ あいつらはいじめるとこちらの望んだリアクションを返してくれる いたぶれば命乞いをし、人質を取れば、犬のように言うことを聞く
仲間を裏切ってでも自分の命を守ろうとするし、たとえそれが恋人や家族であろうと切り捨てる そのくせそんな自分の行為に絶望する なんて矛盾に満ちた存在なんだ あんなに面白いもの この世には存在しない
こいつら(アニマ)は面白くない 家族に恥じない生き方だとか、家族や恋人のために自分の命を平気で投げ出す 泣き言も言わなければ、言い訳もしない
仲間が傷つけられれば、種全体で戦い、犠牲が出ても止まることはない
人質を取っても助けられるなら助けるが、助けられない場合は人質そのものが自分の命を絶つので人質行為そのものに意味がない
ノウハウが通じない ノルマという異物がいなければダエワが勝利するなどありえなかったろうとペイルは考える そしてそれはほかのダエワも共通の認識だろう
だめだ こいつらはいじめてても気持ちよくなれない さっさと殺そう おもちゃはほかにたくさんいるんだ ただその前に
「まずは、そこの木偶(母親)のほうから、ぶっ壊すか」
ヒマワリは表情を変え、ペイルに突っ込んでくるが軽々と蹴り飛ばす
「そこで見てろ 自分の無力さを呪いながらな 弱い奴はただ強い奴に蹂躙されるためだけに生きてればいいんすよ」
「お、かあ、さん」
ヒマワリが悲痛な表情でペイルの足に抱き着いて止めようとするが
「さあ! 御開帳~!!!」
はらわた、ぶちまけろ!!
「お前がな」
衝撃が胸を貫く そこには一筋の白い刃が生えていた
「な! だ!」
誰だ! そうつぶやく前に拳が顔面に叩き込まれる
意識が追いつく前に馬乗りにされて、顔面を殴られる 殴られる 殴られれる 殴られる
一撃一撃が重く、痛い
痛くするのは好きだけど、痛くされるのは大嫌いだ
「なっ やめっ」
泣こうがわめこうがやめることはない 嫌な音が鳴り響き続け
「う、あ」
最後の最後、意識の途切れる寸前に 確かに聞こえた
「ダエワは皆殺しだ」
ぐちゃり!!! 赤い瞳の鬼が拳を振り下ろす
ヒマワリは薄れゆく意識の中でその人物を見る
「あ、あなたは...」
白い肌に白い髪 見覚えのある容貌に 手を伸ばして そこで意識が途切れる
◇
「しくったな」
憑神:《サウラヴァ》
土竜がモチーフだといわれるが、どうみてもモグラには見えない 眼がないところくらいだ 鋭い牙と爪を持つ四足歩行の怪獣、ナマズのようなひげが生えている
バリバリと蓄電をしながら、《地界侵食》で土壌を汚染し始める ずぶずぶと地面に建物も人も飲み込まれ始める
とどめを刺し損ねた
憑神のほうに意識を移行していたのだろう
「GYAAAAAAAAA!!」
何を叫んでるのかはよくわかる どうやら俺を探してるらしい
けれど、視界能力を捨ててしまった以上、俺は見つけられない 憑神サウラヴァは嗅覚情報や触覚情報の取得が得意だが、視界能力が低下している
こちらの存在の匂いはフィルター済 触覚も奴の侵食する大地に触れてなければ見つかることはない
「ナツとヒマワリ達を見つけて、この町を出る」
『冬! それは』
「...全員は、無理だ」
『そんな...』
だが、それ以上は言えなかった 冬は確かにジャクラを殺した だが憑神の起動を止めることなど冬でなくとも止められなかったろう
冬には切り札がある だがそれを切れば間違いなくロストする
その後もまだダエワは残っている 切り札をここで切っても状況の改善にはなりえない ここは引くしかない
ナツとヒマワリの存在を見つけた
よかった 合流できたらしい 馬のほうには嗅覚情報を拡張しておいた ヒマワリ達の匂いを刷り込み、そこに自然と向かうように誘導しておいてよかった
ここからでは詳しい状況が読めないが、死んではいないのだけはわかる
彼女達が地界侵食に飲まれる前に見つけて脱出しよう
◇
ヒマワリが目を覚ますと地響きが鳴っていた
あたりを見渡すと、ナツさんが私と母の横で気を失って倒れていた まだ本調子ではなかったのかもしれない 見知らぬ馬がこちらを心配そうに見ていていた
母とナツさんを馬に乗せ、いまだ荒れている町の中で妹を探す
地面の色が変色を始めている これは何だろう? 嫌な感じがする
「ヒマワリ!」
「冬さん! よかった 無事だったんですね」
「ここから逃げるぞ この町はもうだめだ」
敵は地界侵食を使いだした
汚染された大地では地の利は圧倒的にジャクラ優位になる
地面に立っているだけで定期的に電撃が飛んでくるし、こちらの攻撃は地面に潜られてしまえば通らない
「だめです! まだ妹が」
「...きびしいことを言うようだけど、この状況で人探しは無理だ 君と母君も死ぬつもりか?」
「かまいません! 私も母も あの子がいないなら 私たちも一緒にこの町と運命を共にします」
堅い意思を秘めた瞳だ 妹見つけるまでは何をいっても動きはしないだろう
ナツを背負いなおしながら、考える だがすぐに答えは出た 無理だ ナツがいないのなら付き合ってもよかったが、ナツを犠牲にしてこの子達の味方はできない
「わかってます 冬さんはナツさんを守ってあげてください 妹のことは私の問題ですから」
彼女は弱弱しくも、自分の気持ちをまっすぐ伝えてきた
『冬!』
(だめだ 彼女に付き合えば全員死ぬ)
彼女にも大切なものの優先順位があるように、俺にも当然ある
『そんな...』
切り札はある だがここでそれを使えば確実にロストする エネルギーが足りなすぎるのだ 俺は重い足取りを上げ、敗走に移ろうとしたがその時
「犠牲が、あればどうにかなりますか?」
誰の声かと思い振り向くと
「お母さん!」
ひまわりの母君が目を覚ましたようだ まだ本調子ではないようだがそれでもなんとか立ち上がる
「私が、犠牲になります 持っているのでしょう? 逆転の一手を」
「お母さん? なにを...」
ヒマワリと母君が見つめあう ヒマワリは戸惑ったような表情をしながらも何かを察したように下を見る その手はかすかにふるえていた
俺と彼女は初対面だ 俺の何を知っているわけではない だが
個体差はあるもののアニマは通常の人間よりも察する能力が高い 超能力とまではいかないが、こちらの表情や言動に乗った微妙な機微をキャッチする おそらく俺の声音に潜んだわずかな躊躇に秘された何かを感じ取ったのだろう
「死ぬよりも、ある種、ひどいことになる その覚悟がありますか?」
『冬!待って』
(黙ってろ)
「どうすればいいですか?」
彼女は迷わずにそう語った 覚悟のある強い瞳だ
「とある兵器を使うにはエネルギーが足りない そのエネルギーを用意するために大量の存在エネルギーが必要になる 工房があればそこまでエネルギーがなくても作れますが、即席で創るなら人一人分の存在エネルギーをまるまる使う必要がある」
存在エネルギーを失うということは、この世界に存在できなくなるということ
ひまわりからもその妹君からも母君のことを知覚できなくなる
「娘たちを、お願いしてもいいですか?」
「最善は、尽くします」
安請け合いはできない 俺にできることは、俺にできることまでだ
「それでかまいません」
「お母さん!」
「ごめんね もっと守ってあげたかったけど、ヒナちゃんのこと、お願いね お姉ちゃん」
ひまわりが母に抱き着く 母君はヒマワリの頭を優しくなでて娘から離れる
俺は手の平を上にして、こう聞く
「お名前を、お聞きしてもいいですか?」
「キク、と言います」
菊の花 花言葉は 高潔、というらしい つたない手慰み程度の知識だが
「覚えています」
気休めだろうが 俺はそういった
「世界がこうなって、着実と終わりが近づいている そう感じていました でも... あなたが現れた 私はあなたを知りません その目的も 思想も でもなぜかわかりませんが、あなたは私たちのためにこの地に来たのではないか そう思ったのです」
それはアニマの直観か あるいは... いやなんでもいい 俺のやることはかわらない
「あなたが自分の存在をかけて私たちを守るなら 私たちもまた あなたに差し出さなければなりません 戦争は 一人でやるものではありません 全員で背負うものです 奪うことの苦しみも 仲間を守る誇りも 私の命がここで皆の明日につながるなら 私の命は今日まででいい」
死を想うとは、命を常に捨てられる状態を指すのではないと俺は思う
何のために生きるのか それは翻って何のためなら死ねるのかを知ることにあると思う 彼女もヒマワリも 俺も自分の命の使い方は決めている そういう人間だと思う
「あなたを、誇りに想います キクさん」
ただ生きてるだけを 生きているとは言わない なぜ続けるのか なぜ築くのか
彼女達は俺たち以上に その重みを知っている 敬意を持ち 彼女の手を取る
「コードを実行する テーマ:《透ける世界》 刻紋:日輪起動」
ジャクラは訝しんでいた どうなってる?
地面を伝う振動から動いている人間の数をすべて把握できる 一度聞いたことのある足音ならだれなのかわかる その上、嗅覚も強化されている にも拘わらずマシロもどきを見つけられない まるで透明人間にでもなったかのようにあとを追えなくなった 先ほど見かけた子供の足音は聞こえるが雑魚に興味はない それにそこにはペイルが向かっている 自分が向かう必要はないと判断した あれの獲物を横取りするつもりはなかったからだ
そこまで思い当って、もしかして逃げた?
いやいやそれはないだろう あってほしくないという願望のほうが強かった
久方ぶりの強敵だ 逃げるなんて選択で失望させてほしくなかった
仕方ないが地界侵食で一帯を地に沈めるか 地界侵食で土が活気ずき、地面に建物も人も飲み込みだす 近くにいた人間を片っ端から捕まえて確認するが、どれも先ほどの男とは異なる さらに侵食を広げてみるかと考えていたところ
ジャクラは巨大なエネルギーの発生を上空に感じ、地の内に即座に逃げ込んだ
雷土 ジャクラ達ダエワの汚染は物性を変える 地面の中で通電する雷
地の中を泳ぐような速度で移動することも、敵を地面の中に沈めて身動きさせずに感電死させることもできる しかし一番の厄介なところは何よりその回避性能の高さだろう 地面に潜ってさえしまえばこちら側から手出しができないのだから 一方的な攻撃を地面からできてしまう かつては空中からの攻撃が主流だったが、地面の中から一方的に攻撃できてしまう今の状況を考えると相手側から見えないうえに遮蔽物が分厚く存在する地の利点も既存の戦術論を覆してしまうことだろう
清浄な水なら通電はしないし、雷土を浄化する機能も持つが 現在のように水を浄化してくれる護神像を破壊され、汚染された雨しか降らない環境下では彼を害するものは存在しない ほとんど無敵と言って差し支えない いままでは
深く 深く 深く 深く潜る なのに どうして!
体の芯から熱くなる 熱い!痛い!熱い!痛い!熱い!痛い! 体中を熱のナイフで切り刻まれているかのように熱くなっていく
なんだ? 何をされている! 地の底で上を見上げる そこに彼は憑神の力で著しく弱った視力で確かに見た 太陽?
「あぎゃ、ぎゃぎゃぎゃっ!! なんだよぉ こんなことまでできんのかよぉ もっと早く本気出してくれよなぁ~あ... 残念だ」
もっと本気の嫌がらせがしたかった
彼は後悔していた 戦時下こそ最高の極楽浄土 ずっと戦争が続いてほしかった 強い奴がひしめく状況で明日をも知れぬ日々 光晃 白純夏 そして、光善 彼らをおちょくるのはサイコーだった
だがどんなことにも終わりは来る 終わっても人生は続く 退屈な人生が
死ぬなら自分よりも強い奴に蹂躙されて終わりたかった もうその願いはかなわないと思ったが 最後の最後に ああ、悪くない
本音を吐露して全身を熱線で切り刻まれるように彼は地の底で焼け焦げ絶命した
冬の視界には世界が透けて見えた サイバー空間のように縦と横を線画で描画される世界 地面の中も人や建物も透けて見えている 世界が変化したのではない 冬の存在が世界の見方を変えたのだ 当然地面の中にいるジャクラも丸見えだった
日輪、その兵器は本来この世界のものではない されど現実のものでもない
これは緋色の軌跡と呼ばれる作品に出てくる兵器の名前だ 疑似太陽を打ち上げて敵を殲滅する凶悪な兵器で本来なら惑星間戦争で使われるもの
それに比べれば威力も範囲も持続時間もあまりにもお話にならないレベルで弱体化しているが、一つの側面においては本来の兵器を上回る
日輪の放たれる熱線のベクトルをすべて支配下に置いているため、通常日輪を起動すれば、周囲の被害も免れず自滅覚悟の攻撃になるが、すべての熱線をコントロールできる冬には熱線を当てたくないものには当てず、当てたいものにのみ、狙って当てられる いわゆる当たり判定がある 仮に盾を使おうと光を完全に遮断できる場所にでもいない限り、少しでも光の入り込める範囲があれば攻撃が直撃する
だが今回は敵が地面の中という完全に光を遮断することができる敵だ だからこその透ける世界 コードの力は冬の存在を一時的に改変する
透ける世界は物を透けて見える透視機能だけでなく、自己の刻紋武装全てに対して透過機能が付与される
日輪の届く範囲は地面の中であろうと逃げることはできない
最大範囲の視界拡張で町全土を監視し、潜み住むダエワを殲滅する 日輪の光が届く範囲のダエワは何が何だかわからずに体を熱線で切り刻まれて死滅する まるで人体発火のように跡形もなく燃え尽きる 当然周りの無関係な人、物には傷一つつけずに
冬の持つ透ける世界の効果により、日輪の性能は極悪なものに昇華された
広範囲+当たり判定+透過性能の三コンボ 冬の持つ戦略兵器4つの内、最高火力を持つ日輪を正面から防げるものはそうそういない 発動さえできてしまえばほとんどのダエワを瞬殺できるだろう 最も今のレベルでは10秒持つのがやっとで長期戦には向いていない 燃費が悪いのが最大の弱点だった
『冬!』
冬は日輪使用後、倒れ伏す
最後の力を振り絞り、存在エネルギーを使い果たしたキクさんの未器を回収して意識が途絶える
ヒマワリが駆け寄ってきて、何か叫んでいるが、もうその音の情報を処理するだけの力も残っていなかった
空に浮く最後の善意の周りをまわっていた四つの黒天の一つが砕けるのを見届けて意識が途切れた
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-------------------------
-------------
-------
-
「あ! 目を覚まされました!」
全身にわずかなけだるさが残るものの、少しずつ視界が良好になっていく
あわただしく外に人を呼びに行く少女が見える
体を何とか起こし、周りを観察する 旧時代にあった田舎の診療所のような部屋だ
立ち上がろうとするが、体制を崩してしまい、ベットにもたれかかる
「ちょっと!まだ本調子じゃないんだから 休んでないとだめでしょ!」
駆け付けた看護師にお叱りを受けて、ベットに戻される
『う、う~ん、あれ?ここは?』
冬真も意識が覚醒しだした
「診療所、のように感じるな」
『冬? ああ、そっか ぼくら倒れたんだよね...』
「よかった 冬さん 目をさましたんだ!」
ヒマワリがこちらによって来る
「ナツは?」
心配事の最優先事項だ
「ナツさんは昨日目を覚ましました」
「本当!?」
「ただ...いえ、あってあげてください」
返しに含みを感じたが、意識を取り戻したのならよかった 会うのはかなりリスクもあるが、あわないという選択肢もやはりなかった
「今、会えるかい?」
「いえ、今はちょっと町を離れてるんです 妹と一緒に水を汲みに少し離れた町に向かっています 止めたんですが、何かしたいというので ごめんなさい...」
「それは... いや 彼女の行動を俺が制限するわけにもいかないね ...妹さんのほうは平気?」
「はい 大丈夫ですよ 私以上にしっかりしてる子ですから」
冬は懐から未器を取り出す 彼女にはこれが何なのか、わからないだろう
彼女の母親の存在を彼女は認識できないから
「それでも家族が離れていると、心配じゃない? 数少ない家族だろう?」
「そうですね たった二人の家族ですから 心配じゃないといわれれば心配ですが さっきも言った通り、しっかりしたこですから 心配ばかりしてては何もできません」
たった二人、か。 その姿にも、その言葉にも 彼女への寂寥を感じさせない
『冬、あの、』
(ヒマワリは覚えてない 母親のことを)
未器を再度懐にしまい、話を変えた
「俺はどのくらい寝てた?」
「まる三日寝てたよ 全然起きないから心配してた」
三日! そんなに
「敵は?」
「あれから全然こなくなったよ 近場にいたダエワだけじゃなくて野良のアエーシュマも近寄らないみたい」
警戒によるステイを選んだか こちらとしては都合がいい
だが、こちらが動かなければ敵も何かしらの無理をしてあれを使ったと考えるかもしれない その場合 無駄に時間を与えるようなことはしないだろう こちらの回復をいたずらに待つ愚策は犯さない そろそろ偵察くらいは差し向けてくる可能性がある
今の状態で日輪を撃つリスクも分かった 簡単には切り札は切れない
「今から身支度を整える」
ぐずぐずしてれば、ダエワの軍勢を差し向けらる可能性がある
「それより食事をとったほうがいいよ 三日も何も食べてないんだから」
「そんな暇はない」
「冬さん、冬さんはこの町の希望だよ だから倒れられたら困るの わかってよ」
ヒマワリが辛そうにこちらの裾を引っ張る
「...わかった 少しだけいただこう」
「うん!」
そう言ってヒマワリは走っていき、食事を運んできた
正直言ってかなり質素な食事でおいしいものではなかった もっとも貧困エリアの人間だから贅沢ではない食事でも問題はないが、食料事情は早急に解決しなければならない
となると次に攻めるべきはサジャとウジャの持つ憑神:ザリチェとタルウィを破壊する この二機は植物汚染と水汚染を行う ザリチェとタルウィは黒天とは関係のない憑神なので、最後の善意解放には意味のない敵ともいえる
しかし汚れた水と人の食用品を毒化させるこれらは生活に大きくかかわってくる
こいつらは原作でまず真っ先に倒さないといけないが、トルゥーエンドが特大のバットエンドである以上、こいつらを倒すと真エンドには行けないという謎仕様をしている ナツの持つ白焔が使えれば楽に倒せるが、聖寵は失われている 仮に彼女の意識が戻っても楽に勝てる敵ではない 通常兵器では攻撃を通せない敵だ 対策が必要になる
本来憑神は一人に付き、一機だがこの憑神は特殊で二対一体の特性を持つ ザインの性質を考えるとこの二機の性質はかなり特殊な立ち位置だと言えるが、それは今はいい 問題はこいつをどう攻略するかだ
食事をしながらも頭を働かせる 日輪は使えない 消耗以前に相性があまりよくない 奴らは実体を持たない 植物を司るザリチェと水を司るタルウィ
もちろん通常の植物でもなければ水でもない 憑神の汚染を受けている以上、その性質は雷土と同じく通常の物性から外れている
今の手持ちでどうやって攻略するか思索にふけっていると
「...ゆさん、ふゆさん 冬さん!!!」
ヒマワリが隣にまで来てこちらに話しかけている
「悪い 考え事をしていたんだ 何かな?」
「もう!話は聞いていないし、箸もほとんど進んでないし しっかりしてください」
「悪いね どうにも今後の方針でこれといった方法が浮かばなくて」
「なら私たちにも相談してください」
「相談?」
誰かに相談する、という選択肢が自分の中にはなかったので、その提案は意外だった
「私たちはあなたのおかげで生き残ったんです 自分だけでなく、私たちの命も一緒にかけてください」
「わかりました 皆を集めてもらえますか? いまからの話をします」
◇
「忙しいところ、お集まりいただきありがとうございます」
まずは定型文であいさつを済ませる
「皆様にお集まりいただいた理由は今後の方針について、お話をしたいと思っているからです 憑神の一機を打倒することに成功はしましたが食料や水源の確保はいまだ絶望的です 皆様には二つ道があります 一つは海岸沿いに拠点を移す方法 私には海水を淡水化させる技術があります なので水源に関しては現段階でも解決は可能です ですがその場合食用の準備ができないうえ、戦線を後退させてしまうデメリットがあります 私としてはお勧めできません もう一つは聖都に攻め込むことです」
この話をすると、民衆から動揺が波及する
「聖都には最後の善意の恩恵があります 食用の農作土壌が残存している可能性があり、水源もギリギリ汚染を免れている状態です ですがお知りの通り、現在ダエワに囲まれており、危険が伴います なので選択は皆様に委ねます 私についてくるもの、ここに残るもの その選択を私は強制いたしません 私は最終的には全ての憑神を破壊し、最後の善意を解放するつもりだからです」
そう宣言すると
「で、できるわけがない! 俺たちは 負けたんだぞ! あんた一人でどうやってあいつらに勝つっていうんだ!」
ノルマの青年が声を上げると、ほかのものも諸手を上げてそれを揶揄し始める
「先ほどもいったはずです これはカケだと 強制はいたしません 残るも共に進むもあなたがたが決めてください」
「ふざけんな! そんなの無責任だろうが!」
「ちょっと無責任ってなんですか?冬さんは自分にできることをやるといってるんです もともと冬さんに責任なんてありません 戦ってくれて 命を懸けてくれて なのに責任までおおいかぶせるんですか? そっちのほうがずっと無責任だと思います!!」
「なんだと!このクソガキが もとはといえばお前らアニマが負けたから こんなことになってんだろうが!」
男がヒートアップしてヒマワリに殴りかかろうとしたので冬が台上から降りて男を殴り飛ばす
「な、なにしやがる!」
「勘違いをまず正そう アニマが負けたのはノルマが裏切ったからだ」
「うっ!」
「最後の戦いの前に味方の情報を敵に売り渡した奴がいる 味方の配置も戦力の分布も、兵糧の位置も いつどこに仕掛けるのかも そのせいで負けたのだ 誰のせいといえばそいつのせいだし、種族全体の話をするなら、ノルマのせいってことになる」
より正確にいうと、その裏切り者はマシロっていう今の俺とよく似た顔をしたクソ野郎ですが
「そ、それは、横暴だろうが」
「種族をやり玉に挙げたのはお前だ唐変木」
「唐変木!?」
「自分では何もしない奴は口も開くな ただ事態がどう転ぶのかを道の隅でおとなしく待っていればいい 自分に何か選べる選択があるのなら、ただ自分の選択を黙って突き進めばいい 代替案があるのなら、それを進言すればいい そのどちらもしたくないならその場に立ち尽くして何もするな 人の足を引く それさえしなければ俺もこのような暴力には及ばない 無価値な人間は無価値であり続けろ 風景と同じようにな」
「なっなっな て、めぇ 言わせておけば じゃあてめぇには何ができんだよ」
「貴様はつくづく頭が足りないな 何ができるかは結果が語ることだ ダエワを倒す証拠も この世界を救う証拠も 結果論でしかない そんなものを証明するなど神でもなければできるわけがない 無意味な問いだ 人はできようができなかろうが、現状に満足していないのなら 何かをやるしかないのだ 保証がなければ何もやらなくていいとでも思っているのか? 何もしない奴に権利はない 結果を出してはじめて権利が生まれるのだ 俺もあんたも まだ何も為してはいない だからその何かを今問うている お前は、何をするのだと 俺はやることを決めている それに同意するものはついてこい、そう言っているだけだ」
「それで失敗したらどうすんだよ! 死ぬんだぞ」
「いまここでなにもせずとも死ぬだろ 水は枯れ、食料もじき尽きる」
「!? それは、その、でも、前例がない!!」
いうに事欠いて、前例とはな
「はぁ 前例がない? 馬鹿か貴様は ここは最前線だ 前例は、作る側なんだよ 誰かが道を切り開くのを待ってる余裕などない 自分で動いて自分で切り開くのだ 口を開けてれば誰かが餌を運んできてくれるとでも思ってるのか?」
どんなことにだって初めてそれを行うものはいる 誰かの用意した道しか歩けないような奴が口を挟むなと言っている こいつが言っているのは意見や提案ではなく、愚痴でしかない 益のないことだ
「う、く、こ、の、!!」
うまい言葉が見つからず、男は顔を赤くした後、下を向いてその場を後にした
「私は! 冬さんについていきます! 私は冬さんに命を助けられました 一度は死んでいたかもしれない命です だから最後にかけるのなら、冬さんにかけたい!!」
ヒマワリはこちらにつくと小さな手を誰よりも強く上げて、宣誓した
キクさん あなたの娘さんは本当に立派な子だと思います 俺は未器を握る 少しだけ輝いたようにも見えた きっと気のせいだけど、そうであってほしいと思った
最終的に聖都行きに集まったのはほとんどがアニマだった というよりアニマは全員ついてくると言ってくれた
アニマ達も武器を用意し、戦線に参加してくれる 雑魚のダエワだけなら通常の武装でも倒すことは可能だ
憑神を使える奴は俺が相手をする 目標はサジャとウジャの撃破
だが、こちらの意気とは別に事態は全く予想していなかったほうにことは進んでいった




