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ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第3章

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歩調の不和


「お話になりませんね」

いつもの上品な笑顔の中に、腹黒さが混じってそうな顔でそう告げるヒカル。


「それは、あなたが聞く耳を持たない、の間違いでしょう?」


ヒカルの否定に、ナツさんは難色を示す。


「……ずいぶんと、彼の肩を、お持ちになられるのですね?」


非難がましく、目を眇める。

「……ヒカル、あなたの言い分を聞けば、誰でもそうなるわ」

「わたしくの何が、おかしいのです?」


「ノルマ全員追い出そうなんて言われて、『はい、そうですか』なんて言えるわけがないじゃない!」 


「確かに彼らには、問題行動を起こす者もいるわ」 

「でも、それ以上に真面目に頑張ってくれてる人もいるの!」


ナツさんはヒカルに猛烈な抗議をする。


「犯罪を犯したのですよ。それも、かなりの集団規模で」


「脅すつもりは欠片もないんだけど、単なる事実として、アニマ以外を追い出すってなったら俺も出ていかないといけない。俺だけ特別扱いもできないだろう?」 


「その時になったら抵抗はしないけど、もう少し待ってくんない? せめてナースを潰すまではさ」


(この町には憑神以外にも厄介なのが紛れ込んでいる。彼女だけで対応するのは無理だろう)


「アニマを犠牲にしろとは言わないよ」


「いざというときは、切り捨ててもらっても構わない。俺もノルマとアニマ、どちらを残すのかと聞かれればアニマを残すと答える」


「俺も含めて、そこは配慮しなくてもいい」

気持ち的には、俺はヒカル寄りだ。


テロ行為まで起こした以上、いい機会だという気持ちも分からないではない。


一部の者達の咎で、種全体を裁くというのを彼らは望まない。


実際、ノルマのなかには今も尽力してくれてるやつはいる。悪いやつもいるが、いいやつもいる。


これが厄介だ。

真面目に頑張ってたやつが馬鹿をみるのは、俺もごめんだ。


いい奴なのに、種族がノルマだからといって切るのは中身を軽視しすぎる。


「冬を追い出すことは、アニマ全体の総意としてもあり得えないわ。彼がいたから、この町はここまで踏みこらえられた」 


「ヒカル、あなたの貢献を蔑ろにするつもりはないけれど、地上でも、たくさんの苦労があったの」 


「それは、わかってほしいわ」


「段階は踏みたいって言ってるだけなんだ」

俺は続けて告げる。


ノルマとなぁなぁな関係を進めてたら、どこまでいってもこの手の問題は出てくる。


どこかで線は引かないといけない。

だが、今いきなりそれをやるのは悪感情を募らせすぎる。


「そんなことを言ってる場合ですか? 充分すぎるほどの被害が出ています。尽力された冬だけ残せば、それ以外はお荷物でしょう? ここが切り時なのでは?」


堂々巡りだ。

俺としても、そっちのほうが楽ではある。


だが、楽したいために俺はアニマと一緒にいるのではない。


寄りかかるための寄生先にしてはいけないのだ。


俺はアニマではない。


アニマと共にあるためには、そのための努力をしないといけない。


出ていけと言われれば従うが、今このタイミングでは無理だ。

残る憑神はナースのみ。


たった一機で、ヒカルのいる聖都をどうこうできるとも思えないが、能力的な相性がいいとも言えない。

ナツさんに執着するやつを放っておくつもりもない。そこは譲れない。


ヒジリさんの死体から、存在情報の痕跡も見つかった。


ヒジリさんをやったのはヒデオだ。必ず見つける。

生存能力と隠遁能力で言えばピカイチの憑神だ。俺のほうが相性はいいだろう。


せめてナースを潰すまでは待ってもらいたいね。

ヒカルも何も、ノルマ憎しで言ってないのは分かってる。彼女は守護者としての立場で今回の件を語っているのだ。


「なら、せめて監査所の取締役はより厳しく行います。いいですね?」

ヒカルの本題はおそらくこれだろう。


全員を追い出すのはできないことは彼女もわかっている。


だから、入れる人間に対して制限をより厳しくする立案。

これが現状のベストだ。


監視が厳しくなると、誤通報や気に入らない奴を追い出しようという奴が出てくる。


つまり、面倒事が増えることになる。減った人員では手が回らない。

必然、入れる人間はさらに減らさないといけなくなる。


ただし、最後の善意が解放された今、この世界全土へ浄化の光は届いてる。


この聖都でないといけない理由は大幅に減った。

ダエワももう、ほぼ全滅状態だ。アカ・マナフが潰れた以上、敵味方識別撹乱能力もない。


ダエワに逆転の手段はもう存在しない現状を考えれば、監査を厳しくすることに関しては俺も反対はしない。


実際問題、もう人を大量に入れられる状態でもない。

「……わかりました。監査人員を厳選し、再編を図ります」


「監査所の監督は、わたくしが行います」


「それは……いえ、わかったわ」

渋々ではあるものの、ナツさんもそれを受け入れる。

言いだした人間が率先してやる以上、手抜かりはなくなるだろう。


ヒカルの基準に該当する人間がどれほど出るかは、正直見てみないとわからないが……。

一抹の不安がある、そんな顔をしている。


話が終わり、立ち上がろうとした時に目眩がしてよろけた。


少し無理が出てきてるのか?

この程度の労働で疲労を感じるとは。


「ちょっと! 大丈夫?」


「俺も歳かな」


「もう! ふざけないで! ホントに心配してるの」

ナツさんが駆け寄り、こちらを支えようとする。


大袈裟だな、流石にそこまでではない。そう言おうとすると、


「あにさまがいなくなったら、今度はすぐ別の男ですか……」 


こちらを心配するナツを見て、ヒカルは侮蔑をこぼす。


ッ!!


ナツが苦悶の表情を浮かべる。


おいおい……。


ヒカルの悪いところが出た。彼女は極度のブラコンだ。


ゼンの顛末を許してはいないことが伝わってくる。

ゼンのことが関わってくると、理屈よりも感情が前に出る。


「口が過ぎるな」

ゲスの勘ぐりというやつだ。


「私とナツの問題に口を挟まないでくださいまし」

これは女同士の問題。


「なら、俺を引き合いにして喧嘩の理由たねにしないでくれる?」


……。

ヒカルがこちらを笑顔で睨むが、俺は無視して続ける。


「俺は別に、横恋慕しようってわけじゃない。君等アニマの生態きしつは分かっているつもりだ。できるとも思っちゃいない。俺が単に手助けがしたいだけだ」


彼女のおかげで人生の指針ができた。だからこその今だ。


充分すぎるものをもらったよ。それで満足してる。

あとはもらったものを返す、それだけ。


そもそも他人の身体で恋愛とかありえないしね。この体も、いずれは返すものだ。


「……あなた。いいえ、いいです。今回はここまで。でも、落とし前は必ずつけますので。あにさまを守れなかったらどうなるか、私言いましたよね?」


ヒカルは目を眇めて、なぜか呆れたように俺を見たあと、ナツさんへと向き直り、そう言い放つ。


「……ええ」

二人の間にバチバチの空気が流れる。非常に険悪だ。


「はぁ」


身内同士で喧嘩しないでほしい。

別に、問題がすべて解決したわけじゃないのに。


「話はここまでです。いざというときは、わたくしの名をお呼びくださいませ。光の速度で駆けつけますので」


文字通りね。

頼もしいんだけど、危なっかしいんだよね、彼女。

そこで話し合いはお開きになった。


「ヒカルは最終的に、ノルマを全員追い出すつもりだと思う」


「だろうね」


「『だろうね』って……それでいいの?」


「アニマとノルマはいずれ引き離すつもりだったのは、俺も同じだよ」


「アニマとノルマを同じ環境下で生活させたら、軋轢が生まれる。それはわかってた」 


「今は緊急時だから庇護してるのであって、事態が落ち着けば住む場所は分けるよ」


「……わかってるの? それはつまり、あなたも」


「仕方ないよ、俺は結果を出せなかった」 


「ノルマの反乱は収まりこそしたが、事前に防ぐことはできなかった」 


「俺の力不足だ。能力のないものが、結果だけ享受するわけにはいかない」


「私達を、放り捨てるの?」


「まさか。この町の抱えてる問題を片付けてからですよ。まずは、この円柱世界のセクター間の壁を復活させます」


「できるの? 仮にできたとしても、それじゃ、あなたは何も……」


「別に死ぬわけじゃない。会えなくなるわけでもない。それに、以前ほど完全に分断するつもりもないよ」 


「区画は三つに分ける。アニマの区画とノルマの区画、そしてその中間、両陣営が住まう場所を分ける」 

「軋轢による分断にはならないように、ある程度バッファは持たせるつもりですから」


いきなりの断絶は無用な不信感を生む。だからまずは緩衝地帯を作る。


気質が違うもの同士、文化も変わる。


そして少しずつ分けていく。いや、別れていくだろう。


合わないものは、合わない。だから適切な距離をとる。そういうふうになっていくだろうと考える。


「……そんなにうまくいくとは思えないわ。距離が空けば不理解は進む。物理的な距離は心の距離と同義になりうる。そして不理解は、いずれ他者への攻撃のハードルを下げることになる。私は、賛成できない」


「あなたはそれで良いです。さっきも言いましたが、中間を設けるのは、そういう互いを理解し合おうとする人達のためのものです。その層が増えればそれでいい。俺は急な分断も急な統合も望まない。あくまで、時間をかけられる環境を作っておきたい」


「私はあなたについていく」


冬はナツを振り返る。


「ついていくから」 


「今度は、ちゃんと力になってみせるわ」

ナツさんは強い瞳でこちらを見据えていた。


冬は少しだけ微笑んで、


「……ありがとうございます」


「冬真君は、どうするの?」

冬は表情を歪める。


「……あいつは、しばらくほっておく」


「そう……」

ナツは「そう」とだけ言った。


お互いにうまく歩調を合わせられない時期がある。無理に間を取り持とうとするのは悪手になるから。


でも、長引くようなら……。ナツはその心配をしていた。



走る、探す、走る、探す。

真冬を、見つけないと! しかし彼女は見つからない。嘘だと言ってくれ……。


走り回っている時に、女性とぶつかる。

小さな悲鳴が響き、


「ご、ごめんなさい!」

自分のことばかりで周りが見えていない。自分の不甲斐なさにつくづく嫌になる。


「女の子を押し倒しておいて、『ゴメンなさい』で済ませるつもり?」


強気な彼女はそう言って、ボクを刺すように見返す。

言い方に思うところはあったけど、そのとおりだったので手を差し出す。


「すまない、平気かい?」

彼女は冬真の手をつかむと、おもむろに引っ張った。


「な!」


倒れこそしなかったが、彼女の顔が近づく。こちらを覗き込むようにして見てる。なに? なになに? なんなの?


「あなた、きれいな顔してるのね」


「え?」

なにこれ? モテ期? もしかして口説かれてる?

別にボクの顔ではないけれど、妙にソワソワしてしまった。


「でも締まりのない顔。モテないでしょ、あなた」

傷ついた……。

本日二度目の不意打ち。同じところを二度刺された。

致命傷になるほどのかすり傷を負わされた。もう立ち上がれないかもしれない。


え? ボクってそんなに表情筋弱いの? 


「男の子だから傷つけてもいい文化は、そろそろ廃れたほうがいいと思う」


クスクス笑う彼女。


「でも、あたしは好きよ。そういうやつ」


絶対に「好き」の意味が違うし……!


「わたしそれ好き!」と「嫌いではないわ……」的なニュアンスの違いってやつだ。

彼女のいでたちをみやる。


褐色の肌に、黒に金の混じった髪は黒金特有の髪色。春を彷彿とさせるが、彼女もまた、補完体というやつだろうか?


この町の人々とは感じ方が違う。


「アハハ、そうかもね。ねぇ、この町を案内してよ」


「案内?」


「私、この町に来たばかりなの」


「……あのさ、この町の状況わかってる? 観光気分でいられると困るんだけど……」


外から入ってきた子かな? 

ずいぶんと危機意識が低いんじゃないか?


冬真自身もこの町での生活が長くなってきており、そういうのには敏感になり始めていた。


「そう? こんなもんでしょ、世界中どこだろうと」

そう言われると、そうかもしれないと思った。


この世界で安全な場所なんてほとんどない。外に比べれば比較的ここはマシ、なのかもしれない。


至言にも感じて、自分の浅はかさを恥じた。彼女もまた苦労してるのだろう。


「ごめん、変なこと言っちゃって。でも悪いけど、人を探してるんだ。君の案内にはつきあえないよ。悪いね」


「ふ〜ん。なら、私がそれ、手伝ってあげる!」


「え? い、いや、それは悪いよ」


「じゃあまずは……あそこから向かいましょ!」


そう言って彼女はボクの肩を抱き、強引に引っ張っていく。


「ちょ、ちょっと! 君!」


「真夏」

ナツさんと似たような名前……でも、受ける印象はだいぶ違った。


「あなた、名前は?」


「……冬真」

初対面の女の子に本名を言うのは少し気が引けたけど、素直に名乗った。


「ふ〜ん。冬真、ね」

彼女の瞳が強くこちらを見据える。男の視線を釘付けにして、強烈に惹きつける。


ナツさんとは真逆の性格。ナツさんはどこか儚げで、触れると壊れてしまいそうな雰囲気のある人だが、彼女は強引に自分のペースへ引き込む、そんな力があった。


ボクは引きずられるように、彼女に連れ回された。

本当ならば、振り払うべきなのかもしれない。

けれど、


真冬を探さないと、その想いと共に。


帰りたくない、素直に謝りたくない。


その想いが、彼女から離れる契機を奪っていった。


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