冬の過去①
冬は過去のことを思い出していた。
麗と出会ったのは、外区に物見遊山で出ていた2人の姉弟が拉致されて売り裁かれようとしてたときだ。
よりにもよって俺のアジトで売買を行おうとした不届者を叩き潰した結果、麗とその弟は助かった。
不届者は新参者で、内地から来た者だ。
この手の輩は最近増えている。
都市にバレずに儲けのいいビジネスをするには、外区とは都合のいい環境だったからだ。
その後、都市の内側の奴に麗達を届けて帰ろうとした時に、俺は白銀白夜と出会った。
「そういうわけで、これから君は『真白』だ。学徒の資格を取ってくるといい。飾り程度のものだが、ないよりはマシだろう」
ドクは俺にそういった。
ドクは俺が命からがら教団から脱走できたときに拾い、怪我を治してくれた恩人だ。
最もドクは善人でも悪人でもない。
自分の研究にしか興味のない人間で、俺の特殊な体質に目をつけて取引を持ちかけた。
それ以来、彼の研究の手伝いのための遺跡調査と遺物回収、そしてその解析の手伝いをしていた。
そんなドクからこんな提案がされるとは思っていなかった。
「なにが“そういうわけで”だよ。頼んでもないことを勝手に進めないでくれる?」
ドクは相変わらずだ。自分の中で話が進んで、自分の中で結論を出す。自己完結型の人だ。
学徒の資格など、市民権のない自分には無用の長物だ。嫌な思いをしてまで取りにいくものではない。
「そんなことはない。お主がもし学徒の資格を取り、実力を示せば、安全も買える、家も買える、地位も買える、何でも手にはいる。どうじゃ?」
白銀白夜もまた、俺の体質に目をつけた。
光り輝くような虹色の瞳に。
ドクと白夜には何かしらのつながりがあるらしいことだけは二人のやり取りでわかったが、追及はしなかった。お互いに深く干渉しない約束だ。
「うさんくさ」
信用できない。
「一応いっておくが彼は都市の統主で、私の弟だ。身元ははっきりしているよ」
ドクって、白銀一族の関係者だったんだ…それなのに外区で暮らしてる。マジもんの変人だったんだな。
「君には、才能がある」
白夜は俺にそう告げた。
「才能、なんて軽々しく言ってほしくないね。これは、そんなにいいものじゃない」
「だが君の力だ。生きるために必要なものは使わないとな。そして使うならふさわしい場所で、その力を、技術を、磨かねばならぬ。そうじゃろう?」
「都市の中にいるよりもドクの研究に付き合ったほうが実りは多いように思うけど?」
「そんなことはない。命を毎日かけるような人生は運が絡みすぎる。それを当たり前にしてはいけない」
至極真っ当で、そして現実味のない話だ。この惑星のどこに安全な場所があるというのだろうか?
「学徒の資格があれば、他所の都市にも行ける。白銀は生きづらいだろう? 君の人生の選択肢を増やせる機会だ。言ってみたらどうだ?」
ドクは意外な事を言った。
「あんた、自分の研究にしか興味ないと思ってたよ」
「そうだ。私は自分が知りたいことを知りたい。それだけの人間だ。そして、君がほかのものと関わることでまた別の何かが生まれれば、それが私の知識欲を刺激するかもしれない。私とだけいても私から生まれるもの以上のものは生まれない」
人非人のドクはそう言うが、どこかに仄かな情のようなものが感じられた。
だから、
「わかりました。ただし、いつまで持つかは保証できませんよ」
都市内部の人間とそりが合うとは思えなかった。
ドクに義理立てして、一応話を受け入れた。
「それでよい。わしも単なる興味本位の試みじゃ。
うまくいかなければそれまで、老いぼれの最後のお遊びのようなものじゃ」
そして、俺の都市での生活が始まった。
麗は俺が棄民だということを知ってるため、白夜との約束でお目付け役として、俺の近くに配属された。
学生生活とは至難の連続だった。




