表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第2章 【最後の善意解放作戦】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/47

最悪の一日


「ぶふっ」

冬は血を吐き出す ほぼナツの攻撃を生身で受けているためだ

反撃は一切していなかった



振り下ろされる刃を受け止める

アニマ特有の白撃を伴わない純粋な膂力でもかなりの威力を誇る ミシミシと音を立てそうだ


冬は吹き飛ばされ、壁に打ち付けられる


「はぁ はぁ はぁ」


ナツは目が血走り、鬼のような形相で冬をみている



「俺が、憎いだろ? いいぜ、こいよ 全部、受け止めてやる!!」


君の痛みも、苦しみも、後悔も!


ああ、俺はここで死ぬかもしれないな そんなことが一瞬よぎった だが、死ぬにしても 彼女だけは、解放する!


時間がかかったが、多分 いける



「こい… ナツ!」


「あ、あ、あああああああああ!!!!」


ナツが冬に突進してくる 刀を突き刺すように構えて


ほんの少しのミスで俺は死ぬ


「マ、シ、ロ〜!!!! し、ねぇえええ!!!!!」



白い刀が冬を貫いた! その時



バチンッと大きな音を立てて、アカ・マナフは爆ぜる


「解析、完了」


冬はアカ・マナフの持つ乱数アルゴリズムを解析していた 敵味方識別撹乱能力の核になるアルゴリズムを

先ほどアカ・マナフに撃ち込んだ弾丸は単純な威力を伴うものじゃない 観測弾と呼ばれるもので、対象の存在情報を解析補助するためのもの 撃ち込めば撃ち込むほどに相手の存在を解析しやすくなる 


憑神の持つ対アニマ用の属性『混沌』

こいつはアカ・マナフとめちゃくちゃ相性がいい

混沌の特性は、成功確率を乱数にすること 

制御を手放すことで得る敵味方識別撹乱能力の悪質さは跳ね上がった

単なる確率制御なら、こちらもハックしやすかったが、乱数にされたことで運が絡んでくる 存在学においても運の値は非常に難しい分野になる

だから俺はあえて運の値を放棄した


戒律:神様はサイコロを振らない

自身の運を全くの0にすることで、運に左右される状態からの脱却を目指した


加えて俺の切り札のうちの一つ

兆知輪神風ちょうちりんかみかぜ 

風鈴のような刻紋 運の流れを音として捉えて知覚する 知覚拡張ツール

自分の外に運気の流れを知覚することで間接的に乱数のアルゴリズムを捉えた


兆知輪神風を起動したことで、外界の運の流れが風鈴のように耳をくすぐった

乱数の軌道が音になって耳に響く――今なら、あの確率防壁の隙も知覚できる


時間はかかったが、ぎりぎりのところでうまくいった ほんの一瞬の間にアカ・マナフの式に介入し、敵味方識別撹乱能力をハックした 俺への攻撃をアカ・マナフへの攻撃へと転化させる 俺の武装では無理でも、ナツの持つ白刀なら、アカ・マナフの防壁を突破できると踏んだ カケだったが、俺のギリギリ、勝ちだ


「ふ、ゆ?」


ナツさんの意識も元に戻った


「私、がやったの? これ…」



「気にしなくて、いい…」


「いや、だって!」


「それよりも、ヒマワリやナギたち、は?」


「は! そう、そう! あの子たちを、助けなくちゃ! でも…!」


俺をみて、踏ん切りがつかないのだろう 


「いっ、てくれ! おれもすぐにいく! たのむ 守ってやってくれ!」


「…うん!」


そう言ってナツは走っていく



「俺も、今、やれることをやらなくちゃな!」


そう言って、冬は体を引きずりながら走り出す




頭上に輝く最後の善意 

その光が増大する アカ・マナフとナース 二機の憑神がいたからこそギリギリ保っていた均衡が崩れた 一機ではこの世界全土を覆い尽くす力を持つ最後の善意を御しきれない ナースはそれを悟り、黒天を解放、逃走する 

そしてそれはつまり 光 晃の解放を意味する

最後の善意がこの世界全土を覆う


地上へと降り注ぐ光の柱 


今、最強のアニマが、地上へと帰還した!


艶のある長い黒髪 キリっとした美しい顔立ち 

そして、ダエワ達にとっての、恐怖の象徴



「こ、殺せ!」


ダエワ達は錯綜する 晃を前にして一番やってはいけないことをした 攻撃を先に仕掛ける それは晃に反撃を許可するということ


開戦は開かれた


「戦闘行動の確認 戦闘解禁 殲滅を開始する」


そこからは一方的だった

吹き荒れる光の柱と光の球を纏い、目にも留まらぬ速さで駆け抜け、町のダエワを一掃した かかった時間は1秒にも満たなかっただろう




ナツは走る 

町中を探す そして…


路地裏へと向かうナツ そこには


「ヒマワリ、ちゃ…」


口元を押さえるナツ 誰がやったのかは明白だった

ナツに再び 怒りの炎が宿る 


殺してやる オサナイ!


ナツはその場をあとにする 彼女の、遺体を、惜しむように見ながらも あいつだけは、私が、絶対に、逃さない!




「触らないで!」

ヒメは強く男達の手を拒絶した

すると、鋭い痛みが頬を弾いた 壁にぶつかって倒れるヒメ


「は?もしかして、おれにいったの?」


「ッ!!」


再度殴られる


「お前さぁ、俺のこと、なめてる?なめてんだろ?」


今度は腹を蹴られる



「ミドウさん、それ以上やったら死んじゃいますよ?」


「は?」


仲間があまりにも過剰な行動に引き気味になった


「お前、今の、俺にいった?」


「え?」


男は耳を引きちぎられ、絶叫する


「俺に説教してんじゃねぇよ うぜ」


「お前、生意気な目してんな ムカつくんだよ 俺はそういう奴が ああ!」


そう言ってヒメを蹴りまくる


「はぁ、なんか、もう、ここでいいや 殺るか…」


ヒメがもうだめだと思ったその時に



「ああ、ここで殺ろう」


耳元で冬の声がした

振り返る暇はなかった 後ろに控えていた男たちは手足をへし折られ、沈黙

冬が男の足を蹴り穿ちへし折る その後は口に手を突っ込まれ、歯を引っこ抜かれる

アカ・マナフか消えたことで、識別信号が回復した

そのおかげで刻紋のサインを見つけ、追いついた

悪鬼の形相の冬を見て、男達から汚い悲鳴が上がる


「お前らの処刑は後回しだ ヒナ 怪我を見せてみろ」


「わ、私は、いいから… お姉ちゃんを…別の男の人に、つれてかれたの! オサナイとか、呼ばれてた!」


「オサナイだと!」


オサナイってのはナツの復讐相手の一人で、ロリコン教師だ クソッ! まずい!


ヒメを担ぎ上げ、治療しながら移動を開始する 

ナギはなぜか忽然と消えたという

ヒメは冬真に任せ、また冬はヒマワリを探す

男達は拘束し、放置 あとで始末をつける



「ヒマワリ!」


彼女を探し、町を駆けずり回る 解放軍の連中も削りながら俺は路地裏へとたどり着いた


「冬、見ないほうがいい」

アニマの男が路地裏にいる彼女を見つけ、俺にそう伝えた


「どけ」


「冬…でも」


「どけ!」


俺は男を押しのけて路地裏へとはいる そこには…



拳を握り込む 下唇を噛みちぎるほど噛んで、

ヒメ、キクさん…… 

合わせる顔が、ねぇよ

第四永久機関の研究で、未器スカラブの復元もあと少しかもしれない そこまで来てた なのに…



「ナツ、さんは…?」


「彼女も、またこの状況を確認して、それで」


オサナイを追いかけていったか…


俺は走りだした




「はぁ、はぁ、クソ クソ クゾォ゙!」


クロイは地面に這いつくばりながら、苦渋の言葉を吐く



「お前は結局頑張ってもその程度なんだよ そういう運命なんだ だから ここで、意味もなく、死ぬんだよ」


そう言って春はロハネの大鎌を構える




「うるさい! 黙ってろ! まだ、まだ、ボクはやれる! お前は引っ込んでろ こいつは、ぼくが!」


そのクロイの言葉は誰に向けたものなのか、自分の内側に喋っているようにも聞こえる


「ああ、これで叶う 私の目的が これで」

春はそんなことも気にせずに続ける

目的達成寸前 そんなときだからこそ 緊張を緩めるべきではなかったのに


ロハネの遺物はこういう時にこそ、ほくそ笑むのだから


「なんだ?」


ロハネの大鎌の狂声が響き渡った


「やめろ… やめろ!」


春は自分が一番守りたかったものを、生きたまま、切り刻むことになった


「なに、やってんだ…あんた」

クロイは、理解不能な状況に そうこぼした


春は壁一面に血文字を刻む

ロハネの食膳にかんしゃを焚べろ


春の絶叫が響き渡った




「ナツさん…」


冬がナツを見つけた時には、もう、すべてが終わっていた 目の前には男の死体があった


「冬 私は」

虚ろな瞳の彼女を冬は抱きしめる 泣き崩れる彼女をずっと抱きしめた


オサナイ…お前は、お前だけは、死に逃げは許さねぇ


冬のどす黒い怒りが幾度となく爆ぜるように、腹の底を駆け巡っていた





「我々は、家畜ではない! 人間だ! 権利がある! 貴様のそれは差別だ!」


目の前で膝をつくノルマの解放軍リーダーはそういった


「え?ごめん 聞いてなかったよ もう一度お願い」


爪いじってて聞いてなかった 俺、爪ないけど……




「きっ、さ、ま〜!!」

憤怒が噴き出し、歯をむいて猛る女


「はいはい 人間、人間ね…… みりゃわかるよ そんなん だから?」


ヒクリと女の子顔が歪む


言いたいことはわかる 

だがあいにくとこの戦いは思想の舞台じゃない

生存の現場だ



「 な、にが、いいたい…?」


本気でわかってないわけではない 認めたくないのだ


「君はこの状況で人であることが、そこまで重要性の高いものだと思ってるの? 人ってそこまで尊いもの?  ありえないでしょ こんなことしてるんだから」


「君等をみて家畜に思ったことなんてないし、見えるわけもない 不当に厳しい扱いもしていないはずだよ この町にノルマが住めていることを考えればわかりそうなものだけど アニマだけをえこひいきしてるなら君らがこの町にはいれるわけないじゃない 君等の理屈は最初から破綻してる」


「人間ってことに誇りがあるってんならくだらん言い訳を並べ立てるのではなく、もっと死に物狂いでかかってきなよ」



「この! ああいえば、こういう!」


君等の言い分がふわふわしすぎなの



「この街の死亡理由の一番は何かわかる?」


「知らぬ! この町には死体などゴロゴロしてる! 死に方の、種類なぞ調べたところで…」


「過労死だよ」

冬は途中で遮るように告げる


押し黙る女


「それも圧倒的にアニマが多い 頑張りすぎて、死んじゃうんだよね、彼ら」

冬は淡々と彼女に告げた そこに熱はない ただただ疲れたように、やるせなさが伝わってくる


ノルマの過労死はアニマよりも遥かに少ない 10分の1もない 


「…だからなんだ? 我々に死ぬまで働いてみせろとでも言うつもりか?」


「いんや? ただ俺はより頑張った者に報酬は支払われるべきだと考えてるだけ」


「もう、いい… 結局のところ、貴様はアニマを優遇したいのだろう! その言い訳をしてるようにしか聞こえぬ」


「ああ、そうだね この話し合いには意味がない 君たちは自分たちが暴動を起こす正当性の言い訳をしたいだけだからね」


「!!」

彼女は言葉を紡げなかった 言葉を返せなかった 図星だったからだ



結局のところ、押し問答だ 

お腹が空いてる でも食料は限られてる 

頑張りでは勝てない 

ならば別の言い訳をしないといけない 

言い訳がないと、自分達の大義が保てないから 

その大義すら言い訳の言い訳 

やってることがしょうもなさすぎる 

言い訳なんてこさえずに お腹が減ったんじゃ 飯よこせ これで充分 


暴動は起こる なぜなら飯がなければ人は死ぬんだから

これは起こるべくして起こったこと こいつらをこの理由で憎む気にはならない 単に言い訳がましいとこにうんざりしてるだけで……


人は行き着くとこに行き着いたら、殺し合いしかないんだ 憎くなくても……


「あと1週間待てば、最後の善意を解放できたのに」



「な、なら! そういえばよかったろう!!」


「あのねぇ… そんなことしたらこの町に潜んでいるダエワの手先のノルマ達がダエワにそれ伝えるでしょ 俺らが準備してることを知ってれば 攻めてくる日がわかれば、やれることもある 

かつて情報が敵に漏れて大変になったこと、もう忘れたの?」


言えるわけがなかった 情報統制していてもなお、この有様だ 敵側有利に事を進めば、こんなに事態は悪化する 


「!そ、れ、は…」


「俺とダエワの残存戦力を考えれば、正直今の状態でも勝つことは可能だった 君等の犠牲を度外視すればね」


被害は最小限に抑えたい 

外の連中もできる限り助けたい 

だから時間が必要だった 

でないとは言わない 

だが今よりは少なかったはずだ 

それも、もう無意味になったけどな 被害は出る

君等が余計なことしたせいで、事態はさらに悪化した 


「ならば…我らは、どうすれば、よかったのだ…」


「どうにもできないよ だからみんなで我慢してたし、どうにかできるように頑張ってたんだろ あんたらはそれを、全部ぶっ壊したんだ」


「ふ、ふふっ くぅ〜!! 貴様の、勝ちだ… 我らの愚かさを笑うがいい…」

彼女は内にあるものが吹き出すように、そしてたおれるように、言葉をこぼした


「笑わねぇよ… 笑えねぇよ… だってこんなに苦しいんだぜ? みんなこんなに頑張ってるのに、こんな苦しい… そりゃキレもする」



「ただ俺も人間だからさ、言わずにはいられないんだよね」 


「なんでそれを身内に向けちゃうかね?」


吐き出すように吐露する本音 

彼の表情にはただだたやるせなさだけがあった


それが一番彼女の心を抉った

罵倒ではない お叱りでもない 

なぜ… 

その言葉が何よりも彼女の心を切り刻んだ


直情的だとか、考えなしだとかは言えない 

こんなに苦しければそりゃ理性的にはいられない

本気で飢える気持ちってのは半端じゃない


お前の勝ちだ、だって? この戦いに勝者などいない ただ互いを傷つけ合って、傷だけが残った 虚しさしかない

敵は外にいるのに 内側の身内を攻撃する それだけがただどうしょうもなく、やるせなかった


うぅっ あぁ あああああああぁ〜ぁ…  

彼女の心は折れた もう、立ち上がれはしなかった


どうして我々はこんなに愚かなのだろう…

どうして彼を敵だなどと思えたのだろう…

確かに口は悪い 特にノルマに対する当たりは強い 

だがそれは種族ではなく、その人となりにいつだって彼は意義を唱えていたのに


何より誰より この町を、人々を どうにかしようと走り続けたのはほかでもない 彼だった



まさか こんなことになるなんて

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい

すなおは謝り続けた


「私は、どうすれば… 責任を、取らせてください 覚悟はできてます」


覚悟?その言葉を聞いて苛ついてしまった



ごとりと銃を投げる


「それで自害しろ」


「え?」


「許しはしないが、それで手打ちってことにしておいてやる」


「いえ、それは、いくらなんでも…」


「結局のところ、君の言う 覚悟ってのはその程度なんだよ」


部外者の負う責任なんて端からない この町に生きてる奴ら、全員の重荷で、今回起きた悲劇は構造の問題だ

ましてやこの町で生きていない奴が語る覚悟は外向けでしかない 白々しく聞こえてしまう 文字通り、この町の人間にとっては命懸けの吐いた堰だ


解放軍の彼女達がことを起こしたのはこの町の構造的限界が原因なのだ、すなおの演説は水面に落とした水滴の波紋程度の意味しかない 時間の問題だったのがたまたま悪いタイミングで吹き出しただけ


この町で全員が平等に豊かになる方法などない そんな余裕はない 食べ物は全ての人にいき渡らない


俺は彼女が最後の背中を押したとは思っていない

導火線は至る所にあった それに火がつかないように気をつけて、細心の注意を払っていても引火した 


「責任の所在はこの町の者にある 部外者である君が口を挟むことではないし、負う責任もない 最初から最後まで、君はこの町の人間では、なかったんだから…」


泣き崩れるすなお


「君はもう帰れ 君にできることはない 

ただしこのことは生涯、忘れるな

実態の伴わない善意は多くの人を不幸にすることもあると、胸に刻んでくれ 君の掲げる救済は大きすぎる 全人類を救うことなどできはしない できることを、できる範囲でやるんだ 企業でまじめに働いて、お金を稼いで、孤児院でも建てればいい そこで手の届く範囲の人を救うんだ 小さなことだが、意味のあることだ 救われた人がまた誰かを救うかもしれない 自分の力以上の夢なんて見ても、君も、周りの人間も、不幸にするだけだよ」


たくさんのものを拾おうとして、全部こぼすより、建設的だ


冬は走り去っていく 

まだやるべきことが山程あるかのように




すなおは去っていく冬を見つめる 

うまく立ち上がれない


それでも、それでも!


「なにか、しなくちゃ… 私も なにか、を…」


トスリ、と 彼女の懐に衝撃が走った


「え?」


「お前のせいだ…」

そこには子供がいた 



「お前が言ったんだ! 人はみんな平等だって! だから みんな立ち上がったのに… お前のせいだ!」


脇腹を押さえるすなお 血が、真っ赤に服を染めていく


「そ、んな、 私、まだ、何も、やれて… せい、ちゃん」


すなおは、その短い人生に幕を閉じた 

たくさんの後悔を残して……





せいぎは走り続けた すなおを探して、たくさんの銃声が飛び交う中を


そして、ついにすなおを見つけた!

声をかけようとしたその時……


子供がすなおに近づいていく


そして…


すなおが、倒れる 


俺は必死になってすなおの下にかける!

抱き上げて、声をかける

でも、でも…!

彼女の腹から流れる血がとめどなく流れる……!



せい、ちゃん 

彼女がそう言って手を伸ばし、けれど届かずにだらりと地に落ちる


なぜか、走馬灯のように今までのことを思い出す

すなおとは、幼馴染で、恋人とかじゃなかった…


でも、ずっと、一緒にいた ずっと 一緒にいると思ってた これからも


お互いに好きな人ができて、その人と添い遂げることになっても 時々会って 話をする 遊びに行く 

愚痴を言い合う 笑い合う 泣きたい時には泣く


子供の頃のように 

彼女、は、泣き、むし、で…

でも、困ってる人がいたら、例え怖くても、たちむかって…


走馬灯のように彼女との思い出が溢れる

笑って、泣いて、喜んで、怒って… 

ずっと、ずっと、一緒、だった、のに…


目の前が真っ暗だ ボタボタとたくさんの涙が溢れてきて 俺は、それをとめる方法を、知らなかった


ずっと続くと思っていた日常が、音を立てて崩れていく


彼女はもう、いない

笑わない 泣かない

そばには、いない


彼女のいない明日が、始まる

これから先ずっと


町に響く絶叫 だが、それは決して一人だけのものではなかった たくさんの人の苦しみが、今日を飲み込んでいった 誰にとっても、最悪の一日だった




「よう 目が覚めたかロリコン教師」


「え、う、あ? ここ、は?」


そこは真っ暗な空間で でも目の前にいる男は確かに見えていた その姿には見覚えがある

マシロ いや、冬、か

動こうとすると、じゃらりと鎖の音がする 男は動きを拘束されていた

お腹が痛い 痛みが引かない 自分は刺された、はず そして死んだはずだった 記憶がはっきりしてくると恐怖が立ち登ってくる 

ここは、どこなのだ?

私は、私は! 


「た、助けて、くれ 誤解なんだ 何か君は、誤解をしてるんだよ」

この期に及んで言い訳を並べ立てる その醜く歪んだ媚びへつらうような顔がひどく不愉快だった

自分が何をしたのか、わかってないらしい


「なぁ、君にだって人に言えないような事情があったりするだろう? 私はたまたま! こう生まれただけなんだ! 私のせいじゃないんだ!」


「お前のせいだよ」


「!」


有無は言わせない 

性犯罪者の言い訳など聞かない 

人を間違って殺すことはあっても人を間違って犯すことはありえない

そもそも世間が許そうが、俺が許さねぇ


「なぁ、あんたはさ、地獄ってあると思うか?」


何を、言ってるんだこいつは


「俺は昔、天国なんてないって言われたときはふ〜んってくらいで済ませてた 端から信じてなかったんだ でも……」



「地獄がないって言われたときは受け入れるまでにほんのコンマ何秒程度の遅延があった」


「お前には、わからんだろうな」


冬のどんよりとしたその瞳が怖かった



「た…たすけ、てくれ!」

みしりと冬は男の玉を踏みつぶす

悶絶する男 


「大丈夫だ ここは限界が拡張される 死にはしない」

実際に潰れた玉はゴムが縮むように元の形に戻った 

限界拡張技術の応用

痛みだけが消えなかった 痛みだけが蓄積されていく 拡張され続ける限り


死に逃げなんぞ許さねぇ 

オサナイは生き返ったのではなく、死ぬ直前の状態を延々に引き伸ばされ続けているだけだ


冬は男の爪を引っ張る 激痛が走る なのに爪はどこまでも肉を、神経を、そのままゴムを伸ばしたかのように、痛覚とともに、拡張された


「!!、んほ?くが!!!!」

男は今まで味わったことのない痛みを味わっている 人類が今まで味わえる痛みを超越した、痛みを


「ヒマワリの声が聞こえる こんなやつでも、恨まないでやってくれって でもな」


それは、無理だ


「俺は、ヒマワリとは、別に家族でも何でもない 顔見知りの、赤の他人でしかない それでも…」


「俺はない知恵を絞って必死に考えた 他人の復讐を俺が勝手にやることについて」

俺はナツの復讐を邪魔するつもりはなかった 獲物の横取りをするのは控えた 復讐とは当人がやらなくては意味がないから やるもやらないも当人が決める だが、こいつは… 


「だから考えを変えたよ ああ、俺も罰を、同時に受ければいいんだって」


この男は何を言っているのだ!

オサナイは発狂しそうになっていた心を男の狂気に飲まれ始めていた


冬はオサナイの隣に座る

そして、冬もまた、目の前に迫る拷問器具に掛けられる


こいつ、まさか、自分も…


「俺も罰を受ければ、一方的な裁きには、ならない そうだろう?」


冬の狂気が 男を戦慄させる 

こいつは、一体なんなんだよ!


「さぁ、始めよう 他の連中もあとがつかえてる」

ヒジリさんもすなおも亡くなった ヒメは毎日泣いている… ナツさんだって…… やらかした奴らは全員見つける 全員、一匹残らず、地獄に叩き落としてやる 


地獄ってのはなんで地獄っていうか、わかるか?

終わりがない苦しみがあるから、地獄っていうんだ 


一緒に、罪を、償おうぜ

俺の始めてしまった物語の償いを


オサナイの絶叫が響き渡る 

冬は泣き言一つ言わなかった




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ