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ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第2章 

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祭りの灯りの外で


町の空気は、ずっと張り詰めていた。


食料は足りない。人は増える。敵は潜む。

誰もが限界に近かった。


だからこそだった。


「……祭り、やりたいのです」


ナギの一言に、冬は露骨に顔をしかめた。


「却下だ。余裕がない」


即答だった。

そんなこと、言われなくてもわかっているだろうに。


だが、珍しくナギは引かなかった。

それどころか、周りのアニマたちが口を開く。


「みんな、限界が近い。頑張るための気力が必要なんだよ、冬」


「無駄使いしようってんじゃないんだ。もともと配給する予定のものを、祭りに方に回そうって話でさ」


冬は黙る。


合理的に考えれば、無駄だ。

だが、それ以前に今、限界を迎えては本末転倒というのも、間違いじゃなかった。


「……具体的には?」


「追悼と、鎮魂をやるのです」


ナギが続けた。


死者を悼む場。

そして、生きている者を繋ぎ止める場。


冬は静かに目を閉じた。


「……配給は回そう。だが、来週は厳しくなる。それも、ちゃんと伝えて置くように。」


それが、冬なりの妥協だった。


アニマ達はホッとしたように笑顔になる

ナギも嬉しそうにはしゃいでいた


数日後。


町の一角に、小さな灯りが並んだ。


刻紋を応用した淡い光。

布切れや廃材で作られた飾り。

子供たちが一生懸命に並べたそれは、歪で、粗雑で、


だが――


それでも、確かに“祭り”だった。


配給も、少しだけ形を変えて配られる。

ただ渡すだけではない、「分け合う」形に。


人が集まり、声が生まれ、笑いが混ざる。


久しぶりの光景だった。


ナツは、その輪から少し離れた場所に立っていた。


眩しかった。


笑っている顔。

食べ物を手にする手。

誰かと寄り添う姿。


――今の私には全部、遠い。


(私は……)


胸が、軋む。


かつて、約束をした人がいた。


一緒に祭りに行く約束。


でも、もうそれも二度と叶わない。


なのに、自分だけ…


それが、許せなかった。


(こんな、資格……)


足が、自然とその場から離れる。


喧騒が遠ざかる。

灯りも、少しずつ背後に沈む。


静かな場所で、ナツは立ち止まった。




「なにやってんの」


背後から、声。


振り向かなくてもわかる。


ここ最近で、一番聞き慣れてしまった声


「……冬」


「来ないなら来ないでいいけどさ。別に強制じゃないし」


いつもの調子だった。


ナツは少しだけ、息を吐く。


「……冬は、楽し?」


「……」


冬は答えない


「私は、苦しい」


冬は肩をすくめた。


「そうか」


否定も、慰めもない。


他のみんなには言えない。


でも冬もまた、祭りの喧騒を欺瞞のように感じてしまってきた。


「どれだけ綺麗に着飾っても、失ったものは戻ってこない」


その言葉に、ナツは顔を上げる。


「それどころか、失ったものの大きさが浮き彫りになる」


静かな声だった。


軽くもなく、重くもない。

ただ、事実のように置かれる。


ナツは、少しだけ目を見開く。


(彼も……)


理解する。


同じだ。


彼もまた、失っている。


大切な人を。


「……じゃあ、なぜ?」


ナツは問う。


「まだ抗うの?」


冬は少しだけ、目を細めて遠くを見るように、答えた。


「まだ全部、なくしたわけじゃないから」


ホントかウソか、私にはわかなかった


「過去は大事だ。すげぇ大事」


「……うん」


「だけどそれは今を蔑ろにしていい言い訳にはできない、いや、違うな 言い訳に、したくないんだ」


風が、静かに吹く。


遠くで、子供の笑い声が聞こえた。


「過去のほうが大事でもいい」


冬は続ける。


「俺もそうだし」


少しだけ、自嘲気味に笑う。


「でもさ」


視線が、灯りの方へ向く。


「同じもん、味わわせたくないんだ」


ナツは息を呑む。


「大切だったやつと同じ苦しみを、あいつらに」


その言葉は、優しさでも正義でもない。


ただの、意思だった。



ナツの視界が、揺れる。


立っているのが、少しつらくなる。


「……っ」


ふらついた体を、冬が支えた。


一瞬、距離が近づく。


冬の髪が、ふわりと鼻孔をくすぐって――


その瞬間――


ナツは反射的に、突き飛ばした。


「……っ!」


距離が開く。


沈黙。


冬は眉一つ動かさない。


「別に、何もしませんよ」


いつも通りの声だった。


ナツは、息を乱したまま立ち尽くす。


「まだ、俺のこと、疑ってますか?」


「……ごめん、なさい」


絞り出すように言う。


冬は小さく肩をすくめる。


「謝るほどのことじゃないですよ」


冬もいつもの敬語になる


それ以上、踏み込まない。


その距離が、逆に痛かった。



しばらく、沈黙が続いた。


遠くの灯りが、揺れている。


ナツは、少しだけ視線を落とす。


(なんで……)


心の奥が、ざわつく。


さっきの一瞬。


拒絶したはずなのに。


どこかで、違う感情が混ざっていた。


それを、認めたくなかった。


(私は……)


過去に、縛られている。


それでいいと思っていた。


それが、当然だと思っていた。


でも――


ほんの少しだけ。


この人の言葉が、残る。


無視できないものを感じるのだ。


「あなたは、なぜ私達を助けるの?」


彼の本音が見えなかった

あまり人好きのする性格にも感じない 


なのに、なぜ


私達を助けるのか


「罪滅ぼし、かな?」


「それは、どういう意味?」


「人が好きになれなかった」


「……」


「他人の必要性を感じていなかった」


「でも、ある時、ある人の言葉に、行動に、目を引かれた事があるんです あれは、きっと、初めて他者に興味が湧いた時だと思う」


「俺は周囲の人間にその人と似た何かを探して、けれど見つけられなかった 他者と関係性を構築できなかった 最も仮に俺が心を開いたとしても、無理だったとは思いますが」


「なんの、話?」 


彼女は現実の人間じゃなかった

現実で俺はナツさんのような人を見つけることはできなかった


「アニマ達が好きです」


俺は、ストレートな気持ちを告げる


「素直な気持ちですよ あなたも、彼らも、見てると危なっかしいのに、ほっとけない」 


俺はあの日、他人の子供のために死ねなかった

でもアニマ達のためなら、死んでも悔いは残らないと思う


ナツは何も言わなかった


嘘を言ってるとは思っていない  


でも


それが全てだとも思えなかった


彼が私達を助けるのは、失ったものに対する懺悔、に近い感情なのかもしれない


他者を愛せないのに、必死に他者に寄り添おうとしてる


彼は本来の生き方と真逆の選択をし続けている


今までの彼を見て、そう思った


本当に彼は死ぬ気でアニマのために戦うだろう


だが、その先に彼が得るものとは何なのか


そう考えて、自重した


人のことは言えなかった


私の復讐もまた、その先などないのだから


そう考えて、気づいてしまった


彼もきっと輝かしい未来を求めているわけじゃない


できなかったことを


最後のやり残しを、しているのだと


私は胸が苦しくなった


なぜかはわからない


でも、彼をみていると、苦しいのだ



鎮魂の歌が聞こえてきて



「戻りますか?」


冬が、軽く言う。


ナツは少しだけ迷ってから、


「……うん」


と答えた。


二人は並んで歩き出す。


灯りの方へ。


喧騒の方へ。


まだ完全には踏み込めない距離で。


それでも、少しだけ近づいた距離で。


この夜は、ただの祭りではない。


生きるための、ぎこちない足掻き。


そして――


ほんの少しだけ、誰かとの距離を変える夜だった。




「もう…俺らの役割も、終わりが近いのかもな」


「そうだね でも、それでいいのかもしれない 君は、いいのかい?」


「あ? いいに決まってんだろ?」


「そう… 冬のこと、意外と気に入ってたように見えたんだけどね」


「……けっ!俺等はナツのためにある ナツが次に進めるかどうかは、結局周りの人間次第だ 俺等は、変えることできねぇ 支えるだけだ」


「そうだね」


ナツの心に安寧が訪れることを、祈る 


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― 新着の感想 ―
1人で生きていけそうな人がなぜ人と交わって生きるのか、は大きなテーマの1つですね。どう動機づけして、読者を納得させるかは難しいところです。かといって、そのまま一人ぼっちを描いていても面白くならないし、…
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