交錯する思惑
◇
他都市に存在劣化症治療のことがバレた?
早くないか?
このことにはディラフト達も驚きだった
情報統制はしていた それでも長くは持つまいとも
だがそれでもここまで早くバレるということは自分達の側近に裏切り者がいるということだ
だが、実際はあらぬ方向で事態が動いていた
白銀都市での凛とすなお、せいぎらの目撃した謎の存在
彼らが頑なに語ろうとしないその存在に目をつけたものがいた 凛は特に赤錆都市の特権階級の子息だ
その人物が危険な目にあったというのにそのことの説明責任が果たされないことは抗議の種となった
凛やすなお、せいぎにはかなりしつこく取り調べが行われたが、誰も本当のことは話さなかった しかしこの世界には真実の御手という遺物が存在する
その遺物の前で嘘は意味がない
その存在Fは高度なザインクラフトの使い手であることまではわかったが、それ以外の情報が一切出てこない
しかしその時期に、白銀には黒金都市のものが訪れていたことがわかった
そして黒金都市を厳重に監視し始めたら、存在劣化症を患ったものに対して情報統制が敷かれ始めていることが分かった
臭い
そう思ったものが黒金に幾度となく接触してきた
結果、ここまで早くかぎつけられる事態となった
隠しきれなくなったということが実業だ
冬はその時点で間違いを犯したわけではない
黒金都市もミスはしていない だが
ある種、冬の行った人助けが原因で、自分の首を絞めたともいえる
「冬、そのくらいにしておきなよ その子たち、限界そうだよ」
ガタガタと震えるすなおとせいぎを尻目に冬は告げる
「その前に言い訳が聞きたいな これ、どういうこと?」
冬はイスから引きずりおろした丸メガネの男の頭を蹴り飛ばす
小さな悲鳴が彼がまだ生きていることを告げるが、精神的にも肉体的にも立ち上がるのは難しいだろう
「それは……」
ここが一番の問題だ ディラフト達は今回の件をかなりデリケートなものとして通達し、勝手な行動をしないようにと厳命したが、青鉛都市のものはトイレにいきたいなどと抜かしてその場を抜け出し勝手な行動を取り始めた かの都市にはこの手の輩がたまにいるが、それでも他所に連れて行くということを考えればありえない人選でもある 青鉛都市のトップも相当なスキモノらしい
「その子たちが迷惑かけちゃったようね〜 でもその子たちをいさめてくれて、ありがと〜」
その場と状況に似つかわしくない声が響く
青鉛都市の統主
「あんたがこれの飼い主?」
「そうで〜す ヨヨと、およぽばっ!」
冬は最後まで聞かずに裏拳を顔面に叩き込む
「ペットの躾くらい、まともにやれや! 無能!!」
冬はブチ切れていた 最近の町の治安の悪化に続いて、黒金都市の勝手な蛮行によって事態が悪化した 疲弊と怒りで、冬はもうパンク寸前だった
挙句の果てにありがと〜
謝罪ではなく、感謝
あまりにも場に似つかわしくない感性に苛立ちが募った
「ありがと〜」
「あ?」
「私を叱ってくれて だからちゃんとお礼を言わないとね〜」
鼻血を出しながらも、彼女は何一つ表情を崩さずに冬をみている その瞳が、不気味だった
「あんた、状況理解してる?」
「うん、してるよ〜?
君は、今ここで怒っていい人だもんね〜」
一瞬、冬は黙る
怒りが引いたわけじゃない
噛み合わないと判断しただけだ
こいつはまるで物事の流れを"配置"で判断してるかのような不可解さ 人同士の交流で生まれる会話には感じなかった
ここで冬はヨヨから視線を外す
「ディラフト 次からこいつを俺の視界に入れるな」
まともな会話ができる存在ではないと判断した
「話を戻そう 他都市の人間をなぜ、入れた?」
返答いかんによってはこの場が殺戮の場に変わる可能性もある 慎重な対応が求められた
「それについては私のほうから話そう」
極夜さんはそう告げた
冬は訝しんだが、話を聞く姿勢にはいる
「白銀都市でそこにいる2人ともう1人の少女が、お恥ずかしい話だが、我々と繋がりもあった真黒一族によって犯罪行為に巻き込まれた 縁は既に切れているが、この場で言い訳はすまい その時に現れた存在Fが事件を解決したわけだが、その人物が問題になった 襲われたのはそこにいるすなお君とせいぎ君 赤錆都市にとってはそれなりに地位のある家柄の子供で交換留学で他都市に来ていたのだ そんな立場の子息が他都市で犯罪に見舞われた 何も手を打たないはずもなかった 犯人はいい だが問題は解決した人物の方 白銀都市にそれに該当しそうな人物がいなかった だからその時期に訪れていた我々に目がいった そして我々の一挙手一投足が他都市の監視対象になっていた そして情報統制は厳しくしていたものの、人が息交う場所だ 存在劣化症の治療者の情報統制が強くなれば……あとは分かるだろう?」
ぐぅの根も出ない正論だった
……我々の一挙手一投足が監視対象になった
(つまり、疑われたのは黒金ではなく、“Fに繋がる動線”か)
歯噛みする思いだ あの問題に他所から茶々を入れられて 苛立ちは高まるが、黒金への疑惑は晴れた 確かにそれは仕方のないことだった 真黒は手が切れていると言っても黒金と無関係ではない 責任追及はされるだろう
それは仕方ない だが
俺が心配なのは、麗や凛のことだ
「彼女達は?」
俺は極夜さんに近づいて彼だけに聞こえるように伝えた
「現在厳重な警備がついているが、乱暴はされていないようだ あくまで疑惑だし、被害者でもある だが、君の存在を白銀は疑っているかもしれない、と考えたほうかいいだろうな」
極夜さんもこちらにだけ聞こえるように告げる
白夜は俺が生きているだろうと考えていた
彼女達のピンチに駆けつけた人物と俺を結びつけてもおかしくはない 拳が自然と握られた
「今回のことは君が存在劣化症に対する治療の件で彼らをここに呼んでいる 君が存在Fとは別でこちらの世界にずっと滞在し、存在劣化などの研究をしていたことにすれば、うやむやにできる可能性もあると我々は判断した この世界のことも間違いなく聞かれるだろうが……
そこはうまくやってくれ 事前通知がいき届かないうちに、事態がこじれてしまったのはすまないと思っている
君がすなお君やせいぎ君と無関係であると安易にことを進めたかったのだがね 彼らもまた、じっとしてられないタイプだ 先の青鉛の使者が勝手を働いて、外に出た それをとめるつもりで外に飛び出し、君と鉢合わせた
青鉛の使者のほうが早く戻ってきてしまっていたところに君が来た」
今までの不可解な流れがようやく噛み砕けた
今回の件は白銀への懐疑も含めた俺が真白であるということの否定の意思を示すための場というわけだ
ならば彼らには本来感謝すべきところでもあるが、いかんせん連絡はしてほしかったところだ
「彼らは君におびえているが、どうしたものか……
とりあえずここでは互いを初対面として振る舞い給え どこまでできるかはわからないがね」
厄介ごとを次から次へと
苛立ちが募る
通された人物達はそれぞれ、赤錆都市、青鉛都市、黒金都市、そして、よくわからない虹鋼都市と呼ばれる新規都市の重鎮達だった
「何だねこれは?」
青鉛都市の者が倒れてるので驚きを上げる赤錆都市の太ったおっちゃん
いかにも金持ちですって感じのいけ好かない奴だ
「誰あんた?」
「誰じゃと! わしは緋紋天の遣い、アガクラじゃ!」
緋紋天と聞いて鼻で笑ってしまった
緋紋天 それだけ聞けば御大層な名前に聞こえるが、実態は赤錆都市の経済運痴の集まりだ
毎年よくわけのわかんない施策を打ち出しては炎上してる都市の中枢を担う機関
かつて国家というものがまだあったときにいた政治家の末裔が多いとかなんだとか 国家が末期のときなんぞの政治家なんてAIと取り替えたほうがまだマシとすら言われてた時代だ
彼らは政治なんかは多少やれたのかもしれないが、経済感覚 社会の仕組みを作る側の存在が、ビジネスの仕組みを理解していない そんなやつらが都市をささえる能力など育てられなった その結果、赤錆都市の経済状況は悪化の一途をたどっている 青鉛都市とは別の意味で落ちぶれている
「貴様が存在劣化症の治療ができるという技師か?
ずいぶんと若いな 幾つだ?」
無礼とまでは言わないが、慇懃というには傲岸にすぎる詰問の仕方だった
ペシペシと扇子を手のひらに叩き、足は貧乏ゆすりのようにせわしなくカツカツと地面を鳴らしてる
表情はなんかムカつく
この時代において不摂生の塊のような体型に、上から見下ろすような物言い
率直に言って不愉快だった
「余計な質問をするな」
冬はそれを切って捨てる
「なに?」
「俺は今虫の居所が悪い 勝手にこの町に入ってきて、勝手に人の町で好き放題する 人の敷地に勝手に上がり込んだ挙句、俺に許可なく喋るな」
「今すぐお前ら全員ぶち殺してやりたいくらいだ」
全員が息をのんだ
すなおやせいぎにはすまないが、彼女らの表情と丸メガネのことでそれが本気だと伝わるだろう
青錆都市のやつらは基本目障りな問題しか起こさないが、この場合は都合がいい
利用させてもらう
自分の怒りも今は利用する
無駄な質問はさせない
ボロが出る前に切り上げるために
「質問は手短にすませろ 俺は貴様らほど暇人ではない
俺に無駄な時間を使わせるな」
「黒金はこんな問題児を野放しにしてるのかね?」
「我々はスタッフの能力を優先する
彼の優秀さを考えればこの程度、問題ですらない」
極夜さんも話に乗る 俺を黒金のスタッフだと印象付けられるのはこの場では強い
このあとでるであろう話を考えれば俺は黒金側の人間であるほうがスムーズに話が進む
「ふ、ふん! ならば先に問おう 貴様が白銀都市で暴れた件の存在か?」
「何のことだかわからないな」
「白々しい! 黒金都市が白銀都市へと渡った時期に出た謎存在F そしてそのあとの時期から黒金都市での存在劣化症患者の情報隠匿 隠し立ては意味がないぞ? こちらには真実の御手がある! そのためすなお嬢やせいぎ氏をこちらに同行させたのだ!」
隠し立てをしてもこの場ですなお達にこう聞けばいい
彼に見覚えはあるか?と だが
「別に使うのは構わないけれど、その場合自分らがどうなるのかも分かってる?」
「なんじゃ!わしを脅そうと言うのかね? そんなことをすれば」
「頭悪いなあんた」
「なに?」
「俺が仮にその存在Fだったとして、あんたらがそれを暴いて 一体なんの利益を得るわけ? 仮にあんたらの目的が黒金都市と白銀都市の諍いを助長させる目的なのならば意味はあるだろう しょうもないけどな だがもしも存在劣化症患者の治療券、ないしは技術的な提供を巡っているのであれば、その相手を脅す行為に、価値があるのかって聞いたんだよマヌケ」
「!!!」
「黒金都市と白銀都市の関係を無駄に突付くような行為をする、それはつまり黒金都市、ひいては白銀都市を敵に回す行為だ そういう意図だと考えて、いいんだな?」
「ま、まて!そういう意味ではない! わしらはただことの真相を 隠してることがあるのなら、それは……」
後ろめたいことがあるのじゃろ!って?
咎めたいだけだった…… 暴きたいだけだった……
それで追い込まれる俺……
キレそう……
「あんたらは初志の行動を見失ってるよ 俺が存在Fだとするのなら、俺はあんたらの都市のお偉いさんのお子さんを守った ということだ つまりは命の恩人だな にもかかわらずやろうとしてることは、黒金都市と白銀都市の衝突を望んでいるかのようなことをしてる 現在都市の間には遺跡攻略の問題でかなりナーバスな状態にあるにもかかわらず、あんたらは騒ぎ立ててる 他所の都市の人間をまるで犯罪者かのように指差してな」
「犯罪者など!こちらにそのような意図は」
「真実の御手が使われるのは基本犯罪者が出た時だ そういう意図としか思えないね」
「ぐぐっ!」
「俺が存在Fであるかどうかなど、どうでもよいことだ あんたがやろうとしてること、それ自体が無礼 恩を仇で返すって言葉、知ってる?」
助けてもらった人をあぶり出して、白銀にでも突きつけるわけ? その場合、黒金と白銀の全面戦争になる可能性すらあるのに?
そうなれば他都市の助力に頼っている赤錆都市や青鉛都市にも当然経済的損失が生まれる
「人への嫌がらせが相当お好きなようで」
ガンッと冬は丸メガネを蹴り飛ばす
これもお前の指示か?と暗に匂わせて
「わ、わしが指示したわけじゃないわい!」
冬が何かを蹴飛ばして壁に突き刺さる
ヒュンッ と、デブの顔を横切って
ひくりと顔が歪む
「足が滑った でもよかったな 当たらなくて 当てないでくれてありがと〜って言ってくれてもいいんだぜ?」
ここまで事態を悪化させといて関係ありませんが通用するわけねぇだろタコ!
「ありがと〜」
ヨヨがかわりにいう
「てめぇには言ってねぇよ だぁってろ!」
ほんと黙ってろ!
「アカガネはまだわかる でもアオガネはなんで来ちゃったの?」
「それは……例の病気だ」
「ああ、かまってちゃん病ね」
口を出されるのは嫌うくせに仲間はずれにされるとキレる 迷惑な都市だ
共生主義の失敗例
かつてまだ国家というものが成立してた時代
国を挙げて共存共栄をうたった しかし実態はただの労働奴隷の確保 一部の連中の金儲けに使われた思想の残骸は、国民の生活を荒らした
自国民とよそから来た人間 住む場所 仕事 言語 価値観 宗教 その他多くの衝突が起こった
そして惑星移民計画が立ち上がった頃
移民船で星を出る時に問題になったのが 誰を乗せるか? ひいては、誰を乗せないか? 結果だけをみるなら朱禪院 晴の活躍により全員を乗せることができたらしいけど、それまではかなり荒れたらしい
もっとも多民族であふれている都市
言い方を変えれば民族問題を押し込んだ都市だ
最もカオスに近い 相容れない思想価値観や血統を持った者達が住まう魔窟
純血派や回国主義が常に血で血を洗う縄張り争いをしてる 経済状況は悪化の一途を辿ってる まだ潰れてないのが不思議なくらい
「自分がいかにズレてる主張をしてるか分かったか?ハゲ!」
「は、ハゲてない!わしはハゲじゃない!」
そう言って自分の頭皮を必死に押さえる
……あやしい
「……それで、虹鋼都市って、何? あんたらなんなの? アオガネはいる意味分かんないけど、まだ分かる あんたらは何でここにいるの?」
虹鋼都市なんて15年前にはなかった ここ最近で発達した都市なのか?なぜここにいるのか
……真ん中にいる偉丈夫が統主だろうが、その側近達も只者じゃない
二人のうち一人はセプテントリチウム製の義骸…全身フルオートメード
ありえない
この惑星の技術力で全身をセプテントリチウム製で覆うなんて、技術的にも資金的にもできるわけがない ましてや新興の都市がこれほどの技術力を?
「我々はこの星の外から来たものだ 我々は監査役だよ 他都市の代表がこれだけ揃うのは中々ないことだ そして君の存在もまた、放置はできない」
別惑星から来た使者
俺はディラフトを振り返る 彼は静かに頭を縦に振る
とうとう別惑星の住人が接触を図ってきた、ということか 何のために?
言っちゃなんだがこの惑星の技術力がそこまで高いとは思えない 惑星の外に出る余力すら残ってないのだ 資源不足で成長を止めた人類の成れの果てだ
何を、見に来たのだ?
「君を、だよ 冬君」
まるで心を読むかのように先回りする
「あ?」
「セプテントリチウムの申し子、虹の祝福を受けた者 アイリス・フレーゼ」
冬の瞳は近くにあるセプテントリチウムに反応し、神々しく輝く
「バカな! 本当にいたというのか、虹の瞳が 教団の妄言ではなかったのか?」
前例になるぞ…そんなことを言うものもいた
虹の瞳は知覚拡張技術の弊害
セプテントリチウムという巨大量子物質を用いた特殊加工金属 こいつは人体を汚染する
知覚拡張用の遺物だったが我々人類には早すぎた
それらの設計図はこの惑星では量産できるだけの環境がなかったし、人間種には汚染という形で現れ、適合できる人間はほぼいない
まずいな ここにいる奴ら、全員殺すか?
虹の瞳のことがバレればいよいよ持って白銀に言い訳が聞きにくい
「……この瞳はアバターの特性だ 虹の瞳とは関係ない ただのエフェクト効果くらいしか意味はない 俺の趣味だ」
苦し紛れだが、技術的にできなくはないことだ
「ふふっ そうか」
男はそういうのならそれでもよい
まるで信じてはいなかったが
「私は四季を探している」
「なんなんだお前は?」
「必ず、手に入れる」
男の野心はこちらを鋭く、見抜いていた
「私はノインツェン」
「ノインツェン・アストロポス 虹鋼都市の統主だ お見知りおきを 奇跡の子、冬」




