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ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第2章 【最後の善意解放作戦】

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出会いと縁


監査所からの帰り際にヒジリさんと出くわす

「おう ちょうどよかった 少し付き合え」


「すみませんが、まだやることがありますので」

そう言って踵を返そうとした瞬間、首にぐいと腕が回される。

「いいから来い! 上司命令だ、付き合え!」


「……はぁ 了解です」


半ば引きずられるようにして連れて行かれたのは、通りの端に出ている小さな屋台だった

湯気が立ちのぼり、だしの匂いが鼻腔をくすぐる



「おっちゃん 熱燗と… 冬、お前はどうする?」


「自分は味のよく染みたダイコンください」


「へい、あいよ!」


おっちゃんは機嫌よくそう言って、鍋の中をかき回した


「お? わかってるじゃねぇか この店のダイコンはウメェぞ」


「そう聞いてます」


差し出されたダイコンを箸で割ると、中からじゅわりとだしが滲んだ。

一口かじる …落ち着く味だ


「何が聞きたいんです?」


「まぁ、待て 先におでんをいただかないとな」


仕事も終わってないのにあまりくつろぐこともしたくはなかった まだ気を緩めていい状況ではない

そんな俺の横顔を覗き見るようにヒジリさんは見ていた


「こうして見ると、お前の性格がよくわかる いまさらお前のことは疑わないさ この町のためにお前がどれだけ尽力してくれたか、ノルマの民もこの町に入れてやってほしいと私達が言ったときも、渋りはしてもそれを受け入れてくれた 荒れるのがわかってて、お前は私達に寄り添おうとしてくれた 私達の気持ちを汲んでくれた 感謝してる」


ヒジリさんは最近眉間に皺ばかり寄せていたが、今の表情は少しだけ、ほころんでいるようにみえた

ヒジリさんは屋台の明かりを見あげながら続けた


「お前がダエワの回し者なら、私達はとっくに負けてた 正直、あの敗戦の日、私は心が折れたよ もうここからの巻き返しは無理だろうと 息子も娘も失って 町の中で心が荒んでいく人々に、私は何もしてやれなかった」


鎮痛な面持ちと懺悔がこぼれる


「その上、町の中には見慣れない地下通路の入り口ときた これ以上の絶望が、待っているように感じたよ」


ヒジリさんは語る


「お前はどこからきたのだろうな?」


「…」


「答えたくないか?」


「答えたくないというより、答えることで、傷つける可能性があるのが問題です 知っても別に得はしない内容で、聞いても理解できるとは限らない 単に傷ついて終わることだってある」


話す必要がないのではなく、知ってもあまり意味がない

現状の改善にはつながらない話だから


「それでも、知りたいことだってあるだろう? お前はあまりにも特異に過ぎる 持っている知識、技術、戦闘技巧 我々の技術体系に類するものも見受けられるが、どれも我々のそれを上回る異質さだ 春にしてもそうだ この世界の人間じゃないと言われても、私は信じるだろう」


箸を留めて、ヒジリさんの眼をみる

強い、信頼の色がこちらを見つめていた


「…いつか、話しますよ 今はあまりにも問題が多すぎて、俺の事情までつぎ込むわけにはいきません 少なくとも最後の善意を解放するまでは」


それは遠い未来じゃない でも今でもない 

始めるためには、まず終わらせないと


「そうか… わかった」




僕は逃げていた

最強の敵から

走りすぎて、ドクンドクンと心臓が暴れ回る。肺が悲鳴を上げ、口は酸素を求めて開きっぱなしだ 慌ててそれを押さえ込み、壁際で息を潜める


来るな……来るな……!

念を唱えるが如く、僕は祈りを捧げる おお、神よ


「冬真く〜ん、特別実習のお時間だよ〜」

きちゃあ!!!

おのれ悪魔め(冬)!!


そんなに僕をいじめたいのか! たまには休みがあってもよかろうに!

いつもいつも、毎日毎日、訓練!訓練! カンベンしチくリ!


僕は声とは反対方向へ全力で駆け出した

今日はとにかく訓練なんてごめんだ 休みが欲しい!

僕は超人じゃない ふっつーの! 人間なんだ!

走り回って、ようやくひと心地ついたところで、限界が来た

ふぅ、と息を吐き、そのまま地面に倒れ込む

もうだめ

もう無理

チかれた

「こんなところで寝てたら、風邪ひきますよ〜」

その声は、上から降ってきた。

顔を上げると、そこには女の子が立っていた

すごいべっぴんさんだ 少し意地悪そうな目つきなのに、どこか愛嬌があって可愛らしい

なにより目を引くのは、その髪

白銀――いや、ナツの真っ白な髪とはまた違う 薄い青みがかった、夜の闇に溶け込みながらも、ほのかに発光しているような幻想的な色

灰色に近い自分の銀髪とはまるで別物で、思わず見とれてしまった

年は自分と同じくらいだろうか

肌を露出しすぎない服装だが、どこか艶がある

そこでようやく周囲に目をやり、僕は気づいた

……色街まで逃げ込んでたらしい


「こんなところまで来ちゃうなんて…ずいぶん必死ですね」

女の子――いや、少女はくすっと笑った


その笑い方が、妙に余裕たっぷりで癪に障る


「い、いや! 別に逃げてたわけじゃ……」

「ふーん? 服、砂だらけですよ?」

「うぐっ」


反射的に体を起こそうとして、足がもつれる

情けないことに、再びその場に座り込んでしまった

「あはは そんなに走ったんですか?」

「うるさいな……僕はいま、最強の敵から命がけで……」

「恋人に追われてるみたいな言い方ですね」


その言葉にゾッとした あいつは男だ


「ち、違う!!」


あれは人の皮をかぶった悪魔だ!


クスクス笑っている少女をみて、おちょくられてると気づいた


「……で、君は誰?」


「真冬です」


さらっと名乗ると、マフユは僕の前にしゃがみ込んだ

夜の街の灯りを受けて、白銀の髪が淡くきらめく


「ここ、危ないですよ ぼーっとしてると、悪い大人に連れて行かれちゃう」

「それ、君が言う?」

「失礼ですね 私は善良な一般市民で〜す」


絶対ウソだ


この余裕の笑み、どう考えても小悪魔側だ


「でも……」

マフユは立ち上がり、くるりと振り返る


「せっかく夜の街まで来たんですし、少しくらい遊びません?」

「遊ぶって……ここ、色街だよ?」

「安心してください もう派手なお店なんて、ほとんど残ってませんから」


彼女は、崩れかけのネオン看板を指さした

灯りは弱く、音楽も聞こえない

活気というより、残り香だけが漂っている街だ


「その代わり」

マフユは振り返り、悪戯っぽく笑った

「静かで、逃げるにはちょうどいいですよ?」

「……え?」

「訓練、嫌なんですよね?」

うぐっ


「な、なんでそれを……」

「顔に書いてあります」


そう言って、彼女は僕の手首を軽く掴んだ


「ちょ、ちょっと!?」


「大丈夫 私、夜の街は詳しいので」


引っ張られるまま、路地裏へ

手は細くて、冷たいのに、妙に離しがたい

「……ねぇ冬真くん」

「な、なんで名前を!?」

「さっき呼ばれてましたよ? 『特別実習のお時間だよ〜』って」


あああああああ!!

聞かれてた!! 最悪だ!!

「ぷっ……」

真冬は肩を震わせて笑った

「必死で逃げてる姿、可愛かったですよ」


「いらない、そんな可愛さ ほんとにいらない!」


「褒めてます」


嘘だ、絶対からかってる


こうして僕は、訓練から逃げるために、夜の街で


とんでもない小悪魔と行動を共にすることになったのだった




マフユに手を引かれたまま、夜の街を歩く


色街とはいえ、もう昔の賑わいはない


割れた街灯、文字の消えかけた看板、シャッターを下ろした店の数々


それでも、ところどころに弱い明かりが残っていて、夜を完全には殺していなかった


「……思ったより、静かだね」


「夜はこんなものですよ 危ない人もいますけど」


マフユは楽しそうに、瓦礫を避けながら歩く

慣れている

まるでこの街そのものみたいだ

「ほら、ここです」


指さされた先には、動かない自販機が一台

表示は真っ暗で、投入口には“使用不可”の張り紙


「……遊ぶって、これ?」

「ええ 記念撮影スポットです」


マフユは自販機の前に立ち、胸を張る

「昔はですね、当たりが出るともう一本もらえたんですよ」


くすっと笑う彼女につられて、僕も笑った


少し歩くと、壊れたアーケードの下に出た


床には、古いコインが数枚転がっている


「…使えないよね?」


「ええ でも」


真冬はそれを拾い、僕の手のひらに一枚乗せた


「お守りです 逃げ切れますように、って」


「訓練から?」


「人生から、かもしれません」


冗談めかした言い方なのに、なぜか胸に残る


そのとき、遠くから笑い声が聞こえてきた


さっきより、少し低くて、少し荒い


真冬の歩調が、わずかに変わる


「……ねぇ、冬真くん」


「なに?」


「この先、ちょっと近づいて歩いてください」 


理由は聞かなかった


自然と距離が縮まる


肩が触れそうで、触れない


そのまま路地へ曲がった瞬間


「おい」

背後から、声


振り返ると、夜に溶けかけた二つの影


だらしない笑みを浮かべた男たちが、こちらを見ていた


「こんな時間に、仲良しだねぇ」


「あれま! きゃわいい彼女連れて うらやまちぃねぇ! デートっすかぁ?」


マフユは僕の前に一歩出て、にこっと微笑んだ


「すみません〜、この人、頭打っちゃってて」


「は?」


「自分が誰かも分からないんです ほら」


そう言って、僕の肩をぽん


「え、ちょっ——」


「ね?」


目で合わせてと言っている


「……えっと、ぼ、僕は……だ、誰だっけ?」


「…無理あんだろ」


「うそくさっ」


男たちが一歩近づく


心臓が嫌な音を立てた


そのとき、マフユがふっと表情を変えた


「あ、でも」


彼女は路地の奥を指さす


「あそこ、巡回来てますよ?」


「は?」


男たちが反射的に振り返った、その瞬間


「今です、冬真くん!」

「えっ、今!?」


手を引かれ、全力疾走


「ちょ、速い! 速いって!!」


「訓練してるんでしょ?」


「そうだけど!!」


瓦礫を飛び越え、倒れた看板の影に滑り込む

追ってくる気配は……ない


数秒の沈黙


「……ぷっ」


「……ふふっ」


どちらからともなく、顔を見合わせて、笑いがこぼれた


「はぁ……はぁ……ははっ」


「成功ですね」


マフユは満足そうに息を整え、こちらを見る



楽しかったな


マフユは、夜の灯りの中で微笑んだ


「逃げるの、嫌いじゃなさそうですね?」


「……君と一緒なら、まあ」


言ってから、しまったと思った


顔が熱い


真冬は一瞬きょとんとして、それから少しだけ優しく笑った


「じゃあ、もう少しだけ逃げましょっか?」


「……うん」


こうして僕は、厳しい訓練から逃げながら、夜の荒れた街で、少しずつ、この不思議な小悪魔に惹かれていくのだった




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