地下迷宮④ 謎の男
冬は刻紋を励起させ、無頼二式を取り出す。
虚空を撫でる。
ギィン!
大きな火花を立てて、無頼を押し返す音がする。
フォースエッジは物理・物性だけではなく、存在情報に干渉することで、敵の持つ迷彩機能にまで傷をつけた!
光をうまく曲げられなくなったのか、空間が歪んでいるように見えた先に、人の顔のようなものが伺えた。
相手はうまく動かなくなった迷彩フードを脱ぐ。
そこには、金髪に何本か黒髪がメッシュで入っているような男が、大きな鎌を持って立っていた。
年齢は不明だが、かなりの優男だ。
「ご挨拶だな。その髪、黒金の人間か? いや、ありえないな。誰だお前?」
ゲーム本編では見たことのない容姿だ。
違和感のある男だ。注意深く解析する。
こいつ、在核が存在する!
現実の人間だ。
どうやって入ってきた?
「それは私のほうが聞きたいな。君、何者?」
「質問に質問とはな。いいよ、半殺しにしてから聞き出す」
ぶっそうなことを平然と言う冬。
『ちょちょ、いきなり喧嘩腰? まずは話し合いを』
「後ろから切りつけてくるヤツだぞ? それも、迷彩機能まで使ってな。明確な敵だ。これでも譲歩はした。名乗りもしない、目的も言わない。そんな奴に容赦はするな。これ教訓な」
言っても聞きそうにない雰囲気に、深いため息を吐いて押し黙る。
もう僕のできることはない。
あとは見守るのみ。
男は大きな鎌を片手で持ちながら、まるで筆みたいな軽やかさで横一線に振るう。
すると、そこから目に見えない波動が飛んでくる。
冬はまるでそれが見えてるかのようにかわす。
「見えてるのか?」
冬は答えずに男へ一撃を叩き込む。
相手はそれを受けるが、衝撃を殺しきれずに後退する。すかさず追撃し、踏み込む。
地面にめり込むほどの踏み込みから首を狙う。
相手はそれを柄で受け止め、翻るように刃をこちらに差し向けた。
俺はさらに踏み込んで距離をほとんど殺した状態で相手に組み付き、腹にフォースエッジで突き刺すが、火花を散らして弾かれる。
蹴りを食らって距離を開けられる。
冬に大鎌が上段から振り下ろされる。
冬はそれに刃を交差させるように合わせて受け流しながら、同時に一撃を叩き込む。
しかしそれも甲高い音を鳴らして、刃は相手の肉体を貫通せずに弾かれる。
それで冬は距離を取る。
「フォースフィールドか」
今殴った感触から、どの程度のレベルのシールドなのかは分かった。ランクとしてはC。
あの迷彩も同様。
ようするに、大したことない。
だいたいの硬度、軟度、弾性力、熱冷変動値、構造情報と反応アルゴリズムはわかった。
市販品仕様だ。
規則的で反応が特定しやすい。
B以上だったら対応しようがなかったが、次は調整して貫通させる。
攻撃速度も目に追える程度。対応は可能。
ただし、あの大鎌は――
「遺物だな、その大鎌。となると、お前、やはり現実の世界の人間か」
目測程度だが、ランクはB以上といったところか。
「……」
男はにこりと笑って何も答えない。だがその表情からは、肯定しているように思えた。
遺物のランクというのは、各企業都市の技術・発展をどの程度貢献できるかで決まる。
遺跡・遺物の攻略難度も加味される。
遺跡・遺物ランク。
Dランク、都市の技術で作れるものよりも低い遺物。
Cランク、都市で再現可能な遺物。遺物ランクはこのランクが基準になる。
Bランク、都市で再現不可能な遺物だが、機能解析が可能。複数採掘されるもの。都市への貢献度は低い。
Aランク、都市で再現不可能、機能解析が不可能。複数採掘されるもの。都市への貢献度が高い。
Sランク、都市で再現不可能、解析不能。複数採掘される。
EXランク、都市で再現不可能、解析不能。一点物。
「まだ続けるか?」
降伏勧告を促す。
このままやっても男に勝ち目はない。
しかし男は笑う。
「まだ、やれることがあるからね」
鎌を前に突き出す。
すると鎌についてる奇怪な口が開く。
にやりと笑うように。
危機を察知して距離を離そうとするが――
「もう遅いよ」
妙な感覚だ。肌がざわつく。
何かを舐め取られているような、不快な感触がある。
空間さえとろけそうだ
「まさか、これ……ロハネの遺物!」
ランクBなんてものじゃない。
災厄の遺物の一つ、ロハネの遺産。
ロハネの遺物により、精神を嬲られ、削られる!
存在の形が溶けていくような、不快感。
存在攻撃を受けている気分だ。
「形勢逆転だね」
「ロハネの遺物には手を出すな。そう言われなかったのか?」
「あいにく、それは無理だね。とっくにぶっ殺してしまった」
『な、なんなのこいつ!』
「やっぱそれ、ザインクラフトだね」
「私は春、三星 春。アヴェスターゲームの原作創作者だ」
「お前、ザインクラフト、現実で作ったろ?」
耳元でささやく声。
その言葉と同時に、振り下ろされる大鎌。
――意識が、途切れた。




