地下迷宮② 生体工場
「見つけた! 生体工場! こいつがあれば!!!」
正直いって、今回一番あってほしかった遺物だ。こいつがあれば、食料問題を一気に解決できる。
量産できないのがネックだが、いまの人数ならしばらくは問題ないだろう。
強く安堵の息を漏らす。
実物を見るまで安心はできなかったが、これで一息ついた。
「あとは持って帰るだけだ」
それから、こいつだ。
『う。うひゃ~! なに、これ、ドラゴン?』
冬真が悲鳴を上げる。
驚くのも無理はない。
「ああ、こいつはドラゴンの遺骸。異世界からやってきたといわれる、異世界の遺物だ」
『え? い、い、い、異世界!? いま、異世界って言った?』
「あくまで可能性の話だけど、ね。こいつを研究したら、もしかしたら異世界のことも、わかるかもしれないぞ?」
ごくり、と冬真は息を飲む。
「ほんとはディラフトに渡すはずだったものだけどな……」
生きてるのか死んでるのかもわからない、宙から来たはた迷惑な奴。
無事だといいがな。望みは薄いけど。
ドラゴンの遺骸をみやる。
巨大な芸術品。とさえ言えるだろう。
この世のものではないといわれれば信じるかもしれない。
遺骸だというのに、その肢体には傷一つついていない。
劣化も欠損も見られない。
今すぐにでも起きだして、動き出しそうなほどの存在感だ。
まるで眠っているだけにも見える。
灰銀色の鱗が角度を変えるだけで、その輝きを妖しく変える。
視線を引き付けられる。
畏怖とは、このような感情を指すのだろう。
正直言って、ドラゴンまでこちら側に写されるとは思わなかった。
こいつは現実世界でさえ、異質な存在だ。
現行技術では解析さえ不能な存在。
遺物としてのランクもつけられないほどに。
ここにあるドラゴンは、さすがに中身まで模倣されているとは思えない。
あくまで側だけだろう。
『冬、これ……』
「今はここに置いておこう。君の妹君のこと、調べるにしても、今の俺たちの最優先事項を見失ってはいけない。だろう?」
その言葉に、冬真は少しだけ安堵した。
冬はその後、自分の研究室?に入り、何かしていた。
『それなんなの?』
「アバターの雛型かな?」
『え? それが? ただの人形かと思った。顔ものっぺらぼうだし、手足ももっと精巧な人形あるだろってくらい簡素なんだけど……ほんとに~?』
「形はそこまで重要じゃないからね。四足歩行の奴なんかもあるけど、犬とか猫になってみるか?」
『いやそれは! 僕を犬扱いしていいのは美しい女性だけと決めてますから!』
一瞬考えてしまって、それもいいかなとか。いやいや、ひざまずく相手はきつめのおねいさんでお願いします!
「……だからモテないんじゃない?」
ぼそりと毒を吐く冬。
『モテないって、なんで決めつけるんだい? ん? 君が僕の何を知ってるんだい? ねぇ?』
「モテるの?」
『え?』
「モテるなら、俺の一方的な偏見なんだから謝るよ」
『それ、は、え、いや、ほら、あれだよあれあれ!』
「付き合った女性の数は?」
冬のおちょくるわけでもない無表情が、なんか嫌だ。
『ぐっ。付き合ったってのは、どこまでのものを指すかによって変わってくるっていうか~』
「いない奴の回答じゃん、それ。ついでに友達もいなそう」
友達できそうな状況でも常に女性にがっついたり、途端の下ネタで相手にひかれてそう。
印象の話だけど。
『!!! ぐっ! じゃあ、冬はどうなのさ? 付き合った女性、いるの?』
どうしてそんなひどいことが言えるんだ!
事実ってのは時として人を傷つけるというのに!
僕のトラウマエピソードをいつか聞かせて泣かせてやりたい。
「もちろんいません」
冬真ってたくさんトラウマエピソードもってそう。
いつか聞いてもいないのに勝手に話しだしそうだし、そんで別の意味で泣きそう。かわいそすぎて。
『いないんじゃないか! なんでそんなに偉そうなんだよ!』
ほれみろ! 絶対いないと思った!
「女性と付き合うことを人生の主目的においてないからじゃないかな」
俺の周りにいた女性って、正直いい印象のない奴ばかりだったから。
女性に幻想持ってないんだよな。
あとどうでもいいけど、なんで勝ったみたいな雰囲気だすんだろう?
むなしくならないのかな?
モテない奴同士で傷広げあって。
『女性と付き合うこと以外に、オスの目指すべきものなんて、ない!』
冬真君って、あれだよね~。
そこはかとなく、あれだよね!!って、ほめる部分もけなす部分もない、みたいな顔されても僕はあきらめない。
絶対に。
かわいくて僕だけを好きって言ってくれるお嫁さんを見つけるんだ!
「かなり偏見があるよ、それ」
別にいいけどさ、人生の目的がどこにあろうと。俺には関係のない人間の人生だし。
あと、どうでもいいけど、冬真って彼女よりも先にお嫁さん探しとかしそうで怖いんだよな。
俺は男だから平気だけど、女性からしたら引くんじゃないかな?
いちいち想像だけで傷つけるようなことは言わないけど。
『冬は一人で寂しくないの? 孤独死って知ってる?』
「くだらない。人は独りで死んでいくものだ」
人は死ねばただの物体になるだけ。
自分が死んだ後のことなんて、無いのと一緒なんだから、考えるだけ無駄だね。
それに特別劣等感はかんじないけれど、ここにいるのが申し訳なくはなる。
『なにそれ? さびし〜ものの見方…』
ぼくには理解できなかった。
誰かがそばにいてくれるだけで、ぼくは幸せだ。
ぼくは誰かといないと寂しくて死んでしまう病なんだ。
「とりあえず準備が整ったから、始めようか」
え? 何を?
僕のモテモテ計画を立案することを?
冬真君はそんなことしか考えてなかった。
広い空間に戻ってきて、先ほどの人形を目の前に立てる。
「これから、アバターの訓練を始める」




