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ザインクラフト  作者: 白黒灰無
第4章

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神VS魔将①


名乗りを上げたジークは懐から小型の禍々しい匣をいくつか取り出す。


「それはなんなのよ?」


アフは警戒を強める。無理もない。それが何なのかは分からなかったが、それはとてつもなくおどろおどろしい何かを放っていた。


「これは我々の世界での武器…魔具と呼ばれるものです」


魔具と呼ばれるものの中央にあるスイッチを押す。

カチリと音がしたのちにボックスが開く。


匣の中から黒い瘴気が立ち込めて、何かの割れる音がする。肉が裂け広がるように、それは姿を現した。その形貌は武器というよりも、生物のようにさえ見える異形。


「……目玉?」


人の頭部よりも巨大な目玉が浮いていた。禍々しい眼光を放つそれ。



「目玉?目玉って言ったの?……そんな、もしかして…イビルアイ!?」


真冬は慌てふためくように見えない目を眇めてそうこぼす。


「イビルアイってなにさ!?」


僕は真冬に訪ねた。


「相手の眼を見ないで!」


真冬はそう叫ぶが遅かった。僕はまんまとイビルアイと眼が合ってしまって…


「ぐっ!」


クシャリと視界が歪んだ。手足が思うように動かない。それどころか、視線すら動かせない。


強烈な金縛りだ。


バキバキバキ!


空間ごと押し潰すように、冬真を拘束し始める。


動けない!それどころか、呼吸が…できない!


視線を逸らせず、指先一つ思うようにいかない。


まるで空間に磔にされたように、僕は自由を喪失していた。


だめ、だ…。


強烈な力に縛り付けられ、身動き取れないどころか意識を飛ばすことさえできない。


これほど強力無比かつ、発動条件が眼を合わせるだけだなんて… 


マズイ!これでは…!



そのとき、ふわりと暖かな白い焔に包み込まれる。


すると先程までの絶望感が嘘かのように消え去った。


「え?」


僕は思わずそうこぼし、アフを見上げる。

アフは冬真に優しく手をかざして、穏やかにこちらをみていた。

いつもは見下ろすばかりのその姿は慈愛に満ちた、正真正銘の女神様に思えた。


「ア…フ」

僕はゲホゲホと息を散らして地面に膝をつく。とてつもない疲労感だった。これでは…


「…やはり、君には効きませんか」


冬真の状況などお構いなしにそう呟くジーク。


イビルアイの力はまだ働いていた。しかし…アフにその力が及んでいない。アフの周囲の空気はイビルアイの魔性に晒されていても、やわらいでおり暖かさを保っていた。


「お前…僕を連れてくんじゃなかったのかよ。心臓が止まりかけたぞ!」


「?何か問題ありますか?」


大アリじゃボケ!


「僕が死んでもいいってのか!?」


「知らないのですか?人は心臓が止まっても治療を施せないわけじゃないんですよ?」


「んなこと聞いてねぇよ!死んじまったらどうすんだって言ってんだよ!」


「心臓が止まったら助けますよ。マウストゥマァ〜ウス」


「ふざけんな!」


先に心臓マッサージだろ!とかそんなベタなツッコミなどしない!僕は全身全霊で叫ぶ!


「うわ!びっくりした。そんなに嫌ですか?」


「嫌に決まってんだろ!ヤロウと、き、きききき、キス!なんて!ぼくは女の子としかキスはしないんだ!」


「そうですか…残念です」


「残念がるな!」


「ふふっ冗談ですよ」


ホントかよ…いや…いい!そこを疑ったりなどしない! 


「漫才はいいのよ」


「漫才じゃな!ゲホゲホ!」


僕は強烈な虚脱感で膝をつく。予想以上に削られた。


「こんな状況なのに、まったく…呑気な奴なのよ…」


アフは呆れた様子でこちらを見ていた。その呆れた目をみるといたたまれなくもあり、それと同時に釈然ともしなかった。状況が状況だから、文句は言えないけどさ…僕は被害者だ。いつも誰かのおもちゃにされるんだ。おのれ…許すマジ!ジークヴォイド!


「そう…これが魔力による影響、なのよ…」


アフに魔力による支配は効いていない。

にも関わらず、アフの表情は晴れなかった。


存在の力を持つ者同士の闘いはおおよそ、存在の規格と強度で決まる。


一部例外はあれど、強度の高いものが勝つ事実は覆らない。下位の存在強度では上位の存在強度を持つ者に干渉できない。弾かれて終わりだ。


実際イビルアイという異世界の遺物であれど、この世界に存在するものに干渉する以上、そのルールからは逃れられない。

情報領域の支配とは、同じテーブルの上で行われる綱引きのようなもの。並べられた品に対してどれだけの干渉力があるかを競うことになる。


イビルアイの魔眼はアフを支配しきれていない。

それどころか、押し合いすら発生していない。

それは圧倒的な存在強度の違いを表していた。


どぷり。


しかし、それでも…


アフの存在の核には遥か届いていないにも関わらず、まるで足元に浸る汚染水のように、着実に何かがアフの存在情報を侵していた。


「情報の強度とは異なる侵食、汚染…それがお前達の力、なのよ」


ジークは涼やかに微笑むばかり。しかし否定もまたしなかった。


この世界には存在しない情報の汚染。

まるで濃度を持っているかのように、時間経過とともにその汚染深度は高まる。


イビルアイの眼光を浴び続ける限り、それの汚染は起こり続ける。

この汚染が進めば何が起こるのか分からない。


つまり…



「長時間の戦闘は、望ましくないのよ」


「!!!」


ジークが身構える。


アフはいつの間にかジークのすぐ目の前に立っていた。


大振りの蹴りが放たれる。


ジークはその蹴りをそのまま正面から受け止めた。


「ぐっ!」


ミシミシと骨が音を立てながら、ジークは後ろへと飛ぶ。


受け止めきれない。シェヴァラを蹴り飛ばした時もそうだが、明らかに体型と筋量が釣り合っていない。


ただ…重要なのはそこではなかった。


確かに重い一撃だ。しかしこれは…


痛いというより苦しい。


魔力による全力の防御をしたにも関わらず、ジークへのダメージはそんなものとはお構いなしに貫く。


物理的な衝撃…ではない。


受けた腕の手の掌を動かす。

痺れはある。だが、純粋な物理的なダメージというよりも…



アフは休む暇も与えずに追撃を仕掛ける。


ジークはそれを回避にのみ専念する。


「大将!」


シェヴァラがジークを守るようにアフに襲いかかる。


「これでも…喰らえや!」


建物の一部を引きちぎって持ち上げ、それをアフへと投げつける。


叩きつけられた家屋がぶちまけられたトマトのように弾け飛ぶ。まともに受けていれば、ただでは済まない。


「どうなってんだぁ?おめぇ…!」


シェヴァラは引きつるように笑う。


アフに叩きつけられた家屋は確かにアフへと直撃していた。にも関わらずまるで綿でも触れたかのようにアフへの衝撃は伝わっていなかった。



「また街を壊して…オシオキ、なのよ! えい!」


「ぶほわ!」


アフの強烈な頭突きがシェヴァラのドテッ腹に突き刺さる。シェヴァラはまたも吹き飛んでいった。


「なるほど。君の力は、こちらの戦闘能力を直接削るのですね」


物理的なダメージではなく、こちらの体力や戦闘意欲のような精神的持続力を損なわせる。そういう類の力だろう。制圧力に長けた非常に厄介な力だ。


アフは答えなかった。

だが、ジークは確信があった。


「その身体を覆う白い光が原因ですか?」


ジークはそう尋ねた。


「特殊な力があるのは、お前達ばかりじゃないのよ」


白撃。

その力は物理的な攻撃から特殊な異能でさえ、人を傷つける現象を飽和させる。


「魔力による汚染まで、止まっていますね」


ジークは目を眇めるようにアフを見ていた。


「なるほど…これは我々とは相性が悪い」


「仕方ありませんね」


ジークはイビルアイに手をかざす。


すると…


イビルアイから生えた触手がジークの腕に巻き付き、融合する。


「これは、どうですか!」


ジークはイビルアイの装着された腕をアフへと向ける。


イビルアイの魔眼が収束し、魔力そのものを圧縮して撃ち出す。



「!!」


アフめがけて発射される禍々しい光線がアフを捉える。


バチバチバチと激しい音を鳴らしながらアフへと直撃する。


「ふん!」


アフが腕を一振りすると、光は弾かれ散り散りになる。


「やはり…形のない概念モノはさして影響を与えられないのですね。」


存在の力は形のないものに形を与える。形を持たない曖昧なモノは存在の力を扱うものには通用しない。


アフの腕を見る。そこには少しばかりの痙攣が見られた。


効いている…のか?


「なら、形のあるもので君を殺す」


「できるのよ〜?」


しかしアフは一切の焦りも見せずに間延びした声でジークへと返す。


ジークの追撃が続く。

イビルアイから放たられる光線が幾重にも連なりながら、アフを追いかける。


【正面白盾】


白い二次元の盾が展開される。

アフから少し離れた位置で対空しながら上下に動き、イビルアイの攻撃を防ぐ。



「よっ!ほっ!はっ!にゃにゃにゃにゃにゃ!!」


アフの小さな指を懸命に振るう。


光線は盾を貫くことなく、二次元の面に沿って上下左右に散るように流れていく。

それはまるで三次元上の指向性を失ったかのように。


動きはまるで素人のそれ。はたから見るとふざけているようにさえ見えるだろう。

にも関わらず、ジークの攻撃はアフへ到達することはない。


三次元の攻撃は、その面に触れた瞬間、奥行きは失われ、一つの次元を失い、本来の干渉力を発揮できない。



「ただの盾ではありませんね」


ジークは苦い顔でそう呟いた。


「今度はこっちの番なのよ〜」



アフの身体から白い焔が巻き上がる。


ジークとシェヴァラは後方に飛ぶ。


しかしジークは避けきれず、イビルアイは直接アフの焔を受けてしまった。


イビルアイは怪音を鳴らした後に機能を停止する。

白焔が己に伝わる前にジークはイビルアイを切り離す。


「!!…こうも安々と…これでも、ランクA相当の魔具なんですがね」


ジークの顔にようやく陰りが見え始めた。


「切り札を…切りますか」


新たに取り出した匣は先程のものよりもさらに禍々しい瘴気を孕んでいた。


バツバツバツ!


妙な音を鳴らして匣は開く。

ジークの手を離れ、空間にめり込み、そして引き裂くように…


その中から出てきたのは…


「…剣?」 


「魔剣ジャルムンク」


蜷局巻く瘴気。むせ返る魔性。

戦いはまだ、終わらない。


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