第十二話 湖の帝王【サラマンダー】③
パン。
水の弾丸が発射され、斬利の胸を貫いた。
その刹那──
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
焔が揺らぐ。自然の風が背中を押した。爆発しそうな復讐心は焔と共に燃え上がる。
「成程、それが君殺の羅刹か!」
興奮気味に叫ぶ湖の帝王。焔の内側から、斬利の鋭い視線が覗く。全てを燃やし尽くしそうな灼熱の焔は主君を優しく包み、眼前の敵へ殺意を向けた。
「……思い出したよ」
口を開いた斬利。彼の声にはどこか寂しさが混ざっていた。
「ある意味、アンタは正しい行いをした」
「ほう?」
「あの研究所をぶっ壊した。あそこで産み出された犠牲は、計り知れない。あのまま放置していたら、更に多くなっていただろう」
否定はしない。世間一般で、どちらが悪かと聞かれれば、それはコチラだろう。それは、紛れもない事実。
父は加害者で、斬利は被害者。その関係を断ち切ったのが湖の帝王。その行動には、紛れもない善意があった。
「だけど、それはそれ、これはこれだ。俺はきっと……いや、絶対にアンタを許さない。許せない」
剣を強く握る。月の導きは持ち主の指示を待つ。どうやら気持ちは一緒らしい。
「真実を思い出し、それでも戦うか」
それは確認。警告とも取れる疑問に、斬利は堂々と答えた。
「ああ、戦う。戦って、俺は復讐を成す!」
「──なれば、協力するとしよう。我が敵よ」
刹那、彼らの間合いに一枚の紙が舞い、爆発した。その爆発の中から現れしは、
「ほぉ! これまた懐かしい陰陽の極とは」
銀狼の男。両足は狼のようになっており、手には多くの呪符を持っていた。
「老けたな爺さん。かつての英雄が見る影もない」
挨拶代わりに呪符を投げつける陰陽の極。呪符は空中で三本足のカラスへと変化した。『八咫烏』。数時間前、斬利に対して使った式神だ。
「陰陽の極……何でオマエが」
警戒しつつ、湖の帝王へ目線を向ける。コイツは敵なのか。判断材料が無い以上、敵とみなすのが妥当だろう。
「その力、決意を取り戻したようだな」
「う、うん」
彼は振り向き、一度微笑んだ。そこに敵意は感じられない。まるで、子供を守る親のようだった。
「フ、そういうオマエは変わらぬな」
わずかに指を動かし、空中に六芒星を描く。一筆書きで描かれたソレは八咫烏を囲み、縛った。
「圧縮」
短い命令。『八咫烏』が悲鳴を上げる。あれだけ猛威を振るっていた八咫烏が、簡単に破壊された。
「味方、でいいんだよな?」
「然り。全てが終わってから、ちゃんと話そう」
そういうと、彼はオーバーコートのポケットから一枚の呪符を取り出して唱える。
「護法より、出雲神」
彼は気に留めず、次なる呪符を地面に叩きつける。
「大国主!」
名を告げた瞬間、呪符が人型に変化した。短い黒髪に、神主のような白い装束。それは3メートルはある巨大な木槌を携えた神とも取れる者。
陰陽の極の式神『大国主』だ。
「久しいなその式神を眼にするのは」
「征くぞ、君殺の羅刹!」
「ああ!」
最終決戦が今、始まる。




