第十一話 湖の帝王【サラマンダー】②
「『異界の月計画』……!?」
聞いたことがあった。確か、数年前に秘密裏に発足されたプロジェクトで、内容は……。
「人工的に異獣混人を創り出す」
端的な説明。だが、それが全てだった。湖の帝王による虐殺の一件と共に凍結されたプロジェクト。
本来なら『自然に感染』する異獣混人を、『人工的に感染』させる半ば非人道的な計画。確か、異獣混人を兵器として扱う為に最適な異獣混人を見つけるためだったか。
「それに……親父と何の関係がある!?」
「奴は、この計画の主導者だった」
「!?」
初耳の事実に、空いた口が塞がらない。湖の帝王は目を瞑り、覚悟を決めたのか、開き唱える。
「救いの水よ、潔め給え」
「ぐ!」
津波のように押し寄せる水。自動補正つきの波は逃げる斬利を執拗に追いかける。少し逃げ、崖に辿り着き、「堰き止めよ」と唱えた。すると、剣の内部から札が舞い、水を払った。
「斬利よ。キサマはその計画の第一被験者だった」
「ッ!?」
ザっ、と視界に砂嵐が舞う。まるで電波の悪いテレビみたいに。砂嵐が映すは記憶。
「そして、キサマは唯一の成功例だった」
「俺が……異獣混人?」
信じられなかった。だけども、そんな気持ちとは裏腹に、知らないはずの景色が流れ込む。
(……ぁ)
何処かの部屋で、知らない白衣の人に注射を打たれた。同じ服の友達と、白い部屋で遊んだ。知らない誰かの悲鳴がずっと響いた。誰かが死んだ。友達が消えた。好きな人が消えた。大切だったものを無くした。
「……ア」
記憶が嘲笑う。何で忘れていたんだと、逃げれるわけがない、と。
『おまえはきっと、おれを忘れるんだろう。でも覚えていて』
そんな事を、聞いた。聞いた。聞いた。聞いた。聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた聞いた。
聞いた上で、忘れてやがった。
「覚えていないのも、無理は無い。『追憶よ、曇りて護れ』をかけられていたのだ。多少なりともは、な」
「お、おれ、俺、俺は?」
脳みそが焼き切れそうだ。思い出したく無い、忘れたく無い記憶が、湖の帝王の言葉をトリガーに、溢れ出た。自分がおかしくなりそうだった。
「目を覚ませ、斬利よ。いや、狂乱名があるのなら、そう呼ぶべきか」
人差し指を伸ばし、突きつける。まるで、指で作った水鉄砲のようだ。先端に水の塊が銃弾のようにチャージされている。
「人工的に造られ、我ら『五王』を殺す為に産まれた怪物『君殺の羅刹』よ!」




