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第十話 湖の帝王【サラマンダー】


「ッ!」

 憎しみが身体を突き動かす。湖の帝王を認識した瞬間、斬利は宙に待った剣を掴み、勢いのまま敵に向かった。湖の帝王は動かない。

「テメェ!!」

 剣と大気が打つかる。彼の創り出した極小の空気の渦は回転を続け、剣の勢いを殺す。印や云を介さず技を発動したのだ。驚く斬利に、ソイツは次なる一手を放つ。

大気の霊よ、邪を払え(イ・ランディ・アマナ)

 詠唱と共に発現せしは黒き風。斬利を大雑把に包み込み、

理を示し給え、白き霊(ディ・アニマ・サー)

 黒い風の隙間を、白い風が包み込んだ。その刹那、

「グォオオオオオオ!!?」

 風が回転を始め、斬利を切り刻む。

 黒い風は時計回りに回転し、白い風は反時計回りに回転した。逆方向に回転する風は本来ならありえないはずの摩擦を発生させる。その熱量が彼の傷口に入ると、斬利の再生を阻害させた。

風祓い(サー・フー)!」

 剣に仕込んでおいた札を発動させる。斬利の血で書かれた五芒星が赤く光り、文字通り風が払われた。

「だぁ!」

 風を払いのけ、剣を叩きつける。だが、彼は表情一つ変えず、ひょい、と身体を逸らし剣を避けた。

大風遮壁(トドカナイ)

 巨大な風の一閃が、彼らの間合いを裂く。それは一瞬で消え去った。

 いつしか距離を離していた湖の帝王(サラマンダー)が口を開く。

「懐かしむべきだろうな、斬利よ」

「湖の帝王、テメェ」

 地面に着地し、パッパと払う斬利。内臓を大きく抉られた筈だが、もう既に8割ほど回復しきっていた。異常としか言えない回復力。だが、それを指摘する者はこの場に居なかった。

「この世に生を受けた者なら、誰しも歳を取る。それは、義務だ」

「あ?」

「老い、と言うものは恐ろしいな。一国をも堕とせると呼ばれていた我が力も、ここまで落ちるとは」

 彼は残念そうにして、空を見上げた。竜巻の後だったからだろうか、雲一つない晴天だ。暁が差し込んで、とても美しい。

「だが、同時に喜ばしくある。新時代の卵は孵り、ヒナとなる。その変化を見られるのは、歳をとった者の特権だ」

「何言ってんだ」

「その点、貴様の父は()()()()。力を持った者の慢心ほど、救いようのないものは無い」

「……失敗だと?」

 興味を惹かれた。父を……家族を殺した湖の帝王。だが、彼は知らなかった。その理由を。なぜ、()()()()()()()()()()

 気になってはいたが、誰も知らなかった。あの事件を生き残ったのは、自分だけだ。詳細を一番知っているであろう自分が知らない以上、真実を語れる者は湖の帝王以外、存在しない。

「嗚呼、そうか。知らぬか、斬利よ」

「知らねえよ。答えろクソ野郎。何で、親父を殺した!」

 剣を突きつける。

 彼は数秒開けて、口を開く。その言葉を聞いた斬利は目を見開き、固まった。

 

「斬利よ、『異界の月(いかいのつき)計画』は知っているか?」

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