第二十四話 黒幕
投稿予約を忘れてしまい
遅れてしまいました……。
——深夜、静まり返ったクアトルム港に、この夜、ひときわ静かに波間を漂う一隻の貿易船があった。
甲板の上は真っ暗で、港の灯りも届かないその影のなか、フード付きの黒いコートに身を包んだ少女が、そっと貨物室の扉を押し開けた。
白のサマードレスの上から羽織ったコートの下で、魔石ランプが淡く青く光っている。少女の名は、ベルセリール・アルドラシル・クシュル・クーデリア。クーデリア王国の第四王女であり、現在はクアトルム侯爵家の屋敷を預かる領主代理でもあった。
船内は薄暗く、静寂の中に潮と木の匂いが立ち込めている。ベルセリールはランプの明かりで足元を照らしながら、慎重に奥へと進んだ。
「おい、誰だ!」
怒声とともに三人の男たちが飛び出してくる。船の乗組員たちだ。
ベルセリールは一瞬で距離を詰められるも、落ち着いていた。コートの裾から短剣を抜き放つと、身を翻しながら一人に足払いをかけ、倒れた勢いで次の一人の背後にまわる。そして最後の一人の頭部に、ランプの底で軽く一撃を加えて気絶させた。
「……ごめんねぇ、乱暴なことしちゃって」
小さく囁くように謝罪の言葉を口にしながら、ベルセリールは静かにその奥の隔離された扉へと歩みを進めた。まるで何事もなかったかのように。
扉の奥——そこは貨物室とは思えぬ整然とした空間で、書物と機材がずらりと並び、まるで簡易的な魔法研究所のようだった。そしてその中央、椅子に座っていた人物が静かに顔を上げる。
桃色の髪に、柔らかな狐耳を揺らしながら、ベルセリールはランプを掲げ、ため息のように呟いた。
「……嘘だと言って欲しかった」
「やっぱり君がきたか。ドラグリス公爵からは、ベルセリールが関わればすぐに露見すると言われていたからわかってはいたけどね?」
ゆったりとした口調で応じたのは、黒髪に鋭い眼差しを宿す青年——レグリス・クシュル・ルジエール。ルジエール公国の公爵家の長男、ベルセリールの夫・クレセルイの親友。……そして、採掘禁止の鉱石、破局石密輸の黒幕の一人として、彼女がたどり着いた真実の人物でもあった。
「それなのに、どうして? 私が領地運営を任されたこと、あなたは知っていたはず。私を排除しようとすることもできたのに、なぜ放っておいたのですか……?」
「クレセルイが悲しむからだよ。君が突然姿を消したり、傷つけられたりしたら……あいつは、二度と立ち直れないかもしれない。だから……せめて、あいつが貴族として、ようやく笑えるようになった日々を壊したくなかった。それだけさ」
その言葉に、ベルセリールの眉がひそめられた。そして、感情的に怒鳴り声をあげる。
「じゃあ!?どうして裏切るような真似を!?あなたのせいで、街は混乱して、ゲイル様の式典も蝙蝠の怪物でめちゃくちゃになったのに……!」
「……それも、確かに全部俺の責任だな」
レグリスは、静かに目を伏せた。
「俺はずっと“魔法が使えない”って思われてた。けど、本当は……俺のファリアには腐敗の性質がある。他のファリアを侵す、危険な特性だった。公爵家の中じゃ“呪われた子”とまで言われた。親は……実際、かつての戦争を引き起こした黒幕。ソルモス教団の信者だったし、戦後に生まれた俺は“呪いの子”と噂されていた」
「それを隠し続けたのは、姉さん——ドレリスだ。あの人がルジエール家を継いでから、俺の特性は徹底的に伏せられた。俺自身も、自分の力を恐れていた。でも、知ってしまったんだよ。姉さんが持っていた紫色の水晶から俺と似た感じがした」
「その水晶が、破局石の中にデスファリアが詰め込まれている特殊な魔石だと!“破局石”にデスファリアを入れれば原理は俺にはわからないが!デスファリアは魔力として使える莫大なエネルギーを生み出すと!」
「……」
「俺のファリアは、光と闇の混ざったもの。属性としては赤と緑……完全に相反してる。それが内部で衝突して“腐る”。ゾンビみたいなもんさ。生きてるのに、どこか壊れてるデスファリアと呼ばれる腐敗物!」
「……地下水路のスライム……それに使われていた魔石……あれもレグリス様ですよね?」
「ああ、実験だった。けど、もうスライムは終わり。次はもっと“本番”さ。すでに究極の破局石による魔法生物のもととなる核は完成してる。吸収したファリアを、内部の腐敗ファリアで変換して爆発的な魔力を生む……そういう石を、俺は手に入れた」
「……そんな魔石を何に?」
「何って簡単だ?こんなクソみたいな国家をぶっ潰すためだよ?」
「潰すって?この国の首席はレグリス様の姉、ドレリス公爵様なのに!?」
「ベルセリール、君はこの国の真実をわかっていないな?実際には正規がバカを見る国だ?」
「そして、この国がそうなったのも、今から二十年前のソルモス戦争で消えたセラファリカ王国の奴らが入って来てからセラファリカ星竜教に侵食されて星竜神などを信仰するようになった!結果アイツらは好き放題だ!それを貴族達は許している!」
「……」
「ふふ“光だけの魔力体質者”。だから“聖女”としてその侵略者、セラファリカ教会に囚われたティルシャ。で?姉は国家主席ではあるが……実際には腐った貴族達の決め事を任される操り人形だ?つまり、セラファリカの都合の良いようにされている」
「セラファリカが入ってきてから腐ったんだ、この国は正直者が罰を受ける、クレセルイがそうだったろ?アイツはティルシャをセラファリカから助けだそうとした!結果はどうだ?君が一番知っているだろ?セラファリカは悪だ!」
「……」
「そういえば……クーデリア王国での君も近い境遇だったよな?確かドラグリス公爵家の娘、ティオリーナを守ろうとして、ドラグリスの不正に目を瞑った。最初は、正義を通そうとした。でも、彼女の夢を壊したくなくて、結果的に裏切ったことになっのだろ?」
「……まさか彼女の名前が出てくるなんて……ずいぶんと、私のクーデリア王女時代にも詳しいのですね?」
——ティオリーナ・ドラクリス、その人物はクーデリア王国でのベルセリールの親友であった人物だったが……ベルセリールがドラクリス家の不正を暴いた事で亀裂ができてしまい、それ以来、話す事もなくなってしまった人物の名前だった。
「君の話題はよくルジエールでも話題になったからね?興味もあったし、当時から君の情報は把握していたよ?」
「そうなのですか……クーちゃんの親友に認知されていたなんて、うれしいですね」
「はは、今は、そう思ってないだろ?」
ベルセリールはレグリスを真剣な眼差しで見つめる。
「ええ、ですからレグリス様。お願いです。まだ、やり直せます。自首してください」
「それはできない。俺には……やらなきゃならないことがある。アルベルム学園都市を滅ぼせば、ティルシャは自由になれる。あの腐った貴族社会やセラファリカ教会に痛烈な一撃を与えられるんだ?それとも君が今俺を裁くか?」
「セラファリカ教会のやり方は確かにおかしいのかもしれない……けど、貴方は関係のない人を巻きこでいます!」
ベルセリールはレグリスの瞳を見つめながら優しい口調で告げる。
「それに……私はあなたを裁こうとは思っていません。私は、領主として事実を調査していただけです。不正の構造と、密輸の実態を突き止めに来た。それだけです」
「……」
「だから、最後にもう一度訊きます。貴方が本当に、クーちゃんを……クレセルイ・クアトルムを想ってくれているのなら。どうか、自首してください……貴方が変な事を起こさぬ前に」
その言葉を残し、ベルセリールはゆっくりと踵を返し、貨物室を後にした。船の奥に残されたレグリスは、微かに揺れる青いランプの光の中で、黙ってその背中を見送っていた。
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