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第二十三話 「不正」

この話から物語が動き始めます。


 冷たい風が港の石畳を撫でていく。


 アルベルム学園都市の中でも、クアトルム街の港区はいつも賑やかだった。潮風の匂いと共に、商人たちの威勢の良い声が響き渡るその一角に、クレセルイ・クアトルム子爵の屋敷はあった。


 少年子爵のクレセルイは、学術研究に政治的処理、領地の運営まで——朝から晩まで忙しい毎日を送っていた。


 ナルシア機関から届く研究資料の束。父から一任された港区の管理。更には住民たちからの陳情や港の出入り記録の確認まで。書類の山は日を追うごとに高くなり、彼の机の隅を侵食していた。


 そんなある朝。


 朝食の席で、テーブルに置かれたシチューの湯気の向こうから、ベルセリールがふわりと口を開いた。


「クーちゃん?領地の管理の方、私がやってもいいかな?」


「ええっ!?」


 思わずスプーンを落としかけたクレセルイだったが、すぐに何かを思い出したように眉を上げた。


「え?」


「ベールちゃんって、昔クーデリアで王様の秘書をやってたんだよね?すごく優秀だったって」


「え!?それ、誰に聞いたの……?あまり知られてないはずだけど……」


「トルカが教えてくれたんだ。次期国王——リルトルカ・クシュル・クーデリア様だよ。ナルシアで研究中だった僕に、首脳会談のついでに挨拶に来てくれてね?」


 ベルセリールの顔がわずかに赤くなる。


「トルカちゃん……そうだったんだ。確かに……彼は、ちょっと鋭いところあるし……クーちゃんと気が合いそうだしね」


「うん、彼からベールちゃんの話もたくさん聞いたよ。なんでも、昔見抜けないような公爵家の不正を暴いたとか!」


「……もう昔の話だよ。でどうかな?」


「うん、ベールちゃんにお願いできるかな?」


 ベルセリールはやがて、やわらかく笑って頷いた。


「ええ、もちろん。任せて?」


 こうして、領地の管理はベルセリールの手に委ねられることとなった。


 ──季節は流れ、夏の終わりから初秋へと移ろっていた。


 ベルセリールは白のサマードレスの上に、薄手のレースのショールを羽織っていた。肩から掛けた茶色のポシェットが揺れ、首元チョーカーに付けられている吸収石が青色に光輝く。


 彼女は今日も、クアトルム街港区の貿易資料や納税記録に目を通していた。


「……あれ?」


 ふと手が止まる。


 貿易船の取引履歴の中に、妙な違和感があった。テスベリカ帝国から来たとされる「ホワイトホーン号」の船舶登録番号。それは、かつてベルセリールが見たことのある数字だった。


「これ……見覚えある……」


 指先が震える。彼女の記憶が蘇る。


 ——かつてクーデリア王国で、彼女が秘書として務めていた頃。運河を渡ってきた一隻の貿易船——その名は《リヴィエール号》。


 表向きは穀物を積んだ普通の貿易船。しかしその実態は、違法な貨物を積み、ドラグリル公爵家の私腹を肥やしていた裏の船だった。


「この番号……完全に一致してる。間違いない、あの船だ……!」


 呼吸が浅くなる。ベルセリールは震える手でペンを握りしめた。


「調べなきゃ。これは放っておけない」


 彼女は書庫に向かい、過去の港区の記録を洗い始めた。分厚い帳簿。年季の入ったインクの匂い。埃を払い、ページをめくる指は次第に慣れた動きを取り戻していた。


「ホワイトホーン号……来港履歴は、ちょうど五ヶ月前から……私がクーちゃんと暮らし始めた頃」


 初めての来港。そこから断続的に取引が続いていた。記録には、さまざまな貨物の品名と重量が記されていた。


 しかし、ある記録に目を留めて、ベルセリールは眉をひそめる。


「じゃがいも……一箱250キロ?そんなのあるわけない……!」


 明らかに常識外れの重さ。何か別のものが積まれていたのは明白だった。


「どうして……今まで誰も指摘しなかったの?前の管理者は……ゲイル様だったよね」


 兄——ゲイルムーン・クアトルムの作成した記録も調べる。彼は確かに、記録を丁寧に残していた。むしろ、疑わしい点にはしっかりと指摘を入れていた。


「じゃあ……どうして見過ごされたの?この日だけ……印がない」


 何かが隠されている——。


 ベルセリールはさらに深掘りを始めた。じゃがいも以外の貨物。ワイン、羊毛、金属器……それらも、明らかに品名と重量のバランスが取れていなかった。


「……これはもう、隠し方が雑ってレベルじゃないね」


 疑念が確信に変わった。


 ──ホワイトホーン号は、偽名だ。

 本当は、ドラグリル公爵家の不正船《リヴィエール号》。


 名を変え、国を偽り、いまなお不正な運航を続けていたのだ。


 ベルセリールは、蒼い瞳に怒りの光を宿した。


「……ティオちゃん。君の兄は……また不正をしてるよ」


 ティオリーナ——かつてクーデリア王国で共に働いた竜騎士の少女。心優しい彼女は、兄・ドラグリル公爵を信じていた。だが、その信頼はまたも裏切られようとしている。


 ベルセリールは立ち上がった。


「今度は……私の目で、しっかりと暴いてやる。クーちゃんの領地を、こんな不正の温床にはさせない……!」


 サマードレスの裾を翻し、書類を抱えて屋敷の奥へ向かう。


 そして、調べれば調べてるほどでてくる真実……ジャガイモと偽っていた物がとある禁止鉱石の密輸の可能性が出て来た。


 その鉱石の名前は……”破局石”


 五ヶ月前に何があったか、川近くでの爆発事件。クレセルイ達と地下水路を調査する事となった事件の発端となった水質汚染……スライム核……そして。クレセルイの言っていた言葉が頭ね中で再生される。


『破局石を基盤としていた』


 そして、そのジャガイモと偽った荷物は外に出る事なくホワイトホーンの中で行方をくらましている事もわかった。


 そして、なによりホワイトホーン号の停泊を許しているのは……実はクアトルム家ではなく……さらに上の貴族であり許可申請の責任者としてついにその人物の名前が書かれてしまっていた。


 そして、さらに調べると”その人物”の行動履歴にホワイトホーン号が停泊している時期と重なるように必ず、その人物は三日くらい家を空けている事がわかった。


 破局石とスライム核。”あの時その人物”から感じた違和感の正体、繋がってしまった……この密輸に関わっているこの許可申請をだしているこの人物が……今までのこの一連の事件に関わっている可能性が大きかった。


「だとしたら?……何故、貴方が?」


——それはベルセリールにとっても疑いたくなかった人物だった。


 


物語は第一部となる事件の真相へ進み出します。


ここまで読んで下さりありがとうございます!

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