第十四話 魔力体質者
地下水路からの続きです!
地下水路の探索から数日が過ぎた。ベルセリールはこの日も、研究室に籠って魔石の分析を続けるクレセルイとルーナリア兄妹のために台所に立っていた。朝から何度も味を確かめ、失敗を修正しながら仕上げた料理を見て、思わず満足げに小さく呟く。
「今日は、よくできた!」
野菜を細かく刻み、胃に優しいスープにした。二人が食事をおろそかにしがちなことを知っているベルセリールは、せめてもの支えになればと毎日工夫を重ねていた。
「私があの部屋にいても、きっと二人の会話にはついていけないし……邪魔しちゃ悪いからね!」
そう思いながらも、できるだけ早く食事を届けようと盆を持って研究室に向かう。ドアをノックして中に入ると、兄妹は揃って顔を上げ、笑顔でベルセリールを迎えた。
「ありがとう、ベールちゃん」
「ありがとうお姉様」
二人が揃って礼を言う声は、どこかほっとするような優しさに満ちていた。ルーナリアが屋敷に来てから五日。最初は少し緊張していた空気も、今では三人の間に自然な温かさが生まれていた。ルーナリアには屋敷に戻るようにと父から連絡も来ているようだが、「今はそれどころじゃない」と頑なにここに残っている。
ベルセリールが食器を置いて部屋を出ようとすると、クレセルイが声をかけてきた。
「ベールちゃん、ちょっと待って!聞きたいことがあるんだ」
「ん?聞きたいこと?料理のリクエスト!?もちろん承りますよ!お坊っちゃまにお嬢様!」
ベルセリールはニコニコと笑顔を浮かべて冗談を言うが、クレセルイとルーナリアは目配せを交わし、深刻な話になることをお互いに確認していた。
「僕が話すよ、ルーナ」
「ええ、それがいいわ」
クレセルイが椅子を指差し、「ここに座って」と合図を送る。ベルセリールも真剣な雰囲気に気づいたのか、大人しく椅子に腰を下ろした。
「話って……何?」
ベルセリールの顔には不安が滲んでいた。
「ベールちゃん、市場の方の声はどう?汚染とか落ち着いてきた?」
「うん!水も元通りになって、みんな“結局なんだったんだろうね?”って不思議がってたよ」
その言葉を聞き、クレセルイは安心したように頷いた。
「じゃあ……次は魔石の話をしようか」
クレセルイは一呼吸置いてから、言葉を選びながら語り始めた。
「……ベールちゃん、磁石の同じ極を近づけるとどうなるか知ってる?」
「えーっと……くっつかない、むしろ離れようとする!」
「正解!ファリアも似ていてね。ファリアは全部で六つの属性粒子が存在するって知ってるよね?」
「うん、確か火、水、風、生、光、闇だよね?」
「正解!じゃあファリアの属性グループは?」
「えっと……火と光が“赤属性グループ”。熱や火に関係してて、赤や黄色に近い力だよね?」
「うん、よく覚えてるね!次は?」
「水と風が“青属性グループ”。氷や雨、空気の流れを司る……」
「その通り!最後は?」
「生と闇が“緑属性グループ”。植物の成長とか、逆に光が届かない場所で活動する暗い力を含むんだった!」
ルーナリアは思わず小さく拍手をした。クレセルイも感心したように微笑む。
「満点だよ、ベールちゃん!」
「やったー!」
クレセルイは表情を引き締め直し、核心へと進める。
「光がある場所にしか存在できない光ファリアと、光があると存在できない闇ファリアを混ぜたらどうなると思う?」
「え……?両立できないと思う……一緒にはいられないんじゃない?」
「正解だよ!両立できないファリアが無理にぶつかると、粒子崩壊を引き起こすんだ。崩壊した粒子は“デスファリア”と呼ばれる汚染性の崩壊して腐敗粒子になる。デスファリアは全てのファリアを無理やり引き込み、次々とデスファリアに変えてしまう……確か前にも説明したよね?」
「あ!そんな話をしてたっけ……あ!そ、それって……」
「そう、あのスライム核の魔石は赤と緑が複雑に入り混じった魔力配列を持ち、デスファリアを発生させながら自らを維持していた。だから……あの巨大スライムが誕生したんだ」
ベルセリールの表情は真剣そのものになっていた。
「でも……デスファリアになったら、もう魔法のエネルギーとして使えないんだよね?それがどうして魔石の力として機能してたの?」
「そこが最大の謎だよ、ベールちゃん。本来ならデスファリアが生まれた時点で魔石は崩壊するはずだった。でもあの魔石は完全には崩壊せず、紫色のまま残っていた……これは理論上ありえない現象なんだ」
クレセルイは魔石を机に置き、ベルセリールの瞳をまっすぐに見つめた。
「ベールちゃん、このことはすごく重要なんだ。君が作った“超光魔石”にも、同じような配列が見つかってる。君は光と闇を合わせるようなこと、無意識にでもやった覚えはある?」
ベルセリールは目を見開き、口をぱくぱくと動かしてから首を横に振った。
「え!?どう言う事!!」
「……だからそれを聞きたかったのよ、お姉様」
クレセルイはベルセリールの手をそっと握りしめた。
「言いたくないなら話さなくてもいいよ?」
「いや、話したくないとかでは無くて……私の魔石ってつまり、デスファリアを生み出してたって事だよね!!」
ベルセリールは今にも泣きそうな表情を浮かべていた。
「やっぱり、ベールちゃんは……意図してない……か」
「クーと私の勘、的中だったわね?」
二人はにこやかに、優しくベルセリールに語りかける。
「大丈夫よ?お姉様の魔石はデスファリアを生んでなんかいないから」
その言葉を聞いたベルセリールの顔に光が戻った……が次の瞬間にその表情は目をまんまるにして頭にクエッションマークが沢山浮かび上がっていた。
「あれ?私はただ……単属性のファリアを込めただけだけど……配列式とかよく分からないし?私の、その(魔石の魔力式配列)ってどうなっていたの?」
ベルセリールの質問にクレセルイが答える。
「複雑な火、光、闇の三つで構成されていた、本来のベールちゃんの適正色だと、光をつけるだけの魔石を作るなら、配列は生のエネルギーのみを熱粒子に変えて明るくする単純な構造になる」
「でも、お姉様の魔石は火、光、闇で普通ならデスファリアを構成して砕けるはずなのに……なんと光か火と触れても闇が拒否反応をせず何故か粒子の形を保ってるの……そしてその闇が何故か光と熱をうまく調和してファリア同士の粒子が合わさってできる熱のみを自分の粒子と結合させて闇を増やす、そして光は何故かその巨大化した闇の粒子を破壊して熱を再び発生、火はその熱を使い光のみ発生させる現象を引き起こしているわ?」
「ごめんなさい、お姉様……つい早口になってしまって……」
ベルセリールはルーナリアの早口をなんとか理解しようとした、しかしある疑問にたどり着いた。
「……あれ?そもそも火と光は何処から現れたの?」
ベルセリールの的確な質問にルーナリアとクレセルイが同時に顔に手を当て沈んだ表情をする。
「それが、1番の謎なの……」
「だから、一つ質問するけど?髪の毛最後にいつ切ったの?」
「えーと、髪の毛って切った事ないんだよねー?私何故か髪の毛これ以上伸びなくて、クーデリアで病気を疑われたのだけどもんだいないってなったんだー」
その解答はクレセルイとルーナリアが調べ上げた数百冊もあるパルケルス・ファリアの84号に書かれていた論文にがっちりとハマってしまった。
「ベールちゃん、ごめん」
クレセルイは突然ベルセリールの髪の毛をその場にあった鋏で少し切り落とした!
「え!?」
次の瞬間、髪の毛は切られた部分がみるみる伸びる、そしえ数秒で元の長さに戻った。
「え、十三秒……ルーナ」
「……ティルシャ様で三日よ?」
「ティルシャってファリア容量いくつだっけ?」
「四十ね……」
ベルセリールは今自分に起きた出来事と二人の会話が理解できなさすぎてパニックに陥っていた。
「四十で三日だとすると十三秒ってどうなのかしら……?」
「ざっと百は超えてる事になる……」
「世界で一番ファリア容量、学名を魔力量が多い人ってクー?いくつだっけ?」
「聖女アステリスの八十五……」
二人はベルセリールをみつめる。
「お姉様って魔法を使えないのかしら?」
「前、僕の魔石で魔法の練習してもらった事があったんだけど、何故が砕けちゃって……魔法の才能ないねってオチだったんだけど……」
「……逆に数値が高すぎて魔石に伝える魔力量が魔石のファリアの許容量を遥かに超えて砕けてたんだ……いや、でももう一つの可能性もあって……」
二人は結論を出す。
「今、おそらく世界記憶が更新されたの……お姉様によって……」
「ベールちゃん、君は世界最大の魔力量をほこる魔力体質者だ」
ルーナリアも真剣な面持ちで続ける。
「“魔力体質者”……そう呼ばれる、生まれながらに特殊なファリアの干渉能力を持つ者で髪の毛にもファリアが流れているの、そのため髪の毛は一定以上伸びず、一定以下になると元の長さにまで伸びるの」
「これを発見したのが、ファリア自体を発見した科学者パルケルス・ファリアなんだよ」
ベルセリールは二人を見て、言葉にならない思いを込めて、小さく頷いたのだった。
ここまで読んで下さり!
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