第十三話 崩壊を生む魔石と光を生む魔石
ルーナリアはクレセルイたちの屋敷に残り、研究室で彼のアシスタントを務めてくれていた。机の上には、巨大スライムの核として回収された紫色の砕けた魔石が置かれている。クレセルイは魔導顕微鏡で魔石の断面をのぞき込みながら、資料に書き込んでいた。
「……おかしい。赤と緑、反属性のファリア粒子が同時に存在してる……?」
その呟きを聞き、ノートを手にルーナリアがクレセルイの隣に寄った。彼女は真剣な表情でページをめくり、クレセルイが書きつけた複雑な魔力式を確認する。
「……反属性ファリアが内部で交じり合ってる……普通なら粒子同士が拒絶反応を起こして、崩壊魔力粒子、デスファリアが発生するはず。こんなの魔法として成立しないわ」
「うん、ルーナの言う通りだ。赤と青は相反するファリアで、合わされば安定どころか激しく暴走して崩壊を引き起こす……腐敗侵食を引き起こすだけの汚染粒子“デスファリア”が生まれる。まさにファリアを殺すファリアだってこれ、前も説明したか……」
クレセルイは顕微鏡を離れ、ルーナリアの顔を見つめながら頷いた。
「この魔石が水質汚染を引き起こした原因で間違いない。この構造は理論的にありえないけれど、実際に成立してる……非科学的過ぎるね」
「スライムがあの規模で増殖してたのも頷けるわね。周囲のファリアを吸収しながらデスファリアへ変換する性質を持ってる。けれど、こんな反属性を成立させるなんて……」
二人の間に沈黙が落ちた。異常な魔石の存在が示すのは、既知の魔法理論を超えた、何か恐るべき現象の影だった。
その時、ルーナリアはふと思い出したように机の端に置いてあった小さな魔石を手に取った。うっすらとピンク色を帯びたそれをクレセルイに差し出す。
「ねぇ、クー。お姉様が作ったこの“超光魔石”なんだけど、これも同じじゃない?」
クレセルイは受け取ると、改めて顕微鏡で中をのぞき込む。そしてその瞬間、硬直した。
「え……赤と緑……嘘だろ!?ベールちゃんが作った魔石も、反属性矛盾石……?今まで僕は気にもとめていなかった……ルーナはなんで気がつけたの?」
「あのレベルの明るさ、超光を引き起こすには高い熱量が必要になる訳でしょ?本来ならあの明るさ=熱量にたっしたファリアは魔法反応を引き起こして攻撃魔法的な反応をするはずと思ったの」
「さすが……魔法に関しての観察力はルーナの方が遥かに僕より上だね……すごいよ」
「でも、攻撃魔法反応は一切感じ取れなかった……だからあの時、不気味に感じたわ?」
そして、ルーナリアは横からベルセリールの作った魔石を覗き込んで、思わず震えた声を漏らした。
「ねぇクー……私、今鳥肌立ってるんだけど……お姉様の魔石って、反属性構造を持ってるのはわかったけど。この魔力配列式、このスライム核と同じじゃない!?しかも何故か、この魔石はデスファリアを生む反応をしていない!ありえないわ!?」
「……!本当だ!一部違う箇所もあるけど……大まかなファリアの配列が似ている!なのにデスファリアを生んでないどころか、むしろ強烈な光を安定して出してる……」
クレセルイの頭に浮かんだのは、夜会前にベルセリールが「クーちゃんを照らしたい」と言って作ってくれた、あの温かな光。その光は決して狂気でも破壊でもなく、確かに人を安心させる優しい光だった。
「普通なら、赤と緑を合わせた時点で砕けて腐敗を撒き散らすだけ……成立するはずがない魔法式が、なぜかベールちゃんの手で成立している……」
ルーナリアも表情を硬くしながら、真剣な眼差しをクレセルイに向けた。
「私には……お姉様がこんな魔力式を知っていたとしたら?あの性格なのだし?やらないと思うの?」
「うん、そこは間違いない。知らないからこそ……この構造のファリアの魔力配列式を構築した……ベールちゃんは危険だとわかってる事は絶対にやらない」
ベルセリールはわりかしなんでも挑戦するタイプである事をクレセルイは知っている。ただ、この時一つ失敗したと思った事は反属性ファリアを入れてはいけないと言わなかった事。
「いや、おかしい!ベールちゃんは、そもそもどうやって赤と緑のファリアを中に打ち込んだ?彼女の性質色は緑グループの生属性のはず……赤グループのファリアは粒子はどこから現れた?」
「……!?え、嘘……お姉様って緑なのね……本当にじゃあこの赤グループの火のファリア粒子と光ファリア粒子はどこから?」
「クー!お姉様にこの件、話してみましょう!」
二人は顔を見合わせ、同時に小さく頷いた。次に向けるべき問いは、身近な愛しい人物──ベルセリールにある。だが、その真実が光か闇かは、まだ誰にもわからなかった。
まさか、彼女が作った光の中に、あのスライム核と同じ構造が潜んでいたなんて……二人は思いもしていなかった。




