見えないプレイヤー
レードス警部がチャット機能の対象者に追加された件については、結局、考えてもよく分からなかった。
あの警部が俺たちを信用してくれているのなら、それはありがたいことだ。ただ、本人に聞いてみたところで素直に認めるとは思えないし、そもそもチャット機能がどういう基準で対象者を追加しているのかも、はっきりしていない。
……そういえば、この機能が追加されたのも、神様のゲームをクリアしたときだったよな。
ふと思い出したのをきっかけに、俺はこれまでのゲームについて考え始めた。
最初は『家を探そう』。遺言書を巡る事件に関わり、フォールのところで働くことになったあと、突然クリアの通知が出た。
次の『道を切り拓け』では、氷の橋を使って屋敷に侵入できることを実証したところでクリア。実際に犯人がその方法を使ったと証明できたわけでもないのに、あれでよかったらしい。
『黄金の園を作れ』では、怪盗との勝負が終わった翌朝、農園でクリア通知が表示された。おまけにチャット機能まで追加されている。
そのあとの『クッキング・タイム』なんて、消える食事の謎を調べていたはずが、最後は料理を作ってクリアになった。
『ファームワーク&ミルクゲット』もそうだ。暗号を解いて牧場へ行った挙げ句、なぜか牛の餌やりまでやる羽目になった。
六回目の『ファクトリーチェック&ショッピング』では、行方不明騒ぎを調べたあと、初めての給料でトランプを買ったところでクリアになった。
……改めて並べてみると、本当に何なんだ、このゲーム。
「なあ、チャミー。前にも聞いたけどさ、神様のゲームって、やっぱり謎解きが目的じゃないんじゃないか?」
『以前もお伝えしましたが、ゲーム全体の目的については、現時点でも十分な情報がありません』
「いや、それは分かってるんだけど……。どう考えても、事件を解決したこととクリア条件が一致してないだろ?」
そもそも、神様は異世界で問題を見つけて考えるゲームだと言っていた。だから俺も、事件や妙な出来事に関わるたびに、それがゲームの課題なのだと思っていたのだ。
ところが、実際には事件の解決と関係のないところでクリアになることが何度もあった。料理を作っただけでクリアになったときなんて、さすがに納得がいかなかったしな。
『はい。これまでの記録からも、事件の解決とゲームの達成条件が必ずしも一致していないことは確認できます』
「だったら、何を基準にしてるんだろうな……」
俺は椅子の背もたれに体を預け、もう一度ゲームのタイトルを思い返してみた。
家を探す。道を切り拓く。黄金の園を作る。料理をする。牧場で働く。工場を調べて買い物をする。
……ん?
何だろう。この並び、どこかで見たような気がする。
「……あれ? これって……」
『何かお気づきになりましたか?』
「いや、ちょっと待ってくれ。何か引っかかるんだよ」
最初に住む場所を用意して、道路を整備する。そのあと農園や牧場が使えるようになって、料理もできるようになる。工場や買い物だって、そういうゲームではお馴染みの要素だ。
しかも、途中からチャット機能まで追加されている。
「……もしかして、箱庭ゲーム?」
『箱庭ゲームですか?』
「ああ。ほら、スマホのゲームによくあるだろ? 最初は何もないところから始めて、条件を達成すると施設が増えたり、新しい機能が使えるようになったりするやつ」
『はい。都市開発や農場経営などを題材としたゲームでは、一般的に見られる仕組みです』
「そうそう! 今までのゲームのタイトルって、そういう施設の開放条件みたいじゃないか?」
思いつきにしては、妙にしっくりくる。
俺がやっているのは異世界での謎解きゲームのはずなのに、ゲームのタイトルだけを見ると、まるで別のゲームの進行状況を表しているようだ。
『確かに、箱庭型ゲームの進行要素と類似する点があります。ただし、これまでのゲームクリアによって、都尊さんの周囲に新しい施設が建設された事実は確認できていません』
「……ああ、そうか。そうなんだよな」
俺は思わず腕を組んだ。
確かに、俺は家を建てたわけでも、道路を整備したわけでもない。農園や牧場だって、そこで何かをしただけだ。ゲームをクリアしたからといって、俺の周りに新しい施設が増えたわけじゃない。
……だったら、何が開放されてるんだ?
いや、そもそも。
開放された施設を、俺が使う必要なんてあるのか?
「……なあ、チャミー。俺たち、最初から勘違いしてたんじゃないか?」
『どのような点でしょうか?』
「俺はずっと、自分が神様のゲームをやらされてると思ってたんだよ。でも、もし俺がクリアしたことで、別の誰かが何かを使えるようになってたとしたら?」
『その場合、都尊さんが達成しているのは、別のゲームを進行させるための条件ということになります』
「そう! それだよ!」
思わず身を乗り出した。
問題は、そのゲームを誰がやっているのかということだ。
俺をこの世界へ送り込み、ゲームの開始や終了を勝手に通知してくる存在。
そんなもの、一人しか思い浮かばない。
「……神様が、箱庭ゲームをやってるんじゃないか?」
『神様が、ですか?』
「ああ。俺が条件を達成すると、神様の方で新しい施設が使えるようになる。そう考えれば、今までのゲームのタイトルにも一応説明がつくだろ?」
自分で言っておいて、何とも馬鹿馬鹿しい話だと思う。
異世界へ人間を送り込んで、やらせていることが箱庭ゲームの施設開放?
いやいや、さすがにそれはないだろう。神様だぞ? もっとこう、何か壮大な目的があるんじゃないのか?
……でも、あの神様だしなあ。
最初に会ったときの、あの何とも言えないやり取りを思い出す。こちらが何を聞いても必要最低限しか答えず、結局よく分からないまま異世界へ送り込まれたのだった。
あの神様なら、普通にやっていそうな気もする。
『都尊さん。その仮説が正しい場合、神様が提示したゲームと、神様自身が行っているゲームは別のものということになります』
「……そういうことだよな」
俺はスマートフォンを見つめながら、思わず苦笑した。
こっちは謎解きゲームをしているつもりで、事件を調べたり、あちこち出歩いたりしていた。それが実は、神様の箱庭ゲームを進めるための条件だったとしたら……。
「……何だよ、それ。俺がやってるゲームと、神様がやってるゲームは別物だったってことか?」
『仮説としては成立します。ただし、神様側のゲーム内容は確認できていません』
「だよなあ。神様のゲーム画面なんて見たことないし……」
ピロン♪
「……ん?」
突然、聞き慣れた通知音が鳴った。
何だ、今度は何の通知だ?
スマートフォンへ目を落とすと、そこには見慣れない文章が表示されていた。
『ゲームの構造に関する推理を確認しました』
「…………は?」
思わず画面を見直した。
ゲームの構造に関する推理?
……え、ちょっと待て。今の話を聞いてたのか?
「おい、チャミー! これ、どういうことだ!?」
『通知の内容は確認できました。ただし、このような通知は初めてです。何が起こるのかは分かりません』
「いや、そうじゃなくて! これって、さっきの推理が当たってたってことじゃ――」
そこまで言いかけたところで、視界が妙に揺らいだ。
……ん?
目の前にあったはずの机が歪み、事務所の景色がぐにゃりと曲がっていく。
おいおい、何だよこれ!
「ちょっ、まだ何もしてな――!」
言い終わるより先に、足元の感覚が消えた。




