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異世界に転移したので、相棒のAIと謎解きを始めます~AI探偵の異世界迷推理~  作者: 土瓶蒸しの謎
第六幕

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遠回りの買い物


 木工所での騒動も一段落し、俺たちは店主たちと一緒に雑貨屋へ戻ることになった。


 帰り道でも店主は従業員に何度か謝っていたが、当の従業員はまだ怒りが収まらないらしく、店主が何か言うたびに小言を返している。


「だから、すぐ戻るつもりだったんだって」


「その『すぐ』が問題なんですよ! どこに行ったかも分からないんじゃ、探しようがないじゃないですか!」


「いやあ、まったくその通りだ。今度から気をつけるよ」


「絶対ですよ! もう二度とこんなことしないでくださいね!」


 店主は苦笑いしながら頷いていたが、従業員の方はまだ言い足りない様子だ。そんな二人のやり取りを聞いていたコメリアが、隣で小さく笑った。


「ふふっ。店主も大変ね」


「まあ、今回は完全に店主さんが悪いと思うけどな……」


「それはそうね!」


 あっさり同意したコメリアは、どこか楽しそうだ。さっきまで俺の迷推理を散々からかっていたくせに、今度は店主と従業員のやり取りを面白がっているらしい。


 ……まったく、気楽なもんだ。


 しばらくして雑貨屋に到着すると、店主は散らかったままの店内を見回し、少しばつが悪そうに頭をかいた。


「いやあ、改めて見ると、ずいぶん散らかしちまったな」


「そうですよ! 片づけるの、私なんですからね!」


「分かった分かった。私も手伝うから、そう怒るなって」


「当たり前でしょ……まったく……」


 従業員は呆れたようにため息をつき、さっそく商品の片づけを始めた。店主も床に落ちていた品物を拾い上げていたが、ふと思い出したように俺たちへ向き直った。


「そうだ。皆さんにも、今回はずいぶん迷惑をかけてしまいましたね。いやあ、申し訳ない」


「いえいえ。店主さんが無事だったんですから、それで十分ですよ」


 フォールが穏やかに答えると、店主は恐縮したように頭を下げた。


「そう言っていただけるとありがたいんですがね。……そうだ、せっかくですし、何か気に入った商品があれば安くしますよ。遠慮せず見ていってください」


「えっ、いいんですか?」


「もちろん! 大したお礼はできませんが、それくらいはさせてください」


「それなら、お言葉に甘えちゃいましょうよ! ねえ、クニタカ!」


 コメリアはすっかり乗り気らしく、早くも店内の商品を見回している。


 まあ、もともと今日は買い物をするつもりで出かけてきたんだし、ありがたい申し出ではある。せっかく初めての給料をもらったんだから、何か自分のために使いたい気持ちもあるんだけど……。


 さて、何を買おうか。


 特別欲しいものがあるわけでもないし、かといって何も買わずに帰るのも少しもったいない。そんなことを考えているうちに、ふと、さっきのチェスセットが頭に浮かんだ。


 ……そうだ。ああいう遊び道具ならどうだろう?


「そういえば店主さん、ここってトランプとかボードゲームなんかも置いてます?」


「おや、遊び道具をお探しですか?」


「はい。せっかくだから、みんなで遊べるようなものがあればと思って」


「ああ、それならありますよ。こちらへどうぞ」


 店主に案内されたのは、店の奥にある遊戯品の棚だった。


 壁際に置かれた背の高い木製の棚には、大小さまざまな箱が所狭しと並んでいる。平たい箱が何段にも積まれ、その隙間には小さな木箱や布袋が収められていた。


「へえ、結構あるんですね」


「ええ。先ほどのチェスセットほど高価なものばかりではありませんからね。よろしければ、中もご覧になりますか?」


「いいんですか? じゃあ、お願いします」


 店主が棚から平たい箱を取り出して蓋を開けると、中には折り畳み式の盤と、赤や青に塗られた丸い駒がきれいに収められていた。隣の箱には、マス目の描かれた盤と数字入りの木札が入っている。


 ほかにも、穴の開いた木製の盤に小さな駒を差し込むものや、サイコロと色分けされた駒を使うものなど、見たことのないゲームがいくつも並んでいた。


 ……しかし、こういう遊び道具って、異世界でも結構種類があるんだな。


 何となく次の箱を開いてみると、細長い三角形が交互に並んだ盤と、白黒の丸い駒が入っていた。


「……バックギャモン?」


「おや、何か気になるものがありましたか?」


「あ、いえ。ちょっと見覚えのあるゲームに似てたもので」


 盤の模様は記憶にあるものとよく似ているし、丸い駒もそれっぽい。ただ、バックギャモンって名前くらいは知ってるけど、肝心のルールが分からないんだよな。これが同じ遊びなのかも分からないし、買ってから遊び方を覚えるのも面倒だ。


 ……うん。これはやめておこう。


 箱を棚に戻し、今度はカード類が並んでいる一角へ目を向けた。


 こちらには手のひらほどの小箱がずらりと並び、革紐で束ねられたカードや、布張りの箱に入ったものまである。トランプだけでも絵柄や箱の装飾が違うものが何種類もあり、中には金色の模様が入った、いかにも高そうなものまで置かれていた。


 その隣には、人物や星、月などが描かれたタロットカードも並んでいる。


 ……へえ、タロットもあるのか。


 さらに棚を眺めてみると、数字だけが描かれた札や、色とりどりの記号が入ったカードなど、用途の分からないものもいくつかあった。


「いやあ、こうして見ると迷いますね」


「ふふっ。ゆっくり選んでください」


 店主の言葉に甘えてあれこれ眺めていると、コメリアも興味津々といった様子で横から棚を覗き込んできた。


「ねえ、クニタカ。結局、何を買うつもりなの?」


「まだ決めてないけど、みんなで遊べるものがいいかなって」


「へえ! それなら私も一緒に遊べるわね! 何にするの?」


「だから、それを今考えてるんだって」


「もう、早く決めなさいよ!」


「お前が急かすから余計に迷うんだよ……」


 コメリアは不満そうに頬を膨らませたが、俺としても、そろそろ何かに決めたいところだ。


 見たことのないボードゲームは面白そうだけど、まずルールを覚えなきゃいけないし、盤や駒を広げる場所も必要になる。さっきのバックギャモンみたいに、見覚えはあっても遊び方が分からないものだってある。


 その点、トランプなら持ち運びも楽だし、場所も取らない。二人で遊ぶこともできるし、人数が増えたら別のゲームにすればいい。こっちで知られていない遊び方があったとしても、俺がルールを教えれば一緒に楽しめるだろう。


 ……そう考えると、トランプがよさそうだな。


 改めてカードの並んだ棚を眺めていると、端に置かれた小さな箱が目に留まった。


「……あれ? これってトランプですか?」


「ああ、そうですよ。そちらは少し上等な品でしてね」


 店主から箱を受け取って中を見せてもらうと、きれいに揃えられたカードが収まっていた。絵柄もなかなか凝っていて、普段使いには少しもったいないくらいだ。


「へえ……いいですね、これ」


「おっ、お気に召しましたか?」


「はい。せっかく買うなら、こういうのもいいかなって」


「トランプなら、私も知ってるわよ!」


 コメリアが横から覗き込み、嬉しそうに声を上げた。


「本当か? じゃあ、買ったら今度一緒に遊ぶか?」


「もちろん! でも、手加減はしないからね!」


「いや、まだ何をするかも決めてないだろ……」


「何でもいいわよ! 負けないんだから!」


 ……その自信はどこから来るんだ。


 まあ、こうして楽しみにしてくれるなら、買う甲斐もあるというものだ。


「店主さん、これにします。おいくらですか?」


「そうですねえ……今回はご迷惑をかけましたし、こちらのお値段でいかがでしょう?」


 店主が提示してくれた金額は、最初についていた値札よりもずいぶん安かった。


「えっ、そんなに安くしてもらっていいんですか?」


「ええ、もちろん。お詫びですからね」


「ありがとうございます! じゃあ、これをください」


 代金を支払うと、店主はトランプを箱に収め、丁寧に包んで渡してくれた。


 異世界で初めての給料を使った買い物が、ちょっといいトランプか。悪くないな。


 ……まあ、買い物の途中で行方不明騒ぎに巻き込まれるとは思わなかったけど。


 ピロン♪


 聞き覚えのある通知音に、俺はスマートフォンを取り出した。


『シックスゲーム「ファクトリーチェック&ショッピング」クリア』


「ああ……これでクリアなのか」


『はい。第六のゲームのクリアを確認しました』


「クニタカ? どうしたの?」


 コメリアが不思議そうに顔を覗き込んできた。


「第六のゲーム、クリアしたみたいだ」


「えっ、本当!? やったじゃない!」


「ははは! それはよかったですねえ」


 フォールも嬉しそうに笑っている。


 俺はスマートフォンをしまい、買ったばかりのトランプに目を落とした。


 ……しかし、今回はずいぶん遠回りしたな。


 まあ、その原因の大半は俺の勘違いなんだけど。

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