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異世界に転移したので、相棒のAIと謎解きを始めます~AI探偵の異世界迷推理~  作者: 土瓶蒸しの謎
第六幕

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残されたメモ

『都尊さん。ダイイングメッセージという推測には疑問があります』


「……え?」


 チェス盤を眺めながら思わず口にした言葉に、チャミーが待ったをかけてきた。


『現実において、死の間際に複雑な暗号を作成する行為は、合理性に欠けます。犯人を伝える目的であれば、直接的な情報を残す方が確実です』


「いや、でもさ。犯人の名前を直接書けない状況だってあるだろ?」


『その可能性は否定できません。しかし、暗号化された情報は解読されない可能性もあり、伝達手段としての確実性は低下します』


「……まあ、そうなんだけどさ」


 確かに言われてみれば、死にかけているときにわざわざ暗号を考えるなんて、ずいぶん余裕のある話だ。とはいえ、真っ二つに割れたキングと、盤の外に整列した駒を見せられたら、何か意味があるんじゃないかと思うのも仕方ないだろう。


「ねえ、ちょっと待って。さっきから何の話してるの?」


 横からコメリアが割り込んできた。


「ダイイングメッセージって何よ? 何かの暗号?」


「ああ、そうか。こっちじゃあまり聞かない言葉なのか」


『ダイイングメッセージとは、主に推理小説などで使われる表現です。殺害された被害者が、死の間際に犯人を示す手がかりを残す、といったものですね』


「ふーん……。つまり、殺された人が犯人を教えようとするってこと?」


『おおむね、その認識で問題ありません』


 コメリアは納得したように頷くと、もう一度チェス盤へ目を向けた。割れたキングをしばらく眺めていたが、やがて不思議そうに首を傾げる。


「……で?」


「ん?」


「そもそもどこに誰の死体があるのよ」


「…………」


 ごもっともです。


 いや、確かにそうなんだけど! 店主がいなくなってて、こんな意味ありげなものが残されてたら、そういう可能性だって考えるだろ!?


「分かってるよ! ちょっと思いついただけだって!」


「もう、クニタカったら! 勝手に人を殺されたことにしないでよね!」


「だから、決めつけたわけじゃないって!」


 コメリアは呆れたように腰に手を当てている。まったく、少しくらい推理小説っぽい発想をしたっていいじゃないか。


「ははは! クニタカ君、少し気が早いんじゃないかな?」


 それまでチェス盤を見ていたフォールが、苦笑しながら口を開いた。


「メリアの言うことももっともだ。まずは店主がどうしていなくなったのか、そこから確かめないといけないね」


「……はい」


 うーん。今回は我ながら、ちょっと先走った気がする。


 フォールは割れたキングにもう一度目を向けたあと、従業員へ声をかけた。


「ほかにも、普段と変わったところがないか確認していただけますか?」


「は、はい……!」


 従業員は頷き、部屋の中を見回し始めた。


        ◇


 チェスセットについてはひとまずそのままにして、俺たちは店主の部屋をもう少し調べることにした。


 フォールは従業員に普段の部屋の様子を尋ねながら、目についたものを一つずつ確認している。コメリアも何か気になるものがないかと、あちこちに視線を向けていた。俺も室内を見回してみるものの、そもそも何を探せばいいのか分からない。


「ねえ、クニタカ。あのチェスセット、結局どうしてあんなことになってたのかしら?」


「それが分かれば苦労しないんだけどな……」


「もう! あんた、さっきはずいぶん自信ありそうだったじゃない!」


「いや、別に自信があったわけじゃ……」


「ダイイングメッセージ!」


「それはもういいだろ!」


 コメリアはくすくす笑いながら、また部屋の中を見回し始めた。


 ……しばらく言われそうだな、これ。


 そんなことを考えていると、従業員が何かに気づいたように声を上げた。


「あの……これは……?」


 従業員の視線の先には、一枚のメモがあった。フォールが近づき、俺も横から覗き込んでみる。


 そこには、短い言葉が書かれていた。


『薬 1セット 明後日』


「……薬?」


 薬というのは分かる。でも、1セットって何だ? それに、明後日って……。


「何よ、これ。何かの予定かしら?」


「そう見えなくもないけど……」


 コメリアはメモを覗き込んだまま、首を傾げた。


 フォールはメモに目を通すと、従業員へ尋ねた。


「これについて、何か心当たりはありますか?」


「いえ……。私には、何のことだか……」


「そうですか」


 フォールはそれ以上問い詰めることなく、改めてメモの文字を確認していた。


「……これ、薬を注文したってことなのかな? 明後日に届くから忘れないように、とか」


「でも、何の薬よ? 店主が病気だったとか?」


「そういう可能性もあるな。誰かに渡すものかもしれないけど」


『いずれの場合も、「1セット」が何を指しているのかは不明です』


「何種類かまとめて一セットってことじゃないの?」


 コメリアはメモを覗き込んだまま、しばらく考えていたが、不意に顔を上げた。


「……あっ! もしかして、その薬って何か危ない薬なんじゃない!?」


「おいおい、いきなり物騒な話になったな……」


「だって、店主がいなくなってるのよ? 誰かがこっそり取引しようとしてて、それを店主が知っちゃったとか!」


『現時点では、そのような取引が行われていたことを示す情報はありません』


「もう! ちょっと想像しただけじゃない!」


「さっき俺に言ってたことと同じじゃないか……」


「何よ、何か文句あるの!?」


「いえ、別に……」


 さっきの仕返しのつもりだったんだけど、どうやら余計なことを言ったらしい。


 俺はコメリアから視線を外し、もう一度メモを眺めた。


「それにさ、この三つが全部つながってるとも限らないだろ? 別々の予定を並べて書いただけかもしれないし」


「ああ、そういうこともあるのね……」


 コメリアも改めてメモに目を落としたが、すぐに眉をひそめた。


「もう! こんな短いメモなのに、全然意味が分からないじゃない!」


「いや、短いから分からないんじゃないか?」


「……それもそうね」


 妙に素直に納得したな。


 ふと見ると、フォールはメモから視線を外し、部屋の中を見渡していた。俺たちの話を聞いていなかったわけではないらしく、こちらへ顔を向けると小さく笑った。


「ははは! ずいぶんいろいろな考えが出てきたね」


「でもパパ、結局何も分かってないわよ?」


「それでもいいんだよ。今は、どんな可能性があるのか考えてみることも大切だからね」


「ふーん……。じゃあ、パパは何か分かったの?」


「残念ながら、私にもまだ分からないね」


「なーんだ!」


 コメリアは少しがっかりしたようだったが、フォールは気にした様子もなく、従業員と二言三言、何かを話していた。こちらからは内容までは聞き取れなかったものの、従業員が頷くと、フォールも軽く頷き返していた。


 俺はもう一度、メモに書かれた文字を眺める。


 薬、1セット、明後日。


 割れたキングの謎だけでも十分わけが分からないのに、今度はこんなメモまで出てきた。しかも、肝心の店主はどこにいるのかさえ分からないままだ。


 ……これ、本当にどうやって調べればいいんだ?


「さて、それじゃあ……とりあえず、場所を移動しましょうか」


「……えっ?」


 突然のフォールの言葉に、俺は思わず顔を上げた。

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