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異世界に転移したので、相棒のAIと謎解きを始めます~AI探偵の異世界迷推理~  作者: 土瓶蒸しの謎
第五幕

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馬が示す行き先


「それで、クニタカ。まだ馬じゃないって言うつもり?」


「馬が関係してるのは間違いないと思うけどさ……」


 隣町の牧場へ向かう道中、コメリアは相変わらず自信満々だった。俺が二枚目の暗号に残された疑問を口にすると、今度は紙を広げて自分なりの解釈を説明し始める。


「このジグザグの線だって、馬が進む道かもしれないじゃない。文字は……そうね、馬の名前とか!」


「DNXって名前の馬か? それはそれで変わってるな」


「暗号を考えた人が変わってるんだから、馬の名前だって変わってるかもしれないでしょ!」


 ……妙なところで説得力があるな。


「ははは。まずは実物を見てから考えてもよさそうですねえ」


「そうよ! パパの言うとおり!」


 フォールの言葉を聞いたコメリアは満足そうに紙をしまった。俺としても、これ以上同じところで言い合うつもりはない。


 そんな調子で隣町までやって来た俺たちは、目的の牧場を前にして思わず足を止めた。


「……でっか!」


 目の前には広大な草地が広がり、柵で区切られた放牧地が遠くまで続いていた。その向こうにはいくつもの建物が点在し、牛の群れがのんびりと草を食べている。


 牧場と聞いてそれなりの広さは想像していたが、ここまでとは思わなかった。


「すごいでしょ! ここ、かなり大きな牧場なのよ!」


「いや、想像以上だな……。これ、建物を一つずつ探してたら日が暮れるぞ」


「だったら、馬のいるところを聞けばいいじゃない!」


 コメリアは迷うことなく入口近くの建物へ向かった。事務所と書かれた札が掛かっており、中では牧場の従業員らしき男性が書類を整理している。


「すみませーん! 馬ってどこにいますか?」


 いきなり本題かよ。


 男性は少し驚いた様子だったが、すぐに窓の外を指差した。


「馬でしたら、あちらの厩舎にいますよ。ここを出て、道なりに進んでください」


「ありがとうございます!」


 礼を言ったコメリアは、さっそく教えられた方へ歩き出した。俺とフォールもその後を追い、牧場の中を進んでいく。


 近くで見ると、放牧地はますます広く感じられた。柵の向こうでは牛たちがこちらを気にする様子もなく草を食み、少し離れた場所では従業員たちが作業をしている。


 やがて、前方に大きな建物が見えてきた。開いた入口からは何頭かの馬が見え、近づくにつれて独特の匂いが漂い、馬のいななきが聞こえてくる。


「ほら、着いたわよ!」


 コメリアは得意げに振り返った。


「……で、看板は?」


「今探すところでしょ!」


 そう言って入口の周囲を見回したコメリアが、建物の脇に立てられた看板を見つけた。


「あった!」


 勢いよく駆け寄った彼女の後ろから、俺もそこに書かれた文字を覗き込む。


――――――――――


ちゃんと暗号を解け


――――――――――


「…………」


 コメリアの足が止まった。俺も一瞬、何を見せられているのか分からなかったが、文字を読み直すうちに、じわじわと笑いが込み上げてきた。


「……ぷっ」


「……クニタカ?」


「いや、だって……ちゃんと暗号を解けって……」


「笑わないでよ!」


 コメリアが真っ赤な顔で振り返った。


「何なのよ、この看板! わざわざここまで来たのに、答えじゃなくて説教!?」


「まあ、暗号を解かずに来たのは確かだしな……」


「何よ! クニタカだって答えが分からなかったくせに!」


「……それを言われると反論できないな」


 俺が肩をすくめると、コメリアは悔しそうに唇を尖らせた。看板にはそれ以上何も書かれておらず、どうやら本当に間違った場所へ来てしまったらしい。


「ははは。なかなか愉快な仕掛けですねえ」


「パパまで笑わないでよ! もう、絶対に解いてやるんだから!」


 コメリアは鞄から二枚目の紙を取り出し、近くの柵に寄りかかって広げた。さっきまでの自信満々な態度とは打って変わって、今度は真剣な表情で絵を見つめている。


「……ねえ、クニタカ。やっぱり、この文字が変なのよ」


「DNXか。普通の単語には見えないな」


「でも、わざわざ書いてあるんだから、何か意味があるはずでしょ?」


「そうだな。馬の絵とジグザグの線も、ただの飾りとは思えない」


 俺も隣から紙を覗き込んだ。馬に乗った人物、馬の胴体に書かれた三文字、ジグザグに続く道。ここまでの暗号を考えると、描かれたものをそのまま答えにするとは限らないが、三つの要素をどう結びつければいいのか見当もつかない。


「チャミー、DNXって何かの略語だったりするか?」


『DNXという文字列だけでは、特定の意味を導くことは困難です』


「だよなあ……」


「ねえ、そもそも何で馬に人が乗ってるのかしら? 馬を描くだけなら、人なんていらないじゃない」


 コメリアが絵の人物を指差した。確かに、馬そのものを示したいだけなら、わざわざ乗り手を描く必要はない。


「ふむ……。仮にDNXが馬の名前だとすると、DNXに騎乗……いや、もっと単純に、DNXに乗る、でしょうかねえ」


 フォールはそう呟きながら、紙の余白にいくつかの文字列を書き始めた。


「DNX RIDE、RIDE DNX……。騎乗という意味なら、MOUNTINGも考えられますねえ」


「前と後ろ、どっちに付けるかでも変わるのか……」


「ええ。どちらが正しいとも、まだ言えませんねえ」


 俺はフォールが書き出した文字列を見比べた。DNXRIDE、RIDEDNX、それにDNXとMOUNTINGを組み合わせたもの。確かにいくつも候補は作れるが、どれもそのままでは意味が分からない。


「だったら全部試せばいいじゃない!」


「全部って……どうやって?」


「チャミーに調べてもらえばいいでしょ!」


「いや、調べるにしても、何をどうするか決めないと……」


『文字列の組み合わせを列挙することは可能ですが、変換方法が不明なため、解読結果を特定できません』


「ほら、やっぱり」


「もう! じゃあ、その変換方法を考えればいいんでしょ!」


 コメリアはむっとした顔で紙を覗き込んだが、フォールはその横で、絵の下に描かれたジグザグの線を指差した。


「ふむ……。やはり、この線が気になりますねえ」


「道じゃないの? 馬が走る道!」


「ええ、そう見えます。ただ、道を示したいだけなら、わざわざこんな形にする必要があるでしょうか」


「……何かの指示ってことですか?」


「その可能性はありそうですねえ。道ではなく、何かの動きを表しているのかもしれません」


 俺はフォールの指先を追いながら、ジグザグの線と書き出された文字列を見比べた。線は右へ、左へと交互に折れ曲がっている。もしこれが文字に対する指示だとしたら……。


「……右と左。もしかして、文字を交互にずらすとか?」


「ほう。それは面白い考えですね」


「アルファベットを一文字ずつずらす暗号なら聞いたことがあります。前に一つ、後ろに一つって交互に動かせば……」


「じゃあ、それで全部試してみましょうよ!」


「そうだな。チャミー、さっきの組み合わせを順番に、一文字ずつ前後交互にずらしてみてくれ。意味のある単語が出たら教えてくれ」


『了解しました。各文字列を、先頭から一文字前、一文字後ろの順に変換します』


『最初の候補「RIDEDNX」の変換結果は「QJCFCOW」です』


「……何だそれ?」


「意味が分からないわね……。次は?」


『続いて「DNXRIDE」を変換します』


 俺も紙に書かれた文字を目で追った。Dの一つ前はC、Nの一つ後ろはO、そしてXの一つ前はW。


 ……COW?


「おい、これ……!」


『変換結果は「COWSHED」です』


――――――――――


D N X R I D E


↓ ↑ ↓ ↑ ↓ ↑ ↓


C O W S H E D


――――――――――


「……COWSHED?」


「牛舎……!」


 コメリアは一瞬ぽかんとしたあと、勢いよく顔を上げた。


「牛舎! そうよ、牛舎よ! 馬じゃなくて牛だったのね!」


「馬に乗ってる絵から牛舎が出てくるとはな……」


「でも、ちゃんと全部使ってるじゃない! 馬に乗るって意味も、文字も、ジグザグの線も!」


 コメリアは嬉しそうに紙を掲げた。


「ははは。なるほど、そういう仕掛けでしたか。これは一本取られましたねえ」


「でしょ! ほら、クニタカ! 今度こそ正解よ!」


「いや、まだ実際に確かめてないけどな」


「もう! そこは素直に喜びなさいよ!」


 俺も思わず笑ってしまった。少なくとも今度は、絵の意味にも納得がいく。


「そうなると、三枚目の『READ THE SIGN』は……」


「牛舎の看板を読めってことね!」


 コメリアは満足そうに紙を畳んだ。


 三枚の暗号が、ようやく一つにつながった。


 ……まさか、馬の絵に振り回された挙げ句、牛舎へ向かうことになるとは思わなかったけどな。

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