十一の数字が示すもの
「場所が牧場ってことは、もうこれは簡単ね!」
二枚目の紙を覗き込んでいたコメリアが、得意げに顔を上げた。
「馬のいるところに行けってことでしょ!」
「……いや、ちょっと待て。それだけか?」
俺は改めて紙に目を落とした。描かれているのは馬に乗った人物と、ジグザグに続く線。そして、馬の胴体に書かれた『DNX』という意味の分からない三文字のアルファベット。
馬の絵だけならともかく、ほかの二つを無視していいものだろうか。
「この線と文字はどうするんだよ?」
「馬に乗って進む道とかじゃないの? 牧場なら馬がいたっておかしくないでしょ」
「いや、そういう問題じゃなくて……」
確かに馬がいること自体は不思議じゃない。だが、それで暗号を解いたことになるのかと考えているうちに、コメリアは早くも三枚目の紙へ手を伸ばしていた。
「とりあえず行ってみればいいでしょ! 違ったらまたその時考えましょ。ほら、次の暗号!」
「おい、まだ納得してないんだけど……」
「ははは。メリアらしいですねえ」
フォールは楽しそうに笑っているだけで、止める様子もない。俺としてはもう少し調べたいところだが、最後の問題に何か手掛かりがあるかもしれないし、今は保留にしておくか。
コメリアが机の中央に置いた三枚目の紙には、短い英文と、その下に数字が並んでいた。
――――――――――
Under the red stars, night sighs.
5 - 4 - 14 - 3 / 6 - 7 - 8 / 12 - 18 - 19 - 2
――――――――――
「……今度は数字か」
「『赤い星々の下で、夜がため息をつく』……何よこれ? 詩か何か?」
コメリアは文章を読み上げ、続けて数字を指で追ったものの、途中で面倒になったのか眉をひそめた。
「しかも数字がバラバラじゃない。どういう意味なのよ?」
「それが分かれば苦労しないって……」
俺は紙を手元に引き寄せた。数字は斜線で三つに区切られ、それぞれ四つ、三つ、四つのまとまりになっている。文章自体は短く、難しい単語もないが、この数字との関係がさっぱり分からない。
「チャミー、この数字に何か規則性はあるか?」
『数列は三つの区間に分かれており、各区間の要素数は四、三、四です。数値そのものに単純な等差・等比の規則性は確認できません』
「うーん……。計算する問題じゃないのかな」
五、四、十四、三。足したり引いたりしてみても、それらしい規則性は見えてこない。そもそも、何のために斜線で区切っているんだ?
「ねえ、クニタカ。これって何かの番号じゃないの?」
「番号?」
「ほら、五番とか四番とか。何かを指してるんじゃない?」
コメリアは数字を一つずつ指差している。なるほど、計算するのではなく、何かの順番を表している可能性もあるわけか。
だとしたら、何の番号だろう。
俺は何気なく上の英文へ視線を移した。
……文字?
「チャミー、とりあえず数字を文字の位置として当てはめてみてくれ」
『了解しました。英文の先頭から、指定された位置の文字を抽出します』
返答を待ちながら、俺も最初の単語を目で追ってみた。
Under。
一文字目がU、二文字目がn、三文字目がd。五文字目はrで、四文字目はe。
……RE?
少し期待したところで、チャミーの解析結果が返ってきた。
『抽出結果は「re d / th / ersn」です』
「……何だこれ? 文字が抜けてるし、変なところに空白が入ってるぞ?」
『英文中の空白も文字位置に含めて処理しました』
「……いや、何でスペースまで数えてるんだよ!」
『文字位置の指定に、空白を除外する条件がありませんでした』
「そうだけどさ! 普通、意味のある文字を抜き出そうとしてるって分かるだろ!」
『抽出条件が明確でないため、原文の文字位置をそのまま使用しました』
「くっ……間違ってないのが余計に腹立つ! じゃあ、スペースと句読点を抜いて数え直してくれ!」
『了解しました。条件を変更して再計算します』
チャミーの言い分はもっともなのだが、何とも釈然としない。俺が最初から条件を指定していれば済んだ話とはいえ、もう少し融通を利かせてくれてもいいんじゃないだろうか。
「ふふっ。クニタカ、チャミーに言い負かされてるじゃない!」
「……うるさいなあ」
コメリアは楽しそうだが、こっちはそれどころじゃない。せっかく暗号が解けそうだったのに、余計なところで引っかかってしまった。
『再計算が完了しました。抽出結果を表示します』
――――――――――
5 - 4 - 14 - 3 → READ
6 - 7 - 8 → THE
12 - 18 - 19 - 2 → SIGN
――――――――――
「……READ THE SIGN?」
今度は意味の通る文章になっている。
「『看板を読め』……か」
「看板? どこの看板よ?」
「いや、そこまでは書いてないけど……」
「じゃあ、牧場の看板じゃない?」
コメリアは当然のように言い切った。
確かに、一枚目が牧場を示しているなら、そこで何かの看板を読むという解釈は自然だ。ただ、牧場のどこにある看板なのか、肝心の場所が分からない。
「ははは。少なくとも、何かの看板を読む必要がありそうですねえ」
「そうですね。でも、看板って言われてもなあ……」
俺は机の上に三枚の紙を並べ直した。
一枚目は牧場を示す文章。二枚目は馬に乗った人物の絵。そして三枚目からは、看板を読めという指示が出てきた。
牧場へ行き、馬のいる場所を探して、そこにある看板を読む。コメリアの考えに従えば、そういうことになるのだろう。
だが、どうにも引っかかる。
二枚目の絵に添えられた三文字とジグザグの線。単に馬のいる場所を示したいだけなら、あんなものまで描く必要があるのか?
「……やっぱり、二枚目が気になるんだよな」
「もう! クニタカは考えすぎなのよ!」
「いや、暗号なんだから考えるだろ、普通!」
「だったら牧場に行ってから考えればいいじゃない。看板だって、ここにいたら読めないんでしょ?」
コメリアはそう言って、俺の前に広げていた紙を重ね始めた。まだ何か言いたそうな俺を見て、フォールが穏やかに口を開く。
「ははは。現地で確かめてみるのも悪くないと思いますよ。紙の上だけでは分からないこともありますからねえ」
「ほら! パパもそう言ってる!」
「……分かったよ。ただし、二枚目の答えはまだ確定じゃないからな?」
「はいはい! じゃあ決まりね!」
コメリアは満足そうに三枚の紙を揃えた。こうなったら、何を言っても聞きそうにない。
それに、フォールの言うことにも一理ある。実際に牧場へ行けば、何か分かるかもしれない。
ただ、相手は元暗号局長だ。わざわざ三枚もの暗号を用意しておいて、二枚目だけが単純な馬の絵というのも妙な話だろう。
牧場、馬、看板。
……さて、どこまで合っていることやら。




