↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転移したので、相棒のAIと謎解きを始めます~AI探偵の異世界迷推理~  作者: 土瓶蒸しの謎
第五幕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/65

謎の収容施設


 フォールは三枚の紙のうち、一枚目を手に取った。


「さて、それでは最初の問題から考えてみましょうか」


「そうね! あたし、これが一番怖いと思うのよ」


「確かに、監獄か何かの説明みたいでしたよね……」


「でしょ!? あんな場所、絶対に近づきたくないわ!」


 俺が「まだ実在する場所かどうかも分からないだろ」と返すと、コメリアは不満そうに頬を膨らませた。フォールはそんな俺たちを見て小さく笑い、一枚目の紙を机の中央に置く。


「ははは。では、改めて文章を確認してみましょうか」


 そこには、こんな文章が書かれていた。


――――――――――


『見渡す限りの地平線。そこは高い木製の遮蔽物と、鋭い棘のついた鉄条網で強固に囲まれていた。


 侵入者を防ぐためか、それとも中にいる者を閉じ込めるためか。風が吹くたび、木製の柵がギシギシと嫌な音を立てて軋む。


 泥と糞尿の匂いが混ざり合った独特の異臭が鼻をつく。ここでは常に何百という視線が蠢いており、時折、耳をつんざくほどの、悲鳴にも似た咆哮が響き渡る。』


――――――――――


 改めて読んでも、やっぱり監獄か何かの説明にしか見えない。高い柵に鉄条網、何百もの視線と悲鳴のような咆哮。これだけ物騒な言葉を並べられたら、普通はろくでもない場所を想像するだろう。


「……やっぱり監獄じゃないんですかね、これ。出題者が元暗号局長ってことを考えると、軍の収容施設とか……」


「えっ、軍の施設!? そんな危ない場所の問題を出してきたの!?」


「いや、あくまで予想だけどさ。鉄条網に何百もの視線って、どう考えても普通じゃないだろ」


「ふむ……。確かに、そう考えたくなる文章ですねえ」


 フォールは紙を眺めながら、どこか楽しそうに頷いている。軍の暗号を扱っていた人物が仕掛けた問題となれば、こういう物騒な文章もむしろ歓迎なのだろうか。


「ところでフォールさん、これって場所を当てる問題なんですか?」


「おそらくは。もっとも、何を答えればいいのか明記されていませんから、そこも含めて考える必要がありますねえ」


 場所の説明だけ渡されても困るんだけど……。そう思っている俺をよそに、フォールはますます楽しそうだ。


「チャミーはどう思う?」


『文章からは、広い敷地を柵で囲い、内部に多数の何かが存在している状況が読み取れます。ただし、現時点で施設の用途は特定できません』


 チャミーの分析も、監獄という推測を裏付けるものではなかった。ならば、別の可能性を考えるべきなのだろうが、俺にはそれらしい場所が思い浮かばない。


「うーん……。やっぱり監獄くらいしか思いつかないんだけど……」


「じゃあ、監獄で決まりじゃない!」


「いや、そう簡単に決めていいのか? わざわざ暗号局長が出してきた問題なんだろ?」


「何よ。自分で監獄って言ったくせに!」


「候補として言っただけだって!」


 コメリアは納得していない様子だったが、フォールは俺の言葉に興味を示したらしく、机の上の紙を指で軽く叩いた。


「クニタカ君の言うことにも一理ありますねえ。あの方が、ただ見たままの答えを求める問題を出すとも思えませんし」


 フォールは冒頭の一文へ視線を戻した。


「まず、『見渡す限りの地平線』とありますねえ。ずいぶん開けた場所のようですが……」


「でも、柵で囲まれてるんでしょ? だったら外は見えないんじゃないの?」


「柵の高さや形にもよるでしょうねえ。それに、広い敷地を囲っているのなら、中から遠くまで見渡せることもあるでしょう」


「……監獄にしては、ずいぶん広そうですね」


 俺はもう一度、問題文を目で追った。木製の遮蔽物、鉄条網、泥と糞尿の匂い。監獄という先入観を捨ててみると、妙に気になる箇所がある。


 何百という視線。


 ……そういえば、これって誰の視線なんだ?


「フォールさん、ちょっといいですか?」


「はい、何でしょう?」


「ここに何百もの視線があるって書いてますけど、別に人間がいるとは書いてないですよね?」


「おや……」


 フォールが紙へ目を落とすと、コメリアも横から覗き込んだ。


「えっ? でも、視線って……あっ、そうか。人間じゃなくても目はあるわよね!」


『そのとおりです。本文中に、視線の主が人間であるという記述はありません』


「しかも、最後にあるのは悲鳴みたいな咆哮だし……これ、人間じゃなくて動物がいる場所なんじゃ?」


「動物……。あっ、じゃあ猛獣とか!?」


「何でいきなり猛獣なんだよ!」


「だって、怖い声がするんでしょ!? そんなのが何百匹もいたら怖いじゃない!」


「……まあ、それは確かに怖いけどさ」


 コメリアの想像に呆れつつも、言われてみれば否定する材料もない。俺が返事に詰まっていると、フォールがくすりと笑った。


「ははは。なかなか賑やかな場所になりそうですねえ」


「いや、笑い事じゃないですよ。そんな場所が本当にあったら、近づきたくもないですって」


 フォールはそれ以上何も言わず、楽しそうに紙へ視線を戻した。


 俺もつられて問題文を読み直す。何百もの視線。悲鳴のような咆哮。そして、泥と糞尿の匂い。


 ……そうか。何も人間や猛獣を閉じ込めている必要はない。


 柵で囲まれた広い土地に、たくさんの動物がいる場所。しかも、そんな場所の話をついさっき聞いたばかりじゃないか。


「……牧場?」


「えっ! 牧場!?」


 コメリアが目を丸くする一方で、フォールは満足そうに頷いた。


「ははは。私も、その可能性が高いと思いますよ」


「いやいや、ちょっと待ってください! これ、牧場の説明なんですか!?」


「そう考えれば、書かれている内容にも無理はなさそうですねえ」


 俺は問題文を改めて見直した。木製の柵も鉄条網も、家畜を囲っているものだと考えればおかしくない。何百もの視線は牛や馬、咆哮は鳴き声。泥や糞尿の匂いに至っては、むしろ牧場らしい特徴とも言える。


 ……確かに全部つながる。つながるんだけどさ。


「何で牧場をこんな恐ろしい場所みたいに書くんですかね!?」


「それが問題だからでしょ?」


「いや、そうなんだけど! もうちょっと書き方ってものがあるだろ!」


「ははは。普通に説明してしまったら、すぐに答えが分かってしまいますからねえ」


 何だか釈然としない。最初は監獄にしか見えなかった文章が、牧場だと分かった途端、まるで違う光景に思えてくるのだから不思議なものだ。


「でも、パパ。牧場って分かったところで、どうするの?」


「いや、ちょっと待てよ。そもそも、この問題を出したのって隣町の牧場のおじいちゃんだろ?」


「そうよ? それがどうしたの?」


「だったら、答えはそのおじいちゃんの牧場に来いってことじゃないのか?」


「あっ! そういうこと!?」


 コメリアがぱっと顔を上げた。フォールも感心したように頷いている。


「ははは。なるほど。確かに、それなら話がつながりますねえ」


「もう! それなら最初から遊びに来いって言えばいいのに!」


「いや、ほんとそれな!」


「ははは。あの方らしいと言えば、あの方らしいですねえ」


 フォールは楽しそうに笑ったが、俺としては少々複雑だ。元暗号局長がわざわざ三枚も問題を用意して、最初の答えが自分の牧場への招待とは……。ずいぶんと回りくどいことをするものだ。


「じゃあ、さっそく行ってみる?」


「いやいや、まだ二枚残ってるだろ。行ったところで何をすればいいのか分からないぞ」


「あっ、そうだった!」


「そうですねえ。まずは残りの問題も解いてからにしましょうか。何か別の指示が隠されているかもしれませんし」


 机の上には、馬に乗った人物の絵と、英文に数字が並んだ紙が残っている。出題者がわざわざ三枚用意した以上、残りもただのおまけというわけではないだろう。


 フォールは一枚目を机の端に寄せ、今度は馬に乗った人物の絵が描かれた紙を手に取った。


「さて、次はこちらですねえ」


「よーし! 今度こそ、あたしが先に解いてみせるんだから!」


「おっ、やる気だな」


「当たり前でしょ! さっきはクニタカに先を越されたんだから!」


 コメリアは勢いよく身を乗り出し、二枚目の紙を覗き込んだ。


「……で、何で馬なのよ?」


「いや、それはこっちが聞きたいよ……」


 どうやら、次の問題も一筋縄ではいかなさそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。