↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転移したので、相棒のAIと謎解きを始めます~AI探偵の異世界迷推理~  作者: 土瓶蒸しの謎
第四幕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/69

最後のひと手間


 改めて鍋の中を確認すると、野菜に肉、ほかにもいろいろな具が入っている。どれもしっかり煮込まれているようだが、大きさはまちまちで、ひと口では少し大きそうなものもあった。


「ローズさん、まずは大きい具を少し取り出してみましょうか。包丁とまな板をお借りしてもいいですか?」


「ええ、もちろん。こちらを使ってください」


「ありがとうございます。あ、それと……ローズさんにも一緒にやってもらおうと思うんですけど、いいですか?」


「私が、ですか?」


「はい。普段作るのはローズさんですし、覚えてもらった方がいいかなって。まあ、そんな大したことはしないんですけどね」


「ふふっ。そんなことありませんよ。ぜひ教えてください」


 ローズは嬉しそうに包丁を用意してくれた。俺は鍋から大きめの具を取り出し、まず肉を細かく刻んでいく。野菜の方は十分に柔らかくなっていたので、試しに木べらで押してみると、思ったより簡単に崩れた。


「ほら、こういう野菜なら、わざわざ切らなくても潰せそうですね。ローズさん、ちょっとやってみますか?」


「あら、本当。……これくらいでいいんでしょうか?」


「ええ、いい感じです。大きな塊が残らないようにしていけば、だいぶ食べやすくなると思いますよ」


 最初は遠慮がちだったローズも、慣れてくると手際よく野菜を潰し始めた。俺が肉を刻んでいる間に、取り出した野菜はほとんど形がなくなっている。


「……あら、これなら私にもできそうですね。もっと難しいことをするのかと思っていました」


「でしょう? 毎日作るものですし、あんまり手間が掛かるのも大変ですから」


「そうですね。私、あの子のためなら何でもしてあげたいと思っていましたけど……これなら、無理なく続けられそうです」


 ローズはそう言って、残っていた野菜にも手を伸ばした。


 こういう作業は、やり始めると意外と楽しい。具の状態を見ながら、どうすれば食べやすくなるか考えるのも、久しぶりに料理をしている感じがして悪くなかった。


「クニタカ、なんだか楽しそうね」


 いつの間にか隣に来ていたコメリアが、俺の手元を覗き込んでいた。


「そうか? まあ、こういうのは嫌いじゃないけど」


「ふーん。さっきまで難しい顔してたのに、料理を始めたら急に元気になっちゃって。探偵助手より料理人の方が向いてるんじゃない?」


「おいおい。俺の助手としての評価、そんなに低いのか?」


「そこまでは言ってないわよ。……今のところはね!」


「最後の一言が余計なんだよ!」


『都尊さん。調理にも観察力や判断力が必要です。探偵助手としての適性と、必ずしも無関係ではありません』


「いや、チャミー。今はそういう話じゃないんだけど……」


「ほら! チャミーも料理には頭を使うって言ってるじゃない!」


「いや、そういう意味でもないだろ!」


 コメリアは得意げに笑い、ローズまで口元を押さえている。どうやら二人とも、俺をからかう余裕が出てきたらしい。


 まあ、ローズが少し楽しそうにしているのはいいことだ。俺も気を取り直し、細かくした具を鍋へ戻していった。


「ローズさん、もう少し煮込んでも大丈夫ですか?」


「ええ。まだ時間はありますから」


「じゃあ、少し火にかけながら様子を見ましょうか。あ、底の方が焦げつかないように、混ぜてもらっていいですか?」


「はい。任せてください」


 ローズが鍋を混ぜている間に、俺は残った大きめの具を刻み、順番に戻していった。具が細かくなったせいか、全体に少しとろみが強くなってきたので、水を少しずつ足して調整する。


「……あら」


 ローズが手を止め、鍋の中を覗き込んだ。


「同じスープなのに、こんなに変わるんですね」


「材料はほとんど変えてませんからね。あとは味がどうなってるかですけど……」


「私、なんだか不思議な気分です。今までずっと作ってきたスープなのに、こんなやり方があったなんて」


 ローズは木べらを持ったまま、しばらく鍋を見つめていた。


「……メリーにも、これを見せてあげたいですね」


 その言葉に、俺は少しだけ手を止めた。


「そうですね。食べてくれるかどうかは分かりませんけど……」


「ええ。分かっています。あの子に無理をさせるつもりはありません。ただ、今度は少し違うものを作ってあげられると思うと、嬉しくて」


 ローズは照れたように笑うと、再び鍋をゆっくり混ぜ始めた。


 さて、そろそろ味を確かめてみるか。


「ローズさん、小皿を借りてもいいですか?」


「ええ、今お持ちしますね」


 小皿に少し取り、冷ましてから口に運ぶ。


 ……うん、悪くない。


 水を足した分、少しあっさりした味になっているが、元のスープがしっかり作られていたおかげで、十分においしい。


「ローズさんもちょっと飲んでみてください」


「はい。……あら?」


 ひと口飲んだローズは、驚いたように小皿を見つめた。


「おいしい……。いつものスープの味なのに、ずいぶん口当たりが違いますね」


「よかった。元がおいしかったからですよ。俺は具を細かくしただけですし」


「でも、私はこんなこと考えもしませんでした。栄養を取ってほしくて、あれもこれも入れて……。それがかえって食べにくくなっていたなんて」


「あっ、いや、そこまで気にしなくても……。食べやすさって人によって違いますし、これだってメリーさんに合うかどうかは分かりませんから」


 ローズが少し不安そうな顔になったので、俺はジャンへ目を向けた。


「先生、どうでしょう? さっきよりは食べやすそうになったと思うんですけど」


「そうですね。少なくとも、見た目はずいぶん変わりましたね」


 ジャンは鍋を覗き込み、俺が差し出した小皿を受け取った。


「……なるほど。口当たりも柔らかくなっています。ただ、今のメリーさんに合うかどうかは、やはり診察してから考えたいところです。食事の量も含めて、無理はできませんからね」


「はい。そこは先生にお願いします」


「ええ。ローズさんも、あまり焦らないでください。食べられなかったとしても、がっかりしすぎないように」


「……はい。先生のおっしゃるとおりですね」


 ローズは小皿を置き、ジャンに向かって小さく頭を下げた。


「でも、今日はいろいろ教えていただけて、本当によかったです。私一人では、きっと同じことを繰り返していたと思いますから」


「そんな、大げさですよ。俺も思いついたことを試してみただけですし」


「ふふっ。それでも、私には大きなことなんですよ」


 そう言って笑うローズに、俺は何と返せばいいか分からず、曖昧に笑ってごまかした。


 ……さて。なんだか照れくさくなってきたし、そろそろ別の話にしよう。


「じゃあ、せっかくですから、皆さんにも味を見てもらいましょうか」


「待ってました!」


 真っ先に声を上げたのは、もちろんコメリアだった。


「……お前、ずっとそれ待ってただろ」


「違うわよ! ちゃんとおいしくできたか確認してあげるの!」


「はいはい。じゃあ、味見係さんからどうぞ」


「もう! その言い方、なんか腹立つ!」


 文句を言いながらも、差し出した器はしっかり受け取る。ローズにも手伝ってもらい、フォールとジャンにも少しずつ取り分けると、コメリアは待ちきれない様子でスープを冷まし始めた。


「……あ、おいしい! ねえ、これ、本当にさっきのスープなの?」


「そうだよ。別に新しい料理を作ったわけじゃないからな」


「へえー! クニタカ、やるじゃない! ちょっと見直したわ!」


「ちょっとだけかよ……」


 フォールもゆっくり味わい、満足そうに頷いた。


「ええ、おいしいですねえ。ローズさんのスープの味も、ちゃんと残っていますよ」


「ありがとうございます。私も、これなら自分で作れそうです」


「それは何よりです。クニタカ君も、なかなかの腕前じゃありませんか」


「いやいや、ほとんどローズさんが作ったものですから。俺はちょっと手を加えただけですよ」


「ははは! では、お二人の合作ということにしましょうか」


 ローズが嬉しそうに笑い、コメリアも何度も頷いている。ジャンも味については問題なさそうだと言ってくれたし、ひとまずは成功だろう。


 メリーが食べてくれるかどうかは、まだ分からない。でも、ローズがこれから試せることが一つ増えた。それだけでも、やってみた甲斐はあったと思う。


「……よし。じゃあ、これで完成ってことで!」


 俺がそう言った、そのときだった。


 ピロン♪


「……ん?」


 聞き覚えのある通知音に、ポケットからスマートフォンを取り出した。画面には、いつもの形式で短い文章が表示されている。


『フォースゲーム「クッキング・タイム」クリア』


 …………は?


 クッキング・タイム?


 いや、ちょっと待て。


 俺はもう一度画面を見直したが、表示されている文字は変わらない。


『都尊さん。ゲームクリアの通知を確認しました』


「……チャミー」


『はい』


「今回のゲームって、消える食事の謎を解くんじゃなかったのか?」


『そのような達成条件は、通知されていません』


「いや、そうだけどさ! じゃあ、今までの調査は何だったんだよ!」


『調査によって、食事の所在に関する疑問は解消されました。ゲームの達成条件とは別の問題です』


「……お前、そういうところ本当に容赦ないよな」


 確かに、チャミーの言うとおりだ。そもそもゲームの内容を勝手に推理ものだと決めつけたのは俺たちだし、消える食事の謎だって、ちゃんと解決している。


 ……でも、それとこれとは話が別だろ!


「ちょっと、クニタカ! さっきから何を騒いでるのよ?」


 コメリアに声を掛けられ、俺はようやく顔を上げた。フォールも何事かとこちらを見ている。


「あー……どうやら、ゲームをクリアしたらしい」


「えっ、本当!?」


「おお! それはよかったですねえ、クニタカ君!」


 フォールが嬉しそうに声を上げたが、俺としては素直に喜べない。


「いや、よくない……いや、よくはあるんですけど!」


「どっちなのよ!」


「だって、今回のゲームの名前……『クッキング・タイム』なんですよ!」


「……クッキング?」


 コメリアは目を丸くしたあと、ゆっくり鍋へ視線を向けた。


「……もしかして、今の料理?」


「そうとしか思えないだろ……」


 俺が力なく答えると、フォールは一瞬きょとんとしたものの、やがて声を上げて笑い始めた。


「はははは! なるほど、そういうことでしたか! いやあ、これは一本取られましたねえ!」


「笑い事じゃないですよ、フォールさん! こっちは真面目に消える食事の謎を解いてたんですよ!? それがなんで料理でクリアなんですか!」


「ですが、クニタカ君。その謎を調べたからこそ、こうしてローズさんのスープを工夫することになったのでしょう? 無駄ではなかったと思いますよ」


「それはそうですけど……!」


「それに、ローズさんも喜んでいらっしゃるじゃありませんか」


 そう言われて振り返ると、ローズが困ったように笑っていた。


「あの……ゲームのことはよく分かりませんけど、私は本当に助かりました。ありがとうございます、皆さん」


「あっ、いえ! こちらこそ、勝手に台所を使わせてもらって……」


「ふふっ。そんなこと、気にしないでください」


 ローズの笑顔を見てしまうと、これ以上文句を言うのも何だか気が引ける。


 まあ、確かに悪い結果じゃない。消える食事の謎は解けたし、ローズも少し前向きになってくれた。ゲームだって、ちゃんとクリアしている。


 ……でもなあ。


 俺は改めてスマートフォンを見下ろした。そこには相変わらず、『クッキング・タイム』の文字が表示されている。


 謎を解いたら終わりだと思っていたのに、まさか最後にスープを作らされるとは。


 これ、探偵の仕事じゃなくて料理番組だろ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。