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異世界に転移したので、相棒のAIと謎解きを始めます~AI探偵の異世界迷推理~  作者: 土瓶蒸しの謎
第四幕

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答え合わせ


 ジャンを伴って再びローズの家を訪ねると、扉を開けた彼女は俺たちの顔を見回し、最後にジャンのところで視線を止めた。


「あら、皆さん。ジャン先生まで……。もしかして、メリーに何か?」


「いえ、何かあったわけではないんです。ですが、少し気になることを聞きましてね。突然で申し訳ありませんが、お時間をいただけますか?」


「もちろんです。さあ、どうぞ」


 ローズは俺たちを居間へ通したものの、ジャンが椅子に腰を下ろすまで、落ち着かない様子でその顔を見ていた。


「先生、気になることというのは……やっぱり、夜中のことでしょうか?」


「ええ。ローズさん、メリーさんが夜中に出歩いているとき、いつもどうされているんですか?」


「どう、と言われましても……。あんな様子で歩かせておくのは心配ですから、声を掛けて休ませていますけど……」


 ローズは困ったように答えた。ジャンがさらに尋ねようとしたところで、フォールがそっと口を挟む。


「ローズさん。先ほどのお話で、一つだけ確かめたいことがあるんです。メリーさんを『あの子の部屋』へ入れてあげるとおっしゃっていましたよね?」


「ええ」


「あれは、どちらのお部屋でしょう?」


「どちらって……うちに用意してある部屋ですけど?」


 ローズはきょとんとした顔をした。


 やっぱり。


 フォールは俺と目を合わせると、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。


「なるほど。もしよろしければ、そのお部屋を見せていただけませんか?」


「ええ、構いませんよ。……でも、どうして?」


「それは、お部屋を拝見してからお話ししましょう」


 案内されたのは、居間から廊下を進んだ先の一室だった。


 扉が開いた途端、思わず足が止まる。寝台に小さな棚、その置かれた位置まで、先ほど訪ねたメリーの部屋によく似ていた。


「……本当にそっくりだな」


「でしょう?」


 ローズは少し照れたように笑い、寝台の端に手を添えた。


「いつか、あの子が一緒に暮らしてくれたらと思って。知らない部屋では落ち着かないでしょうから、できるだけ同じようにしたんです」


「ここまで揃えられたんですか。メリーさんには、もう見せていらっしゃるんでしょうか?」


 ジャンが尋ねると、ローズは首を横に振った。


「いいえ。勝手に用意したなんて知ったら、あの子、きっと気を遣ってしまいますから……」


 そう言って、きれいに整えられた寝台を見つめた。


「夜中に見かけたときも、ここで休むように言うだけなんです。変に話しかけて、驚かせてもいけないと思って」


「それで、二、三時間ほどすると、また外へ出てくるんですね?」


「ええ。そうしたら今度は、あの子の家に戻るように言っています。心配なときは、家の前まで一緒に行きますけど……先生、私のしていること、何かいけなかったでしょうか?」


 ローズの声が小さくなった。


「いえ。むしろ、夜中に一人で歩かせずにいてくださったことは、ありがたいと思っています。ただ、そのときのメリーさんの状態は、一度きちんと確認しなくてはいけませんね」


 ジャンの返事を聞いて、ローズは少しだけ肩の力を抜いた。


 これで「あの子の部屋」と「あの子の家」の違いは確かめられた。あとは、食事を見た場所だ。


「ローズさん、夜中にメリーさんがこちらにいる間、キッチンへ行くことはありますか?」


「キッチン? ええ、ありますよ。部屋から出てきたときに、そちらへ歩いていくこともありますけど……」


「そのとき、テーブルにはスープとパンが?」


「ええ、いつも用意していますけど……それが何か?」


 ローズは不思議そうに首を傾げた。


「実は、メリーさんから少し変わったお話を聞いていましてね」


 フォールが口を開いた。


「夜中に目を覚ますと、家のテーブルに食事が用意されている。ところが、翌朝になると跡形もなく消えているそうなんです」


「まあ……そんなことが?」


 ローズは驚いた様子で目を見開いた。


「それで、私たちも不思議に思って調べていたんですが……」


 フォールが俺に目を向けたので、その先を引き取った。


「たぶん、メリーさんが見たのは、ローズさんの家にあった食事なんです」


「うちの……?」


「はい。夜中は意識がはっきりしていなかった可能性がありますし、お互いの家もよく似ていますから。自分の家にいると思い込んでいたのかもしれません」


 ローズはしばらく俺たちの顔を見回していたが、やがて小さく息を吐いた。


「そうだったんですね……。私、あの子がそんなふうに思っていたなんて、全然……」


「でも、ローズさん!」


 コメリアが身を乗り出した。


「メリーさんが心配だったから、お部屋に入れてあげてたんでしょう? それに、食事だって、いつ来てもいいように用意してたんですよね?」


「ええ。それは、もちろん……」


「だったら、ちゃんと話してあげましょうよ。メリーさん、きっと知らないんですよ。ローズさんがどれだけ心配してるか」


 ローズは困ったように微笑んだ。


「そうできたらいいんですけどね。あの子、私が何かしようとすると、すぐに遠慮してしまうから……」


「だからって、何も言わないままじゃ伝わらないじゃないですか!」


「メリア」


 フォールが穏やかに声を掛けると、コメリアは口をつぐんだ。それでも、ローズを見つめる目は真剣なままだ。


「……ごめんなさい。でも、私、もったいないと思うんです」


「いいえ。ありがとう、コメリアさん」


 ローズはそう答えたものの、まだ何か言いかけているようだった。


 その様子を見て、ジャンが静かに口を開いた。


「ローズさん。私からも、お話ししておきたいことがあります」


「はい……」


「メリーさんのことを、これから一緒に考えていただけませんか?」


 ローズが顔を上げた。


「……私で、いいんですか?」


「もちろんです。むしろ、お願いしたいんですよ。私は診察であの子の状態を確認できますが、普段の暮らしまで見てあげることはできませんから」


「そんな……先生にお願いされるようなことじゃありません。あの子のためなら、私……」


 勢いよく答えかけたローズは、途中で言葉を飲み込んだ。


「……でも、メリーが嫌がったら、どうしましょう」


「そのときは、無理をしないことです。私も、あの子が何を望んでいるのか、もう少し話を聞いてみようと思っています」


「そう、ですね……」


 ローズは何度か頷いたあと、ジャンに向き直った。


「先生。私、あの子に元気になってほしいんです。前みたいに笑って、好きなものを食べて……。でも、何かしてあげようとするたびに、かえって困らせてしまう気がして」


「ええ。私も、どうすればいいのか迷うことがあります。ですから、一人で抱えずに相談してください」


 ジャンがそう言うと、ローズはようやく小さく笑った。


「……ありがとうございます。私でできることなら、何でも言ってください」


「よかった!」


 コメリアが嬉しそうに声を上げる。


「ほら、パパ! やっぱり来てよかったじゃない!」


「ははは。そうですね、メリア」


 フォールは娘の勢いに苦笑しながらも、満足そうだった。


 その後、俺たちは居間へ戻り、ジャンとローズが今後のことを相談するのを聞いていた。夜中の行動についてはジャンが改めて確認し、食事のこともメリーの様子を見ながら進める。ローズも、できるだけ力になりたいと何度も頷いていた。


 話が一段落したところで、ローズが何かを思い出したように立ち上がった。


「そうだわ、先生。せっかくですから、ちょっと見ていただきたいものがあるんです」


「何でしょう?」


「メリーのために作っているスープなんですけど……。これでいいのか、ずっと気になっていて」


 案内されたキッチンでローズが鍋の蓋を開けると、野菜や肉など、いろいろな具がたっぷり入ったスープが現れた。


「少しでも栄養を取ってほしくて、いろいろ入れてみたんです。あの子、昔はこういうものも好きだったんですよ」


 ローズは鍋を覗き込み、少し寂しそうに笑った。


 確かに、おいしそうだ。これにパンでも添えれば、俺なら喜んで食べるだろう。


 ……俺なら、だけど。


「クニタカ、どうかしたの?」


「いや、ちょっと気になってさ」


 コメリアにそう答えると、ローズが不安そうにこちらを見た。


「何か、よくないものでも入っていましたか?」


「あっ、いえ! そういうことじゃないんです。ただ……」


 俺はもう一度、鍋の中を覗き込んだ。


 具はどれもしっかり煮込まれているようだが、大きさはまちまちだ。普通に食事ができる人なら問題ないだろうけど、今のメリーには、これを食べるだけでも大変なんじゃないだろうか。


 せっかくローズが作ってくれたものだ。何か、もう少し食べやすくできないかな。


「……ローズさん。ちょっと、試してみたいことがあるんですけど」


「試してみたいこと、ですか?」


「はい。このスープ、少し手を加えてもいいですか?」


 ローズは目を丸くした。


「ええ、もちろん構いませんけど……」


「クニタカ、何するつもり?」


 コメリアが横から覗き込んでくる。


「まあ、ちょっとした料理だよ」


「……料理? クニタカが?」


「なんだよ、その反応」


「だって、料理なんてできるの?」


「少しくらいはできるって!」


 俺が言い返すと、コメリアはますます面白そうな顔になった。


「へえー! じゃあ、お手並み拝見ね!」


 ……完全に見世物扱いだな、これ。


 ローズに目を向けると、彼女は鍋と俺を交互に見て、少し笑った。


「それなら、ぜひお願いします。私にもできることがあれば、お手伝いしますから」


「ありがとうございます。じゃあ、ちょっと台所をお借りしますね」


 俺は袖をまくり、改めて鍋の前に立った。


 さて。


 久しぶりに、料理でもしてみるか。

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