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異世界に転移したので、相棒のAIと謎解きを始めます~AI探偵の異世界迷推理~  作者: 土瓶蒸しの謎
第四幕

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何もないテーブル


 翌日、俺たちは約束どおりメリーの家へ向かうことになった。


 事務所を出る前、コメリアはフォールの机に残っている書類を一瞥したものの、何も言わずに扉へ向かった。昨日あれだけ念を押していたのに、今日は見逃してくれるらしい。


 もっとも、帰ってきてからどうなるかは分からないけどな。


「クニタカ、何してるの? 早く行くわよ!」


「ああ、今行く!」


 俺が慌てて後を追うと、フォールはいつものように笑いながら事務所の鍵を掛けた。


        ◇


 メリーが暮らすアパートに到着すると、コメリアは建物を見上げた。


「ここね。それじゃ、行きましょう!」


 そう言ってコメリアが入口へ向かおうとした、そのときだった。


 ポケットの中でスマートフォンが振動した。


 取り出して画面を確認すると、そこには見覚えのある文字が表示されていた。


『ゲームスタート』


「……あ」


 また始まった。


『都尊さん。新しいゲームの開始通知です』


「ああ、見たよ」


「クニタカ? どうしたの?」


 振り返ったコメリアに、俺はスマートフォンをポケットへ戻しながら答えた。


「ゲームが始まったみたいだ」


「えっ、今? じゃあ、今回も神様のゲームなの?」


「そういうことらしい。でも、何が問題なのかまでは分からないな」


「おやおや。今回も始まりましたか」


 フォールは相変わらずのんびりした口調だったが、コメリアは少し考え込むように腕を組んだ。


「でも、昨日は何も起きなかったじゃない。どうして今日なのかしら?」


「さあな。俺にも分からないよ」


『通知の時点から、ゲームの対象や達成条件を判断することはできません』


「まあ、そうだよな」


「だったら、考えてても仕方ないわね。早くメリーさんのところに行きましょう!」


 コメリアはそう言って歩き出した。


 ……切り替えが早いな。


 とはいえ、ここで立ち止まっていても仕方がない。俺たちは予定どおり、メリーの部屋へ向かった。


        ◇


 扉を叩くと、ほどなくしてメリーが顔を出した。


「あ、皆さん。こんにちは」


「こんにちは、メリーさん。昨日はどうも」


 フォールが穏やかに挨拶すると、メリーは軽く頭を下げた。


「わざわざ来ていただいて、すみません。どうぞ、お入りください」


 案内された部屋は、昨日メリーが心配していたほど散らかってはいなかった。テーブルや棚もきちんと片付けられていて、特に変わったところは見当たらない。


「昨日、少し片付けたんです。人をお招きするのも久しぶりなので……」


「そうでしたか。お気遣いいただき、ありがとうございます」


 フォールが礼を言うと、メリーは少し照れたように首を振った。


「いえ、そんな……。どうぞ、お掛けください」


 勧められた椅子に腰を下ろそうとしたところで、フォールが口を開いた。


「その前に、一つ伺ってもよろしいですか?」


「はい。何でしょうか?」


「昨夜はどうでしたか? また食事が現れましたか?」


 メリーは小さく頷いた。


「はい。昨夜もテーブルにスープとパンが置いてあったんです。でも、今朝起きたときには、やっぱりなくなっていて……」


「おやおや。昨夜もですか」


「はい。あの、私、本当に見たんです。何度も同じことを言っているようですけど……」


「ははは。疑っているわけではありませんよ。昨夜も同じことがあったと分かっただけでも、調べる手掛かりになりますからねえ」


「……はい」


 フォールは部屋の中央にあるテーブルへ目を向けた。


「ちなみに、スープとパンが置かれていたのは、こちらのテーブルでしょうか?」


「はい、そうです」


「少し拝見しても?」


「ええ、どうぞ」


 俺もテーブルに目を向けた。今は普段使っているらしい小物が置かれているだけで、食事があったことを示すようなものは見当たらない。


「メリーさん、食事を見たとき、部屋の明かりは点いていましたか?」


「明かり、ですか? ええと……すみません。そこまでは覚えていなくて」


「いえいえ、構いませんよ。では、食事のほかに、普段と違うものがあったかどうかは覚えていらっしゃいますか?」


 メリーは少し考えてから、首を横に振った。


「いいえ。スープとパンのことしか……」


「そうですか。ありがとうございます」


 フォールはそれ以上追及せず、部屋の中へ視線を巡らせた。


 それにしても、食事が置かれていたというテーブルを実際に見ても、特におかしなところはない。誰かが持ち込んだのなら、玄関から入ってきたことになるんだろうけど……。


「フォールさん、昨日の鍵の話なんですけど。誰かが部屋に入った可能性もありますよね?」


 俺が尋ねると、フォールはゆっくりと頷いた。


「ええ。ただ、そうなると、なぜ食事だけを置いていったのかが気になりますねえ」


「それなら、別の方法も考えられるんじゃない?」


 横から声を掛けてきたのはコメリアだった。


「別の方法?」


「誰かが入ったんじゃなくて、食事だけを運んだってことよ。転移魔法を使ったなら、鍵は関係ないでしょう?」


 ……なるほど。そういう考え方もあるのか。


 俺の世界なら真っ先に除外する話だけど、ここでは魔法が実際に存在している。


「でも、そんなことができるのか?」


「空間転移はあるわよ。ただ、実際に使うとなると大掛かりな魔道具が必要になるし、スープとパンを運ぶためだけに使うとは思えないけどね」


「じゃあ、可能性は低いってことか?」


「まあね。でも、絶対に違うとも言い切れないでしょ? 調べるだけ調べてみてもいいんじゃない?」


 コメリアはフォールへ目を向けた。


「パパ、魔力紋を確認してみてもいい?」


「ええ。メリーさんに許可をいただけるなら、お願いします」


 コメリアはメリーに向き直ると、少し姿勢を正した。


「メリーさん、お部屋に魔法が使われた痕跡がないか、確認させてもらってもいいですか?」


「魔法の痕跡、ですか?」


「ええ。何か分かるかもしれませんので」


「そうなんですね……。はい、お願いします」


 メリーが頷くと、コメリアは部屋の中を確認し始めた。


 俺には何を見ているのか分からないけど、魔法が使われた場所には魔力紋という痕跡が残るらしい。以前にも聞いたことはあるが、こうして実際に調査するところを見ると、改めて異世界なんだなと思う。


「……うーん」


 しばらくして、コメリアが首を傾げた。


「どうした?」


「今のところ、魔力紋は見つからないわね」


「じゃあ、転移魔法じゃなかったってこと?」


「そう考えてよさそうね。転移先にも魔力紋は残るはずだから、昨夜使われたなら、今でも確認できるはずよ」


「なるほど……」


 大掛かりな魔道具が必要なうえに、魔法の痕跡もない。少なくとも、転移魔法で食事が運ばれてきたという線は薄そうだ。


 メリーはコメリアが調べていた場所へ目を向けた。


「あの……魔法で食事が運ばれてきたということなんでしょうか?」


「その可能性を調べてみただけですが……メリア」


 フォールに促され、コメリアが頷いた。


「今のところ、魔法が使われた痕跡は確認できませんでした。ほかの可能性も調べてみる必要がありますね」


「そうですか……」


 メリーは静かに頷いた。


「ところで、メリーさん。叔母様はこのアパートにお住まいでしたねえ」


 フォールが話題を変えた。


「はい。すぐ近くですけど……」


「もしよろしければ、叔母様にも少しお話を伺えませんか?」


「叔母に、ですか?」


「ええ。普段のメリーさんのご様子について、何かご存じかもしれませんので」


「そうですね……。叔母なら、私が気づいていないことも知っているかもしれません」


「では、叔母様のお部屋を教えていただけますか?」


「はい。同じ階の、廊下を少し進んだところです」


 メリーが教えてくれた場所を確認すると、フォールは穏やかに頷いた。


「ありがとうございます。では、今日はこのあたりで。何か分かりましたら、またご連絡しますねえ」


「はい。よろしくお願いします」


 俺たちはメリーに礼を言って部屋を後にした。


 廊下に出ると、フォールは教えられた方へ歩き出した。俺とコメリアもその後に続き、ほどなくしてローズの部屋の前に到着した。


 フォールが扉を叩いた。


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