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異世界に転移したので、相棒のAIと謎解きを始めます~AI探偵の異世界迷推理~  作者: 土瓶蒸しの謎
第四幕

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医師が運んできた相談


 探偵事務所に来てから、俺は一つ分かったことがある。


 探偵の仕事というのは、事件を調べたり、謎を解いたりするだけじゃない。依頼の記録をまとめたり、経費を計算したり、そういう地味な仕事も結構多いらしい。


 そして、そういう仕事を誰が一番頑張っているかというと……。


「パパ! そっちの書類、まだ終わってないの!?」


「おや、メリア。もう少しですよ」


「さっきもそう言ってたじゃない!」


 ……まあ、言うまでもないか。


 俺が机に向かって書類を確認している間、コメリアは事務所の中を忙しそうに動き回っていた。一方のフォールは、ソファに腰掛けたまま手元の書類を眺めているものの、仕事は一向に進んでいないようだった。


「フォールさん、それ、まだ見てるんですか?」


「いえいえ、こういうものは慎重に確認しませんとねえ。慌てて間違いでもあったら大変でしょう?」


 そう言ってフォールは、ゆっくりとお茶を一口飲んだ。


 ……いや、慎重なのとお茶を飲むのは関係ないだろ。


「チャミー、こういう場合って、どうしたらいいと思う?」


『都尊さん。作業を小分けにして、一つずつ完了させる方法が考えられます』


「なるほどなあ。じゃあ、まず一枚だけでも終わらせてもらうとか?」


『はい。作業の進捗を確認しやすくなると思われます』


「……クニタカ君、チャミーさん? お二人とも、私が仕事をしていないようなお話をされていますねえ」


 フォールが困ったように笑ったが、そこへコメリアがすかさず割り込んできた。


「そうよ! チャミーの言うとおり、一枚ずつ片付けていけばいいのよ! パパ、まずそれを終わらせて! 終わったら次のを渡すから!」


「ははは。分かりましたよ、メリア」


 ようやく書類に目を落としたフォールを見て、俺も自分の仕事に戻ることにした。


 しばらくすると、隣からコメリアがチャミーに話しかける声が聞こえてきた。


「ねえ、チャミー。ここの数字なんだけど、さっきの書類と合ってない気がするのよね」


『比較する数値を教えていただけますか?』


「ええとね……」


 コメリアは書類を見比べながら、チャミーに説明を始めた。


 チャット機能が使えるようになってからというもの、コメリアはすっかりチャミーとの会話に慣れたらしい。以前なら俺が間に入っていたような相談も、今では二人だけで進んでいく。


 おかげで俺の手間は減ったはずなんだが、どういうわけか、仕事そのものが楽になった気はしない。


「……クニタカ?」


「ん?」


「そこ、もう終わったの?」


「あ、いや、まだだけど……」


「だったら手を動かして!」


「はいはい……」


『都尊さん。集中して作業されることを推奨します』


「……お前まで言わなくてもいいだろ!」


 コメリアが笑い、フォールも書類から顔を上げて楽しそうに笑った。


 まったく、いつの間にかチャミーまでコメリアの味方になってるし……。


 そんなことを考えていると、玄関の方から来客を知らせる音が聞こえてきた。


「あら、お客様かしら? 私が出るわ。パパ、その間にちゃんと進めておいてよ!」


「もちろんですよ、メリア」


 コメリアが部屋を出ていくと、フォールは手にしていた書類を机に置き、カップに手を伸ばした。


「フォールさん、仕事はいいんですか?」


「ははは。お客様がいらしたのなら、そちらを優先しませんとねえ」


「いや、まだ依頼人かどうかも分からないでしょう?」


「それもそうですねえ」


 そう答えながら、フォールは平然とお茶を飲んでいる。


 ……絶対、休む口実にしてるだろ。


 しばらくして、廊下の方からコメリアの声が聞こえてきた。


「パパ! ゾンダイク先生がいらしたわ!」


「おや、ジャン先生ですか。珍しいですねえ。どうぞ、こちらへお通ししてください」


「分かったわ!」


 フォールはカップを置くと、座り直して身なりを整えた。さっきまでの様子とは打って変わって、来客を迎える準備に余念がない。


「フォールさん、お知り合いなんですか?」


「ええ。ジャン・ゾンダイク先生といいましてね。町でお医者さんをされている方ですよ。以前から何度かお世話になっているんです」


「へえ、お医者さんですか」


「ええ。少々心配性なところはありますが、とても親切な方ですよ」


 医者が探偵事務所に何の用だろう。単に顔を見せに来たのか、それとも何か相談でもあるのか。


 そんなことを考えているうちに、廊下から足音が近づいてきた。


「パパ、お連れしたわ」


 コメリアが扉を開け、その後ろから一人の男性が姿を現した。


「やあ、フォール。突然訪ねてきてすまないね。診察の合間に少し時間が取れたものだから」


「いえいえ、構いませんよ。ジャン先生、お久しぶりですねえ」


「久しぶり。元気そうで何よりだよ」


 フォールが立ち上がって迎えると、ジャンと呼ばれた医師も軽く頭を下げた。二人の様子を見る限り、単なる顔見知りというわけでもなさそうだ。


「どうぞ、お掛けください。お茶でもいかがですか?」


「ありがとう。ただ、その前に少し相談したいことがあってね」


「おや、何でしょう?」


 ジャンは席に腰を下ろすと、持参した書類を取り出した。何枚かを確認して順番を揃え、そのまま手元に持っている。


「実は、私が診ている患者のことで、少々気になることがあるんだ」


「患者さん、ですか?」


「ああ。診察のときの様子だけでは、どうにも分からないことがあってね。本人の話を疑っているわけではないんだが、実際にどんな生活を送っているのか、もう少し詳しく知りたいと思っている」


 ジャンは手元の書類に目を落とし、端が少しずれていた一枚を揃え直した。


「診察に来てくれる間は、私も様子を見ていられる。だが、それ以外の時間となるとね……。どうにも気になってしまって」


「なるほど。それで、私に調査を?」


「ああ。君には以前も世話になったからね。こういう頼み事ができる相手となると、真っ先に顔が浮かんだんだよ」


「ははは。それは光栄ですねえ。まずは詳しいお話を伺いましょう」


 フォールはそう言うと、ジャンが手にしている書類へ視線を向けた。


 どうやら今回は、何かが盗まれたとか、誰かが行方不明になったとか、そういう事件ではないらしい。


 患者の日常生活を調べる、か。


 でも、それだけのことで探偵に頼む必要があるんだろうか。医者がわざわざ相談に来るくらいだから、何か事情があるのかもしれないけど……。


 俺はジャンの手元にある書類を眺めながら、これからどんな話が始まるのか、少し気になっていた。

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