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異世界に転移したので、相棒のAIと謎解きを始めます~AI探偵の異世界迷推理~  作者: 土瓶蒸しの謎
第三幕

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怪盗の回答


 コメリアの放ったウォーターボールが、レッドリザードのウィンドカッターによって切り裂かれる。宙に広がった水飛沫は細かな雨となり、畑の野菜を優しく濡らしていった。


「ふはははは! どうしたどうした! 先ほどから同じ攻撃ばかりでは、わらわを捕らえることなどできぬぞ!」


「あら、そう? ずいぶん余裕じゃない。だったら、そろそろ違うのを見せてあげようかしら」


 コメリアは挑発するように笑うと、水球を生み出していた手を下ろした。


「おっ? ついに攻撃を変えるのか!?」


『都尊さん。これまでの攻防では、双方とも有効な攻撃を受けていません。戦術を変更するのは合理的な判断です』


「いや、そういう解説じゃなくて! もっとこう、いよいよ勝負が動くぞ! みたいな盛り上がりが欲しいんだよ!」


『戦術変更が勝敗に直結するとは限りません』


「だから、お前は実況に向いてないんだって!」


 俺がチャミーに突っ込んでいる間に、コメリアは足を軽く開き、両手を地面へ向けた。


 ……ん? 今度は地面?


「ふふっ。じゃあ、これはどうかしら!」


 コメリアが片手を振り上げると、レッドリザードの前方で地面が盛り上がり、土の壁が姿を現した。次の瞬間、その土壁が地面を滑るように、レッドリザードめがけて勢いよく迫っていく。


「うおおっ!? 今度は土魔法か! しかも壁が動いてるぞ!?」


「ふはははは! その程度でわらわを止められると思うたか! 甘い、甘いぞメリア!」


 レッドリザードは迫ってくる土の壁を見ても、まるで慌てる様子がない。むしろ待ってましたと言わんばかりにマントを翻すと、軽やかに地面を蹴り、そのまま宙へ舞い上がった。


「おおおっ! 跳んだああっ!」


 怪盗は空中で身体を丸め、くるりと宙返り。迫り来る土壁を鮮やかに飛び越えると、マントを大きく広げながら着地点へ向かって降りていった。


「ふはははは! 見たか! この大怪盗レッドリザードに、越えられぬ壁など存在せぬのじゃ!」


「いや、だから何で毎回そんなに格好つけるんだよ!」


『都尊さん。今回も通常の跳躍で十分に回避できた可能性があります』


「分かってる! もうそれは分かってるから!」


 有刺鉄線網といい、トリプルアクセルといい、この怪盗はどうして普通に突破するという選択肢を持っていないんだろう。


 だが、見事な宙返りを決めたレッドリザードが着地しようとした、その瞬間。コメリアの口元が、にやりと緩んだ。


 ずぼっ。


「……ぬ?」


 怪盗の片足が、地面に沈んだ。


 続いて反対の足も滑り、着地の勢いを受け止めきれなくなったレッドリザードの身体が、ぐらりと傾く。


「ぬおおおおおっ!?」


 べちゃっ!


 派手な水音とともに、レッドリザードが泥の中へ尻もちをついた。


「転んだあああああっ!?」


 さっきまであんなに華麗に宙返りしていた大怪盗が、今は泥の上に座り込んでいる。広げていたマントにも泥が跳ね、本人は何が起きたのか分からないといった顔で足元を見つめていた。


「な、何じゃこれは!? 地面が……泥になっておるではないか!」


「ふふん。やっと引っかかったわね。どう? 今度はちょっと驚いたんじゃない?」


 コメリアは得意げに笑うと、泥にはまった怪盗へ向かって歩き始めた。


「いやいやいや! ちょっと待て! 何が起きたんだ!?」


「いやあ、なるほど。そういうことでしたか」


 隣でフォールさんが感心したように頷いている。


「クニタカ君、先ほどまでの水魔法を覚えていますか?」


「え? あの、水やりになってたやつですか?」


「ええ。あの攻防で、通路にはずいぶん水がたまっていましたからねえ」


 言われて足元を見ると、確かにレッドリザードの周囲にはいくつもの水たまりができている。畑の野菜ばかり見ていたから気づかなかったが、魔法がぶつかるたびに降り注いでいた水は、通路の土も濡らしていたらしい。


「……あれ? ということは、まさか……」


「ははは。土壁に注意を向けさせて、その間に濡れた地面を泥状に変えたんでしょうねえ。見事に着地点を狙われましたね」


「……ええええっ!?」


 俺は思わずコメリアを見た。


 水魔法で攻撃しながら畑に水をまき、通路にも水をためておく。そして最後は土魔法で壁を迫らせ、怪盗が跳び越えた先を泥沼にしてしまう。


 つまり、あいつはこのために水たまりを作ってたってことか!?


「……農作業のついでに罠まで仕込んでたのかよ!」


『都尊さん。土壁による攻撃は回避されましたが、着地点の地盤を変化させることで、相手の行動を封じることに成功したようです』


「いや、それは分かったけど! あんなに派手な魔法の撃ち合いをしておいて、最後が泥で足を滑らせて転倒って!」


『有効な戦術であれば、決着方法の派手さは重要ではありません』


「さっきまで散々、派手な技を見せられてたんだぞ!?」


 そんな俺のツッコミをよそに、コメリアは泥にはまったレッドリザードの目の前までやって来た。腰に手を当て、勝ち誇ったように怪盗を見下ろす。


「はい、今回はこれで私の勝ち! 戦績もこれで3勝2敗5分け。ふふん、ようやく勝ち越しね!」


「……ぬ?」


 レッドリザードが顔を上げた。


「何を言っとる! わらわの方がまだ勝ち越しておるわ! ごまかすでない!」


「はぁ!? そっちこそごまかすんじゃないわよ! この前だって私が勝ったでしょ!」


「あれは勝ちではなかろう! わらわが退いたのは戦略的撤退じゃ!」


「逃げたんだから負けでしょ! いつまで言ってるのよ!」


「ぬぬぬ……! そなた、勝手に勝敗を決めおって! 断じて認めぬぞ!」


 ……何だ、この会話。


「あの、フォールさん……。あの二人、いつもこんな感じなんですか?」


「ははは。まあ、仲がいいですからねえ」


「……これで仲がいいんですか?」


 俺が呆れていると、老人が楽しそうに笑いながら近づいてきた。


「ほっほっほっ! いやあ、今回も実によい勝負じゃったのう、メリアちゃん!」


「ありがと、おじいちゃん! 最後はちょっと格好悪い決着だったけどね!」


「うむうむ。畑もよい具合に潤ったし、水やりの手間まで省けたわい! ありがたいことじゃ!」


「いやいや! そもそも怪盗を撃退するための戦いだったんですよね!?」


「ほっほっほっ! もちろんじゃとも! おかげで怪盗殿も無事に捕まったわけじゃしのう!」


「……いや、捕まったっていうか、転んだだけですけど!」


 ……本当に分かってるのか、この人。


「さて、怪盗殿。今夜はずいぶん頑張ってくれたようじゃし、これを持っていくがよい」


 老人はそう言うと、畑から真っ赤に熟したトマトを一つ採ってきた。


「むっ!? こ、これは……!」


「わしの自慢のトマトじゃ。なかなかの出来じゃぞい」


「おおおっ! まさしく赤き宝玉! ついにこの大怪盗レッドリザード、狙いし宝を手に入れたのじゃ!」


「いや、普通にもらっただけだろ!」


「ふはははは! 宝を手に入れたという結果に変わりはなかろう!」


「怪盗としてそれでいいのかよ!?」


「ふはははは! 今宵の勝負はそなたらに預けておこう! じゃが、覚えておくがよい! この大怪盗レッドリザード、次こそは必ずや華麗なる勝利を収めてみせるのじゃ!」


「いや、負けたことは認めるんだな!?」


「さらばじゃ! ふはははは!」


 レッドリザードは俺のツッコミなど気にも留めず、トマトを高々と掲げて去っていった。


 ……あれだけ苦労して突破してきたのに、最後はトマト一個で満足なのか。


「ほっほっほっ! さて、せっかくじゃから、皆もうちの野菜を食べていかんかのう?」


「やった! おじいちゃんの野菜!」


「ははは。メリアは最初から楽しみにしていましたからねえ」


「パパ! それは言わなくていいでしょ! もう!」


 コメリアが頬を膨らませる横で、老人はまた楽しそうに笑った。


 結局、俺たちは老人が振る舞ってくれた採れたての野菜を、その場でごちそうになることになった。


「いやあ、本当においしいですね、これ。野菜ってこんなに味が違うもんなんだな……」


「ほっほっほっ! そう言ってもらえると、育てた甲斐があるというものじゃ!」


「でしょ! おじいちゃんの野菜は最高なんだから! クニタカも、もっと食べなさいよ!」


「いや、言われなくても食べてるって!」


「ははは。メリアは自分で作ったわけでもないのに、ずいぶん得意げですねえ」


「もう、パパ! いいじゃない、それくらい!」


 採れたての野菜はどれも驚くほどおいしく、俺が感心するたびに老人は嬉しそうに笑った。コメリアは自分のことのように自慢し、フォールさんはそれを穏やかに茶化している。さっきまで怪盗相手に魔法を撃ち合っていたとは思えないほど、のんびりした時間が流れていた。


 その後もしばらく話は続いたが、さすがに疲れが出てきたのか、俺は何度もあくびを繰り返していた。


「クニタカ君、眠そうですねえ。ずいぶん頑張っていましたから、無理もありませんね」


「いやあ……さすがに、ちょっと……。あれだけ騒いだら、もう……」


「もう、クニタカ。眠いなら寝ればいいじゃない。何をそんなに我慢してるのよ」


「そういうわけにも……ふわぁ……」


「ほっほっほっ! 無理せず休んでいくがよいぞい。遠慮はいらんからのう」


「……すみません。じゃあ、少しだけ……」


 俺はその場に腰を下ろしたまま、目を閉じた。皆の話し声を聞いているうちに、いつの間にか意識が遠のいていった。


     ◇


 ピロン♪


「うおっ!? 何だ!?」


 突然の音に飛び起きた俺は、慌てて周囲を見回した。


 ……あれ? もう朝か?


 東の空が明るくなり、農園には朝日が差し込んでいた。


『おはようございます、都尊さん』


「……おはよう。って、今の音は!?」


『スマートフォンからの通知音です』


「それは分かる!」


 慌ててポケットからスマートフォンを取り出すと、画面には見覚えのある形式で文字が表示されていた。


『サードゲーム「黄金の園を作れ」クリア』


「……え?」


 ゲームクリア?


 怪盗との勝負なら、とっくに終わっているはずだ。


「……何で今になって?」


『都尊さん。ゲームクリアの通知を確認しました』


「いや、それは見れば分かるけど……」


 俺は首を傾げながら農園へ目を向けた。


 水やりを終えた畑では、実った小麦の穂に無数の水滴が残り、朝の光を受けてきらきらと輝いていた。風が吹くたびに小麦が波打ち、穂先の水滴が光を反射して、畑一面に黄金色の輝きが広がっていく。


 まるで、農園そのものが黄金に染まったかのような光景だった。


「……うわ、すげえ……」


 思わず声が漏れた。あれだけ罠や魔法が飛び交っていた畑が、今はこんなにきれいに見えるなんて。


 俺はもう一度、スマートフォンの画面を見た。


『サードゲーム「黄金の園を作れ」クリア』


「……なるほど。黄金の園、か……」


 そう思っていたところで、スマートフォンがもう一度震えた。


 ピロン♪


「……ん? まだ何かあるのか?」


 画面に、新しいメッセージが表示される。


『プラス条件達成』


『機能開放:チャット機能が開放されます』


「…………は?」


 チャット機能?


「ちょ、ちょっと待て! 何だよ、これ!?」


 俺はスマートフォンの画面を見つめた。


 いったい誰とチャットするんだ?

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