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異世界に転移したので、相棒のAIと謎解きを始めます~AI探偵の異世界迷推理~  作者: 土瓶蒸しの謎
第三幕

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魔法大戦

 農園の奥へ向かっていたレッドリザードが、こちらへ歩み出したコメリアに気づき、足を止めた。


「ふむ? 今度はそなたが相手かのう?」


「そういうこと。ここから先へ行きたいなら、私を突破してもらわないとね」


「ふはははは! よかろう! この大怪盗レッドリザードに挑もうという、その心意気やよし! 存分に相手をしてやるのじゃ!」


「そっちこそ、簡単に通れると思わないでよね!」


 コメリアは軽く笑いながら怪盗と向かい合った。普段と変わらない調子だが、その手元にはすでに水が集まり始めている。


 ……ん? 水?


「ちょ、ちょっと待て、コメリア! まさか、ここで魔法を使って戦うつもりか!?」


「そうだけど? 何か問題ある?」


「問題しかないだろ! 周り全部畑だぞ!?」


「分かってるわよ。だから、ちゃんと考えてるんじゃない」


 いや、何をどう考えてるんだ!?


 俺の心配などお構いなしに、コメリアは片手を前へ突き出した。手のひらの前に集まっていた水が丸い球体となり、みるみる大きくなっていく。


「それじゃ、いくわよ! ウォーターボール!」


 勢いよく放たれた水球が、レッドリザードめがけて一直線に飛んでいった。


「うおおっ!? いきなり撃ったああっ!」


「ふはははは! なかなか威勢がよいではないか!」


 怪盗は逃げようともせず、片腕を大きく振るった。


「ウィンドカッター!」


 鋭い風の刃が水球を真正面から切り裂き、弾けた水が無数の飛沫となって宙に広がった。


「うわっ! 畑が――!」


 思わず身構えた俺の目の前で、水滴がぱらぱらと降り注ぐ。


 ……あれ?


 畑の葉が雨粒を受けたように揺れている。勢いよく飛び散ったはずの水は、いつの間にか細かな水滴となり、周囲の野菜を濡らしていた。


「……何だ? 普通に水が降ってきただけ?」


「いやあ、見事ですねえ」


 隣でフォールさんが感心したように頷いている。


「今の風の刃、水球を切り裂くときに威力をうまく調整していましたねえ。あれなら周りの作物も傷つきません」


「……そんなことまで考えてるんですか?」


「ええ。メリアも怪盗さんも、なかなか器用なことをしますねえ」


 俺はもう一度畑を見た。確かに、水が落ちた場所には泥が跳ねた様子もなく、作物も傷ついていない。


「ほっほっほっ! よい雨じゃのう!」


 老人まで嬉しそうに葉を眺めている。


「いやいや! 雨じゃないですよ! 今、魔法で撃ち合ってるんですよ!?」


「うむ。見ておるぞい」


 見てるならもう少し危機感を持ってください!


 そんな俺たちのやり取りなど気にも留めず、コメリアは続けざまに水球を二つ、三つと生み出した。


「まだまだいくわよ! ちゃんと受け止めなさいよね!」


「ふはははは! わらわにそのような心配は無用じゃ!」


 次々と放たれるウォーターボールに対し、レッドリザードは風の刃を連続して繰り出した。水球が弾けるたびに白い飛沫が宙を舞い、月明かりを受けてきらきらと輝く。


「おおおっ! すげえ! 完全に魔法の撃ち合いだ!」


『都尊さん。双方の攻撃が衝突していますが、周辺の作物に目立った損傷は確認できません』


「そうなんだよな……。あれだけ派手なのに、何で無事なんだ?」


『攻撃の方向および効果範囲を調整している可能性があります』


「いや、そんなことできるのかよ!?」


「クニタカ君、よく見てください」


 俺の声が聞こえたらしく、フォールさんが穏やかに声をかけてきた。


「メリアの水球は、畑の方へ飛ばないように撃たれています。それに、怪盗さんも風の刃を必要以上に広げていませんねえ。二人とも、周りへの影響をずいぶん気にしているようです」


「……そこまで気を使いながら戦ってるんですか?」


「ははは。なかなか簡単にできることではありませんよ。しかも、どちらも相手に一歩も譲る気はなさそうですからねえ」


 確かに、コメリアの水球はレッドリザードを正確に狙っているし、怪盗の風の刃も無駄な動きがない。あれだけの魔法を撃ち合いながら、畑には傷一つつけていないというのだから驚きだ。


 そのとき、レッドリザードが大きくマントを翻した。


「ふむ! なかなかよい腕前じゃ! ならば、今度はこちらからいくぞ!」


 怪盗が両腕を広げると、その周囲で風が渦を巻き始めた。マントが大きく膨らみ、足元の土がわずかに舞い上がる。


「ちょっ、今度は何だ!?」


「ふはははは! 受けてみるがよい! ウィンドカッター!」


 今度は一つではない。何本もの風の刃が、異なる角度からコメリアへ向かって飛んでいった。


「うわああっ! 今度は連射かよ!?」


 しかし、コメリアは慌てなかった。


「そのくらい、正面から受けてあげるわよ! ウォーターウォール!」


 彼女が両手を突き出すと、目の前に水が噴き上がり、分厚い壁となって立ちはだかった。


 次の瞬間、風の刃が次々と水壁に突き刺さる。


 バシャアアアッ!


「おおおおっ!?」


 水壁が激しく波打ち、表面から大量の水飛沫が舞い上がった。それでも壁は崩れず、飛び込んできた風の刃を次々と受け止めていく。飛び散った水は風に乗って左右へ広がり、畑の上に細かな雨となって降り注いだ。


「す、すげえ! 全部防いでる!」


「ふはははは! なかなかやるではないか!」


「当然でしょ! このくらいで驚いてもらっちゃ困るわ!」


 コメリアはそう言い返すと、両手を横へ広げた。風の刃を受け止めていた水壁が左右に分かれ、その一部が丸い水球となって怪盗へ向かって飛び出していく。


「うおっ!? 防御から反撃!?」


 レッドリザードは身体をひねって最初の水球をかわし、続く一発を風の刃で切り裂いた。最後の一発には片手を突き出し、風をぶつけて軌道を変える。


 弾かれた水球が宙で弾け、またしても細かな水滴となって畑に降り注いだ。


 ……ん?


 そこで、俺は妙なことに気づいた。コメリアの水球が弾けるたび、飛び散った水が畑に降っているのはさっきから見ていた。だが、よく見ると、水滴が落ちる場所が少しずつ変わっている。


 しかも、一度濡れた場所にはあまり重ならず、まだ乾いている辺りへと広がっていた。


「フォールさん……あの、ちょっといいですか?」


「はい、何でしょう?」


「さっきから、魔法がぶつかるたびに畑へ水が降ってますよね?」


「ええ、そうですねえ」


「……これ、もしかして水やりになってません?」


「ははは。よく気づきましたねえ。あの二人、最初からそのつもりでやっているようですよ」


「……ええっ!? 最初から!?」


「ええ。メリアが水を出して、怪盗さんが風で散らす。水の落ちる場所も、うまく調整していますねえ」


 俺は思わず畑を見渡した。怪盗が進んできた通路の両側では、葉の上に水滴が光っている。何度も魔法がぶつかっているというのに、作物が倒れたり、土が大きくえぐれたりした様子はない。


 つまり、あの二人は本気で戦いながら、同時に畑の水やりまで済ませているらしい。


 ……何だ、その器用すぎる戦い方。


「ほっほっほっ! これはありがたいのう。今日は水やりの手間が省けそうじゃわい!」


「おじいちゃんまで何言ってるんですか!?」


「なあに、せっかくじゃからのう。あちらの隅の方まで頼みたいところじゃが……」


「注文しないでください!」


 思わず突っ込んでしまったが、老人は楽しそうに笑うばかりだった。


 その間にも、コメリアとレッドリザードの攻防は続いている。


「どうしたの? さっきから防いでばかりじゃない!」


「ふはははは! 言うではないか! ならば、そなたの守りがどこまで通じるか試してやろうぞ!」


 レッドリザードが大きく腕を振ると、鋭い風の刃がコメリアの右側から回り込むように迫った。


「危ない! 横から来たぞ!」


 しかし、コメリアは振り向きざまに小さな水壁を作り、その一撃を受け止めた。続いて正面から飛んできた風の刃には、別の水球をぶつけて打ち消してしまう。


「おおっ! 今の、同時に二つ使ったぞ!?」


「いやあ、メリアも上手くなりましたねえ」


 フォールさんが目を細めた。


「相手の動きをよく見ていますねえ。大きな水壁を出しっぱなしにするのではなく、必要なところに必要なだけ水を使っている。あれなら、周りの畑にも余計な影響を与えずに済みます」


「……そんなに細かく考えて戦ってるんですか?」


「ええ。もっとも、あの子にしてみれば、当然のことなのかもしれませんねえ」


 フォールさんは穏やかに笑っていたが、その目は娘の動きをしっかり追っていた。


 俺には飛んでくる風の刃を防ぐだけで精いっぱいに見える。それなのにコメリアは、余裕すら感じさせる表情で次の水球を作り始めていた。


「今度はこっちからいくわよ! しっかりついてきなさい!」


 コメリアが腕を振り抜くと、水球が一つ、続けてもう一つ。最初の一発をレッドリザードが切り裂いたところへ、二発目が間髪入れずに迫る。


「ふむっ!」


 怪盗は素早く身をかわしたが、コメリアはその動きを見て、さらに水球を放った。


「おおおっ! 今度はコメリアが押してる!」


『都尊さん。現時点では、双方とも有効な攻撃を受けていません。優劣を判断するには情報が不足しています』


「分かってるよ! 実況なんだから少しくらい盛り上げさせてくれ!」


『事実と異なる実況は、状況の誤認につながる可能性があります』


「スポーツ中継に向いてないな、お前!」


 そう言い返したところで、再び大きな水音が響いた。


 レッドリザードが風の刃で水球を切り裂き、コメリアが飛び散った水の向こうから新たなウォーターボールを放っている。


 だが、今度の怪盗は迎え撃たなかった。


「ふはははは! よいぞ、よいぞ! なかなか楽しませてくれるではないか!」


 大きく跳び退いて水球をかわすと、レッドリザードは着地と同時にマントを広げた。コメリアも追撃を止め、相手の出方をうかがっている。


「なかなかやるじゃない。ちょっと見直したわ」


「ふはははは! そなたも見事な腕前じゃ! わらわも久方ぶりに楽しませてもらっておるぞ!」


「だったら、もう少し付き合ってもらおうかしら?」


「望むところじゃ!」


 二人は楽しそうに笑い合うと、再び魔法を構えた。


 ……あの、そろそろ終わりにしません?


 俺がそんなことを考えている間にも、水球と風の刃が再び飛び交い始める。コメリアが放った水球をレッドリザードが切り裂き、舞い散る水滴が野菜の葉を濡らしていく。


 そして、畑にはまたしても、優しい雨が降り注いだ。


 ……これ、いつまで水やりするつもりなんだ?

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