↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転移したので、相棒のAIと謎解きを始めます~AI探偵の異世界迷推理~  作者: 土瓶蒸しの謎
第三幕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/66

大怪盗からの予告状


 畑仕事を終えた老人が家の前で一息ついていると、見慣れた小柄な少女が訪ねてきた。


「おお、ルセーヌちゃん。今日も来てくれたのかね」


「うむ! 先日渡した薬の具合が気になっての。それと、新しく調合したものも持ってきたぞ。今度のはなかなかの自信作じゃ!」


 ルセーヌは得意げに胸を張り、持参した包みを老人に差し出した。


「ほっほっほっ。いつもすまんのう。おかげでずいぶん助かっとるよ」


「なに、薬師として当然のことじゃ。それで、前の薬はどうじゃった? 効き目は十分だったかの?」


「おお、よく効いとるよ。おかげで畑仕事も楽になったわい」


「そうかそうか! それは何よりじゃ!」


 満足そうに何度も頷いたルセーヌは、ふと畑の方へ目を向けた。老人が丹精込めて育てている作物は、どれも順調に育っているように見える。


「……ところで、今年の作物の出来はどうなのじゃ?」


「おかげさまで、どれもよく育っとるよ。そろそろ収穫できるものも多いのう」


「ほほう……それは実に結構なことじゃ」


 ルセーヌは腕を組み、感心したように頷いたものの、なぜかその場を離れようとしない。時折ちらちらと畑に目を向けているのを見て、老人はにこやかに声をかけた。


「なんじゃ、気になるものでもあるのかね? よかったら持って帰るとええ」


「なっ、何を言うておる! わらわは別に、野菜が欲しくて聞いたわけではないぞ!」


「そうかそうか。まあ、欲しくなったらいつでも言いなされ」


「う、うむ……。その気持ちだけは受け取っておくのじゃ」


 老人の笑顔を前に、ルセーヌは何やら居心地が悪そうに視線を逸らした。やがて思い出したように顔を上げると、わざとらしく咳払いをする。


「と、とにかく! 薬の具合はまた見に来るからの! くれぐれも無理はせぬようにな!」


「ありがとうよ。ルセーヌちゃんも気をつけて帰るんじゃぞ」


「うむ! では、さらばじゃ!」


 勢いよく手を振って去っていく少女を、老人は穏やかな笑みで見送った。


      ◇ ◇ ◇


 それからしばらくして、老人のもとに一通の手紙が届いた。


 封を開け、中に収められていた紙を広げると、そこにはずいぶんと大仰な文章が記されていた。


『予告状

 来たるべき夜、汝が所持せし至宝『赤き宝玉』を頂戴する。

 いかなる守りも、この我が前には無力と知るがよい。

 大怪盗レッドリザード』


 老人はしばらく黙って予告状を見つめていたが、やがて低く唸るような声を漏らした。


「……ほう。大怪盗レッドリザードとな」


 もう一度、予告状に目を通す。


「このわしの宝を狙うとは……なかなか肝の据わった怪盗じゃのう。しかも、いかなる守りも無力と言い切るとは、ずいぶんと大きく出たものじゃ」


 老人は予告状を丁寧に畳むと、椅子の背にもたれた。窓の向こうに広がる畑へ目を向け、その口元にゆっくりと笑みを浮かべる。


「よかろう。そこまで言うなら、こちらも本気で迎え撃たねばなるまい。大怪盗を名乗るからには、それ相応の覚悟もできておるのじゃろうて」


 そして、実に愉快そうに笑った。


「ほっほっほっ……久しぶりに腕が鳴るのう」


        ◇


 探偵事務所では、今日もいつも通りの時間が流れていた。


 俺は机に積まれた書類を整理しながら、向かいで仕事をしているコメリアを眺めていた。先日の騒動が片付いたとはいえ、事務所の仕事までなくなるわけではない。むしろ、フォールさんが溜め込んだ書類の山は、少し目を離すと増えているような気さえする。


「……クニタカ、さっきから何見てるのよ。手、止まってるわよ?」


「あ、悪い。いや、この書類の山、いつになったら片付くのかと思ってさ」


「そんなの、手を動かさなきゃ片付くわけないでしょ。ほら、そっちの分もお願いね」


 ごもっともである。俺が再び書類に向き直ったところで、フォールさんが一通の手紙を手に戻ってきた。


「おや……またですか」


 封筒から取り出した紙を読んでいたフォールさんが、わずかに眉を寄せた。


「パパ、どうしたの? 何かあった?」


「ええ。レッドリザードから、予告状が届きましてね」


 フォールさんが手にした紙をひらひらと振って見せると、コメリアはぱっと顔を上げた。


「あ、来たんだ! それで? 今度は何を狙ってるの?」


「『赤き宝玉』だそうですよ。相変わらず、ずいぶんと挑発的な文章ですねえ」


「ふうん……赤き宝玉、ねえ」


 コメリアは少し考えるような素振りを見せたが、すぐに椅子から立ち上がった。


「ま、いいわ。ちょうどおじいちゃんのところにも行きたかったし、準備してから行ってくる」


「ええ、そうしてください。ただし、今回はどんな仕掛けを用意しているか分かりませんからね。くれぐれも油断しないように」


「分かってるわよ、パパ。私だって、甘く見たりしないわ」


「それなら結構です。何しろ、一度やると決めたら徹底する方ですからねえ」


「そうなのよねえ。もう、毎回毎回……」


 コメリアは呆れたようにため息をついたが、その口元にはどこか楽しそうな笑みも浮かんでいた。


 さっきから二人の会話を聞いているものの、どうにも話が見えてこない。レッドリザードという名前も初耳だし、予告状が届いたという割には、二人とも以前から知っている相手の話をしているようだ。


「あの、すみません。さっきから話が全然見えないんですけど……そのレッドリザードって、何者なんですか?」


「怪盗ですよ。以前にも何度か予告状を送りつけてきたことがありましてね」


「怪盗!? しかも何度も!? じゃあ、フォールさんたちとは何度も対決してるんですか?」


「ええ、まあ……いろいろありましたねえ。なかなか厄介な相手ですよ」


 フォールさんは困ったように笑っているが、その表情を見る限り、単なる冗談ではなさそうだ。


「そんな相手なら、ちゃんと対策しないとまずいんじゃないですか?」


「いやまあ……その、だからメリアにも準備をお願いしているんですよ」


「そういうこと。適当だといろいろとまずいからね。とにかく、私は先に行って様子を見てくるわね」


 コメリアはそう言ってフォールさんへ向き直った。


「パパ、何かあったらすぐに知らせるから」


「ええ、お願いします。くれぐれも気をつけてくださいね」


「分かってるってば!」


 コメリアは席を立ち、扉に向かいかけたところでふと思い出したように振り返った。


「あ、そうだ。パパ、おじいちゃんに野菜、少し分けてもらえるか聞いておいてくれる? この前もらったの、おいしかったのよね」


「ええ、聞いておきましょう」


「やった! じゃあ、行ってくる!」


 先ほどまでの真剣な表情はどこへやら、コメリアは上機嫌で部屋を出ていった。


 ……いや、待て待て待て。


 怪盗が宝を狙っているという話をしていたはずなのに、最後は野菜の話になっていたぞ。しかも、準備を手伝うって何の準備なんだ? 怪盗を捕まえるためのものだと思っていたが、どうにも引っかかる。


「フォールさん。今の話だと、怪盗が狙ってるのは、そのおじいちゃんの宝ってことですよね?」


「ええ、そういうことになりますねえ」


「それなら、俺も現場に行っていいですか? 何が起きるのか気になりますし」


「もちろんですよ。ただし、勝手な行動は控えてくださいね。準備が始まっているとなると、思わぬことに巻き込まれるかもしれませんから」


「……え? そんなに危険なんですか?」


「少なくとも、油断は禁物ですよ。何しろ、今回はどこまで本気なのか、私にもまだ分かりませんからねえ」


 フォールさんはそう言って、手にしていた予告状を俺に差し出した。


「まずは、こちらを読んでおいてください」


 受け取った紙には、こんなことが書かれていた。


『予告状

 来たるべき夜、汝が所持せし至宝『赤き宝玉』を頂戴する。

 いかなる守りも、この我が前には無力と知るがよい。

 大怪盗レッドリザード』


 大怪盗レッドリザード。赤き宝玉。そして、いかなる守りも無力と断言する挑戦状。


 文章だけを見れば、いかにも大物の怪盗が送りつけてきた予告状だ。少なくとも、俺が想像する怪盗事件の始まりとしては、十分すぎるほどそれらしい。


『都尊さん。現時点では、予告状に記載された「赤き宝玉」が何を指すのか判断できません』


 スマートフォンからチャミーの声が聞こえてきた。


「だよな。宝石か何かだとは思うけど、名前だけじゃ分からないよな」


『はい。また、フォールさんとコメリアさんは、レッドリザードについて以前から知っているようですが、具体的な人物像や今回の目的については、まだ十分な情報がありません』


「まあ、そうだよなあ……」


 フォールさんとコメリアが知っている怪盗ということは、以前にも何かあったのだろう。だが、二人の反応を見る限り、単に顔見知りというだけではなさそうだ。


 それにしても、怪盗から予告状が届いたというのに、フォールさんは「またですか」で、コメリアは「あ、来たんだ!」だ。おまけに、最後は野菜をもらう相談までしていた。


 何度も相手にしてきた怪盗だから、もう慣れているということなんだろうか。だとしても、二人が妙に警戒していたのが気になる。


「……何だか、嫌な予感がするな」


『現時点では、危険の程度を判断するだけの情報が不足しています。現場で状況を確認する必要があると思われます』


「だよな。とりあえず、行ってみるしかないか」


 俺は予告状をフォールさんに返すと、机の上に広げていた書類を片付け始めた。


 大怪盗レッドリザード。


 いったい、どんな人物なんだろうか。フォールさんとコメリアが揃って警戒するような相手なのだから、相当な実力者なのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。