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異世界に転移したので、相棒のAIと謎解きを始めます~AI探偵の異世界迷推理~  作者: 土瓶蒸しの謎
第二幕

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騒動のあとで


 屋敷から戻った俺は、事務所で書類の整理をしていた。


 依頼の記録を日付ごとに分け、確認済みのものをフォールさんへ渡していく。こういう仕事なら魔法の知識も推理力も必要ないし、俺にも十分できる。


 ……ただ、目の前の書類より、さっき見た氷の橋の方が気になって仕方がない。


「クニタカ、これもお願い」


 コメリアが机の上に書類を置いた。どうやら向こうで整理していた分らしい。


「ありがとう。……って、これも?」


「何よ、その顔。私だって手伝ってるんだから、文句言わないでよね」


「いや、文句じゃないけど……結構あるなあ」


「パパが溜め込んでたんだから仕方ないでしょ」


「おや、メリア。私ばかりが悪いように聞こえますねえ」


「実際そうでしょ?」


 フォールさんは返事の代わりに、にこやかに笑った。


 ……否定しないんだな。


 コメリアは呆れたように肩をすくめると、自分の席へ戻っていった。俺も書類を手に取ったものの、どうしても気になることがあって、フォールさんに声をかけた。


「そういえばフォールさん、さっきの事件なんですけど」


「ええ、何でしょう?」


「氷の橋で侵入できるなら、どうしてわざわざ堀の水を凍らせたんでしょう?」


 フォールさんが書類から顔を上げた。


「おや、いいところに気づきましたねえ」


「だって、橋があれば堀を渡る必要なんてないですよね? なのに、容疑者は堀を凍らせたことを認めてるんでしょう?」


「ええ。氷結魔法を使ったこと自体は否定していませんね」


「……あれ? そうか。隠してないのか」


 俺が首を傾げていると、コメリアが書類をめくる手を止めた。


「堀を凍らせたのは本当でも、それが侵入しようとした方法だったとは限らないってことでしょ?」


「ええ、その通りです。事実の中に少し違う話を混ぜるだけでも、随分と印象は変わるものですからね」


「なるほど……。じゃあ、わざと堀を凍らせて、そっちを調べさせようとした可能性もあるのか」


「そう考えることもできます。ただ、最初からそのつもりだったのかは、まだ分かりませんが」


 俺は書類を机に置き、さっきの屋敷を思い返した。


 堀の水が凍っていたと聞けば、まずはそこから侵入しようとしたと考える。俺もそうだった。まさか、その上に氷の橋を架けるなんて思いもしなかったし。


「……なんか、ずるいですね」


「おや。犯人が正直に手口を教えてくれるなら、探偵も警察も苦労しませんよ?」


「まあ、そうですけど……」


「それに、実際にあの方法で侵入したという証拠は、まだありませんからね。あとはレードスたちの仕事でしょう」


 フォールさんはそう言って、再び書類に目を落とした。


 氷の橋で侵入できることは分かった。でも、それが本当に事件の答えなのかは、まだ分からない。


 それなのに、俺のスマートフォンにはゲームクリアの通知が来ていた。


 ……そっちも大概おかしいよな。


 しばらく書類を整理していたものの、やっぱり気になってしまい、俺はスマートフォンを取り出した。


「チャミー、さっきのゲームなんだけどさ」


「はい。セカンドゲームについてですね」


「『道を切り拓け』って、あれ結局どういう意味だったんだろうな?」


「今回の氷の橋を指している可能性はあります。また、捜査の行き詰まりを打開したという比喩的な解釈も成立します」


「うーん……どっちもありそうなんだよなあ。でもさ、俺、ほとんど何もしてないぞ?」


「都尊さんも現場での確認に参加されています」


「いやいや、橋を考えたのはフォールさんたちで、作ったのはコメリアだろ? 俺なんて見てただけみたいなもんじゃん」


「それでも、ゲームはクリアと判定されています」


「そこが納得いかないんだよ!」


 思わず声が大きくなり、コメリアがこちらを振り向いた。


「ちょっと、クニタカ。さっきから何ぶつぶつ言ってるの?」


「あ、いや、ちょっと考え事を……」


「考え事はいいけど、手が止まってるわよ」


 コメリアの視線が、俺の前に積まれた書類へ向いた。


「……はい、すみません」


「まったく。パパだけでも大変なのに、クニタカまで仕事を溜め込まないでよね」


 そう言って自分の作業に戻るコメリアを見送り、俺はスマートフォンへ目を戻した。


「……なあ、チャミー。最初のゲームも変だったよな。遺言書の事件を解決したと思ったら、目的は家探しだったし」


「はい。今回も、事件の解決そのものがクリア条件だったとは限りません」


「じゃあ、何を基準にしてるんだ?」


「不明です」


「……即答かよ」


「判断できる情報がありませんので」


 まあ、そうだよな。最初からまともな説明なんてなかったし、今回だってクリアしたことを教えてくれただけだ。


「……説明書くらい欲しいよな、このゲーム」


「そうですね。達成条件が明示されていれば、行動方針も立てやすくなると思われます」


「だろ? しかも、俺が何もしなくてもクリアになるんだったら、もう見てるだけでいいんじゃないか?」


「その方法で今後もクリアできる保証はありません」


「……分かってるよ。ちょっと言ってみただけだって」


 チャミーはこういうところが妙に真面目なんだよなあ。


 俺がため息をついてスマートフォンを置くと、今度はフォールさんが顔を上げた。


「クニタカ君、考え事は終わりましたか?」


「あ、はい。すみません、仕事の途中で」


「いえいえ。では、こちらもお願いできますか?」


 にこやかに差し出されたのは、新しい書類の束だった。


「……まだあるんですか?」


「ええ。おかげさまで、ずいぶん片づいてきましたよ」


「いや、これ増えてません?」


「おや、そう見えますか?」


「パパ! だから、片づけるそばから新しいのを出さないでって言ってるでしょ!」


 コメリアがたまらず声を上げると、フォールさんは少し困ったように笑った。


「ですが、せっかくクニタカ君が手伝ってくれていますし……」


「そういう問題じゃないの!」


 ……うん。やっぱり分かっててやってるな、この人。


 俺はコメリアがフォールさんに説教を始めるのを横目に、目の前の書類を一枚手に取った。


「チャミー……次のゲームは、もうちょっと分かりやすいやつだといいな」


「そうですね、都尊さん」


 事件の謎も、ゲームの謎も、まだ分からないことばかりだ。


 まあ、とりあえず今は目の前の仕事を片づけるか。


 ……こっちにもクリア通知が来ればいいのになあ。


第二幕終了です。

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