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異世界に転移したので、相棒のAIと謎解きを始めます~AI探偵の異世界迷推理~  作者: 土瓶蒸しの謎
第二幕

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探偵を呼んだ理由


 屋敷へ向かって庭を歩いていると、フォールが隣のレードス警部へ声をかけた。


「そういえばレードス、容疑者について詳しい話をまだ伺っていませんでしたね。差し支えない範囲で、聞かせていただけますか?」


「ああ、そうだったな。外の様子を見るのが先になってしまったからな」


 警部は歩調を緩め、屋敷の方へ目を向けた。


「今回の事件については、警察でも捜査を進めている。今のところ、ある人物が犯人だという見方が強い。だが、そいつの主張が少々厄介でな」


「ほう。どのような主張ですか?」


「事件当日、屋敷へ忍び込もうとしたことは認めている。ところが、実際には敷地へ入れなかったと言っているんだ。さっき話した水路の件だな」


 俺は先ほど見た水路を思い出した。流れが強くて泳げず、氷結魔法を使っても水路を塞いでしまう。確かに、あそこから入るのは簡単じゃなさそうだった。


「それで、容疑者は自分には犯行が不可能だったと?」


「そういうことだ。外から入る方法がないのなら、屋敷の中にいた人間が犯人じゃないのか、とまで言っている」


「……ずいぶん思い切った反論ですね」


 思わず口を挟むと、警部は小さく肩をすくめた。


「まあ、言いたいことは分からんでもない。侵入しようとしたことと、実際に侵入したことは別だからな。だが、こちらも根拠なく疑っているわけじゃない」


 警察にはほかにも疑う理由があるんだろう。ただ、今の俺たちに必要なのは、事件の捜査結果を一から聞くことじゃない。


「つまり、容疑者がどうやって敷地へ入ったのか、それを明らかにしたいということですね」


 フォールの言葉に、警部は頷いた。


「ああ。事件そのものについては、こちらで調べを進めている。お前には、あの堀と塀をどう越えられるのか、別の目で見てもらいたい」


「分かりました。では、侵入に使えそうな物についても確認しておきましょう。容疑者が当日持っていた物は分かっていますか?」


「ああ。財布に鍵、それから小さな糸巻きが二つだ。刺繍糸のやつだな」


「糸巻き、ですか」


「ほかに特別な道具は確認されていない。身につけていた物でいえば、靴と手袋も調べている」


「どのような物でしたか?」


「靴は滑りにくい作りのものだ。手袋は厚手の布製だったな」


 滑りにくい靴に、厚手の手袋か。何だか妙に準備がいい気もするけど……。


「氷を使うつもりだったのなら、靴や手袋は必要でしょうね」


 コメリアも同じことを考えたらしい。


「そうだな。少なくとも、その格好だけで供述がおかしいとは言えん」


 警部が答えると、フォールは少し考えるように顎へ手を添えた。


「なるほど。ありがとうございます」


 フォールはそれ以上追及せず、庭の方へ視線を向けた。


「ところで、レードス。容疑者が氷結魔法を使えるという点は、間違いないのですね?」


「ああ。本人も水路で使ったことは認めているし、現場からも氷結魔法の魔力紋が検出されている。ただ、それが侵入に使われたとまでは確認できていない」


「ふむ……」


 フォールは少し離れた場所にある塀を眺めた。


 俺もつられてそちらを見る。屋敷の内側からでも塀の高さは十分に感じられ、その向こうに堀があることを考えると、普通に乗り越えるのはやはり難しそうだ。


「ねえ、パパ。さっきの水路以外には、入れそうな場所はなかったの?」


 コメリアが尋ねると、フォールは警部の方を見た。


「どうでしょう、レードス?」


「少なくとも、調べた範囲では見つかっていないな。だからこそ、お前に来てもらったわけだ」


「そうですか。では、もう一つ確認しておきたいことがあります」


 フォールは少し考えてから、何気ない調子で続けた。


「事件当日の天候は、どうでしたか?」


「天候か? あの日は雨だったな」


「ほう、雨ですか」


「何か気になるか?」


「いえ、現場の状況を考えるうえで、知っておきたかったものですから」


 警部はそれを聞くと、特に不思議がる様子もなく頷いた。


「なるほど。必要なら当日の記録も確認できるぞ」


「ありがとうございます。ひとまずは、それで十分です」


 フォールはそう答えると、再び庭へ目を向けた。


 雨か……。


 事件当日に雨が降っていたなら、今とは地面の状態も違っていたんだろう。足跡が残ったり、逆に流されたりすることもあるかもしれない。


「チャミー、雨って侵入方法に関係すると思う?」


 少し声を落として尋ねてみる。


「可能性はあります。ただし、都尊さん。雨が降っていたという情報だけでは、具体的な影響までは判断できません」


「まあ、そうだよな。どのくらい降ってたかも分からないし」


「はい。現場の状態も含めて考える必要があります」


「クニタカ、何か気になるの?」


 隣を歩いていたコメリアが、こちらを覗き込んできた。


「いや、フォールさんが急に天気のことを聞いたからさ。何か意味があるのかなって」


「ああ、それね。パパ、気になったことは何でも聞くから」


「そうなのか?」


「そうよ。あとで関係なかったってこともあるし。でも、聞かずに見落とすよりはいいんじゃない?」


 なるほど。そういうものなのか。


「メリア、何か私の話をしていましたか?」


 少し先を歩いていたフォールが振り返った。


「別に。パパは何でも気になったら聞くって話」


「ははは。それは間違っていませんね」


「自分で言うんだ……」


 コメリアは呆れたように笑ったが、フォールは気にした様子もなく、今度は警部へ声をかけた。


「レードス、屋敷へ入る前に、もう少しこちら側から塀を見て回ってもよろしいですか?」


「ああ、構わん。どこか見たい場所でもあるのか?」


「まずは一通り、庭を歩いてみたいですね。外から見たときとは、また印象が違いますから」


「そうだな。こちら側からなら、塀の内側の様子もよく分かる。案内しよう」


 警部は屋敷へ向かっていた足を止め、庭の奥へ進路を変えた。


 俺たちもその後に続く。庭には高さの違う木々が植えられていて、場所によっては枝が塀の向こうへ伸びているようにも見えた。外側を歩いていたときには気づかなかった景色も、内側から眺めると少し違って見える。


 フォールは時折足を止め、塀や周囲の木々に目を向けていた。何かを探しているのか、それとも単に全体の様子を確かめているのか、俺には分からない。


 しばらく庭を歩いたところで、フォールが不意に足を止めた。


「はぁ……またですか、レードス。相変わらずですねえ」


 さっきまでと変わらない穏やかな表情だったけれど、声には少し呆れたような響きがあった。


「……なんのことやら」


 警部はとぼけた返事をしたものの、フォールの顔を見ようとはしない。


「もう分かっているのでしょう? 犯人がどうやって敷地に侵入したのか」


「さてな。お前に調べてもらうために、わざわざここまで来たんだが」


「ええ、そういうことにしておきましょうか」


 フォールは小さく息を吐くと、今度はコメリアへ目を向けた。


「ただ、それが本当に可能なのか、実際に確かめたいのでしょう? そのために私へ依頼するという建前で、メリアを連れてこさせた。違いますか?」


「……」


 警部は答えず、口元にわずかな笑みを浮かべた。


「ちょ、ちょっと待って、パパ! どういうこと? レードスさんは最初から分かってたってこと?」


「おそらくね。少なくとも、私たちに何を確かめさせたいのかは、最初から決めていたのでしょう」


「だったら最初からそう言ってくれればいいじゃない!」


 コメリアが警部へ向き直ると、レードスは困ったように笑った。


「悪かったな、コメリア。だが、頭の固い捜査員の連中を納得させるには、実演が一番なんだ」


「もう、いつも言ってるでしょ。普通に頼んでって!」


 コメリアが呆れたように言うと、レードスは苦笑した。


「はは、そうだったな。次からは気をつけるよ」


「……それ、前にも聞いた気がするんだけど」


「そうだったか?」


 レードスが何食わぬ顔で返すと、コメリアはもう何も言わず、諦めたように肩を落とした。


 俺だけが事情を飲み込めずにいる間にも、フォールたちの話はどんどん進んでいく。


「それに、容疑者についても、おおよその見当はつきましたよ」


「ほう。まだ名前も教えていないはずだが?」


「ええ。ですが、おそらくこの屋敷に出入りしている業者の方でしょう。もっと言えば……庭師ではありませんか?」


「えっ、庭師?」


 思わず声が出た。


 どうしてそこで庭師が出てくるんだ? さっき聞いた所持品に、庭仕事の道具なんてあったっけ?


「……理由を聞いてもいいか?」


 レードスが静かに尋ねると、フォールは庭を見回した。


「この屋敷には立派な庭があります。これだけの木々を管理するなら、定期的に手入れをする人間がいるでしょう。そして、この手段をとれるような人を考えると、まず考えられるのは庭師です」


「……なるほどな。相変わらず、よく見ている」


 レードスが小さく頷くと、フォールは微笑んだ。


「お褒めいただき、ありがとうございます。ですが、あなたも同じところを見ていたのでしょう?」


「さあな」


 今度は警部が、どこか楽しそうにとぼけてみせた。


「もう! 二人とも、分かってるならちゃんと説明してよ!」


 コメリアが不満そうに声を上げると、フォールは申し訳なさそうに微笑んだ。


「そうですね、メリア。では、少し手伝ってもらえますか?」


「……何を?」


「それは、これから説明しますよ」


 そう答えるフォールの顔を見て、俺は嫌な予感がした。


 ……いや、何をするつもりなのかは全然分からないんだけど。


 とりあえず、コメリアが巻き込まれることだけは確定したらしい。


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