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異世界に転移したので、相棒のAIと謎解きを始めます~AI探偵の異世界迷推理~  作者: 土瓶蒸しの謎
第二幕

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22/62

入れそうで入れない屋敷


 ディクソン家を出てから、しばらく。


 レードス警部の案内でたどり着いた屋敷を前に、俺は思わず足を止めた。


「……思ってたより、ずいぶん立派ですね」


 目の前には大きな屋敷が建っていた。だが、最初に目を引いたのは建物そのものではなく、その周囲を取り囲む堀と塀だった。


 警部から話を聞いていたので、そういう造りなのは知っていた。それでも、実際に目にすると印象が違う。


 堀の向こうに塀があり、そのさらに内側に屋敷が建っている。まるで小さな城みたいだ。


「裕福な家だとは聞いていましたが、これはなかなかですね」


 フォールさんも屋敷を見上げながら、感心したように呟いた。


「見た目の話はあとにしてくれ。こっちだ」


 レードス警部に促され、俺たちは門へ向かった。


 近づいてみると、敷地の周囲が思っていた以上にしっかり囲われているのが分かる。堀と塀を越えずに入ろうとするなら、やはり門を通るしかなさそうだ。


 もっとも、そう簡単に結論を出していいのかは分からない。そもそも、俺はこういう建物を調べた経験なんてないんだから。


「警部。門の施錠については、確認されているんですよね?」


「ああ。そこは調べてある。ただ、今はまず周囲を見てほしい。実際の造りを見た方が、話も早いだろう」


「そうですね。では、少し歩きながら伺いましょうか」


 フォールさんはそう答えると、堀に沿って歩き始めた。俺とコメリアも、その後に続く。


 周囲には何本もの木が生えていて、堀の外側だけでなく、塀の向こうにも木々が見える。高さはまちまちで、外側に生えているものの中にも、塀より高く枝を伸ばしている木が何本かあった。


 木々の間から覗く屋敷は、どこか古い城のようにも見えた。


 大きな屋敷だけあって、周囲の景色までずいぶん立派なものだ。


「ところで警部、この塀は随分と頑丈そうですね」


 フォールさんが塀を眺めながら尋ねた。


「ああ。高さもあるが、魔法への対策も施されている」


「魔法への対策、ですか?」


 思わず聞き返すと、警部は俺の方を向いた。


「反魔法処置だ。魔法を使って簡単に乗り越えられないようになっている」


「へえ……そんなこともできるんですね」


 確かに、魔法が使える世界なら、ただ高い塀を建てただけでは意味がないのかもしれない。


「この塀の近くでは、氷の階段を作ったりするのも難しいんですか?」


「そういうことだ。少なくとも、塀のそばに氷の足場を作って登るような方法は使えん」


 なるほど。そこまで対策してあるのか。


 それなら、侵入するのはますます難しそうだ。


 俺が改めて塀を見上げている間にも、フォールさんは警部と話しながら歩き続けていた。


 堀の水面は穏やかに見えたが、よく観察すると、ゆっくりと一定の方向へ流れている。


「そういえば、この堀の水って、どこから来てるんですか?」


 気になって尋ねてみると、警部が足を止めた。


「ああ。この堀には水路がつながっていてな。その水路は屋敷の敷地内にも通じている」


「え? それなら、そこから入れたりしないんですか?」


「当然、警察でも調べた。実は容疑者も、最初はその水路から侵入しようとしたと供述している」


 警部によれば、水路は敷地内まで続いているものの、水の流れが強く、泳いで進むのは難しいらしい。


「それで、氷結魔法を使ったんですか?」


「そういうことだ。だが、凍らせたところで今度は氷そのものが邪魔になる。結局、通り抜けられずに諦めたという話だ」


「なるほど……」


「現場も調べたが、水の流れが強くて泳いでは進めない。凍らせれば今度は氷が通路を塞いでしまう。少なくとも、その方法では侵入できそうになかった」


 フォールさんは水路の方へ目を向けた。


「つまり、侵入できそうな経路はあるものの、実際には利用するのが難しかったということですね」


「そういうことだ」


 俺も改めて水路を眺めた。


 入り口があるのに、そこからは入れない。


 ……となると、ますますどうやって侵入したのか分からなくなるな。


「警部。氷結魔法が使われた痕跡については、確認されているんですよね?」


 フォールさんが尋ねると、警部は頷いた。


「ああ。堀の周辺から氷結魔法の魔力紋が検出されている。容疑者の供述とも一致するが、それで実際に何をしたのかまでは分からん」


「なるほど……」


 魔法を使った痕跡はある。水路から入ろうとしたという説明も、現場の状況とは矛盾していない。


 でも、それで本当に諦めたかどうかまでは分からないわけか。


「チャミー、どう思う?」


 少しだけ歩く速度を落とし、小声で尋ねてみた。


「水路からの侵入が難しいことは確認できました。ですが、ほかの侵入経路については、まだ調べている途中です」


「……だよな。まだ屋敷の中も見てないし」


 見たところ、堀は簡単に飛び越えられそうな幅ではない。塀も、それなりの高さがあるように見える。


 俺がそんなことを考えていると、少し先を歩いていたコメリアが振り返った。


「クニタカ、何か分かった?」


「いや、全然。むしろ、分からないことが増えた気がする」


「ふふっ。まだ来たばかりじゃない」


「そうなんだけどさ。何か一つくらい気づけないかなって」


「そんなに焦らなくてもいいと思うわよ。パパだって、まだ何も言ってないんだし」


 そう言ってコメリアは、前を歩くフォールさんの方へ目を向けた。


 当の本人は警部と話しながら、堀の周囲をゆっくり見て回っている。


 時折足を止めては塀や屋敷の方へ視線を向けているけれど、何を考えているのかは分からない。


 ……まあ、確かに。


 ここで俺だけが焦っても仕方ないか。


 しばらく周囲を確認したあと、フォールさんが警部に声をかけた。


「レードス。屋敷の中も拝見できますか?」


「ああ。案内しよう」


「ありがとうございます。その前に、もう一つだけ」


 フォールさんは振り返り、堀と塀を改めて見渡した。


「この周囲について、警察ではどの程度調べていますか?」


「侵入できそうな場所は一通り確認している。魔力紋についても調べた。だが、今のところ、容疑者がここを越えたと説明できる証拠は見つかっていない」


「なるほど。では、警察の調査結果も、あとで詳しく見せていただきましょう」


「もちろんだ。そのためにお前を呼んだんだからな」


 二人はそんなやり取りを交わし、門の方へ戻り始めた。


 俺も後を追いながら、もう一度だけ堀を振り返る。


 水路は敷地内へ続いているのに、流れが強くて通れない。周囲には高い塀があり、魔法を使って簡単に越えることもできない。


 普通に考えたら、こんなところへわざわざ忍び込もうとする時点で、かなり無茶なんじゃないだろうか。


 警部から話を聞いているだけだったときとは違い、今は目の前に現場がある。それなのに、実際に見てみるほど、どうやって侵入したのか分からなくなってくる。


 ……これ、本当に解けるのか?


 俺は門の向こうに見える屋敷を見上げ、フォールさんたちの後に続いた。


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